キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】斉藤和義『BONE TO RUN! YUMEBANCHI 2019~だんだんROCKS!~』@松江市総合体育館

こんばんは、キタガワです。

 

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8月10日、島根県・松江市総合体育館にて、ザ・クロマニヨンズ、斉藤和義、SUPER BEAVER、My Hair is Badによるライブ『BONE TO RUN!』が開催された。今回はラストの4番手として出演した斉藤和義のライブレポートを記す。


夕方から続いたライブも終わりが見えてきた。時刻は20時。若手もベテランも引っくるめた音楽の祭典を締め括るのは、今年デビュー26年目を迎える孤高のアーティスト、斉藤和義だ。


愛称である「せっちゃーん!」の声が多数挙がる中、ほぼオンタイムでステージに降り立った斉藤。


つい先日全国を巡る弾き語りツアーを終えた直後のため斉藤和義ひとりの出演になるかと思いきや、ギターとベース、ドラムを従えてのしっかりとしたバンド編成。その中心に立つ斉藤は黒を貴重としたシックな服装も相まって、バンマスらしいクールな雰囲気を醸し出している。


オープナーとして演奏されたのは、今年発売したニューシングルの表題曲でもある『アレ』。

 


斉藤和義 - アレ [MUSIC VIDEO Short]


〈タイムマシンは頭の中 過去へ行こうか未来にしようか〉

〈引っ掻き傷は残せたかい 自分だけが知ってるアレだよ〉


我々が長く慣れ親しんできたあの独特の歌声が、会場内に高らかに響き渡る。ひとつひとつの言葉を丁寧すぎるほど丁寧に紡いでいく斉藤はいつになくリラックスした印象で、その姿から肩肘張った様子は微塵も感じられない。まさにベテラン。余裕綽々のパフォーマンスでもって存在感を見せ付けていく。


楽曲の変化にも触れておきたい。CD音源においてはドラムマシンとリズムマシンを多用したチャレンジングな楽曲となっていた『アレ』だが、今この場においてはそれらの打ち込みは一切なく、打ち込みパートはバンドの音で代用。生身のライブならではの肉体的なサウンドに昇華していたのは新鮮で、魅力的に映った。


さて、今回のライブはキャリア全体を総括するかのように幅広く、かつ緩急を付けたセットリストで展開された。新曲も何曲か披露され、かと思えば近年ほとんど演奏されないレア曲も散りばめた、ある意味では過去と現在を往復するような新機軸とも言える流れであった。


しかしながら広くお茶の間に鳴り響いた『やさしくなりたい』や『歌うたいのバラッド』を初めとするキラーチューンが演奏されなかったのは意外でもあり、観客によっては「意表を突かれた」という思いも多かったのではと推測する。


にも関わらず今回のライブが悪かったのかと問われれば、決してそうではなかったと断言できる。むしろひたすらに高揚し、彼の楽曲全体に宿る勢いとメロディーセンスに改めて気付かされる一夜でもあったように思う。


矢継ぎ早に言葉を捲し立ててストーリー仕立てで進行する『ベリー ベリー ストロング~アイネクライネ~』では飾らない日常風景にはっとさせられ、斉藤がフォークギターに持ち替えて臨んだ『小さな夜』では、伝家の宝刀とも言うべきバラードが穏やかに鳴らされる。彼が第一線を走り続けて来た理由と意味が、これらの楽曲群には特に込められていると感じた次第だ。


前述した『小さな夜』で少し穏やかなムードに包まれたところで、斉藤から「ちょっとカバーをやりたいと思います」というまさかのサプライズが。加えて「今日はヒロトさんとマーシーさんっていう、偉大なおふたりがいらっしゃるので。ザ・ハイロウズの曲を一曲……」と呟くと、怒号のような大歓声があちこちで上がった。


瞬間始まったのは、2005年を最後に活動休止を現在進行形で続けているザ・ハイロウズのパンキッシュなナンバーである『即死』。

 


即死 THE ↑ HIGH-LOWS ↓


〈入院したくない 病気で死にたくない〉

〈ベッドで死にたくない 即死でたのむぜ〉

〈痛いのはごめんだ 苦しむのはヤダ〉

〈一瞬でいくぜ 即死でたのむぜ〉


各地のフェスやイベントで甲本ヒロトとマーシー、そして斉藤が同日出演することはあったにしろ、斉藤が彼らの楽曲を堂々とカバーしたのは、思えばこの日が初めてだったのではなかろうか。


この日鳴らされた『即死』は改めてそんなふたりの卓越したソングライティングの高さを感じることができたと同時に、圧倒的シンプルさで駆け抜けるという今回の『即死』のような楽曲は斉藤が絶対に作らないタイプの曲でもあるため、特に古くからのファンとしては垂涎の、非常にレアな一幕として映ったことだろう。


続く『ずっと好きだった』は、間違いなくこの日のひとつのハイライトだった。斉藤がリリースした楽曲の中では比較的メジャーな楽曲であり、観客も待ってましたとばかりに大盛り上がり……だったのだが、とある場面で集まった観客は腹を抱えて爆笑することとなる。


それは曲中に最も盛り上がる、ラストの大サビに差し掛かろうというときのこと。それはあまりに短い一言ではあるものの、本来であれば盛り上がりを焚き付けるワイルドカード的役割を担うはずだったに違いない。しかしその一言は“誤った形”でもって、とてつもない破壊力を纏って高らかに響き渡った。


「いくぞ出雲ーっ!」


記事の冒頭で述べた通り、今日この日、この瞬間の会場は『松江市総合体育館』……。つまりここは出雲ではなく『松江』が正しい解である。全国的にも認知度の低い島根県。島根県と聞くと出雲大社がある出雲市を連想する人が多いのが実状なので全く咎める気はないのだが、それはそれとして。繰り返すが、ここは松江市である。


最終的に斉藤の勘違いは続き、『ずっと好きだった』の一幕意外にもライブ中通算5回に渡り「出雲ー!」と絶叫するのだが、3回目以降になってくると観客も『そういうもの』として認識したようで、斉藤が「出雲」と発するたびに大きな歓声が上がっていたのが面白く、同時にマイペースを貫く斉藤の人間味も感じられ、ある意味では最高のスパイスとなっていた。


その後は卓越したギターテクが炸裂した『I Love Me』から、本編最後に演奏されたのは『Summer Days』。

 


斉藤和義 - Summer Days


原曲では5分少々の楽曲ではあるものの、今この場所においては10分をゆうに超える長尺のアレンジでもって鳴らされた『Summer Days』は、斉藤のエモーショナルな側面を最も押し出した楽曲でもあった。


冒頭こそギターを爪弾くゆったりとした滑り出しではあったものの、サビに突入する頃には原曲にはなかったダンサブルなロックナンバーに変貌。うねるギターを主軸とした絶大な音圧でもって会場を掌握した。


中盤には「キミに届け!」という歌詞の部分で最前列のファンをひとりひとり指差し、突然楽曲に戻るという意表を突いたアレンジも。更に後半はある種のジャムセッションの様相を呈しており、各メンバーが思い思いにフレーズを鳴らしていたのが印象的だった。


斉藤に関しては弦が切れそうなほどにギターを掻き毟りながら完全燃焼を図り、半袖から見える白い腕から汗が滴り落ちるほどの熱量で終幕。退場時、無表情で伸びきったシャツの首元から乳首を見せた斉藤、やはりマイペースである。


数分後、鳴り止まないアンコールに答え再びステージに降り立った斉藤とメンバー。シングル曲『マディウォーター』をドロップし、正真正銘のラストナンバーはやはりこれを聴かなければ帰れない、『歩いて帰ろう』。

 


斉藤和義 歩いて帰ろう


〈走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく〉

〈だから歩いて帰ろう 今日は歩いて帰ろう〉


冒頭のギターリフの時点で大歓声が巻き起こった『歩いて帰ろう』は、その後もノンストップの盛り上がりで進行。斉藤の歌声もいつになく伸びやかで、かつ歌詞の一部分を叫ぶといったおなじみのアレンジでもって、限界突破でボルテージを高めていく。


終盤では「寄り道なんかしてたら置いてかれるよ いつも」の部分を『出雲』に変えて歌い大爆笑をさらう一幕も。おそらく斉藤にとっては語感も良く会心の一撃とも言えるワンシーンであったと思うのだが、客席はこの日一番の大爆笑に包まれる。


ロケットスタートのままラストまで駆け抜けた斉藤。演奏終了後は「サンキュー出雲ー!」と叫び、最後まで松江を出雲と勘違いしたまま大団円で幕を閉じた。


冒頭で述べた通り、斉藤はメジャーデビューから数えて活動歴が26年というベテランアーティストだ。しかしながら一般的に『ベテラン』と呼ばれているアーティストでも、時代の経過と共に徐々に人気が下火になっていく者も数多く存在する。


そんな中で斉藤は現在でも定期的な音源リリースと全国ツアーを徹底し、26年前とほとんど変わらない活動を続けている。中でも全国ツアーに関しては全盛期とほとんど変わらない人気を誇り、各地でチケットが完売している。


僕はそんな斉藤に対して、かねてより「なぜここまでの人気を獲得し続けているのだろう」という疑問を抱いていた。その答えが、今回のライブにはあったように思う。


おそらく斉藤とファンの間には、目には見えない絶大な信頼関係が構築されているのだ。一見飄々としているようにも見える斉藤だが、彼の生み出す楽曲とライブパフォーマンスには、斉藤を知らないにわかファンでさえ一瞬で黙らせる力が秘められている。彼はそのスタンスを、現在に至るまでその一切を変えていない。たったそれだけのことが何よりも雄弁に『斉藤和義』という、いちミュージシャンの魅力に繋がっている。


更にはそれこそ今回の出雲の件や肩肘張らないステージングに顕著だが、彼は常に自然体だ。僕は今回のライブが4度目であり、最初に彼のライブを観たのは6年以上前のことなのだが、その頃と全く変わらない斉藤がそこにいた。


ミュージシャンが個人的なSNSでたわいもない自身の思いを発信する時代において、一切個人アカウントを所有していない斉藤がステージ上で何を語るでもなく「ふぇーい」や「うぃー」と意味もない言葉を発している様はあまりに一般人らしくもあり、何故かホッとしてしまう自分もいるのだ。


斉藤和義は、今後も変わらない活動を続けていくだろう。そして至ってマイペースに「そうなんだー。へえー」といったフラットな感覚で、新規のファンを獲得していくのだろう。


帰り際、中学生とおぼしき風貌の女子2人組とすれ違った。「斉藤和義の曲とか全然知らなかったけど、めちゃくちゃ良かった。CD全部買おうかな」と語った彼女らの顔は、満面の笑顔だった。


僕はと言えば、「そういえば僕が斉藤和義を好きになったきっかけもライブだったな」と、感慨深い気持ちになりながら帰路に着くのだった。

 

【斉藤和義@松江 セットリスト】
アレ
ベリー ベリー ストロング~アイネクライネ~
小さな夜
即死(ザ・ハイロウズカバー)
ずっと好きだった
I Love Me
Summer Days

[アンコール]
マディウォーター
歩いて帰ろう