キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】『ヤマタノオロチライジング・シマネジェットフェス2021』@出雲いりすの丘

こんばんは、キタガワです。

 

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新型コロナウイルスの世界的蔓延により、世の中はすっかり変わってしまった。マスク生活、閉店する店、レジにはパーティション……。少しずつ状況は好転しているとはいえ、未だ様々な制限そのままに生活する日々である。そしてコロナ前に完全に元通りとはいかないもののひとつに我々が愛してやまないライブシーンも位置していて、モッシュ・ダイブ禁止、発声制限と長らくの苦境に立たされている。そうした渦中で我々は思う。「誰にも気兼ねせずに心震えるロックが聴きたい」と。……いや、我々にはあるではないか。最強のロックバンドたちの宝庫たる『シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング2021』が。

 

そんなロック好きたちの欲求が最大まで高まった10月9日に満を持して開催されたのが、ギターウルフ・セイジの出身地こと島根県松江市にて毎年行われるご存知『シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング2021』である。今年は島根県の某所からオンラインで配信する形で開催され、発起人であるセイジ有するギターウルフをはじめLAUGHIN' NOSE、KING BROTHERS、GASOLINEなど古今東西のロックバンドの他、島根県からは多根神楽団や門脇大樹らが集結し、全世界に目の覚める爆音を提供(なお今年筆者は島根県在住のライターとして現地での閲覧となった)。なお生配信会場ではこのご時世を鑑みて厳重な感染防止対策が取られていて、マスク着用の徹底や消毒といった試みはもちろんのこと、鑑賞の際も極力密にならないよう尽力。その他水分補給などを主とした熱中症対策においても各自、水を口に含んだらすぐマスクをするというように常に気を配っていたことも加えて記述しておきたい。

 

 

多根神楽団 10:00〜

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開幕を飾ったのは島根県は大田市から、広く多根神楽を伝えるため結成された舞楽集団・多根神楽団(たねかぐらだん)。8つの頭を持つ怪物であるヤマタノオロチをスサノオノミコトが酒で眠らせ、死闘の末に撃退するという伝承に沿った展開で魅せ、ヤマタノオロチが次々と斬り伏せられていく視覚的な楽しさは元より、笛と太鼓のリズミカルな音も相まって耳馴染みも良い。後のインタビューでは「今日は本来であれば1時間近くあるものを20分に短縮した形で行った」と演者の方が語っていて、実際画面越しに鑑賞する人の中には神楽にあまり興味のなかった人もいたかもしれないけれど、誰しもを唸らせる程の熱量がこもった今回の演舞を鑑みるに「もっと観たい」と感じた人はきっと多かったはず。

 

2018 0616大阪駅山陰デスティネーション07多根神楽 八岐大蛇(やまたのおろち)01前編 - YouTube

 

 

 

DJわいざん 10:20〜

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続いては日本全国津々浦々、独自性の高いDJを回しに向かうパフォーマンスユニット・DJわいざん。今回はDJわいざんとこなこな子(パフォーマー)他、名古屋から盟友・鈴木重雄も参戦。求人力を更に上昇させた盤石の布陣での20分である。セットリストは鈴木重雄の“SHIGEO”と“やっぱGREAT”他、MAHO堂“おジャ魔女カーニバル!!”、あほ男“こうやってこうするだけ”、西城秀樹“YOUNG MAN”の計5曲。ただ単純にプレイするだけのスタイルではなく常にDJわいざんは音楽を掻き消さんばかりの勢いで言葉を捲し立てており、一般的なDJとは一線を画していて面白い。最後は枯れつつある声を振り絞りながら、ギターウルフ・セイジも含めた全員で“YOUNG MAN”を振り付けありで熱唱して大団円。ステージを降りたDJわいざんの表情は、きらめく満面の笑顔だった。

 

DJわいざんライブ(Y.M.C.A./西城秀樹) - YouTube

 

 

 

アウトクラウドエンターテイメント 10:40〜

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DJわいざんのプレイ中辺りで次々と会場入りする大勢の子供たちが目を引いたが、その理由が判明したのがダンスパフォーマンス集団ことアウトクラウドエンターテイメントの時間。海外のダンサブルなEDMに乗せ、総勢十数人による次々と繰り広げられたダンス、ダンス、ダンス。聞けば踊る子供たちは海外に留学した経験があったり、有名ダンサーと共に踊ったことがあるなど確かな実力を持っているそうで、確かに素人目に見てもダンスが上手い。時折即興とも思えるダンスソロも披露され、特に小さな子供たちに関しては将来の有望性を感じた次第だ。後に訪れるであろう輝かしい未来を祈りつつの約10分のライブは、終了後も「もっと見たかった」と思ってしまうほど。

 

I'm The Shit - AK-69 Feat.¥allow Bucks / choreographer - AKO - YouTube

 

 

 

門脇大樹 10:50〜

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ネクストアーティストは島根県から門脇大樹、まずは指弾きを駆使した全英詞のバラード曲で会場を温めていく。後のツイキャスにて「ロックバンドがたくさんいる中で、自分はある意味ではアウェーだったと思う」と彼自身が語っていたように、確かにギターを携えたソロシンガーはこの日彼ひとりだった。ただそれがマイナスに働いたのかと言えばそうではなく、彼らしいポップさを十分に見せ付けたという点でおよそ完璧な代物に。ラストは帰宅直前のアウトクラウドエンターテイメントの面々を誘っての大所帯の“旅人”で締め、門脇はステージを降りてカメラ目線で清らかな歌声を届けてくれた。持ち時間が終わり、すっぱ抜かれたカメラに「お返しします」と呟いたワンシーンも含め、昨今はメディアに出演すふことも多い彼を見ながら「やはり生粋のエンターテイナーなんだなあ」と地元民としても嬉しい気持ちに。

 

門脇大樹 - 旅人 (Official Video) - YouTube

 

 

 

まりこふん 11:00〜

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「みんな古墳にコーフンしてますか?私はもちろん大古墳(コーフン)してます!」と開口一番『らしい』幕開けで始まったのは、古墳大好きまりこふん。オープナーこそ単独でのライブ形態だったが、2曲目“古墳コレクション”からは全身ハニワの着ぐるみを着たその名も『ハニワウチタケル』がステージに出現し、最近リリースされたサードアルバム『It's 埋葬る』からの楽曲も点在するセットリストで古墳の魅力を伝えていく。特筆すべきは最後の“古墳deコーフン!”で、ファンキーなサウンドをバックに様々な古墳を宙に描いての言わば特別授業タイムに。アウトロでこの日ならではの「コッフンロール!」と叫んだまりこふんの思いはきっと画面越しにも伝わったはず。ちなみに筆者は今回のライブのお陰で、少なくとも前方後円墳の形はしっかりと覚えました。

 

古墳deコーフン!(short version)/まりこふん - YouTube

 

 

 

なるせ女剣劇団 11:20〜

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古墳の魅力を脳内に刷り込まれた後は、ジャンルレスフェスの最たるチャンバラ劇団・なるせ女剣劇団の出番である。彼女たちのスタイルとしては細川たかし“浪花節だよ人生は”や美空ひばり“お祭りマンボ”といった楽曲をバックに、軽妙なトークと寸劇で魅せるというもの。更にはその内容も噴飯もので、うつぶせになったまぶき豹馬の背中に十代花蝶が乗った拍子に「重い……」と呟いたり、自虐的発言を繰り返したりと総じて見所だらけ。こと演劇と言うと取っ付き辛い印象も少しはあるものだけれど、なるせ女剣劇団にはそうしたことは一切なし。『どこを切っても面白い』という出来そうでなかなか出来ない芸当を成し遂げ、ふたりは悠々と去っていった。

 

なるせ女剣劇団 2020PV - YouTube

 

 

 

ジャッキー&ザ・セドリックス 11:35〜

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エフェクターをほとんど介さないクリーントーンなギター&ベースとシンプルなドラムが織り成すどこか懐かしいロックを鳴らすスリーピースバンド・ジャッキー&ザ・セドリックス。そのアットホームな空気感もさることながら、全員の眼前にはマイクが置かれてはいるものの展開は半インストで、煩すぎない良い塩梅だ。真っ白なコードを引き摺って弾くベースも、時折片足を上げて存在をアピールするギターも、楽しそうに叩き続けるドラムも……。彼らは今回集まったバンドの中でも非常に長いキャリアを持つバンドに分類されると思うのだが、年齢を重ねた余裕なのか、良い意味でリハーサルの如きふわりとした風が漂うよう。「こんな時間にやることってほとんどない」という彼らのライブは、「次はライブハウスで見たい」と強く思わせる程のシックでオトナな代物だった。

 

Jackie and The Cedrics - SURFORAMA 2014 - YouTube

 

 

 

錯乱前戦 12:05〜

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この日の出演バンドの中では最も若い錯乱前戦は、デビューアルバム『おれは錯乱前戦だ!』リード曲である“タクシーマン”からスタート。まだ1曲目ながらモーリー(G)はステージを降りてギターを掻き毟っているし、ヤマモト(Vo)はマイクスタンドを倒し、成田(G)は絶叫に次ぐ絶叫……。。更には前日の大阪公演に続きサポートメンバーとして腕を振るったギターウルフ・セイジの実の娘であるサクラ(B)も、エネルギッシュな立ち居振る舞いでサウンドをしっかり下支えしている。彼らの魅力と言えばボルテージマックスで突き抜けるその猪突猛進性だが、この日も同じくどしゃめしゃなロックをがむしゃらに鳴らしていたのが印象的。セットリストに関しても“ロンドンブーツ”や“ロッキンロール”の他、ボ・ディドリーの日本語詞カバー“ピルズ”もぶち込む攻め攻めな代物で一瞬たりとも休む暇がないのだが、それでもお構いなしで続いていくのが錯乱前戦。最後は明らかにチューニングが狂っている状態そのままにファストチューン“カレーライス”をプレイし、切り裂くように終幕。この日の全力ぶりは、何より彼らとすれ違った時に見た全身から噴き出した汗が証明していた。

 

錯乱前戦 - タクシーマン(LIVE@江の島OPPA-LA) - YouTube

 

 

 

クリトリック・リス 12:30〜

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パンクバンドに挟まれる形で満を持して現れたのは、下ネタのナポレオンことクリトリック・リス(以下スギム)だ。まずは“老害末期衝動”で口火を切ると、楽曲の途中でスギムが早くもステージからフェードアウト。そして配信会場にいる自分でさえも居場所が分からなくなる中、次の瞬間なんと緑生い茂る木を突き抜けて再登場。一瞬で爆笑の渦と化した会場をリリックの応酬が埋め尽くす最高の空間は心底痛快だ。なおこの日のスギムは冒頭の“老害末期衝動”もそうだったが、“サワーナイトミラクル”や“PUNKISHMAN IN BBQ”、“おっさんライオット”など新曲を多数披露する完全ニューモード。いつだって今が最高!な精神性が如実に表れた力強い構成である。ラストに披露されたのは自粛期間中に制作された新たなライブアンセム“STAY MUSIC”で、スギムは見知らぬ人に声を掛けたり芝生に転がったりしながら《音楽は魔法 ライブハウスは奇跡》のフレーズを晴れた空へと緩やかに溶かしていく。笑いあり興奮あり、そして何よりその熱量に心動かされる素晴らしいライブがそこにはあった。

 

クリトリック・リス 20200627 @堀江vijon無観客配信LIVE - YouTube

 

 

 

THE NEATBEATS 13:00〜

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お次はロックの重鎮、ニートビーツが爆音と笑顔をご提供。その自然に体が踊り出してしまうガレージロックぶりはもちろん、ギターウルフとは親密な関係性にある彼らはMCも舌好調で、ステージ上部に取り付けられた発泡スチロールで作られたセイジ作『SHIMANE JETT FES』の文字の出来に切り込んだり、朝の集合時間が圧倒的に早まったこと、果ては直前に発生した回線トラブル(配信サービスはdocomoの電波を使っているので配信会場でそれを使うと混線、使用を制限するようお達しが出ていた)を指して「みなさんこの機会にauにしませんか?」と勧誘したりと、自由奔放だ。しかしながら決して演奏がおざなりにならないのも、ニートビーツらしさと言うもの。“ハートを渡そう”や“TWISTIN‘ TIME WITH YOU”といった往年の楽曲をここぞとばかりに畳み掛け、我らがニートビーツの存在を強く証明していく。全ての楽曲が終わると直ぐ様インタビューに臨んだメンバー。全身汗だくにも関わらずまるで「まだまだ行けるぜ」と感じているようにも見えたのは、やはりベテランバンドゆえか。

 

THE NEATBEATS - ハートを渡そう @京都 磔磔 2021/01/09 - YouTube

 

 

 

おとぼけビ〜バ〜 13:30〜

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紅一点ガールズバンド・おとぼけビ〜バ〜。海外を見据えて活動しているという考えから大衆向けの音楽と勘違いしてはいけない。ガールズバンドとあなどるなかれ、その正体は羊の皮を被った狼……もとい、どしゃめしゃなパンクロックに身を委ねた男顔負けの猛獣たちだ。オープナーは“一級品の間男”で、繰り返されるキャッチーなサビも相まって早くも沸点突破の盛り上がりを見せると、その後も2分足らずで駆け抜けるファストチューンを矢継ぎ早に連発。ギターノイズと絶叫とでその全てが正しく伝わっているかは定かではないが、明らかなパンク魂と熱量がある。それさえあれば彼女たちにとってはオールOKなのだ。最後まで勢い衰えず猛然と喰らいついたおとぼけビ〜バ〜のライブを観ていると何か……。特に今流行りのガールズロックシーンに欠けていたパズルのピースが見つかったようにも感じた次第だ。

 

おとぼけビ~バ~Otoboke Beaver - Don't Light My Fire ハートに火をつけたならばちゃんと消して帰って [Official Music Video] - YouTube

 

 

 

LAUGHIN' NOSE 14:00〜

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ロックの重鎮・LAUGHIN' NOSE、島根に帰還す……。この日の出演者の中でも群を抜いてキャリアの長い彼らが、鉄板のパンクロックを鳴らす待望の時間の到来である。“BRAIN CONTROL”や“WONDERFUL T.V”ら往年の楽曲群を惜しみなく投下するフェスセトリは当然として、マイクを器用に回しつつスピーカーに時折足を掛けて歌を届けるチャーミー(Vo)のアクションも眼福だ。ラストはもちろんこれを聴かねば帰れないキラーアンセム“GET THE GLORY”で、チャーミーは画面越しで観ているライブキッズにマイクを何度も向けながら、万感の時を作り出してフィニッシュ。「結成当初から現在にかけて、何故彼らは第一線で活動を続けられているのか?」。長年活動するバンドに向けられるその問いに圧倒的ポテンシャルで深く迫った、必見のライブだった。

 

LAUGHIN’NOSE - 2017 ROCKIN’CRUISIN 12th - YouTube

 

 

 

KING BROTHERS 14:30〜

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「シマネジェットフェス、行きましょーう!」というケイゾウ(Vo.G)の絶叫から膜を開けたKING BROTHERS。この日の彼らのライブを一言で表現するとすれば、それは間違いなく『衝撃』だった。1曲目からどしゃめしゃな爆音のノイズが降り注ぎもはや何が歌われているかも分からない中、早くもマーヤ(Vo.G)はマイクを空高くぶん投げ、コンクリートの地面に直撃したマイクがゴツンと音を立てて転がっていく。以降ステージからスタンドやマイクが何度も投げられ、誰かが拾いに行って再びステージに戻すという流れが定番化するのだが、これこそKING BROTHERSの醍醐味。2曲目ではマーヤが脚立を背負いながら絶叫する最高の流れを見せつつ、ラストナンバーとなった“GET AWAY”ではケイゾウがステージを降りて踏み台を前方に寄せ、上にマイクスタンドを設置。そしてマーヤが登って《アイラブユー!》と何度も叫び、その上から飛び降りて全身を強打する壮絶な幕切れとなった。命を燃やす25分、それはKING BROTHERSの何よりの存在証明と同義だったのかもしれない。

 

KING BROTHERS - ヤバイ事になるぞーget away @ りんご音楽祭2020 - YouTube

 

 

 

切腹ピストルズ 14:55〜

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ピーカンな空も次第に落ち着きを見せ、昼頃より少しばかり過ごしやすくなった時間帯。しかしながら興奮は下火になるどころかどんどん燃え上がるのがロックであり、続いての出演が唯一無二の和楽器集団・切腹ピストルズであれば尚更だ。切腹ピストルズは20名以上のメンバーが流動的に入れ替わる特異な集団としても知られるが、今回は鉦や篠笛、太鼓などあらゆる楽器を携えた9名編成。思い思いに激しく楽器を叩き鳴らし、汗だくになりながらのまるで永遠に続くようにも思える共演を観て感じたのは、切腹ピストルズの音楽集団以上のパンクバンドさだった。最後は決まってライブのクライマックスに位置している“自棄節”を、コロナ禍で開催されるフェスに揚げ足を取ろうとする世の中に対して「バカヤロー!」と何度も怒りを吐き出しつつ終幕。エネルギッシュなライブの果てにふと地面の芝生を見ると、彼らが激しく動いたことで焼け野原のような状態になっていた。 

 

Seppuku Pistols Times Square 切腹ピストルズ@タイムズスクエア - YouTube

 

 

 

GASOLINE 15:20〜

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気付けばフェスも大詰め。盤石のトリ前を飾るのはギターウルフの前座歴28年、ガソリンである。オープナーの“Do you feel alright”で早くも上裸&赤パンツ姿になると、ここで彼らのライブでは恒例となっているビール一気飲み……はご時世柄出来ないので、スタッフが持って来たカフェラテ→コーラ→水の順で「いつもお酒が飲めるのはガソリンさんのおかげです!」のコールと共に一気飲み。なお中心に立つGAN(Vo.G)は何度も「これお酒入ってないですからね!」と半ばダチョウ倶楽部的に叫んでいたけれど、実際ライブ後の彼の姿を現地で確認していた身としては、その中身に本当にアルコールは全く入っていなかったということはこの場ではっきりと証言しておきたいところ。以降もカーネル・サンダースのモノマネやジミヘンが乗り移ったギターソロなど盛大に掻き回しつつ、最後は「西宮のバンドはな、弦が1本でもライブ出来るんだよ!」と叫びつつギターの弦を5本引き千切ってスタートした“Aflo Cow”。アウトロでGANの住所と電話番号を公開しかける抱腹絶倒のパフォーマンスで締め、ギターウルフにバトンを繋いだ。

 

GASOLINE New album "FUCK YEAH!" 販売促進映像 - YouTube

 

 

 

ギターウルフ 15:45〜

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ついに迎えた正真正銘のラストタイム。有終の美を飾るのはもちろん我らが大将、ギターウルフである。ファズで限界まで歪めたベースが会場を支配する中、今フェスの主催者であるセイジ(Vo.G)が特濃牛乳を飲み干してライブはスタート。緑生い茂る土地に轟くノイズ、爆音、そしてまさしくウルフのようなメンバーたちの絶叫……。心揺さぶられるシーンが幾度も点在するのはギターウルフの真骨頂だが、セイジのボルテージはそれでも足りないようで「もっと激しく!もっと激しく!」とばかりにアンプのボリュームノブを全て最大まで調整。更に勢いを増すノイズに乗せた“野獣バイブレーター”ではGOTZ(B)がベースをコンクリートにぶん投げ、自身もステージから一気に身を投げて地面に叩き付けられる。次いでセイジも同様にギターを投げ、まだ開始5分も立たないながらも早くも替えの楽器にチェンジ。ふと周囲を見渡すとこの日のスタッフ、出演者が全てを忘れて盛り上がっていた。


中でも衝撃をもたらしたのは、切腹ピストルズとの約20分間にも及ぶコラボレーションだろう。ステージに収まり切らない程に埋め尽くされたステージで、セイジは自身の武器であるギターを切腹ピストルズに、また切腹ピストルズは鉦をセイジに渡し、多くのメンバーは思い思いに演奏。大半のメンバーが芝生を転げ回り、演奏技術もチューニングも度外視したその一部始終はもはや狂演と言う他なく、我々の鼓膜には尋常ならざる爆音が凶暴に襲い掛かるのみである。「これこそがロックンロール!」と力強く訴え掛ける思い。それを一身に受けた我々が思うことと言えばたったひとつだけで、心の底から「ロックンロールは最高だ!」と思えたのだ。“ジェットジェネレーション”や“UFOロマンティクス”、そしてアンコールの“ミサイルミー”と“環七フィーバー”も含めて当初の予定より大幅に超過した絶頂の1時間超は、圧倒的な印象を全世界のロッカーに与えたのは間違いないし、最後に「サンキュー島根!また会おう!ロックンロール!」と叫んで息も絶え絶えにステージ袖に倒れ込んだ彼を観て、改めて島根にロックをもたらしてくれたことに深い感謝を抱いた。

 

Guitar Wolf 『環七フィーバー from DVD 「GuitarWolf 69 COMEBACK SPECIAL」 (Official Music Video)』 - YouTube

 

コロナ禍に憂う2年弱の期間は何度思い返しても、特にバンド側と観客側との相互的なレスポンスで熱量を高めるようなロックライブシーン的には厳しいものがあった。ただ数々の憂いの日々は全て、この日のためにあったのではないかと錯覚してしまいそうな程の幸福な時間が『シマネジェットフェス・ヤマタノオロチライジング2021』には確かに流れていた。例年通りの有観客とはいかずとも、全てのロックファンの飢えた心に燃料を入れて火を点けるようなライブ……。家にいながら爆音に心酔するその稀有な体験はきっとインターネットを通して、世界中に大きな衝撃として伝わったことだろうと思う。フェスの主催者であるギターウルフ・セイジ氏はライブ中、心中の感情全てを『ロックンロール!』の一言に凝縮して空に放っていたけれど、そうしたある種何も考えずに裸になれる無骨な音楽こそがロックンロールであると、今一度再認識することが出来た。……ロックンロールの灯は苦境にあっても決して揺らがない。今年の大成功を踏まえて来年こそはあの古墳の丘で、大いなる追い風と共に『最高の爆音』の一身に浴びようではないか。