こんばんは、キタガワです。
彼らの存在を我々日本人がゆっくりと認知し始めたのは、今年も約半分が終わろうという頃。無論その頃になると所謂『今年を代表するアーティスト』の楽曲というのは大半が出揃っていて、サブスクリプションでチャート入りする楽曲は決まってそれら新進気鋭のアーティストの次回作、もしくは元々知名度のある重鎮アーティストばかりに偏る傾向がみられた。
というより、例えば1週間に1回程度のスパンでサブスクを開いて1位から100位までをズラッと目を通す行為を習慣的に行っていたとしても、たった1週間程度では既視感を覚えるアーティストの布陣は絶対に揺るがない訳で、それに関しては仕方ないところもある。……ただひとつ気になったのは、特に海外チャートの上位に『AREA21』という謎のアーティストの楽曲がポツポツと点在していたこと。決して爆発的な成功を収めているとは言えないまでも、35位、40位、68位、80位あたりを何曲もの楽曲が入れ代わり立ち代わりでぐるぐる回っているのを何度も見ていると、流石に気になる。特段海外の音楽シーンに目を凝らすことは少ないとはいえ、だんだんと「海外でとてつもないアーティストが出現したんだな」との思いが芽生えていくのには、そう時間はかからなかった。
https://www.universal-music.co.jp/area21/
そんなAREA21について現在分かっている情報は、あまりに創作的なものばかりだ。アーティスト写真ではエイリアンのお面を被ってカッコよく決めたふたりの男性が映し出されているのだが、彼らが地球に辿り着いたのはつい最近のこと。元々は結束力や団結力といった感情を広めるために宇宙を旅するトラベラー(名前をM&M)だったそうだが、宇宙船が激突し訪れてしまった地球という場所にいつしか完全に墜落したために音楽活動をしている……というのが大まかなストーリー。正直「こんな話絶対に嘘じゃん!」とのツッコミはさておいて、楽曲においても人との繋がりや自分らしさを徹底してポジティブに記していて、MVも全てアニメーションであったりもするため、彼らの中では完全にAREA21は今後、そうした宇宙的なコンセプトで活動していくつもりなのだろう。
AREA21 - La La La (Official Video) - YouTube
ともあれ重要なのは、楽曲の魅力にある。一聴してどこかで聴いたことのあるサウンドに耳を奪われたリスナーも多いだろうが、それもそのはず。彼らの正体は年間所得海外ナンバーワンDJことマーティン・ギャリックスとシンガー・プロデューサーとしても活動中のメイジャーであり、その実力は折り紙付き。2019年のフジロック以降マーティンの活動はあまりなかったので、心配になっていた部分もあったのは事実だが、水面下でまさかAREA21としての新プロジェクトを始動しているとは思わなかったので、喜びもひとしおだ。
ちなみにAREA21は楽曲のコンセプトも完全に『エイリアンが地球を探索中』なストーリーに徹していて、歌詞の面でもとても痛快だ。まず彼らの活動のスタートを切ったのは“La La La”で、先述の『何故彼らは地球にやってきたのか?』という流れのあらすじ的な役割を説明。ここで地球の良い面と悪い面を知った彼らは、次々に海外を渡り歩くことになり、ポジティブな点については新たな出会いや前向きな精神だったり、ネガティブな点についてはスマホ依存症など我々でさえもハッとさせられる事柄をつまびらかにした後、結果的にサブスクで好成績を収めた“Lovin‘ Every Minute”に繋がっていく。彼らはAREA21としての歌詞をポジティブなものと捉えているがその実、全てはすっかり電子機器や人間関係で自我をなくしつつある我々への警鐘とも呼ぶべきもの。ちなみに先日リリースされた彼ら初となるデビューアルバムは
その名も何と『Gratest Hits Vol.1』。本来であれば何年も活動した歌手のベスト盤で名付けられるようなタイトルだが、その真意についてもおそらく『これまでのAREA21の話は終わりだよ』という、ある種第1章完結の意味合いが込められているのではと推察する。
AREA21 - Lovin' Every Minute (Official Video) - YouTube
サブスクで1曲1曲の爆発力が重要となっている現代において、全ての楽曲を巨大なストーリーとして見なすEDMエイリアン・AREA21。サウンドの基礎を担っているのはあのマーティンなので完成度については流石と言う他ないのだが、やはり特筆すべきは歌詞と、その歌詞をエイリアンが歌っているという設定にある。「えっ?地球人ってこんなに楽しそうなの?しかも景色も凄くキレイだし!」と歌われて思わず嬉しくなってしまう部分も、逆に「えっ?みんなこんなにスマホばっかりいじってる!仕事大変?人が怖い?もっと楽しいこと皆なら出来るはずでしょ!」と緩やかに諭す部分も……。それは我々地球人でさえもいつしか忘れつつある現状を揶揄した、全く違う方向からのアプローチだ。総じて、遠く離れたエイリアンから放たれる言葉の数々を聴くべきは、情報化社会の波に揉まれ続ける今しかない。