キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

全英1位を記録した37歳の『若手』バンド・IDLES(アイドルズ)の軌跡

こんばんは、キタガワです。

 

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新進気鋭の。流行りの。話題沸騰の。人気アーティスト○○も期待する。若手の。……音楽シーンに新たに躍り出たアーティストにやたらとこれらの表現が使われることは、今や当然の動きとなっている。調べてみると日本人には特にこうした印象深い表現が刺さるらしく、例えば映画の「あなたは必ず2回泣く」や「絶対に見抜けないどんでん返し」のように、一目で興味を引くにはうってつけの表現なのだという。取り分け頻繁に使われるようになったのは10代〜20代前半を指しての『若手』であるとされ、手軽にアピールポイントを伝える便利な言葉として、今日もどこかの音楽番組で使われていることだろうと思う。


そんな中、『若手』として今世界で名を上げつつあるバンドがいる。彼らの名前はアイドルズと言い、彼ら自身も自虐的に多くのインタビューで語っている通り、どちらかと言えば中年に分類されそうな男臭い面々だ。「ロックは死んだ」と揶揄されて久しい昨今で彼らが鳴らすのは荒々しいパンクサウンド。にも関わらず、彼らは昨年リリースされたアルバム『Ultra Mono』で何とあのリアム・ギャラガーを抑え全英1位を獲得。以降グラストンベリー・フェスティバル含む多くのフェスでの衝撃的なパフォーマンスが噂を呼び、あれよあれよという間にロックの救済者的ポジションまで駆け上がってしまった。このことには本人たちも心底驚いている様子だが、方向性を変えることなく突き進んできた彼らの愚直な精神性が、遂に結実した瞬間であるとも言える。

 

IDLES - Danny Nedelko (Glastonbury 2019) - YouTube

IDLES - Never Fight A Main With A Perm (Live at Glastonbury 2019) - YouTube

 

 

ただひとつ疑問に感じることがあるとすれば、彼らが未だに様々なメディアにおいて『若手』として紹介されている点についてだ。そもそも彼らの結成は2012年と何気に10年選手で、ボーカルのジョー・タルボットは現在37歳。では「決して若くはない彼らが若手筆頭と呼ばれる所以は?」と問われればそれは純粋に、2019年の『Ultra Mono』が評価されるまでの間、ずっとアイドルズは売れなかったからである。一般的に夢追い人が夢を諦める年齢は30歳前後とされているが、彼らはそのボーダーラインを超えてもなお自身の奏でるパンクを信じ続けた。それが如何に困難な道程であったのかは、想像に難くない。

 

結果としてとてつもない高評価を得た『Ultra Mono』は、言い表すならば怒りのアルバムだった。政府に。メディアに。他国からの移民に。何より、そうした事柄で埋め尽くされているはずの世の中を見ようとしない我々と自分自身に対して彼は本気でキレていた。そして彼が放ったメッセージはライブを通して具現化され、いつしかアイドルズの名前は内なる怒りを音楽で発散したいと願うライブキッズたちに浸透していった。なお彼らのバンド名であるアイドルズは日本でよくある可愛らしいタレントイメージの『Idol』ではなく、日本語で怠惰、ニート、落伍者といったネガティブな意味を持つ『Idle』であることは、是非とも特筆しておきたい。

 


稀有な若手バンド・アイドルズの歩みは止まることなく、本日11月12日にはニューアルバム『CRAWLER』がリリース。今作はコラボレーション多数だった前作とは対象的にバンドオンリーで録音され、ジョーのアルコール依存症、人生の見詰め直し、更には飲酒運転の果ての自動車事故(おそらくは実際に起きた出来事だと推察する)などが異様なリアリティをもって迫ってくる問題作となっているので、気になった人は是非。流行歌によくある抽象的な表現でハッとさせられるのも確かに素晴らしいものだが、アイドルズのように頑固な精神で思いの丈を吐き出す音楽も、破壊的で素敵だ。

 

IDLES - CAR CRASH (Official Video) - YouTube