キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

開催中止と分かっていながら、スパソニのチケットを買った話

こんばんは、キタガワです。


本日6月16日、僕は9月に開催が予定されている秋フェス・SUPER SONIC(スパソニ)のチケットを購入した。19日と20日の二日間。金額は各種手数料込みで25640円。この他にも島根県から会場に向かう為の交通費や宿泊費、有給休暇の申請に伴う労働日数の追加等を含めれば、金銭的にも体力的にも、大いなる負担を強いられることとなる。だがそれでも構わない。僕はこの今世紀最悪な年とも言える2020年における最後の希望を、スパソニにベットしたのだ。

 

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先程から幾度も名前を挙げているスパソニは、今年初開催となる秋フェスである。元々はSUMMER SONIC(サマソニ)として20年間に渡って8月下旬に毎年開催されているフェスであるが、昨年度の時点で今年は東京オリンピックの開催の弊害として、中止が決定していた。しかしながらサマソニを主催するプロモーター・クリエイティブマンプロダクション30周年を祝うその代替として、オリンピックと時期を1ヶ月離す形で急遽今年誕生したのが、今回のスパソニである。現時点で20年代最大の注目株とも称されるThe 1975、完全無欠のロックンロールスターLiam Gallagher、エレクトロハウスの申し子Steve Aoki、今最も注目を集めるラッパーPost Malone等、本家サマソニをも凌駕しかねない最強のラインナップが決定し、来たる開催に期待が高まっていた。そんな中立ち込めた絶望的な暗雲。それこそがコロナウイルスの存在だ。


実際問題、開催が決定していた時点でも海外を中心に感染者が増え続けていたコロナウイルス。しかしながら当時はそれでもある種楽観的というか、「遅くとも6月頃には治まるだろう」と多くの人間が高を括っていたように思う。具体的には確かに2月~3月頃に開催予定だったライブも次々と延期に追い込まれてはいたものの、その全ては『中止』ではなく『延期』であり、それも数ヵ月先に伸びるのみであったために対して問題とは思っていなかった、というのが正直なところだった。


そんな予想に反して、コロナウイルスの勢いは文字通り、日増しに拡大した。東京オリンピックは来年度に延期され、テレビを点ければ軒並み在宅勤務かつソーシャルディスタンス。店には飛沫感染を防ぐ透明のビニールが設置され、学校授業は延期。そして芸能界では志村けん氏がコロナウイルスによる肺炎で死去し、大きな衝撃を与えた。そして現在ではコロナウイルスと共存する『新たな生活様式』が提唱され、最低でもこの窮屈な生活は今年一杯は続くとされている。今やコロナウイルスはかつての新型インフルエンザや麻疹のような、安易に考えられるものではない。検査や隔離、そして最悪の場合他者を死に至らしめる加害者にもなり得るそれは『感染したら社会的に終わり』な恐怖の象徴として、日々を生きる人々の深層心理に刻み込まれている。


そこで考えなければならないのが、スパソニの動向である。FNNプライムオンラインにて実施されたスパソニ主催者へのインタビューでは「6月12日の時点では、予定通り開催の方向で進めています。ただ、新型コロナの問題があるので、人数の制限などで全体のキャパシティを減らすことも考えなければならないかもしれません」とし、加えて「現時点では、出演が決まっているアーティストのキャンセルなどは起きていません」と、改めて開催に前向きな姿勢を明らかにした。この発言を見るに、今後世界的にコロナウイルスが余程悪化に至らなければ十分な感染防止策を講じた上で開催。対して7月~8月時点で海外渡航が不可能で、かつクラスターを生む可能性を無視できないと主催者側が判断した時点で、開催を中止するということだろうと思う。


けれども僕はスパソニは十中八九、中止になると考えている。


まずひとつは演者の問題。言わずもがな、スパソニは洋楽アーティストが多く出演するフェスである。そのためメンバーの他、ライブをサポートする十数名にも及ぶ関係者も日本に招かなければならず、アメリカやイギリスの他全国各地に点在する彼らを、現時点で渡航が禁止されている箇所も含めて全員日本に入国させるというのは、まず国が許すだろうか。そして何より、観客が安心してライブを楽しめるか、と問われれば、現時点では絶対的にNOなのだ。会場に行くために必須となるシャトルバスや公共交通機関は密も密。やっとこさ会場に辿り着いたとしても、近い人間と肩と肩が触れ合うフェスはやはり怖く、更には本来大合唱に次ぐ大合唱となる洋楽フェスにおいて「歌うな」というのは非常に酷で、猛暑の中マスクを着用する熱中症の危険も付き纏う。


前述のインタビューにて、主催者側は人数の制限などで全体のキャパシティを減らすことも考えなければならないかもしれません」と語っていたが、それでは採算が取れないことは明白。もしもチケットが売り切れたとて間違いなく大赤字で、来年度からのサマソニ復活にも黄信号が点ってしまう。他にも未だ「ライブ=悪」と見なす世間の目や県を跨いでの移動、会場の設営、万が一クラスターが発生した際の個人情報の入手等、課題は尽きない。以上のことから、例えば何がなんでも開催に漕ぎ着けなければサマソニ自体がこの年で終わってしまうとか、フェス1ヶ月前には全国各地の感染者数がゼロになったとか、努力や感染防止策ではない『開催可能になるための確たる証明』がない限り、開催は不可能であると僕個人としては思っている。


けれども僕は前述の通り、本日チケットを購入した。その理由はひとつ。なにがしかの生きる希望が欲しかったからだ。


思えばコロナウイルスが全国的に猛威を振るい始めた2月~3月あたりから、ライブハウスを始めとした音楽関係の施設は世間からの風評被害に屈するように沈黙。新譜のツアーやイベントは軒並み延期かキャンセル。今年来日予定だった洋楽アーティストの来日公演も、大半が来年度に延期された。


かく言う僕自身も毎月他県に遠征し、ライブレポートを執筆するというのが誇るべきルーティーンと化していた人間だが、このコロナ禍で全て消失してしまった。正直な気持ちとして、音楽と一定の距離を取らざるを得なかったこの数ヵ月間はあまり記憶がなく、今もまるで生きる上での何かがぽっかりと欠如したかの如き、空虚な日々を生きている。これに関しては僕以外にも、同じく人生において音楽が趣味娯楽ではない、もっと根本的な『生きる理由』として位置している人間は大勢いるはずだ。


ロックインジャパンもスペシャもライジングサンも、そしてスパソニと肩を並べる洋楽フェスであるフジロックも、今年は開催中止がアナウンスされている。そう。今やスパソニは単なる『秋に開催される洋楽フェス』ではもはやない。そして受難の時代をもどかしく生き延びている我々音楽ファンにとっての、最後の希望であるとも言えるのではなかろうか。


今まで綴った一連の文章というのは、普段話題の音楽やYouTubeの関連動画に挙がった楽曲しか聴かず、ライブさえ行かない類いの人間にとっては一笑に伏される事柄であろうとも思う。けれども過去のライブ映像や画面越しの生配信ではなく、音楽をただ爆音で広大な地で浴びたいという欲求は、決して理屈ではないのだ。だからこそスパソニの開催がほぼ不可能であると頭では理解していても、何度でも「でもやっぱり行きてえな」と思ってしまう。完全な形で開催に至るのは難しいだろうが、音楽が正真正銘息を吹き返す瞬間を、僕はいつまでも信じ、待ち続けていたい。

 


The 1975 - Guys (Official Video)


《It was the best thing that ever happened to me(それは僕にとって一番の出来事)》

《It was the best thing that ever happened(それが人生において一番の出来事)》


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