こんばんは、キタガワです。
「なんも言ってねえんだよ!どこもよー!バンドなんていろいろ言うけど、結局何も言ってねえんだよ!おんなじだ!全員同じ人間だバカ!」……。バンドのフロントマンであるりょーめー(Vo.Gt)はアンコールの最後に、高らかに絶叫した。コロナウイルスや自粛生活など、ここ数ヵ月で世界中のあらゆるミュージシャンが発信してきたであろう悲観的な事象について、彼らは今回のライブで一切触れることはなかった。エネルギッシュな熱量が怒濤の勢いで押し寄せ会場全体を掻き回す、未曾有の状況を一時でも意識の埒外に追いやるが如くのライブがそこにはあった。
今回のタイトルに冠されている『月刊爆弾ジョニー 10周年SP』とは、4月から7月にかけて爆弾ジョニーがその都度ゲストを招いて新宿Red Clothにて行われる予定だったライブイベントである。そして今回のライブは企画していた上記のイベントが全てオンライン公演、もしくは公演延期か中止となった現状を受け急遽決定したもの。そのため本来であればソールドアウト必至であったであろう今回のライブは完全な無観客ではないまでも20人限定の完全抽選制で、更にはリアムタイムに繰り広げられるその映像をカメラに収め、オンライン上で配信する形だ。
定刻を過ぎると、『紅布』との看板が背後に掲げられる印象的なレッドクロスのステージ上にひとり、またひとりとメンバーが入場。前に数十人の観客が等間隔で座っているというある種緊張感のある場面を目の当たりにしたロマンチック☆安田(Key.Gt)が「やべえ……オーディションだ」と思わず呟くと、メンバー各々のチューニングの果てにライブは現状YouTubeにて公開された自主MVでのみ聴くことが可能な楽曲“緑”で幕を開けた。バンドメンバーは地に足着いた丁寧な演奏に終止し、ステージの中心でギターを弾き鳴らすりょーめーは基本的には虚空を見つめ、時折目を瞑りながら清らかな歌声を響かせていく。“緑”は爽やかな中にもバンド然とした勢いを纏ったポップロックナンバーであるが、このミドルテンポなアンサンブルでもって、会場は少しずつ温められていく。
“緑”をオープナーに演奏したことである種緩やかに進行するかと思いきや、その後は一転、かねてよりのライブアンセムをこれでもかと詰め込んだアッパーチューンの連続だ。2曲目に選ばれたのは彼らの代表曲“なぁ~んにも”で、言うまでもなく会場全体の熱量を一気に上昇させていく。恋と愛、セックスを知った故に愛という存在を忘れてしまうという人間の悲しき成長を描くこの楽曲を、りょーめーは集まった観客の目を見ながら真摯に届けていき、サビ前には「だけど嬉しい気持ち、そういうものは、分かち合う時に分かち合っておこうやー!」と絶叫。ラスト《なぁ~んにもないじゃないか~》との本来の歌詞とは全く真逆の「何もある!何もある!」とのフレーズを繰り返し、ギターを幾度も頭上から振り下ろしながら弾くりょーめーの姿には、強い魂が宿っていた。
続く“ケンキョニオラツケ!”からは、りょーめーのハイテンションな言動と、それに逐一振り回されるメンバーたちの対比が笑いを誘う。爆弾ジョニー自ら「遠藤章造のパクり」と公言している「ホホホイしようぜホホホイのホイ」の振り付けを現在進行形で観客に指導中の安田を指して、りょーめーは「すっごい歯茎見えてるでしょーこれー」と徹底的に弄り倒し、更には原曲を完全に無視した誇張に誇張を重ねた裏声+情緒不安定な歌唱に徹し、果ては本来自身が歌う場面であるにも関わらず足元に転がったドリンクをテーブルに戻して「そんなとこ置いたら危ないぞ!」とメンバーを戒める。本来自身が歌う場面であるにも関わらず歌わないこともざらで、もはや制御不可能なレベルの自由奔放っぷり。
爆弾ジョニー 『唯一人(tadahitori)[Music Clip]』
りょーめーの暴走状態は次に披露されたテレビアニメ『ピンポン』のオープニングテーマとしてお茶の間に広く響き渡った”唯一人“においても留まることはなく、歌い出しの時点からビートたけしともテノール歌手ともつかない過剰な身ぶり手振りと野太い声で進行し、楽曲の合間には「気持ちいいことがしてえだけなんだろー!?どうなんだよお!」とカメラの奥で楽しむファンに向かって問い詰める一幕も。後半部では安田の首に掛けられたクロスダイヤを手に取り「これは十字架です。はい」と弄り、後方で演奏する小堀ファイヤー(B)をおもむろに捕まえると、胸に大量に貼り付けられた日高屋のライス大盛り無料券について詰問。そうしたりょーめーの荒唐無稽なライブパフォーマンスは、数分後に訪れる本格的なMCに突入するまで続いたのだった。
MCに突入すると「配信観てる人はあんまり状況が分かんないかもしれないけど、今日は20人ぐらいのお客さんを入れてやっています。そして僕が見たところ、20人の中で多分男が2人……?あ、男3人。20人ぐらいの中で男3人で女の子17人って感じ何か覚えあるなと思って、さっき分かった。吹奏楽部っぽい」と語る安田に対し、「多分その来てる男3人はメンバーの誰かのことが好きなホモの方っていう……」と盛大にボケるりょーめー。新宿レッドクロスはこの日が開店記念日、かつ17周年。故に逆算すると爆弾ジョニーが全員10歳の頃からレッドクロスが居を構えているということから、次第に話は脱線し、気付けば10歳(小学4年生)の頃の思い出話に花を咲かせていた。けれども学校生活の思い出を口々に語る吐露するメンバーをよそに、りょーめーは「俺小4の記憶ないんだよね。小3の最後に万引きして怒られてウンチ漏らして、そこからの記憶が小5に飛んでる」という予想外の展開から、最終的には仲の良かった友人が母親に「りょーめー君と遊んじゃいけないからね!」と叱られた末に友人関係の解消をやんわり諭された苦い経験を語り、そのあまりの悲壮な展開にトークは強制終了。
爆弾ジョニー 『終わりなき午後の冒険者 (Music Clip)』
今回のライブは前半はワンマンライブ等でほぼ欠かさずライブアンセムを惜しげもなく投下し、後半以降は2017年にリリースされたEP『BAKUDANIUS』と『クレイジービートラリアット』の楽曲群、更には1年以上前のライブで無料配布された音源や未発表音源も取り入れた良い意味でどっち付かずなセットリストで構成。そんな中りょーめーはその都度楽曲の主たる部分こそ真面目。しかしながら前述の通り、間奏や自身のパートはアドリブ満載で、本来然程時間を割かないMCに至ってはメンバーを巻き込んでの掴み所のないボケを連発し、それに安田がやむを得ず突っ込み、気を良くしたりょーめーが再度ボケるという無限構造が出来上がったことで、最終的にMCの時間がかなり長くなったのも前半部分の特徴だった。
中盤以降の盛り上がりも凄まじい。サビの合図で一斉にクラッカーが鳴らされた“おかしな2人”や、宇宙から来た転校生に対して性的行為を夢想する“キミハキミドリ”と続き、“ステキ世界”の後には「ふざけてたら(マイクに)歯ぶつけた」と語ったりょーめーが《ニュージーランドはどこにあるの?》、《ニュージーランドはどこの国なの?》とのギター1本で“ニュージーランドはどこの国”なる即興楽曲を披露。「いきなり新しい曲作って急にやらないで」と突っ込む安田の表情には少しばかりの疲れも見えたが、おそらくりょーめーとメンバー間でこうしたやり取りは日常茶飯事なのだろう。ちなみにこの“ニュージーランドはどこの国”なる即興ソングはその後歌詞を変化させつつ、りょーめーの気の向くままにあらゆる場面で披露されることとなるのだが、詳しくは割愛。
“ララララ”前には大事なお知らせとして、9月23日に事務所を独立して初となる自身3枚目のフルアルバム『H1OPE(ホープ)』がリリースされることを発表した爆弾ジョニー。安田曰くこのアルバムは本来様々な作業を他者に依頼するところを、メンバー自身が楽曲制作からミックス作業までを手がけた所謂『ホームメイド』な作品であるらしいが、その収録曲やジャケットの説明を挟もうとした瞬間にHOME MADE 家族の代表曲を口ずさみ、果ては《夜中にいきなりさ いつ空いてるのってLINE》と瑛人の“香水”を弾き語りでプレイする形でりょーめーの横槍が入り、完全にアルバムの説明を諦めた安田は観客に「“香水”歌ってるのはエイジなの?エイジンなの?」と観客に問うて大爆笑を引き起こす。もうめちゃくちゃである。
その後は激しい中にも切なさを秘める、爆弾ジョニーきってのミドルチューンの連発だ。この中にはライブで演奏することが極端に少ない楽曲もあれば、現状視聴すること自体が不可能なために存在自体が知られていない楽曲も一定数盛り込まれていたのだが、一瞬たりとも高揚感が途切れることはない。りょーめーがライブの途中で、コロナウイルス対策により様々な制限を課せられる観客に対して「俺らは良いよね。狂っても許されるから。みんなの分も狂うよ」と語っていたけれど、久方ぶりのライブの興奮を我々に強く訴えかけるようでもあった。
ファンに対して等身大の感謝を綴った“かなしみのない場所へ”でもって大合唱を形成すると、ラストはりょーめーがポエトリーリーディングの如き性急さで捲し立てる“ユメノウタ”で〆。“ユメノウタ”は基本的には普段彼が話す声とほぼ同じトーンで進行するため、ハンドマイクで歌い続けるりょーめーによるその歌詞は楽器隊の爆音に掻き消され、ほとんど聞き取れない。しかしながらりょーめーはそんなことはおかまいなしといった風に時に背筋を曲げ、時に指揮者を彷彿とさせるファニーな動きを繰り出しながら、歌声とも一人言ともつかないそれを吐き出し続ける。アウトロでは彼が逆立ちの末に地面に倒れて寝転がりながらマイクを話さず歌い、ギターとベース、キーボード、ドラムが生み出すノイジーな轟音に呑まれながら、メンバーはステージを颯爽と去っていった。
アンコールはなんと、先程発表されたニューアルバム『H1OPE』に収録されている新曲と未発表曲の固め打ちだ。まずは「みんな何しに来たの今日は?爆弾ジョニーのライブ観に来たのか!そうかー。残念ながらね、爆弾ジョニーはもういないんですねえ」との理解不能な開幕から、爆弾ジョニーとは異なるヒップホップユニット・その名も『あしあとJAPAN』に扮したメンバーが演奏を放棄して舌戦を繰り広げる支離滅裂なラップ曲“あしあとJAPAN”に移行。楽曲が終われば「あの……あしあとJAPAN、もう1曲あるんですよ。“ニュージーランドはどこの国”っていう……」と、“ニュージーランドはどこの国”があしあとJAPANの楽曲だったというまさかのオチが挟まれこの日一番の爆笑をかっさらうと、今回の冒頭に披露された2014年発売のシングル“終わりなき午後の冒険者”のボーナストラックに位置していた“ガンぎまりサマ→デイズ”を再構築してタイトルを変更したその名も“ガンギマリサマーデイズ”、ラストはりょーめーの個人ツイッターにDMし直接彼の口座に振り込むことで得ることが出来るデモ音源に収録されたソロ曲“サンデーモーニング”をバンド編成で披露し、アウトロで全員が着席しているにも関わらず「せーのって言ったらみんな体育座りしてください」とのりょーめーの無茶振りで終了。
これで終わりかと思いきや、客電はまだ点かない。そう。よもやのダブルアンコールである。無音の空間のステージに歩み出たのは、バンドきってのエンタメ要因のひとりであるタイチサンダー(Dr)その人であり「今もってぃ(自身のニックネーム)オンステージってことよね?まあ……しばらくひとりステージでもいいしね」とおもむろにPCのオケを流し、本来他のメンバーが歌唱する場面も含めてたったひとりで“ギャルがゲル暮らし~遊牧民~”を歌い踊るワンマンショーに。観客からの手拍子にテンションが上がったタイチサンダーは「これ出来ちゃうんじゃない?」とメンバーの声色を真似ながら歌い続けていたが、しばらくするとメンバーが続々と入場。そこからはもはや言うまでもないが、思い思いに朝青龍や虹色のギャルビーム、超ウケる、MK5など支離滅裂な単語があちこちで叫ばれ、突発的なダンスを展開する先程の“あしあとJAPAN”と同程度かそれ以上のカオスを形成し、山本リンダの名曲“狙いうち”を彷彿とさせる昭和的なメロディーに包まれながらタイチサンダーが終わりを告げ、ライブは最後まで楽観的なイメージそのままで大団円を迎えたのだった。
りょーめーの精神的不調を理由に約1年半に渡って活動を休止し、活動再開後は精力的に楽曲制作に当たってきた爆弾ジョニー。けれども以降も昨年や一昨年のりょーめーのツイッター上での呟きを見るに、ハイペースで楽曲を世に送り出したいりょーめーの思いと商業的価値を前面に押し出したい音楽関係者側との意識の違いが深まったことにより、彼の心には再び暗雲が立ち込めることとなった。そうした事実を鑑みても、今までに観たどの爆弾ジョニーよりも、自由奔放に駆け抜けた2時間だったように思う。その理由は言うまでもなく、りょーめーの今の精神状態がこれ以上なく良好であることと、今回自主レーベルで極力他者を介在せず、ホームメイドに徹した9月23日発売となるニューアルバム『H1OPE』を完成させたことも、大きな要因のはず。
既に彼らの爆弾の導火線に、火は点いている。今後もオンライン、有観客関わらず多数のライブイベントを控える爆弾ジョニー。当然コロナの影響は免れず、リリースツアーに関しても今まで通りにいかない場面が続くだろうが、それはそれとして。今回の2時間に及んだライブが圧倒的な楽しさで終幕したように、彼らが今後『H1OPE(ホープ)』と名付けられた今作を引っ提げて各地を回るうち、爆弾の火種はますます大きくなることだろう。
【爆弾ジョニー@月刊爆弾ジョニー40周年SP セットリスト】
緑
なぁ~んにも
ケンキョニオラツケ!
唯一人
終わりなき午後の冒険者
おかしな2人
キミハキミドリ
ステキ世界
イミナシ!
ララララ(未発表曲)
MELODY
EVe
123356(未発表曲)
かなしみのない場所へ
ユメノウタ
※曲間の随所に即興ソング“ニュージーランドはどこの国”
[アンコール]
あしあとJAPAN(新曲)
ガンギマリサマーデイズ(新曲)
サンデーモーニング(未発表曲)
[ダブルアンコール]
ギャルがゲル暮らし~遊牧民~