こんばんは、キタガワです。
今やアーティストには第一義とされている音楽性はもちろん、多様性も広く求められる時代になった。パブリックイメージ、格好良さ、スタイル。いや、それは少し意味合いが違うかもしれない。人を惹き付ける力を持つ人物にはそれに付随する魅力も必ず存在する、ということなのだろう。
例えばタイトルに記した麻倉ももも、多様性を体現する人物として位置している。彼女の本業は声優で、アニメを主軸としながら幅広く活動。他にもそのバラエティー豊かなキャラクター性から麻倉もも本人としてアニメイベントにも多数出演し、アニメファンを中心に飛躍的に知名度を高めていった。実際、アニメから本人への認知へと繋げていく流れは昨今の声優事情としてのセオリーを地で進んでいる感はある。ただそうした中でも麻倉の用いた顔文字が話題になったり、親しみを込めての『もちょ』の愛称が固定化したりと、明らかにもはやお馴染みの声優街道においても頭角を現していたのが麻倉だった。
麻倉もも 『ピンキーフック』Music Video(YouTube EDIT ver.) - YouTube
そんな彼女の新たな引き出しを開けたのが、音楽活動。時に可愛く、時にクールに歌う姿はまさしく彼女の演技力の新境地とも言える代物で、雨宮天と夏川椎菜との3人組ユニット・TrySailとしての活動をはじめ、中でもソロとしての活動が決まったあたりからは更に振り幅の大きいキャラクター性を楽曲を通して体現するようになった。特に人気アニメ『カノジョも彼女』の主題歌として抜擢された“ピンキーフック”では原作の『恋人がいるのに二股して別の女性からも好意を持たれてしまう』というくんずほぐれつな恋愛模様を見事に歌声のみで表現。なお“ピンキーフック”は歌詞も歌声も敢えて『あざと可愛い』形に終始しているため麻倉の楽曲としても意欲作、かねてよりのファンからしても楽しい楽曲に仕上がっているのだが、これもアニメのシナリオともしっかりリンクする歌唱法だ。役を演じ、更には歌声も要望に応じて演じ切るその力量には感服するばかりだ。
アニメ主題歌のオファーは基本的に、制作側がアーティストに目を付けた段階で「こういった感じでお願いします」と絵コンテや原作を用いて内容を説明、アーティスト側はそれに答える形で「こういう曲はどうでしょう」と渡し、それがOKならば本格的な制作に移る、という流れで行われている。しかしながら“ピンキーフック”に関しては作詞作曲は渡辺翔が担っているため、はっきり言ってしまえば麻倉の成し得る行動は楽曲を歌うことひとつに絞られる。そのため『如何に歌声のみでイメージを伝えられるか』が声優兼アーティストの麻倉に課せられた使命になってくる訳で、その難易度がどれほど高いものなのかは想像に難くない。
TVアニメ「カノジョも彼女」ノンクレジットEDムービー/麻倉もも「ピンキーフック」 - YouTube
そんな中で麻倉はこれまでに培った演技力を駆使し、楽曲にマッチしたあざと可愛い表現でもって、自分ひとりで完結させている。冒頭にも記したように、今や声優がアーティスト活動をすることは珍しくないけれど、その真髄とも称すべき魅力を“ピンキーフック”は携えているように思うし、例えばこの楽曲をどれほど歌が上手い歌手が歌ったとして、麻倉のような自然体のあざとさは出せないはずだ。全てが絶妙に考え尽くされた構成に脱帽すると共に、麻倉の多様性にも改めて驚く、そんな傑作。