キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

ポップロックの代名詞ことアヴリル・ラヴィーンの新曲“Bite Me”は、原点回帰の1曲となるか?

こんばんは、キタガワです。

 

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アーティストというのは通例として、活動歴が長くなっていくにつれ方向性も変わっていくものである。それはデビューから現在にかけてポップロックの第一線を走り続けているアヴリル・ラヴィーンも同様で、彼女はこれまで多くの作風を試してきた。しかしながらロックに振り切った“Under My Skin”でも、多様な音楽性で魅せた“Avril Lavigne”でも、彼女のアルバムの多くはいつも『ポップロックシンガー・アヴリルの新作』として称賛されてきた。それがいちリスナーとして、間違ってもポップロックに分類されないものであっても、だ。


上記の理由はひとえに、彼女史上最も売れたとされるアルバム『The Best Damn Thing』の存在によるところが大きいことと推察する。このアルバムは徹底して明るきに徹しているのが特徴で、当初はある程度の批判もあったようだが、それ以上にここ日本でも大ブレイクした“Girlfriend”を契機とし、結果として『The Best Damn Thing』は売れた。そして彼女のイメージはこの頃からポップロックの一言でまとめられ、以降も“What The Hell”を筆頭にキラキラなロックチューンが多く評価されてきたのも、そのイメージに拍車をかけた。

 

Avril Lavigne - Girlfriend - YouTube 


だが5枚目のフルアルバムである『Avril  Lavigne』を境に、彼女の活動は突如として途絶えることとなる。なお『Avril  Lavigne』から次のアルバム『Head Above Water』までの期間はおよそ6年弱で、これまで長くとも3年に1度はアルバムをリリースしてきた彼女にとっては最も長いスパンとなったこの経緯には、後にライム病に罹り闘病生活を送っていることが明らかになるのだけれど、とにかく。全編通してポップさ以上に精神性を強く映し出した『Head Above Water』が高評価を受けたことでより色濃くなったのは、アヴリルがポップロック路線に回帰する可能性の低さを意味していたように思う。

 

Avril Lavigne - Bite Me (Official Video) - YouTube


そんな折にリリースされたのが、タイトルにも記した“Bite Me”。まず一聴してハッとするのがそのサウンドで、どしゃめしゃなギターの音色とキャッチーかつパワフルな歌声が入り乱れるそれは、我々が愛してやまない(もちろん今も大好きだが)アヴリルらしさだった。YouTubeのコメント欄で「これこそ俺たちのアヴリルだ!」「最高の帰還」「あの思い出が蘇る」などファンの大絶賛に包まれていることからも、感触も良好。何故一転して数年前のサウンドに傾倒したのかなど事情は不明ながら、音楽的な視点の話ではあれど、アヴリルはこの楽曲で原点回帰を担ったと見て良いだろう。


繰り返すように“Bite Me”のリリースは、単純に彼女がネガティブな視点から開放されたという事実を示している訳だが、それは幾度も延期と中止を重ね、ようやく現在再開中の世界ツアー『Head  Above Water Tour』でも体現されている。それこそこのアルバムがリリースされた2019年は彼女自身が大いなる疲弊を楽曲を通して発散していた時期であり、当然の如くセットリストも大半が『Head Above Water』楽曲で組まれていた。けれども現在直近で再開されたツアー映像を見てみると、何と『Head  Above Water』からは5曲程度しか披露されず、それ以外は基本的に往年のポップロック楽曲が占めるというおよそアルバムツアーとしては異質な構成になっているのだ。ということは“Bite Me”についても、彼女の精神的変化によるものと思われる。


今後“Bite Me”はツアーに組み込まれることはもちろんのこと、新たなアヴリルを見せ付ける最良の1曲としてピックアップされるはずだ。これまで感覚が麻痺していた感もあるけれど、よくよく考えればこれほど『ポップロック』の言葉が似合うアヴリルも久し振り。いつの時代の彼女も印象深いものであったという前提ありきの話で恐縮だが、やはりこうしたサウンドに触れればどこか落ち着く感覚に陥ってしまうのは、ファンの性なのかもしれない。