嗚呼、自分が欲しているのはこれなのだと、コントローラーを握るたびに日々思う。特に最近は「やるゲームもないから」と取り敢えずの妥協案として、SEROAのレースゲームやヒゲのおっさんがぴょいーんと飛ぶ横スクといった代物ばかりプレイしていたけれど、そんな怠惰な日常ももう終わりだ。これからは確固たる目標を持ってゲームをする最高の日々が待っているに違いない。
街を闊歩するゴロツキ共をぶん殴りながら広大な横浜市を駆け巡り、時に涙腺にグッとくるストーリーに涙し、時にサイドストーリーやアミューズメントで現実逃避する……。PS4・PS5にて先日発売された『LOST JUDGEMENT:裁かれざる記憶』は、年少者一切ガン無視の要素を主としたアクションゲーム。主人公は木村拓哉が演じ、他にも玉木宏や中尾彬、光石研といった豪華俳優陣が首を揃える大盤振る舞いのキャストで進行していく。なお今作は『龍が如く』のニューストーリーとして話題を拐った『ジャッジアイズ:死神の遺言』の正当な続編として制作されており、当然ストーリーは前作の理解が100%とは言わないまでもほぼほぼ必要ではあるが、前作とは全く異なるストーリー展開で描かれるため新規ファンも楽しめる一作に仕上がっている。
龍が如くシリーズと言えば、まず思い浮かぶのはその重厚なストーリーだろう。今回のストーリーの肝となるのは、痴漢で逮捕された被告人が裁判長より最終判決を受けるワンシーン。この事件は痴漢発覚後、被害者の女子高生が逃走する加害者を追い詰める一部始終が大勢の見物人のスマートフォン、及び監視カメラに記録されていることから加害者の有罪は決定的と見られ、弁護側も「取り敢えず弁護はするがおそらく有罪だろう」との元で裁判所に駆け付けていた。しかしながら裁判長からの有罪通告後、加害者がそこで語ったのはよもやの新たな犯罪予告であり、物語は『ほぼ有罪だろうと目されていた有名事件』から、急展開を迎えることとなる。以下の公式PVではその場面が丸ごと記録されているが、この時点で「次はどうなるんだ……」と否が応にも先が見たくなってしまう。龍が如くシリーズはこうした手法が実に上手いのだが、特に今作はミステリアスぶりに突出している感がある。
物語が気になるとなれば、プレイヤーが取る行動は通常ひとつしかない。そう。物語をひたすら紐解き、あらゆる事柄を無視してクライマックスに向かうことだ。けれどもその道程を良い意味で阻んでくれるのが先述の寄り道要素の数々で、その中でもメインストーリーとは違うサイドストーリーには思わず足を止めてしまう魅力に溢れているのだからズルい。街を歩いていると基本的には突然「あっ!そこのアナタ!」と声を掛けられて話が始まるのだが、その内容というのも「父を拐ったUFOを見付けてくれ」とか「ダンス部を優勝させて!」とか「タイムカプセルを見付けてほしい」とか、いちいち興味心をくすぐる仕様なのだ。そしてその内容も実に多彩で、例えば「タイムカプセルを見付けてほしい」では実は誰かが偶然それを見付けており、更にその見付けた人は埋めた生徒の初恋の相手。更に更に、その生徒も埋めた生徒のことが好き……つまりは両思いであることが明らかになり10年越しの告白に遷移するというよもやの展開のオンパレード。一見ふざけた内容に見えても、その裏では感動的なエピソードが潜んでいるとなれば、寄り道しない理由がないと言うものだ。
加えて、龍が如くシリーズお馴染みのアミューズメント施設も見逃せない。将棋や麻雀、バッティングセンター、ゲーセン、ダーツ、ドローンレース、すごろく、スケボートリック、花札、ポーカーといった数々の欲求が貴方を待っているのだから。一度足を踏み入れたが最後「もうちょっとだけやろうかな」の気持ちが先行して気付けば1時間経過していた、といった流れもしばしばで、しかもその進行具合によっては新たなサイドストーリーに繋がったりもして余計にメインの話より優先順位が高くなってしまったりもするので、制作者サイドは罪な人たちが揃っているのだと痛感する次第である。
総じて『LOST JUDGEMENT:裁かれざる記憶』はあちらを立てればこちらが立たない時間が幾度となく連続し、それが結果として最悪で最高な時間泥棒として作用している。ただこうしたストーリーと寄り道、どこを取っても楽しいゲーム経験は昨今あまり経験出来ない稀有なものであるとも思うのだ。それこそこうした重厚な展開はアプリゲームではまず不可能だし、昨今ブレークしているオンラインゲームなどの多人数プレイ前提のものではなお難しい。いい歳した大人が自宅で酒を飲みつつ、血と暴言を肴にゆっくりと自分のペースで楽しめるオトコクサイ作品。それこそが今作の何よりの魅力なのだと、ある程度の歳を重ねた今になって思う。
……仕事が終わって帰って来た今日も、メインのストーリーを進めなければならない。加害者は何故新たな事件を告白したのか。弁護側として取らなければいけない方法とは。そして、その事件の裏側に潜む真実とは。様々な思いを交錯させながら横浜を歩いていると、ふと傍に高校があることを思い出した。そうだ。今僕はミス研の外部顧問をしていて今度大事な話があると言っていたし、そういえば最近応援しているダンス部も練習を見て欲しいと言っていた。いやいや、確か好きな子に告白するため手伝ってほしいという生徒もいた気がするし、何なら人体模型が動く様子を見た生徒のことも聞いた。そもそも学校の外では大切な素材もゲット出来るし、そうだ!早く行かねば限定のパンが売り切れてしまう!
……かくして様々に思いを巡らせた結果、僕は今日もゆっくりと学校の中に足を踏み入れた。果たして、クリアはいつになることやら。