キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

ライブという娯楽は本当に不要不急なのか?

松江駅から揺られること3時間。広島バスセンターへ到着した僕は、ロックバンドのシールが貼り付けられたキャリーバッグを降ろした。平日であるためか人は疎らで、外では遠路はるばる来た僕を歓迎するように、パラパラと小雨が降っている。……待ち望んでいたこの日が、ようやくやってきたのだ。

今回の来広は数ヶ月前、たまたま応募していたライブのチケットに当選したのが全ての始まりだった。元々行くかどうか迷っていたライブだったが、どうやらバイトの休憩時間に何となしに応募していたら当たってしまったらしい。となればその日は有給を消化して広島へ……。という流れがほぼ確定したも同然だが、僕の心は晴れなかった。何故ならそもそも島根から広島に向かう行動には、費用的にも時間的にも大きなデメリットを有しているからだ。島根から広島の交通費7200円に加え宿代、食事代、ライブの場所に行くまでのお金、グッズ、雑費……。金持ちの道楽ならいざ知らず、最底辺の暮らしをしている人間には些か痛い出費である。時間的なことに関しても、現在はコロナの影響で減便している関係上『行って帰る』というたったそれだけの行為にも2日間は必要で、どうせ行くなら他のライブも重ねて行きたい、というのが正直な思いとしてあった。

そうしていろいろと広島での近しいライブを調べてみると、ちょうど合計4つのライブが連続で行われることを知る。16日向井秀徳。17日Perfume。18日ずっと真夜中でいいのに。19日KANA-BOON。しかも全てが大好きなアーティストで、僕の気持ちは直ぐ様決まった。数日後に全てのライブが当選したことが分かった瞬間、僕は5日間の連休を申請。特段のトラブルもなく、無事この日を迎えるに至ったのだった。

パラつく雨にもある種の楽しさを覚えながら、本通りと平和記念公園を抜け、宿へと向かう。僕が広島で宿泊する際は決まって広島の中心地で最安値とされる『マリカ』という、男女16人共用寝室を有する格安ホステルを選んでいる。この日もチェックインしようとホステルに入ると従業員はおらず、代わりに扉には茶封筒に「きたがわ様」と書かれた上だけが貼り付けられていた。このホステルは支配人が人間関係が苦手なのか、基本的に客との一対一の対応は行わない。茶封筒には部屋番号と扉のパスワードが記されていて、まず初日は金も払わず寝る。そして翌日の適当な時間に、3階のとあるポストに現金を入れた状態の茶封筒をそのまま投函する形で、チェックインは終わる。後のことは完全放置で、部屋を掃除されることも何かを言われることも基本的にはない。正直睡眠の環境としてはあまり良くはないけれど泥酔すれば無問題だし、僕自身も人間関係を苦手とする性分だからか、このある種適当な雰囲気がたまらなく好きだった。

宿で暫くYouTubeをポチポチやっていると良い時間になったので、いそいそとライブハウスへと向かう。ドリンク代でビールを貰って席に着くと、最高の時間の幕開けである。会場に響き渡る爆音と歌声が鼓膜を揺らす。代わり映えのない生活ではまず得ることが出来ない、極上の体験だ。一瞬で時は過ぎ去ってしまったが、これも心から楽しんだ証拠。ライブのMCやセットリストを忘れないようにスマホにメモしつつ、アルコールを購入したりすき家に寄ったりしてなるたけ早く宿に帰る。宿に帰った僕は大量に酒を飲むことで、不眠症と翌日の早起きの折衷案を試みる。無論その理由は、一刻も早いライブレポートの執筆である。

翌日の10時頃に目を覚ますと、取り敢えず本通りに向かう。どうやら昨日のうちに調べたところ本通りには多くのカフェが点在していて、11時までに来店すればモーニングが頼めるとのこと。適当な店に入り、次なるライブの開演時間までひたすらスマホと向き合う。時間にして7時間程だが、何にも縛られず作品を完成させるその時間だけはとても幸福なものに思え、本当に久方ぶりの幸福を感じることが出来た。

そうした日々を続けた4日間。楽しいことも何もなかったクソッタレな人生に、穏やかな光が射した感覚があった。「音楽は不要不急なのか?」……ライブに行けないコロナ禍で何度も考えていたこの疑問に対する個人的な答えがあるとすれば、どれだけ辛い日々であっても、ライブがあると思えば何とか生きていける。故に音楽は不要不急ではないとの強い思いだった。難しい状況にも関わらず全国ツアーを敢行していただいた全てのアーティストの方々、関係者の方々には、心からの感謝の気持ちを伝えたい。

明日から、またつまらない日常が始まる。早起きもだるいし、何ならこうしたライブの『非日常体験』を毎日のように過ごしていければどれだけ幸せだろうと考えたりもするが、それが出来るのも仕事でお金を得ているからなので、人生はままならんなあと思う。なお今回執筆したライブレポートは以下の通り。今後も出来るだけ多くのライブに足を運ぼうと祈りながら、これからも生きていく。