キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

「ロックは死んだ」の通説を真っ向から問い質す運命のロックバンド・マネスキンの魅力

こんばんは、キタガワです。


気付けば、かつてあれほど叫ばれていた「ロックは死んだ」という言葉を聞かなくなって久しい。ここだけを記すとおそらくは誰しもがポジティブにこう思うだろう。「この言葉を聞かなくなったってことは、ロックはだんだん盛り返してきたの?」と。もちろんそうなら嬉しいけれど、実際は違う。……そう。この言葉が聞こえなくなった理由はひとつ。それは「ロックが盛り返してきた」からではなく「ロックが完全に死んだ結果、誰にも見向きもされなくなったから」だ。日本においてもロック離れは進む一方だが、特に海外では音楽の中心部にポップを置く動きが急加速しつつある。ミュージシャン側としても当然、音楽をやる以上は売れなければならない。そして世間的なブームがポップであるならばそこに乗っからない理由がないというのが正直なところで、そうした現状を踏まえて敢えて辛辣な言葉で表現するならば、今や『ロックを鳴らし続けるバンド=自ら売れない選択をした人たち』というレッテル貼りをされることも少なくない。

 

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そんな鬱屈したロックシーンに突如舞い降りた救世主こそ、イタリアはローマ出身の4人組・Måneskin(以下マネスキン。イタリア発音はモーネスキン)である。マネスキンはメンバー全員が現在20歳〜23歳のフレッシュな面々で、結成間もない2017年にはイタリアの有名タレントショーで2位を獲得。そして今年は『サンレモ音楽祭2021』で優勝し、その優勝特典でイタリア代表としての参加資格が与えられた『ユーロビジョン・ソング・コンテスト2021』でなみいるバンドを抑えて何と優勝してしまい、一気にスターダムへの道を駆け上がることになった。ちなみに『ユーロビジョン・ソング・コンテスト』はかつてABBAやセリーヌ・ディオンらを輩出したことでも知られ、毎年2億人以上が視聴。イタリア勢の優勝は実に31年ぶりであり、総じてマネスキンの活躍がとてつもない快挙であることが分かる。

 

Måneskin|マネスキン - 「ジッティ・エ・ブオーニ」 (日本語字幕ver) - YouTube


彼らの楽曲の中でも絶対に注目すべき代物があるとすれば、それは『ユーロビジョン・ソング・コンテスト2021』で優勝を掻っ攫った代表曲“ZITTI E BUONI”で間違いない。歌詞においても80年代〜90年代の古き良きロックという感じで和訳を見ると面白いのだが、我々日本人的には歌詞の数々はほぼイタリア語の羅列以上の意味をもたないので、あまり関係がない。彼らを語る上で重要なのは何よりも、雰囲気とサウンドなのだ。


上記のMVを観てもらえば一目瞭然だが、メンバー全員には「俺らはロックのバンドマンだ!」とロックを知らない人にも雄弁に訴え掛ける圧倒的な印象度があるし、淫靡なMVのイメージも合わさってどこか近寄り難いキワキワ感も内在している。とりわけボーカルのダミアーノ・デイヴィッド(Vo)のフロントマン然とした立ち居振る舞いは衝撃の一言で、もはや何をやっても映える明らかなスター性だ。ロックの顔といえばフレディー・マーキュリーやデヴィッド・ボウイらが挙げられるけれど、20歳そこそこの若手バンドとしてこのポテンシャルを纏っているのは非常に稀有で、ロックを鳴らすために生まれてきたような気さえしてしまう。


加えて、サウンド面も我々ロック好きのアンテナをビンビン震わせるシーンのオンパレードで最高だ。“ZITTI E BUONI”に限らず彼らのほぼ全ての楽曲では楽器の音圧を取り敢えずフルで上げ、耳馴染みを良くするような大衆向けのエフェクトは使っていない。要するにやっていることは一昔前のロックバンドと同じで、それが何十年もの時を経て『サブスク向けにキレイに聴かせよう』とか『広く受け入れられるようなものを目指そう』というある種固定化された音ではない新鮮な驚きとして、鼓膜に直接的に響いてくる。更にはコード進行も徹底してシンプルでドラムに関しては力任せに叩いており、どこを切ってもロックなのだから痛快である。MVを観るだけでこれなのだから、生音のライブで聴いたら心臓飛び出るんじゃないだろうか……。

 

Måneskin - I WANNA BE YOUR SLAVE (Official Video) - YouTube


もちろんその他の楽曲についても素晴らしく、ラテンやポップ、バラード、何ならヒップホップの要素もありと実はロック以外の引き出しもとてつもなく広いギャップも、彼らの今後の飛躍を予感させる。おそらく最近リリースされたアルバム『テアトロ・ディーラ VOL.1』が今後のセットリストの軸になるのだろうが、言わば「全部違う曲だけど全部ロック」な若き彼らにしかなし得ない初期衝動全開の楽曲ばかりが集まっていて一切退屈しない。再生数的にも多くの楽曲が1000万回に近いバズを記録していることからも、それは明らかだろう。


繰り返すが、冒頭にも記した「ロックは死んだ」との有名なフレーズはおそらく現在の音楽シーンを踏まえてもおよそ正しい。が、死んだということは同時に生き返る可能性も大いにあって、今回のマネスキンの登場はまさしくロックの復活を意味するもののような気がしてならないのだ。今年末から始まるヨーロッパツアーは全公演が即日ソールドアウト、更には『テアトロ・ディーラ VOL.1』は日本を含め全世界で爆発的ヒットを飛ばしている。……まだまだ楽しませてくれそうな期待の神聖・マネスキン。今彼らを知ることはすなわち、すっかり失われたロックの魅力に目を向けることと同義である。