キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

俺が望む全てと異形の者

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「ほら!そっち行ったわよ!」

パン、パンという音と共にどこからともなく聞こえるスカーレットの声に心底辟易しながら、俺は道中で入手した高威力ショットガン・SG12を忙しなくリロードしていた。畜生、何だって俺がこんな目に……。確か金庫まで行き着いた時は俺らの生活には光明が見えてた筈だが、あの野郎が得体の知れねえ物体を起動しちまってから、この船の乗客は皆気持ち悪りぃゾンビに変わっちまった。……運良くこの船には武器がいろんなとこに隠されてるってんで、別に今じゃあ人でもねえあいつらを殺るには抵抗はねえんだが、ここまで多勢に無勢じゃあ仕方ねえ。俺は「分かってら!」と叫んで甲板のゾンビをぶっ殺してから、“あいつら”とようやく合流することにした。

てっきり俺と同じ甲板付近にいるもんだと思っていたあいつらは、船の内部にいた。いつ背後からケロイドにやられたような野郎が襲ってくるのか分からねえこの状況だ、誰かが死ねばそこで終わり。しかも居場所が分からねえってんじゃ話にもならねえ。だからこそ極力単独行動はするなと口酸っぱく言ってきたつもりだが、あいつらは生き死にに直面したこの環境でもまだ、自己愛が強い人間らしい。俺はひとつ溜め息を吐くと、同じ船の内部に進んだ。

「何やってるのよ。遅いじゃない」

命からがら生き延びた俺を見るなり、スカーレットは薄情に言い放った。こいつはいつも男勝りで気性が荒れえ。まあどう考えてもボーイフレンドなんざ出来っこねえような奴だが、スタンドアローンの精神だけを見りゃあどうもこうした未曾有の状況には強いらしい。見ると腰には見たこともねえフルオートのICR-7を装備していて、全身は返り血でまみれている。これまでどんな殺戮を繰り広げて船内に辿り着いたのか、想像に難くなかった。全く、どこまでもいけ好かねえ女だ。

しかも気付きゃあ、隣には役に立たねえ老いぼれのスタントンもいやがる。奴は科学の天才だとか何とかでどうもその筋の奴らからは気に入られてるようだが、俺にとっちゃあどうもいけ好かねえ野郎だ。確かに金庫を盗むまで、妙な化学物質で警備のヒョードルの馬鹿を撹乱させたことは間違いなくあいつの功績だろう。だが乗客全員がゾンビになった今、あいつのステータスはゼロに等しい。もちろん人殺しには慣れちゃあいねえし、多分拳銃を持ったこともほとんどねえだろう。その証拠にシリンダーには最初から全員が持ってた小型ピストルしか入ってねえ。これでよくここまで生き延びたもんだと感心するが、そういえばいろんな化学兵器を持ってた手前、そいつを使ってここまで辿り着いた可能性だってある。ともかく、ここでこいつの役割は終わりだ。もしゾンビに囲まれることがありゃあ、こいつを餌にして切り抜けてやる……。

ただ、この場で無駄話をしても仕方ねえ。理由は分からねえが、あのゾンビの野郎共が俺らの居場所をサーチ出来る力があることは検証済みで、このままじゃあどこからともなく永久に追ってくるだろう。なら今俺らがやるべきことはひとつしかない。俺は力任せに船の左部分に備え付けられた扉にタックルすると、取り敢えずの避難場所を探した。もっとも、そんな場所があるとは到底思えねえが。

役人立たねえゴミカス共を連れ、俺たちはすっかり朽ち果てギシギシ音が鳴るおどろおどろしい通路をひた走る。ただ流石は俺様の危険察知と言ったところか。既に通路には大量のゾンビの姿があり、ほぼほぼ退路は絶たれていることが証明されつつあった。となれば俺らが生き残る道は、いよいよこのゾンビ共を一掃する他ないということだ。俺はSG12、スカーレットはICR-7、老いぼれは自前の硝酸爆弾を奴らのグロテスクな顔面にぶち当てながら目的地を目指す。が、やはり物量は全てを凌駕するもので、次第に弾装は危険水域に達し、グレネードを主とした投擲武器に頼ることも増えた。いよいよ、これは、マズい。

「見ろ!あちらに良い武器があるやも知れん」

そんなただでさえ生き死にの最中で踏ん張っているというのに、いきなりそう叫んだのはスタントンの馬鹿だ。奴の指差した先は明らかな暗がりで、確かに粗方船内の武器を探し尽くした俺らにとっては、もしかすると何かの希望になるかもしれねえ。だが暗がりであるということは同時に密室であることも意味する。となれば十中八九ゾンビは隠れているだろうし、もしゾンビがいなかったとしてもその後の逃げ道がない。いくら弾が足りてないとはいえ、そこまでするのは馬鹿のやることだろう。

だが馬鹿のスタントンは俺の思考をするりと裏切った。未曾有の危機に直面した恐怖感からなのか、何か役立たずの案山子なりに尽力したいと考えたからなのか。スタントンは全力で暗がりに向けて走り出しやがった。俺らはもうすぐ訪れるであろう未来を無視するように、スタントンとは逆方向に走った。……やっぱり、馬鹿は最後まで馬鹿のまんまだ。どこか遠くで叫び声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。どうせ明日にもなりゃあ、駅前のバーにフラっと顔を出すに違いない。もっとも、見た目はかなり変わっちまってるかもしれねえが。

グロテスクな野郎共に追い回されながら、スカーレットと船をひた走る。別に生きてようが死んでようが何とも思われねえゴロツキの俺と、雰囲気だけ見りゃあ容姿端麗なスカーレット。……その姿はさながら今殺人鬼に追われてる最中のB級ホラー映画のクライマックスってなあもんで、もしお馴染みの流れに照らすなら結局俺らだけが生き延びて、シャバで男女でくっつくってのがオチだろう。まあ、BGMには銃声と唸り声ばっかりとくりゃあ、ムードもへったくれもねえだろうが。

「お前はよ、もしシャバに出たら何がしてえ?」

切れた息遣いを隠しながら、俺はスカーレットに問うた。別にこいつを女として意識しちゃあいねえが、何か口を回していないと良くない思いに支配される気がしていた。こうしている間も沸き出るゾンビの大群。その勢いは収まるどころか、どんどん数が増えてきている気すらする。おそらくはさっき自爆したスタントンみてえに、俺らはもうじき死ぬだろう。だからこそ悲観的な思いを緩和するようなものを、俺は求めていたのかも知れない。だが先の不安からか饒舌になり、柄にもなく面倒な喋りを展開する俺に反して、スカーレットは至って淡白だった。

「そんなどうでもいい話はここから出た後にしなさい。舌噛むわよ」

……背後からは呻き声。遥か先には、暗黒に照らされた甲板が見える。この先にゾンビがいてもいなくても、俺らのやることはもはやひとつしかねえ。「死んだら殺すわ」と吐き捨てたアイツを横目に見ながら、俺はやけに軽く感じるSG12をまた構えた。

 

Kodaline - All I Want (Part 1) - YouTube