キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

幻のフジロック'20……。『フジロックフェスティバル2020』延期について思うこと

こんばんは、キタガワです。

 

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気候的にも体感的にもすっかり夏が近付いてきた感覚にも陥る6月5日午前11時。フジロックフェスティバル2020の開催延期が遂に、正式に発表されてしまった。けれども「楽しみにしていたフェスが中止になった」とのネガティブな思いは今は然程ないというのが正直なところで、それ以上に全国各地の夏フェスが次々中止・及び延期に追い込まれ、世論的にも反フェスの声が挙がる中において、開催に尽力した制作に携わってくれたスマッシュとホットスタッフプロモーションには、心からの感謝の念を表したい。


思えば去る3月17日に第一弾アーティストが発表された時点で、フジロックには暗雲が立ち込めていた。その理由は言うまでもなく、新型コロナウイルスである。この日は国内での1日の感染者数が868の大台に乗った日であり、この状況下においてフジロックの出演者を発表することに対しては、当時インターネット上で舌戦が繰り広げられていたことを覚えている。けれどもまだこの時点ではまだある種の楽観視というか、漠然と「8月には何とかなるかもしれない」との思いが首をもたげていた。今思い返すと、この時はまさかここまでコロナ一色の未来が訪れるとは誰も考えていなかったのではなかろうか。


そして開催不可能との雰囲気が一層現実味を帯びたのが、4月3日。全ヘッドライナーと第二弾の追加出演者が発表された時だった。この時期になると現在ではほぼ日常的な光景となった、透明なビニールカーテンや客同士の間隔を空けるテープの設置といった対策がどの店にも見られるようになり、テレビ番組は次第にリモート出演が本格化。更には自発的な外出は極力自粛するようにとのお達しが頻りに取り沙汰されるようになっていた。なお4月3日は奇しくも僕が暮らしている島根県でも初の感染者及びクラスターの発生が確認された日でもあり、直ぐ様夜の飲食店街に営業自粛の措置が取られたり、この日を境に人の出入りがグッと少なくなったのを記憶している。中でも世間に最も衝撃を与えたのはコメディアン・志村けん氏死去のニュース(3月29日)であり、その余波も相まってか、3月には「無事に開催できるの?」と語られていたものが「この状況で開催するなんてあり得ない」という非常に強い非難の言葉に変わっていた。おそらくこの瞬間、大半の人間はフジロックの開催はほぼ不可能と見ていたはずである。


けれどもコロナ禍で首を真綿で絞められるかの如く、ゆるりと心身が憔悴する今、フジロックの開催を一種の心の拠り所としていた人々も事実として存在する。洋楽アーティストを起用する国内フェスとしてはサマソニとフジロックが最も知名度が高いが、これらふたつは個人的には全く異なるものとして捉えている。まずサマソニは観たいアーティストを事前に調べ、その計画に沿って動く人が大半を占める。そのため景色や流れている音楽にふと足を止めて聞き入るケースというのは少数派で、実直に求める音楽に突き進む人が多いためにステージごとに人数の集まりに大きなバラつきが生じてしまう。対してフジロックは言葉を選ばずに言えば、赴く人々の大半はその雰囲気と音楽の相乗効果を楽しんでいる人が多いのではなかろうか。自然に囲まれた穏やかな地で行われるフジロック。そこには木陰で寝ている人も、アルコール片手に踊り狂う人も、中には昼過ぎからゆっくり入場して楽しむ人もいて、正に多種多様だ。どんな場所にいてもどこからか音楽が流れ、気になったらフラリと立ち寄る……。言わば音楽の媒体を介したアウトドアイベントの様相で、あれほど心が洗われる音楽体験というのは、日本中どこを探してもない。そして所謂『フジロッカー』と呼ばれる人々はそれを熟知しているからこそ、東京から何十キロも離れた苗場に、また今年も行こうと思えるのだ。


……今年のフジロックは歴史的に見ても、間違いなく重要な年になるはずだった。テーム・インパラとザ・ストロークス、電気グルーヴがヘッドライナーを務めることはもとより「フジロック、変わります」との声明を発表し、問題視されていたゴミ問題と、設置禁止場所に立てられる椅子問題の改善を実行に移す心持ちでいた。エリア同士を繋ぐ橋が大雨の影響で流されたことを受けて橋を強固なものとする取り組みもアナウンスされており、総じて前年度とはまた違った快適なフェスとなる予定だった。今「一体どんな景色を観ることが出来たのだろう」と空想しても、今思い浮かべることの出来るのは昨年の風景だけ……。それが心に僅かな寂寥感を抱かせる。


前述の通り、今回のフジロック延期は英断だ。やはり今の状況で海外アーティストが来日出来る可能性は限りなく低く、会場に向かう道中及び会場内ではどう足掻いても密が生まれる。何より完全に感染者を出さないという希望的観測は現時点では絶対に出来ないし、コロナウイルスが世界規模で収束するか、もしくはワクチンが確実に手に入る100%の保証がなければ開催は出来ない。だが今回の延期の決断はオーディエンスのことを第一義とした結果であることだけは、我々は決して忘れてはならない。


国内の主だったフェスにおいて、残されたのは9月に開催されるサマソニの特別版・スパソニ(SUPER SONIC)のみ。本来8月に行われるはずだったサマソニを東京オリンピックの影響で中止し、その代替として9月開催の2020年だけのフェスとしてアナウンスされたスパソニ。まさかスパソニが国内フェス最後の砦になるとは当時全く考えていなかったが、とにかく。この流れていけばスパソニも十中八九中止・もしくは延期となるだろう。よって今年の夏はフェスもライブもない、単に暑いだけの苦痛なものになるかもしれない。


ただフジロックの今回の決断が中止ではなく延期となったことは、ひとつ希望的に捉えたいところだ。事実公式ツイッターでは来年度について「新たなラインナップを織り交ぜ、よりパワフルで新鮮なエネルギーに溢れたフェスティバルを呼び戻したいと考えています」と綴られている。よって今回ヘッドライナーに選ばれたテーム・インパラとザ・ストロークスと電気グルーヴ、更にはFKA twigsやナンバーガールなど発表時に大きな反響を呼んだアーティストの起用は来年度も引き継がれるかもしれないし、「新鮮なエネルギー」という点では今話題の若手注目株……。それこそレックス・オレンジ・カウンティやビリー・アイリッシュ、ヤングブラッド等が大舞台で弾ける可能性もあるのだ。次は必ず。1年分のフラストレーションを爆発させて楽しむ想像を多いに膨らませながら、1年後、2021年8月20日~23日に開催されるフジロック2021を楽しみに待ちたい。