キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

Black Country, New Road(ブラック・カントリー・ニュー・ロード)からボーカルのアイザック脱退……。他ニューアルバムと来日公演について

こんばんは、キタガワです。

 

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Black Country, New Road(以下BCNR)というバンドはとにかく若手バンドの中では異端な存在だった。ただ、アーティストを『異端』と表現するからにはそう呼ばれる理由付けが絶対的に必要なところを、敢えてボカした広まりを見せていたのもまた、『異端』と呼ばれる所以なのだろうと思う。……それこそ近々リリースされる予定のニューアルバム『Ants From Up There』は「楽曲は出来るだけ短くすべし」との現代のセオリーに完全に背いた全10曲60分の長尺だし、正直彼らがどんな報告をしたとしても何かしらの重要事項に繋がることはもはやない状況だったが、このニュースは別。特にボーカル面を前面に押し出していたこともあり、今回の報告は本当に寝耳に水だったからだ。

 

 

BCNRは2018年に本格始動したロンドンを中心に活動する若手ロックバンド。メンバーはフロントマンであるアイザック・ウッド(Vo.G)を含めたバラバラな個性の7人組で、ファーストアルバムリリース前にも関わらずチケットソールドアウトが続出したり、全英チャート初登場4位の快挙を達成したりと何かと話題を振り撒いてくれた存在だった。もちろん彼らがここまで話題を博した理由はインディーシーンが元々注目されていたりといった外部的要因も多かったけれど、明らかに音楽ファンを唸らせたのはやはり、その音楽性にあった。

 

Black Country, New Road - 'Concorde' (Official Video) - YouTube

 

そもそも今の音楽飽和時代において、これは日本でも海外でも同様だが『売れるための計算』が若手バンドには強く取り入れられる傾向にある。中でも代表的な三本柱として①『すぐ口ずさめるキャッチーさ』②『3分以内のファストチューン』③『ソーシャルメディアの活用』が広く言われていて、それぞれ具体的に説明すると①はYouTube等の短い広告でサビを使用する際に最適とされ、②は次から次へと音楽を聴くようになったサブスク時代に向けてのアピール、③は若者向けに認知されるようにするための母数獲得で、要は売れること自体が難しくなった現在だからこそ、策略が物を言う時代になったのだ(これらの戦略から見る最近バズっている楽曲は以下)。

 


そんな中BCNRは意図してかそうでないかは不明であれど、バズるための最短距離に徹底して背いてきた。上記の例で見てみるとまず①についてはそもそも、サビらしいサビが存在しない。②も冒頭に記した通り長尺曲が多い点で除外。③にしても公式ツイッターのフォロー数が2人しかいないことと特段今年に入って呟いていないこともあり良い意味でマイペース。ただ彼らのそうした自然的な動きが音楽有識者、ないしは音楽ファンに刺さったのも事実としてあり、結果そうした認知の広がりが結果メディアに伝播した逆転現象が(どこか音楽関係各所へのアンチテーゼのようで)更なる評価に繋がったりもしたのがBCNRだった。

 

Black Country, New Road - 'Track X' (Official Video) - YouTube


しかしながら特段強調されてはいないものの、彼らの楽曲に無くてはならない存在として位置していたのは間違いなくアイザックのボーカルだったということに、異論を唱える人はまずいないはずだ。それは何故か。……声を張り上げることもなく呟き続けるボーカルはその実、サウンドを阻害しない絶妙なバランスだったためである。たとえ彼以外の人物がこのパートを担ったとして、形容し難い絶対的な雰囲気が、彼のボーカルにはあった。だからこそ今回の脱退は予想外だったし、おそらくは今後BCNRというバンドを語る上で、大きな転換点であろうとも思う。


今回の発表に際し、彼らは4月からのツアーを急遽キャンセル。アイザックの申し出が元々告げられていたものではなく、十中八九近々のものであることを暗に示した形だった。だがBCNRは公式コメントでニューアルバムを他の何でもない『7人の友人として』完成させたことをはっきりと綴り、新曲の制作も示唆。脱退を決めたアイザック自身も今後の希望的未来を敢えて抽象的に示しており、円満な別れであることは明らかなようだ。確かにバンドの重要人物の脱退は悲しいことではあれど、こうして公に発言してくれることは本当に嬉しい。


紆余曲折を経て、誰もが予想もしなかった6人編成となったBCNR。今後アイザックに代わる新たなボーカリストを加入させるかは不明にしろ、彼らの素晴らしさは不変のまま、新たな風を吹かしていってほしいと願うばかりだ。ともあれ結果として現体制最後のアルバムとなった新作『Ants From Up There』が反響を呼んでいる今、新体制が強い追い風になる可能性も高いので、新進気鋭の若手バンドとしてはある意味最高の転換期に置かれているのかもしれない。そしてコロナが収束した日には、どうか中止となっていた来日公演を万全の体制で行ってほしいとそう強く感じてもしまった、稀有な脱退発表だった。