キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

宮本浩次の新曲“sha・la・la・la”を聴いて涙した日

こんばんは、キタガワです。


僕は所謂『夢追い人』と呼ばれる類いの人間だ。その夢の詳細は敢えてこの場で記述することこそ避けるが、貯金や結婚、昇進といった世間一般的に『幸福』にカテゴライズされる物事を犠牲にしてこの数年間、自分なりに人生をかけてやってきたつもりだ。ただ現実は無情であり、特段結果を出せないままここまで年月を重ねてしまった。いつしかかつて思い描いていた夢は年月の経過と共に下方修正を続け、活動当初こそ「絶対に叶えてやる」と初期衝動に任せて奔走していたかつての自分は遥か昔。日々朝から晩まで仕事だ何だとかこつけているうち、ガッチリ固めた信念は気付けばすっかりふやけてしまい、今や「出来れば叶えたいなあ」との自信もない薄ぼんやりとした幻影が、頭の片隅に時折過るのみである。

 

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そんな某日、かねてより個人的に追い続けているアーティスト、宮本浩次の公式ツイッターにて、新曲“sha・la・la・la”を翌日……つまりは午前0時に配信開始される報を偶然目にした。本来であれば新曲が配信された際は直ぐ様聴くことはせず、実際“shining”然り“P.S. I love you”然り何日か後のふとした瞬間に聴くことが多かった。ただ何故だかこの日は日付が変わった瞬間に契約していたサブスクリプションサービスに接続し、一聴した。僅かに歪んだギターが織り成すサウンドが、宮本の歌声が、ダイレクトに鼓膜に突き刺さる。そこから二度、三度、四度、五度……。音、歌声、歌詞の数々をその都度噛み締めるように聴く。いつしか視界は靄がかかったように不鮮明なものになり、そこから溢れた水滴がじわり床を濡らした。

 

umh... いつしか時は流れ大人になった俺が
相も変わらず心で叫び続けている
俺は絶対勝つってよ
夜空には今日も星がまたたいていた


僕が心を強く揺さぶられたのは、大きく2点。そのうちのひとつが上記のフレーズだ。この瞬間、かつて抱いていた若かりし自分の様々な思いがフラッシュバックするのを感じた。「俺は他の人とは違う」と驕り、人と意図的に距離を取ったこと。確たる根拠がないにも関わらず、自信だけは一丁前だったこと。いくら行動を起こしても評価されない現状にやりきれなくなったこと……。実際宮本も、かつて若かりし頃は愚直な活動がなかなか芽が出ず、売上は低迷。最終的にはレコード会社からの契約解除をも経験したことは有名だが、そんなリアルを背負った宮本が描く言葉の数々だからこそ何よりも雄弁に心に訴えかけ、同時に甘ったれた思いを見透かしたかのように、耳が痛い程の確信を突く。


もうひとつは、楽曲全体を鑑みてもあまりに印象的なサビ部分だ。このサビで宮本は《夢は/sha・la・la・la  sha・la・la・la 》とある種濁した表現に徹し、決して「夢は叶う」と励ますでも「夢は叶わない」と突っぱねるでもない、あくまでも意味深な表現でもって含みを持たせている。つまりは全ての行動の責任は自分自身にあり、考えて導き出されたその行為には誰もが肯定も否定もするべきではないし出来ない、というのが宮本の意図するところなのだろう。言わば宮本によるこのフレーズは中立の意見だ。ただ、そのフレーズはこの数年友人らから散々言われた「応援してるよ。頑張って!」との肯定より「いい年齢なんだし現実見たら?」との否定より、強く心を揺さぶられた。


おそらく精神状態が比較的良好な時期に“sha・la・la・la”と出会っていればここまで強く感情移入することはなかっただろうが、奇しくもウダウダと思い悩んでいた時分だからこそ、“sha・la・la・la”は心の深部に刺さった。確かに結果は出なかった。けれど逆に考えれば、結果が出なかったその期間はたった数年しかない。《お前はどこまで夢追いかけるつもりなんだい》……。彼は最後に、そう語りかける。暫くの落涙の後、僕は壊れかけていた心が緩やかに修復していくのを感じた。長年の夢が結実するかは分からないが、どこまでも足掻いてみようと、そう強く思った。


今こそ、高らかに宣言しよう。僕の夢は……。