キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

【後編】爆速で終わるロックバンドの曲15選

こんばんは、キタガワです。


前編中編に渡って記述してきた『爆速で終わるロックバンドの曲15選』。今回は遂に最終回となる後編をお届けする。後編では誰もが知るあの重鎮バンドや、世界に否定を突き付けるガールズバンド、今やフェスに引っ張りだこのホープまで、幅広い全5組を紹介していく。世界中どこを見ても極めて母数の少ないファストチューンの真髄を、前中編と合わせてどうか目と耳に焼き付けてもらいたい。つまらない人生に辟易した時、己の不甲斐なさに落ち込んだ時、気分を底上げしたい時……。今回取り上げた楽曲群は、必ずや貴方の日常のワンシーンに溶け込むことだろう。

 

 

生理/日本マドンナ(1分33秒)

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クソッタレな世間に鋭く切り込むガールズパンクバンド・日本マドンナ。ことパンクバンドと言えばどしゃめしゃなサウンドを牽引するその音楽性であるが、日本マドンナは初期曲“幸せカップルファッキンシット”や“村上春樹つまらない”、そして解散を経てドロップされた“社会の奴隷”など、日本の音楽シーン全体を通しても誰もつまびらかにしてこなかった……否、語ることを意識的に恐れてきた穿った心情を吐き出す点こそ、大きな特徴のひとつだ。


以下の楽曲では、性別上決して逃れられない月に一度訪れ長らく尾を引く地獄の苦しみをこれでもかというリアルで落とし込んでいる。中でも後半部の《女はいつでも 男に散々負けてきた/でもこんな生理があるうちは 負ける気がしないわ》との絶叫にも似た一幕は女性として生を受けたこと、また現実的に大衆受けするロックバンドがほぼほぼメンズバンド一強となってしまっている現代の恨み節とも、強い決意表明とも取れる。


前述の通り、日本マドンナは2013年に解散を宣言するも、それから後2016年には再結成へと至っている。おそらくその間の日本マドンナは社会の一員として何らかの企業に属し、ある種音楽と切り離した生活を送っていたことと推察するが、結果バンドは甦った。後にリリースされたミニアルバム『ファックフォーエバー』では圧倒的に目線が社会に向いていることからも、やはり彼女たちにとって混じり気のない『白』でいることを半ば強要される社会生活は極めてストレスフルなものであったのだろう。当時高校生にして脚光を浴びた日本マドンナは様々な人生経験を経た現在、高校生時代と不変のパンクサウンドへと回帰した。彼女たちは今もどこかのライブハウスで泥臭く、真っ白な世間へ『NO』を突きつけている。

 


日本マドンナ「生理」

 

 

アンドレア/ザ・ビートモーターズ(1分52秒)

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直情的なロックバンド、ザ・ビートモーターズ。ロック然としたサウンドに乗せて内に秘めた衝動を愚直なサウンドで具現化する3人組である。そんな彼らの記念すべきファーストアルバム『素晴らしいね』のオープナーとして冠されている楽曲こそ、今回取り上げる“アンドレア”である。


短い楽曲となるとサウンド的な主張はとにかくとして、短い尺のドラマやアニメでその全ての伏線を回収することが不可能なように、楽曲も簡素な内容に徹し、全体像を明確にしない場合がほとんどだ。ザ・ビートモーターズの“アンドレア”も例に漏れず、坂を駆け登る女性とそれを眺める人物、更には何かをきっかけとして自殺願望を抱く男という荒唐無稽な内容となっている。そうした果てに歌われるのも《アンドレア 君はきっと/「水を挿さないで」って言うだろう》というこれまた曖昧模糊な世界だ。何故登場人物は坂を登り下りするのか。何故アンドレアは水を拒むのか。そもそもアンドレアとは何なのか……。様々な疑問は一切の解を得られないまま楽曲は気付けば始まり、気付けば終わっていく。ただ耳馴染みの良いサウンドとボーカルだけは何よりの印象部として残っていて、その歌詞の不可思議さに思考を傾けること自体、次第にどうでも良くなる魅力を携えている。


現在は主要な音源リリースはサブスクリプションに移し、マイペースながらも活動を行っている彼ら。秋葉正志(Vo.Gt)によるソロ活動も本格化し、ザ・ビートモーターズもその歩みを止めることなくワンマンライブの開催も決定。流行のあおりを受け、昨今はロックバンドにも何かと多様性やネットバズを求められる時代になったが、良い意味で不変な活動を続けるザ・ビートモーターズは格好良く、逞しくもある。『是非とも売れる曲を!』とは言うまい。今後も彼らなりのペースで、彼らなりの方法で音楽を掻き鳴らしてほしいと願うばかりである。

 


ザ・ビートモーターズ / アンドレア 【CD音源】

 

 

chili pepper japones/くるり(1分19秒)

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言わずと知れたロックの重鎮、くるり。毎年欠かさず予想を超える作風の新作をリリースし、日本の音楽シーンを牽引する存在となっていることは周知の通りだが、そんな彼らの中でも最短、最速BPMとの呼び声も高い1曲こそ、フルアルバム『坩堝の電圧(読み:るつぼのぼるつ)』に収録されている“chili pepper japones”だ。


歌われる内容はズバリ刺激的な香辛料たる山椒で、身も蓋もない表現をしてしまえば『山椒は美味い』といいう岸田繁(Vo.Gt)の持論を体現しているに過ぎない。ただ先日公開されたフルMVと合わせて観ることで、“chili pepper japones”は極めて強いエンタメ性を含んでいることが分かる。このMVの出演者のオーバーなリアクションにうっすらと見覚えのある人も少なくないだろうが、この楽曲はテレビ番組『タモリ倶楽部』における空耳アワー(英語が日本語に聴こえてしまう楽曲を集めたワンコーナー)のオマージュであり、出演者は全員空耳アワーの再現VTRに出演するバイプレイヤーたち。そして一聴しただけでは何を歌っているか理解不能なその矢継ぎ早に繰り出される歌詞も、確かに『日本語なのに英語で聴こえる』という空耳アワー的要素がある。昨今のくるりは特に“Tokyo OP”然り“益荒男さん”然り、アルバム内に何かしらの自由奔放な楽曲を組み込む傾向にあるが、今作が収録された『坩堝の電圧』におけるネタ曲は間違いなく“chili pepper japones”である。


来たる4月28日には“天才の愛”なるフルアルバムのリリースを発表したくるり。現時点で発表されているのは曲名のみだが、前述の既発曲“益荒男さん”をはじめ“大阪万博”や“watituti”、“ぷしゅ”といった気になるタイトルの楽曲群にも期待が高まるところ。様々な思いを巡らせながら、その日を座して待ちたい。

 


くるり - chili pepper japonés

 

 

ファイト!!/ハルカミライ(0分57秒)

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エネルギッシュなライブで観る者を一瞬にして引き込むロックのホープ・ハルカミライ。彼らのライブでほぼ必ず演奏され、時には1度の公演中に複数回鳴らされるという珠玉の1曲こそ、性急なファストチューン“ファイト!!”。


放たれるのは《あいつのことなら俺が/ぶっ飛ばしといてやるから/ぶっ飛ばしといてやるから/気にしてるんなよ》との絶唱から幕を開ける、力強い鼓舞的メッセージだ。「ストレートなパンクソング」と言ってしまえばそれまでだが、橋本学(Vo)の歌声と楽器隊のサウンドが渾然一体となったとき、“ファイト!!”は聴く者の耳に訴え掛ける何よりも強い外部的要因となる。今記事における全15組にも及ぶバンドの中でも、取り分けライブの比重が大きいハルカミライ。無論彼らがここまでの知名度を獲得した背景にはそうした無骨な活動があってのことで、実際未曾有のコロナ禍にあっても精力的に全国ツアーを回り、ライブバンドとしての質を高め続けていることからも、彼らにとってライブは音源を肉体的に魅せる場以上に、ある種の生き甲斐なのだろう。


“ファイト!!”はハルカミライのライブで決まってセットリスト入りを果たす代表的なナンバーのひとつだけれど、世間へのメッセージたる“世界を終わらせて”や希望的な未来を希求する“カントリーロード”とも違う、『頑張れ』『生きろ』とのメッセージを力付くでぶつけていることからも、ストレートにハルカミライらしいがむしゃらさを体現している点で評価が高い。コロナウイルスが徐々に収束に向かっているということは、彼らの次なるアクションはひとつ。そのとききっと抑圧から解放された日常に落とされる“ファイト!!”は、更に多数のファンの涙腺を緩ませることだろう。

 


ハルカミライ - ファイト!! (Official Video)

 

 

花瓶のうた/ズーカラデル(1分25秒)

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ラストを飾るのはズーカラデルの“花瓶のうた”。彼らにとっては初の全国流通版のファーストアルバム収録曲であり、当時は全国ツアーで幾度もライブの幕開けを飾ってきた珠玉の1曲だ。


開口一番に放たれるのは『しばれた』との北海道出身の彼ららしいワード。以降はギアを瞬時に切り替えて突き進むロックサウンドが鼓膜を揺らす。こと1分少々の楽曲では出音から爆発的に鳴らすサウンドがセオリーとされている中、彼らは冒頭からの約30秒にあくまで助走としての役割を込めている点も面白い。以降叙情的な歌声とクリーンな音像で織り成される約1分間の絶頂は、世間一般的なイメージのロックバンドとはまた違う。夕焼けにも似た照明も作用してか、誰しもを優しく包み込む包容力さえ感じさせる代物だ。ロックバンド期待の新星としてズーカラデルが注目されるようになったのはごく最近だけれど、やはりライブバンドというよりは楽曲そのものの強みが伝播を重ね、大衆に浸透していったためであろうと推察する。


昨年、遂に念願だったメジャーデビューを果たしたズーカラデル。《窓辺に置いた花を枯らした/歌うよ 意味ないけど》とは“花瓶のうた”の締め括りとなる一節だが、いつしか彼らの歌は意味を持ち、大輪の花を咲かせていた。多数のミニアルバムを発売している中、未だセットリストの多くを占めているのはファーストアルバム『ズーカラデル』から。そして唯一の短い楽曲たる“花瓶の花”のドロップは瞬時にフロアを沸かす力を担っており、いつしか屈指のライブアンセムとなりつつある。北海道からの最強の刺客、ズーカラデル。ふとした瞬間に刺される前に、まずは出会うことから始めてみては。

 


ズーカラデル "花瓶のうた" (Official Music Video)

 

 

……さて、いかがだっただろうか。爆速で終わるロックバンドの楽曲群の世界。


暗黙の了解として、これを過ぎると冗長、これより短ければやや性急とされる音楽の平均時間は長年に渡って約3分半とされている。イギリスのデイリー・メール紙の記事によれば「最近のリスナーはイントロが5秒以上続く曲は曲の良し悪しにかかわらず、すぐスキップして次の曲に移行する傾向がある」との研究結果が示されているが、この記事は約4年前のものであるため、当時以上にストリーミングの普及が活発化した現在では、更に拍車が掛かっていることだろう。故に今回紹介した2分以内で駆け抜けるファストチューンはその実、理にかなっているのでは、とも思う部分もある。スピーディーな楽曲が必ずしも良いとは言わないまでも、スピーディーさを取り入れることで意義を強めていく楽曲というのもやはり、存在するのではないか。


例えば紅白歌合戦披露曲としてお茶の間に広く流れたSuchmosの“VOLT-AGE”は7分を超える楽曲であるし、海外に目を向ければ現状約2000万再生を記録しているThe Offspringの“All I Want”は2分未満。つまりは何をもってして『素晴らしい曲』とするのかは様々で、最終判断を下すのは結局のところ個々人における嗜好なのだ。今回の記事が誰しもの心に刺さる代物であるとは到底思えないけれど、邦楽バンドのファストチューンに少しでも興味を抱くその一因としては十二分。であるからこそ、欲を言えば様々なアーティストの楽曲を一聴してもらいたいし、中でも気になったアーティストには更に深く足を踏み入れてほしいと、切に願う。音楽の世界は貴方が思うより、ずっと広いのだ。