キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

映画『ヤクザと家族 The Family』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


思えば様々な経験を積んだ今は「昔は親のこと嫌ってたなあ」と物思いに耽ることこそあれ、子供時代の我々の大半は親の一挙手一投足に辟易し、心中での反抗があった。例えば「産まれて来なければ良かった」との言葉はいつの時代も親を激怒させるトップワードであるけれど、非人道的な考えをしてしまえば、確かにこの世に産み落とされたのは親の自己都合によるものである、との考えに誤りはない。実際、自動相談所が調査したデータ結果ひとつ取っても、親への某かの反抗を心中に抱きつつ日々を生きている子供が多数を占めるという。


深い愛情を込めて、或いは身勝手に産み出されたひとつの命。ただ同様に、家族が自身に及ぼした枷は一生憑き纏い、あらゆる嘲笑と侮蔑の的となる。もし親が多大な借金を膨らませていたら?もし親が元窃盗の常習犯だったら?……そしてもしも親がヤクザだったら、その子供はどのような人生を歩むのだろうか。

 

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今回観賞した映画『ヤクザと家族 The Family』はタイトルの通り、ヤクザと家族の誓いを交わした主人公・山本賢治(綾野剛)の人生をつまびらかにする作品となっていて、ヤクザと父子の契りを結んだ1999年の出来事に始まり、以降は2005年における人間的なエピソードと、それから遥か未来の2019年に巻き起こる衝撃的な展開が胸震わせる、一般的なヤクザ映画とは一風変わったヒューマンドラマである。


ネタバレなしで綴ることは極めて難しいが、今作では『家族』の一組織とそれを取り巻く環境の変化が常に視覚化され、「自分だったらどうするだろう」という答えのない自問自答が駆け巡る。例えば先程記したような『○○君の親がヤクザだったら』という問題に関して言えば、おそらく我々の行動は『気にせず関わりを続ける』か『距離を置く』かのふたつに絞られるだろう。ただ考えてみてほしいのだけれど、こと『現代社会』全体に目を向けた場合のアクションとしては間違いなく後者寄りなのだ。危険性のある人物には近寄らない。何かが起こったら困る。との『もしも』の可能性は、時として人を悪魔に変貌させる。たとえその人物がイジメや空腹に苦しんでいても、おそらく人々は彼を助けない。その理由は「親がヤクザだから」……。更にそうした個々人における見捨てる勇気に拍車をかけるのが現代社会におけるSNSの普及で、鬱屈さが肥大を重ねてしまう一幕には、誰もが心を鷲掴みにされるような面持ちになると同時に「ちょっと分かる」とも思えてしまう。それがこの映画の最大のミソである。


中でも助走に次ぐ助走で期待値をぐんぐん底上げした果てに訪れる後半部分には心底脱帽した。そしてその全てにストーリー上の無理がない。前半部分のたったワンシーンでも抜けていれば、絶対にここまで驚きの展開は描けなかったろう。特にラストの展開は千差万別で、監督がこの映画で何を描きたかったのか、という点に関しては大いに激論が交わされて然るべしであろうとも思うが、あらゆる感想が飛び交う作品こそ、名作足り得るのではないか。


個人的には早くも今年ナンバーワンの面白さ。星数としては下記の通りだが、極めて星5に近い星4といったところ。制作総指揮を執ったのは昨年『新聞記者』で日本アカデミー賞を受賞した藤井道人監督であるが、やはり藤井氏は言語以上に表情の変化で思いを伝える日本的な感情表現に長けているなと、改めて感じた。来年のアカデミー賞、現時点での最有力候補はこの作品である。


ストーリー★★★★★
コメディー★★☆☆☆
配役★★★★☆
感動★★★★☆
エンターテインメント★★★★☆

総合評価★★★★☆

 


綾野剛&舘ひろし『ヤクザと家族 The Family』本予告