キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

無期限活動休止を発表した伝説的VTuber・キズナアイの楽曲に見る、ハッピーの可視化 

こんばんは、キタガワです。


YouTuber。お笑い芸人。タレント。果ては音楽経験一切なしの一般人まで……。ここ数年の流行音楽は改めて見返すと明らかにジャンルレスなものに変化。そうした新たな布陣に名クリエイターも集結してしのぎを削る、音楽戦国時代とも言うべき状況が今なのだ。……そんな中でもネット音楽に新たな風を吹かせた立役者として挙げられるのは、アニメーションの姿でゲーム実況やレビューを行う、世間一般的には所謂『VTuber(バーチャルユーチューバー)』と呼ばれる存在たちの音楽シーンへの進出だろう。例えば輝夜月、ミライアカリら著名なVTuberらが音楽活動にも舵を切ったことは広く知られていて、現在ではにじさんじやホロライバーの他、VTuberの音楽活動を下支えするレーベルも立ち上げが確認されているほど。

 

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https://kizunaai.com/

【重大発表】キズナアイからの大切なお知らせ - YouTube


そんなVTuberミュージック界隈で、最も早くから音楽活動とライブ活動を行ってきたのがご存知キズナアイである。彼女は『歌ってみた』動画のコンスタントな投稿から次第にアーティストとしても国内外問わず認知される存在となり、2019年には初のアルバム『hello, world』をリリースし、何と大規模都市型フェス『SUMMER SONIC』に唯一のバーチャルシンガー枠として出演。前代未聞の試みにも関わらず超満員で高評価を得たことも記憶に新しい。……残念ながら本日キズナアイはデビュー5周年のこの日をもって無期限スリープ(活動休止)を発表。次なる活動が長期間空いてしまうことが明らかになったが、是非とも今回はキズナアイのゲーム実況の魅力以上に、その素晴らしい音楽活動の軌跡に迫っていきたいと思う。

 

Kizuna AI - AIAIAI (feat. 中田ヤスタカ)【Official Music Video】 - YouTube


第一に、キズナアイ史上最も認知されている代表曲“AIAIAI feat.中田ヤスタカ”について見てみよう。この楽曲におけるキズナアイの立ち位置は言わばDJで、特にサビ部分に顕著に現れている通り、自身の歌声以上にリスナーへのレスポンスに振っている。思えば当時は、ソロアルバムはともかくとして中田ヤスタカが他者に提供した楽曲でこうしたレスポンスありき、ダブステップ炸裂のEDMはなかったので、とても新鮮に感じたのを覚えている。ただ、これがPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅの楽曲でも同様のことが出来るかと問われれば、答えはおそらくNO。あのキズナアイの透き通る声質とコロコロと変化する歌声がなければ、実現不可能なコラボレーションだった。

 

Kizuna AI - Sky High (Prod. Yunomi)【Official Music Video】 - YouTube 


そしてキズナアイの声質にフォーカスを当ててみると、ポップに特化したキズナアイの魅力も見えてくる。そのうちお茶の間にも広く流れた“Sky High”と“ラブしい”はキズナアイの音楽活動全体を考えるとかなりポップに寄っており、逆に言えばシンガーとしての真価を発揮するにはこの上ない楽曲だ。結果はもちろんオールオッケー。サウンドの楽しさを全く阻害せず、なおかつしっかりと「キズナアイの声だ!」と分かる印象度を見せ付ける様は、およそ他のシンガーと比較しても遅れを取らない。チャンネル登録者数200万人超え、当時YouTubeを好んで観る人々の大多数に認知されていたキズナアイだからこそ、このポップ路線は生きてくる。

 

うっせぇわ - Ado/covered by キズナアイ(ブラックアイ)【歌ってみた】 - YouTube 


オリジナルとは少し違うが、再生回数数千万回超えのMV楽曲を歌うカバー動画も、彼女のアーティスト活動の追い風となった。人間誰しもカラオケ等で楽曲を歌う時に、無意識にその歌手の歌声を真似してしまうというのは常だけれど、キズナアイの場合YouTube実況では基本的に可愛らしいキャラクターを崩さないので、その声がダークに変化するAdo“うっせぇわ”、BTS“Dynamite”、DISH//“猫”といった楽曲の数々はやはり新鮮。これらに関してはキズナアイを知っている人であればあるほどキャラクター性の変貌に驚くこと請け合いなので、是非とも彼女の実況動画とMVに目を通した後に刮目してほしいところだ。


繰り返すが、彼女がこの5年間で生み出した功績はとても大きい。それはVTuberが市民権を得たことも当然ながら、VTuberのアーティストデビューについても同様。インターネットと深く関わる現代において、まだ見ぬ音楽への道筋を切り開いてくれたことには、本当に感謝している。そして悲しいかな、恐らく我々が去ってしまったキズナアイの重要性に気付くのも、今からまた少しばかり時が経ってからなのである。……ただ、公式から活動休止中も実況動画と音楽は消さないと明言されている。であれば我々が出来る事は、これまで以上に興味を持ち、聴き続け、観続けることのみだ。活動休止中も一般人がダイブし続ける幸福な底なし沼行方を、今後も緩やかに見守っていきたい。