キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

聴こえているのは

某日。多忙を極めたバイトを終え、僕は軽く一息ついた。……数日間にも及ぶリフレッシュ休暇の後に待ち受ける土日出勤。頭では理解していたつもりではあったものの、やはり絵に書いたような没落の果ての出勤は肉体的にも精神的にも来るものがあり、馬車馬のように働いて気付けば夜。そして改めて思う。僕は再び舞い戻ってしまったのだ。あれほど嫌悪していた労働地獄に。

項垂れながら帰路に着く僕を察してのことだろうか。ふと暗闇をスマホのライトが照らした。ラインに1件表示されたメッセージを開くとそれは地元に数日前に帰省した友人からで、要約すると「所用が全部終わったので飯でも行かない?」とのことだった。一瞬今月に設定した個人的な執筆ノルマが脳裏を過ったが「どうせこの疲弊し尽くした状態では何も手に付かないだろう」と判断した僕は、数秒迷った結果ふたつ返事で申し出を了承し、一転、急いで帰路に着いた。

帰宅すると、僕は取り敢えず道中で買ったビールのプルタブを空け、一気に喉に流し込んだ。僕は車の運転が物理的に出来ないため、彼から晩飯の誘いがある際はどこかの『飯屋』に彼が車で送る、というのがここ数年の通例だった。それすなわち、今の僕には酒を飲む免罪符が出来た訳だ。すると暫くして友人からまたもメッセージ。「そばにいるよ」。スマホの文面を見て、僕は瞬時に意図を察した。すかさず重い扉を空けると、そこにはやはりと言うべきか、暗がりの中スマホを見詰める友人の姿があった。「青山テルマのストーカーみたいなこと書くな」と突っ込む僕に対し、彼は屈託のない笑顔で笑った。こいつは昔から何ら変わらない。

先程空けたビール片手に近くに停車していた友人の車に乗り込むと、そこにはもうひとり、同じく小学校時代から付き合いの長い友人もいた。よもやの同級生集合である。必然、車内の会話は白熱し、連想ゲームよろしく最近買ったゲームの内容から日々の仕事、友人の結婚生活の様子へと様々飛び火。それぞれの頭をぐしゃぐしゃに掻き乱す行動に及んだところで、車は目的地へ到着した。

そこはよもやの居酒屋で、反射的に「さっき1本飲んじょーがん俺」と叫んだ僕に対し、友人はにべもなかった。ともあれここは万が一の可能性に備えてのマスク飲みでもって、ひとつの折衷案とする(なお断っておくが、この一連のストーリーは一部フィクションである)。

以降は各自、思い出話に華を咲かせたことはもはや言うまでもないだろう。ただ朧気な記憶を辿っても入店後の僕はと言えば、激務の疲れやら乗車前に飲んだビールやら道中の車酔いやらでしたたかに酔っていて、李白の熱燗一合を飲み干す頃にはすっかり出来上がってしまっていた。少しばかりの意識の混濁を察し、直ぐ様チェイサーで中和を試みる。思えばこうした半ばふざけた飲み会からは足が長らく遠退いている気がするが、やはり信頼のおける人間との飲みはコミュニケーションツールとして、絶対的に必要なのだろうなと思った。

店を出て、夜風に当たる。強めのアルコールが起因してか想像以上に体に響く。ふと横を見ると、友人ふたりが平然とスマホのアプリを楽しんでいた。見かねたひとりの友人が僕にスマホを渡す。彼曰く、今回の期間限定ガチャは☆5レアキャラクターの出現確率は0.1%であるとのこと。「もしキタガワが当てたら、俺にジュース奢ってごせ」と彼は言った。外れろ、外れろと心底願いながら、謎の黄金竜の口元をスワイプすると、出てきたのは異様な光彩で『激レア!!』と書かれたキャラクターだった。「うわー!これ0.1%のキャラだがん!ありがてえー!」と叫ぶ友人。嘆く僕。こうして最低で最高な1日はまたひとつ過ぎていく。

 

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