「ただ今ご予約いただいたお客様優先になっておりまして。カウンター席ならすぐご案内できますがいかがいたしましょう?」
家族連れでごった返す店内を見て、思わずタイミングを誤ったと後悔する。……今日は12月29日、年末年始はゆっくり過ごすことが世間一般的には大前提なので、家族連れがワイワイと外食に舌鼓を打つには確かに今がピークだ。対する僕はと言えば単なるフリーターで、年末年始も休みはない。なもんで『この日は混む』という認識自体が頭からすっぽり抜け落ちていて、結果雪が降りそうな肌寒さが気になり始めたバイト帰り、僕はこうして王将の店内に潜り込んだのだった。
僕が王将に来た理由。それは単に、どこかで金を使いたかったからだ。大晦日の予定も初詣の予定もなし。果ては年賀状すら1通も届かない年末にこのまま突入するにあたって何かしらの『年末感』を抱くような行為をしなければ、このまま自分だけが2021年に留まってしまうような気がした。ただたんまり金がある訳でもないので、だからこその外食。だからこその王将だった。
餃子。酒の肴にし、ひとりチビチビとやる。餃子はまず何も付けずにそのまま、次はタレ&ラー油の沼に沈ませ、3個目からは特性味噌ダレも試して味の変化を楽しんでみる。そして4個目でタレ&ラー油の組み合わせがやはり鉄板だと再認識したところで、美味さに負けてもう1人前を注文し、皮のモチモチ感や焼き加減といった点までじっくり考えながら数分間味わい尽くす。……これは貧乏生活が続いた果てに、なるたけ安い方法で満足感を得られるよう思い至ったものなのだが、とにかく。10分が経ちある程度腹も膨れた頃には酔いも良い具合に回ってきて、満足感で一杯になった。
流石に飲酒運転はよろしくないので、自転車を押して帰路に着く。思い返しても今年1年は楽しいこと以上に、精神的に辛いことの方が圧倒的に多かった。いや、今年だけではない。もう何十年間、ある程度の感情が備わった頃からずっと、1年を振り返ると辛いことばかりだった。だからそれこそコロナだからとか、ライブが行けないとか、そうした類の話ではもはやないのだろう。問題なのは自身の精神性、ただひとつなのだ。
僕はこの瞬間、もしも来年初詣に行くことがあれば「1年を通して楽しさを感じられる年になりますように」と願ってみようと決めた。いくら辛かろうが人生は続いていく。ならば現状を変えるほどの何かを成し得て、その先で幸福を掴み取ることくらいはして然るべしだろう。……いつの間にか酔いは冷め、辺りは寒々とした空気が支配している。僕はそんな雰囲気が嫌でたまらなくなり、『いざと言う時のため』にカバンに常備しているビールのプルタブを勢いよく開けた。未だ足取りは重い。だがこれまでも生きてこれたように、今日が終わって明日も、そしてこれから先もおそらく何とかなるだろう。ふと冷たさを感じて着ているセーターを見ると、シェイクされたためか大量の泡が張り付いていたが、別にそれでもいいと思った。