キタガワのブログ

島根県在住。文筆。rockinon.com外部ライター等。

メンバーが失踪→脱退の末路を辿ったバンド5選

こんばんは、キタガワです。


ロックバンドは素晴らしい。当ブログにおいても繰り返し記事にしてきたが、僕はバンドに人生を変えられた人間である。そして僕と同様にギター、ベース、ドラムが奏でる爆音のアンサンブルに人生を狂わされた人間は数多く存在すると思う。


だが彼氏にしてはいけない人間の職業(通称3B)が美容師・バーテンダー・バンドマンを指しているように、今やバンドマンの風当たりは比較的悪い傾向にある。


しかし今日も多くの若者が大成することを夢見て、人生の貴重な数年間をバンドという名の大勝負にベットする。その理由は人それぞれだろうが、大多数の人間がバンドの夢を抱いた瞬間というのは、総じて自身の尊敬するバンドマンに対する大いなる憧れや、注目を浴びる高揚感に端を発するのではなかろうか。けれどもその道程は当然平坦ではない。音楽ナタリー等に象徴される各音楽メディアにメンバー脱退・活動休止・解散の文字が頻繁に踊ることからも分かる通り、一見順風満帆なバンド生活にも思えるそれは誰もが表沙汰にしていないだけで、ネガティブな面も少なくないのだ。


さて、今回取り上げるのは、バンド内で起こり得るバッドエンド的な事柄の中でも群を抜いて衝撃を及ぼすと思われる『失踪』である。誰にも胸の内を告げず姿を消してしまった彼らの人生に幸多かれと祈りつつ、失踪に至るまでのバンドの流れと共に辿っていこう。

 

 

Kidori Kidori

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インディーロックバンド、Kidori Kidori(前バンド名はキドリキドリ)。洋楽に多大な影響を受けたバンドサウンドと帰国子女でもあるマッシュ(Vo.Gt)のハリのある歌声を魅力のひとつとし、ライブハウスで根強い人気を博していた。


失踪したのは、ベース担当のンヌゥ。多くのライブを控える渦中であったにも関わらず突如として姿を消した彼であったが、理由が一切不明であることから一時は最終的に真実であると語られた『精神的不安による失踪』との意見と共に刑事事件説や死亡説も浮上する騒動となり、必然当時はSNSを使用した大規模な拡散が成された。最終的に1週間後に無事保護されたものの、公式サイト曰く「本人と話し合える状況にない」とし、詳しくは語られていないもののンヌゥの抱える精神疾患が原因であることが明らかとなった。


そしてそれから数日のうちに脱退が発表され、その後はサポートベーシストを含めず、徹頭徹尾マッシュと川元(Dr)の2名体制で活動。かつてベースサウンドを主軸としていた楽曲もギターや打ち込みで代用することなく、ンヌゥ担当のベース音は一切鳴らさないという一周回って革新的な試みでもって、既存のファンのみならず騒動を知っていた音楽ファンからも、比較的好意的に捉えられていたのが印象深い。


その後は2017年7月6日に突如解散とメンバーのコメントが掲載され、この日を持ってKidori Kidoriは9年のバンド人生に終止符を打った。Kidori Kidori解散後、マッシュはソロプロジェクトSuhm(スーム)を始動。川元は音楽業界そのものから退くことを表明し、別々の道を歩み始めた。


確かに以下に挙げるBase Ball Bearの湯浅やthe cabsの高橋など、バンドマンの失踪は少なからず存在する。けれどもそれは『連絡が取れなくなっていました』という事後報告が大半であり、当時ンヌゥ失踪時に大々的に拡散されたような、当時着用していた服装や背格好を詳細に記して「情報をお寄せください」と願う行動は基本どのバンドも行ってこなかった。言わばンヌゥの失踪は、日本におけるバンド全体の根幹を揺るがした前代未聞の大事件でもあったのだ。

 


Kidori Kidori (キドリキドリ) / Watch Out!!! MV

 

 

KANA-BOON

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人気絶頂期の若手ロックバンド、KANA-BOON。バンドマンの失踪事件においては最も記憶に新しいが、失踪したのはベース担当・飯田である。彼が失踪した時期は奇しくもKANA-BOON過去最大規模の単独ライブを控える状況下でのもので、ライブ中止と共にその中止理由を明かす形で飯田の失踪は公表された。


言わずもがな、KANA-BOONは今や大型フェスのメインステージ抜擢が無条件で確約するほどの人気バンド。必然失踪の一報が公表された頃には1万リツイートを超える反響と、更には彼らと同じく人気絶頂期にあったKEYTALKやTHE ORAL CIGARETTES、04 Limited Sazabysなど様々なバンドが拡散したために、当時バンドや音楽に興味のあった人間のみならずニュース番組にも取り上げられるに至った。そしてその報道に更なる拍車をかけたのが週刊文春を筆頭としたゴシップ雑誌で、かつて幸福の科学に出家した清水富美加(法名・千眼美子)と飯田が不倫関係にあった事実と、KANA-BOONのメンバーのうち飯田のみ唯一同級生ではないという不仲騒動にも斬り込んだためか、結果的に飯田の失踪は日本国内を巻き込んだ一大騒動となった。


その後飯田は保護。現在のKANA-BOONの多大なプレッシャーとが最も極端な形で具現化してしまったと事情を説明し、数ヵ月間の療養の末に脱退した。


繰り返すが、KANA-BOONは今をときめくロックバンドだ。必然各種タイアップやレコーディングの予定が詰まっており、止まることは許されなかった。飯田失踪後は間髪入れずにベストアルバムとシングル『スターマーカー』を発売し、フェス出演についてもキャンセルすることなく、急遽サポートメンバーを加えてのパフォーマンスを繰り広げ称賛を浴びた。現在において彼らの口から飯田の名前が語られることすらほぼないし、ファンの間でも話題に挙げることが一種のタブーと化している感すらある。だが忘れてはならない。KANA-BOONの今の絶頂期に至るまでの道程には、いつも飯田が存在していたということを。

 


KANA-BOON 『シルエット』

 

 

the cabs

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2013年に解散した短命のロックバンド、the cabs。今をときめくKEYTALKの中心人物・首藤と、現österreich(オストライヒ)のサウンドクリエイター・高橋が在籍していたバンドとしても知られる。


the cabsの特長は、両極端な歌声を持つ2名によるあまりに独創的なアンサンブルだ。the cabsと同様2名の歌声が中心を担うバンドに、同時進行で首藤が組んでおり後に大成したKEYTALKが挙げられるが、the cabsのボーカルは首藤のソプラノ的高音と高橋のデスシャウトが混雑するという他に例のない独自の作風であり、同時にそれが彼らの確固たるオリジナリティとして君臨していた部分でもあった。


けれども1stフルアルバムのリリースツアーを翌月に控えた2013年2月、突如高橋が失踪。ボーカル・ギターのみならず楽曲制作においても鍵を握っていた彼の失踪は、バンド分裂の重大な契機となった。必然ライブはキャンセル、バンドは解散を余儀無くされ、高橋はコメントにて「僕はいま心にある種の問題を抱え、日常生活にも等しく問題を抱えています。それはまったく今回の件の言い訳にはなりませんし別問題ですが、それにより今後音楽に対して向き合っていく自分を想像することが難しく、他の活動をしていくことは現時点で考えていません」と心境を綴った。初のフルアルバムをリリースしてから約1ヶ月という、あまりにも早い幕切れであった。


その後は前述の通り、首藤はKEYTALKとしての地位を不動のものとし、高橋は自身が発起人となった素顔を一切見せない謎の音楽グループösterreichを結成。österreichは当時音源を一切リリースしていない全く無名な状態であったにも関わらず、the cabsのファンを公言していた著者・石田スイの熱烈なアプローチが契機となり、アニメ『東京喰種』のOPに抜擢されるに至った。異様な手数の多さで話題をさらったドラムの中村は海外修行に赴き、今は各自新たな歩みを進めている。

 


the cabs"二月の兵隊"

 

 

ANGRY FROG REBIRTH

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ラウドロックバンド、アングリー・フロッグ・リバース。長い下積み期間が実を結び2016年秋に晴れてメジャーデビュー……する筈だった。


失踪したのはボーカル担当・U。2016年8月14日からUと他のメンバーは、音信不通の状態に陥っていたという。更にはその事実を公にすることなく臨んだ22日のライブにもUは姿を現さず、ライブ前には観客に事情を説明しUが不在のままボーカルなしの編成でライブを行った。そう。アングリーはメジャーデビューを祝した全国津々浦々を回るツアーの開催を数日後に控えていた身であると同時に、メインボーカルの失踪という窮地に立たされてしまったのだ。メンバーは「正直悔しいです。メジャーも決まってこれからという時にこんな結果になるなんて思いもしませんでした。何より応援してくれている皆に申し訳ない気持ちで苦しいです」と綴り、残されたツアーに関しては全てUの抜けた穴をサポートメンバーが埋める形で、もしもサポートが見付からなかった場合に関してはUのボーカルパートを完全に廃する形で敢行する前代未聞の措置が図られた。


その数ヵ月後にはUの脱退……ではなく、全楽曲の作詞作曲を務めていた池田以外の全メンバーが脱退し、それに伴い年末をもって無期限の活動休止とすることを公式で発表した。この大規模な脱退はUの音信不通に端を発するものであることは言うまでもないが、おそらくバンド業界全体を見ても、僅か3ヶ月の短期間でメインボーカルが音信不通→メジャーデビュー白紙→作詞作曲者以外全員脱退との悲劇的な結末を辿ったバンドはほぼおらず、更には詳しい音信不通理由や脱退理由が不明であることからも、今なお謎に包まれた一幕であるとされている。


余談だが、僕は奇しくも未だUが在籍していた時代のライブを、広島にてFabled Numberというロックバンドトリを務めるライブで観ることが出来た。喉が潰れんばかりに絶叫するステージングとは裏腹にライブ終了後のバーカウンターやステージ裏ではひたすら項垂れ、人との接触を避けていたのが印象的だったUの姿を今でも鮮明に思い出すことができる。


なお2019年の年末をもって活動再開を発表。メンバーは3年前に唯一脱退との決断を取らなかった作詞作曲を務める池田と、新たな楽器隊4名。けれども新たなボーカルはおらず、かつてUが担当していたシャウトパートは消滅。必然池田がボーカルを務める全く新しい形のアングリーとなり、最近ではバンドマンの実生活をつまびらかにするYouTube配信もスタートさせるなど、彼らなりの決意を秘め猛進中だ。

 


ANGRY FROG REBIRTH - 2step syndrome

 

 

Base Ball Bear

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爽快感溢れる系統のロックの立役者にして、若手ロックバンドの筆頭であったベボベ。メンバーのほとんどが千葉の高校の同級生(ベースの関根のみ1年後輩)であり、高校卒業を期に本格的に音楽活動を開始。以後結成から約15年の長きに渡り活動を続けていたが、ギターの湯浅による突然の失踪によって活動が困難な状況となり、その後脱退へと至る。


湯浅は制作作業をする予定だったスタジオに現れず、長らく連絡が取れない状態が続いていたとされている。その後公式に記されたスタッフのコメントでは「第三者を通して、今後Base Ball Bearでの活動を続けることができないという意志表示を受けた」と説明しており、加えて「この数日間、さまざまな方法で湯浅本人との話し合いを試みたものの、誰も直接連絡が取れなかった」とも綴られた。よって今回記したバンドの中では唯一、メンバーや関係者に失踪理由を告げないまま姿を消し、更には今どこで何をしているのかすら一切不明のまま脱退。前述の通り、この時Base Ball Bearは奇しくも結成15周年、デビュー10周年を迎えようという頃であった。


そのため彼の脱退は、完全なる事後報告の形でファンへ報告されるという悲しき結果となった。後にバンドのフロントマンである小出は「突然このようなことが起こってしまったことが理解出来ませんし、怒りすら感じています」と述べつつ、「この4人というルールを強く持っていた僕らでしたが、今はあの4人では表現できなかったことに挑戦していきたいという気持ちでいます」と締め括った。


その言葉を体現するが如く、その後のベボベは今までのロックバンド像を覆す実験的な試みから距離を置き、まるで結成当初へと遡ったようなシンプルな音像の楽曲を数多く発表。そして現在のライブではかつての代表曲も一切ギターのサポートを入れず徹頭徹尾3人のみのサウンドで再構築して演奏するなど、まるで焦燥に駆られるような勢いで猛進し再評価の兆しを見せている。当然ギターの音が減ったことで「音が足りない」「前の方が良かった」と揶揄する声もあるにしろ、新たに再出発を果たした彼らの決意は暗い声も凌駕する力強さに満ち満ちている。

 


Base Ball Bear - ドラマチック

 

……さて、以上が今記事の全貌である。


バンドマンのステージの上で魅せる鬼気迫る姿は格好良く映る。けれども実生活も同様に破天荒な人間というのはほぼおらず、大半のアーティストは我々と同じく些細なことで傷付き、怒り、将来と現実に苦悩を抱える人間ばかりである。ひとつのアルバムをリリースするのにかかるのは平均2年。その間バンドはステージ上でスポットライトを浴びる一方、それ以外の時間は歌詞や作曲、それが終わればスタジオ練習、果ては何ヵ月にも及ぶレコーディングと、ファンはおろか人との付き合い自体がほとんどない毎日を送っている。言わば音楽家とは孤独な職業なのだ。


今回は失踪→脱退したミュージシャンにスポットを当てたが、アーティスト……その中でもとりわけバンドマンは、結果が極めてダイレクトに伝わる特徴を持つ。ライブの動員の振るわなさはステージに立った瞬間否が応にも痛感してしまうし、発売した音源は毎週「何枚売れた」とのリアルな報告が成される。無論今回紹介したバンドは決して大金持ちとは言わないまでも、レーベルに所属し、CDを何枚もリリースしているバンドである。そのため彼らよりも売れていないバンドの失踪事件は霧に包まれているだけで、実際何件ものバンドがそうした危機に直面していることだろうと思う。


「辞めたい」と心情を吐露したとて一度決まっているライブの予定はキャンセルすることは出来ず、更には事務所との契約によって音源製作も求められるのがバンドあるあるだ。結果「辞めたい」との思いを抱いたとしても数ヵ月の間は、バンドメンバーと日々顔を会わせ、辛いライブをこなす必要がある。総じて今回取り上げた人々は、そうした悲痛な心境を抱きながら活動していた人間の最も極端な例として発現してしまったひとつの例であったとも言えるのではなかろうか。


Kidori Kidoriやthe cabsのように解散を選択したバンドもいれば、ベボベやアングリーのように形を変えつつもバンドとしての志を崩さず、今なお活動を続けるバンドもいる。もちろん彼らが選んだ行動に正解や不正解は存在しないが、どのような決断を下したかによらず、バンドとしての生き様をぜひ頭の片隅にでも置いてもらい、あわよくば興味を抱いてほしいと強く願う。