キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

ハッピーエンドじゃなかったのか

今日も1日が終わる。物流的な繁忙期である関係上、残業に次ぐ残業で体が悲鳴を上げていることに加え、上からはやれ新人教育をしっかりしろだの業務ルールを守れだのと最近は粘着質な詰問の連続で、いつしか僕の精神はすっかり限界値に達してしまった。何かを成す気力さえ沸かず、ぼうっと過ごすこと早数時間、気付けば起動しっぱなしになっていたニンテンドースイッチにひとつの通知が到来した。僕は時計の針が0を指した瞬間、即座にそれをインターネットで引き落とした。……偶然にも明日は休日。クソッタレな生活を変えるには、もうこれしかないと思った。

 

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ニンテンドースイッチにて去る3月26日に発売された『モンスターハンターライズ』。肉体的にも精神的にも疲弊し尽くした僕にとっての、唯一の良薬だ。完全新作と銘打たれていることからも分かる通り、確かに過去作で必要不可欠な代物として位置付けられていたアイテム群の廃止や、痒いところに手が届く以上に過保護な感も否めないニュー・システムなど様々な変更点も見受けられる今作だが、大きな剣……もとい『大剣』と名付けられたその武器でバッサバッサと薙ぎ倒していくゲームメイクはやはり爽快であり、その純粋な面白さも当然ながら、ある種の懐かしささえ感じてしまう。

すっかり大人になってしまった我々は「昔は楽しかった」と時たま学生時代を回顧する。例えばモンハンひとつ抜き出して考えても、連日友人宅でプレイに興じ、入手確率僅か数パーセントの希少素材である天鱗を求めて幾度も同じモンスターを屠り去り、それだけでは飽きたらず、少しでも差を埋めんとする友人の中には授業中にシャープペンシルを剣に持ち替え、教師の目を盗んで狩猟実習を受ける者もかつては少なくなかった。『ゲームは単なる娯楽』と一蹴してしまえばそれまでだが、汗きらめくスポーツとも黄色い声飛び交う女性関係とも全くの無縁だった我々にとって、モンハンは当時紛れもなく青春の象徴だったのだ。

しかしながらあれから何年もの時を経て、当時モンスターの素材がああだこうだと捲し立てていた我々は、気付けばめっきりゲームから離れていった。それは結婚等で慢性的な時間不足にあえぐ友人らは半ば当然として、かつて『ゲーム天才』と持て囃されていた僕も同様で、まさかここまでゲームをプレイしなくなるとは思いもよらなかった、というのが正直なところである。ただ朝から晩まで仕事に忙殺され希死念慮に苛まれる現在だからこそ、僕は思ったのだ。久々にゲームに没入する瞬間が必要だと。その手段を得るに最も適しているものこそ、かつて寝食を度外視し熱中を決め込んだモンハン以外にないのだと。

……という長々とした経緯を語ったところで、閑話休題。とにかく僕は様々なバックボーンの果てに、遂に念願のモンハンを入手した。しかしながらプレイ中の僕の心中には予想に反し、然程興奮は感じられなかった。確かに非常に面白いゲームであるのは間違いないし、新たに追加されたシステムも絶妙にマッチしている。ただコントローラーを触った瞬間に天高く咆哮してしまうようなあの頃の驚きはなく、これは僕が歳を取り過ぎたために引き起こされた懐古主義的な思いからなのか、それとも実は心の奥底では違和感が残っているためなのか、未だ掴めかねないでいた。

ただ少なくともこの心のフラットな感覚を鑑みるに、僕がこのゲームを心から楽しんでいないという事実は垂直に立っているようでもあり、コロナ以後精神的にダウナーな状態に陥り、此度のモンハンに何よりも代え難い『興奮』という一握の望みを託していた身としては寂しさもあって、必然僕の心にはふと非人間的な思いが浮かぶ。「もしかすると僕の心は既に限界まで冷め切ってしまっていて、今後何かに心を揺さぶられる事自体ないのかもしれない」と。

強めのアルコールをチビチビ飲みつつ、僕は取り敢えずプレイを続けることにした。やはりどれだけクエストを進めても、心に微々たる衝撃すらもたらされない。新モンスター?何か弱いなあ。新武器?別に無属性なら何でも良いか。新エリア?広すぎて難しい……。目に映る全てを斜めに見る持って産まれた劣性スキルはこと強い目的を基盤に購入したゲームには特に発動してしまうようで、然程楽しさも抱かないまま無気力にクエストを消化していく。それこそかつては上記の新モンスターや新エリアを見ると心が踊ったものだが、あれから数年が経過した今では至って平常心で、次第に世間一般的な『普通』から阻害された感覚を感じていた。

粗方の初期クエストを消化した後、僕は改めて冷静に現状を捉えた。やはりどれだけプレイしても、感動は極めて薄い。画面にはいつしか総プレイ時間が表示されており、僕の目は自然に画面へと注がれた。「どれどれ、この微妙なゲームのプレイ時間はいかほどか」と半ば冷やかし程度に見詰めたその画面には予想に反し、通常ではあり得ない密度の時間が表示されていた。

この日5本目のアルコールを空け、僕ははっと思い返す。そういえばリオレイアの装備を作成するためには天鱗が足りなかった気がする……。僕は所持アイテムを整理し、レイアマラソンを幾度も繰り返した。気付けば外には太陽が顔を出しており、ブラインドの隙間からぽっかり空いた空は「だから言ったじゃん」と僕を諭した。微妙な傑作、モンハンライズの購入。それは何より僕が避けなければならない、悪魔の囁きだったのだ。

 

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