キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

suzumokuの音楽がもしもこのコロナ禍に鳴り響いていたら、我々はどう思うのだろう

こんばんは、キタガワです。


辛いことばかりの世の中である。コロナ、低賃金、人間関係。その他様々な気苦労が絶えない日々を過ごしていると、どうも『楽しい毎日に時たま辛いこともある』という理想形の真逆とも言える生活にズンと落ち込む人は決して少なくないことと推察する。そんな中で我々にとっては娯楽的な他者の創作活動においてはネガティブな感情を作品に表す動きも活発化していることが確かな救いでもあって、例えばアボガド6のイラスト然り映画『ジョーカー』然り、心中の暗さに寄り添ってくれる作品に惹かれる今日この頃である。


取り分けネガティブな思いを放出することに長けている媒体としてはやはり音楽シーンは避けられないが、こちらは逆にダークな一面にフォーカスを当てる作品が多すぎるあまり、若干の飽和状態と化しているのは否めない。ただ「もっと人間の本質を突く楽曲はないものか」と探っているうちにとあるアーティストに思い至った。そしてふと思う。「suzumokuの音楽がもしもこのコロナ禍に鳴り響いていたら、我々はどう思うだろう」と……。

 

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http://worldapart.co.jp/suzumoku/


suzumokuが解離性障害が引き起こした失踪の果てに音楽からの引退を表明してからもうじき4年が経つが、未だ彼の音楽の切れ味はそっくりそのまま形として残り続けている。彼の歌声もメロディーも素晴らしいのは当然として、やはりそれ以上に政治に憤り、社会を嘆き、将来不安に頭を抱えながら生み出されたsuzumokuの歌詞は、聴く者の心にリアルを直視させる力強さに満ちていた。それは「世の中ってこういうの良くないよね」という情報伝達の役割ではなく、圧倒的な「俺はこう思う!」の熱量とでも言おうか。……とにかく彼自身が様々な出来事に対して怒っていて、その表現方法の一環として音楽を媒介にしていたのは間違いなかった。それが彼が失踪後のコメントで「あまりに一方的な判断をお許しください。どうしても僕は自分自身にとって都合の良いように物事を考えてしまいがちです」と綴っていたように結果として引退の原因になってしまったことはさて置いて、アーティストとしての彼の何よりの強みだったのではなかろうか。

 

笑う耳鳴り / song by suzumoku - YouTube


だからこそこの2022年、未曾有の状況が続いている今、彼の奏でる音楽に思いを馳せてしまうのだ。“モダンタイムス”のようなロックなのか、はたまた“笑う耳鳴り”のようなポエトリーリーディング調なのかは分からないが、きっと彼ならアルバム2枚分は余裕で出来そうな制作欲でもって、他のアーティストには絶対に表せない感情を記すのだろう。そして悲しいかな、その機会はsuzumokuが音楽活動を引退している関係上、おそらくこの先も訪れないのだから寂しいところだ。

 

Modern Times(モダン タイムス) / song by suzumoku(スズモク) - YouTube


そもそも、元々音楽一筋で活動を行ってきたsuzumokuが一度の過ちだけで完全に引退してしまうこと自体、世知辛いなあとも感じてしまったりもする。別に犯罪行為をした訳でもないし。いつでもフラっとYouTubeなりで音楽を発信してもらいたいと今でも願っているし、今のこの世の中に必要な音楽があるとすれば、それは彼の奏でる代物が最も適していると個人的には信じて疑わない。可能性は極端に低いだろうが、彼がいつか音楽活動を再開し、コロナに対しての怒りをぶちまける姿をずっと楽しみにしている。何故なら巷で流行りの音楽も我々の心に突き刺さる代物ではあるが、それ以上のものが聴きたい。いや、聴かれなければならないと思うから。