キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】DYGL『JAPAN TOUR』@米子Aztic laughs

こんばんは、キタガワです。

 

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7月23日、鳥取県・米子Aztic laughsにてDYGLのライブ『JAPAN TOUR』が行われた。


かねてより日本と海外を主な活動拠点としながら活動を行っているDYGLだが、日本でのツアーは彼らにとっては約2年ぶりとなる。


タイトルには冠されていないが、今回のツアーは7月3日にリリースされたニューアルバム『Song of Innocence & Experience』を携えて全26公演を回る大規模なツアーである。更にこの日の米子公演はまだまだ序盤の2箇所目ということで、否が応にも期待が高まる。


しかしながら「絶対にツアーを成功させるぞ!」というようなピリピリとした雰囲気は皆無のようで、開場時間の数分前まで、会場周辺をメンバーが散歩しているというマイペースっぷり。中でも整理番号順に整列しているファンの真横を「よろしくお願いしまーす」とすり抜けて会場に入っていく姿には、思わず笑いが込み上げてしまった。


会場内に入ってまず驚いたのは、その配置だ。本来機材やマイクがあるべきステージには白いスクリーンが張られており、その奥には真っ暗な空間が広がっている。


では機材はどこに置いているかと言えば、答えはステージの真下。……というより観客とアーティストを隔てる柵も一切置かれておらず、客席とバンドセットは手を伸ばせば触れることができるほどのゼロ距離だ。


つまり今回のライブは事前告知一切なしの、完全なるフロアライブだったのだ。かつてボーカルの秋山はとあるインタビューにて「そのときそのときでフットワーク軽く、一番良い選択をしていきたい」と語っていたが、ツアー2箇所目にして突然のフロアライブの敢行。いくら何でもフットワークが軽すぎである。


スタッフが足元にセットリストを置いているのも間近で見ていたが、少し目線を下げた瞬間に全楽曲が把握できてしまうので目のやり場に困る。更にサウンドチェックの段階ではどのエフェクターを踏んでいるかも一目瞭然で、「本当にこんな状態でライブをやるのか……?」と興奮してしょうがない。後方では観客がひとりひとり足を踏み入れるたびに「何これ!?」と驚きに満ちた声を上げているのもまた面白い。


定時を5分ほど過ぎた頃、暗転。通常のライブでも入退場時に使われる扉から秋山(Vo.Gt)、下中(Gt)、加治(Ba)、嘉本(Dr)がステージに足を踏み入れる。


しかし今回はフロアライブだ。ステージをずんずん進み、そこから各自スクリーンを避けるように、両端からひょいっとジャンプしてフロアへ移動。大体の予想はついていたものの、やはり我々観客と全く同じ目線の高さで、かつ目と鼻の先にアーティストがいるという状況はあまりに異質で、何やら気恥ずかしさすら覚えてしまう。


秋山が「デイグローです。よろしく」と短く発して始まった1曲目は『Hard to Love』。

メンバーの表情はまるで準備運動をしているかのように爽やかではあるが、本来ステージ上に置かれているアンプはフロアにあるため、当然の如く会場は爆音の海に。しかし『音が大きいだけ』というような一辺倒なものでは決してなく、爆音の中に心地良い浮遊感を覚えるサウンド。自然に体が動いてしまう。


続く『Let It Sway』は先程とは打って変わって、速いBPMで駆け抜けるパンキッシュなナンバー。ギターリフの時点で大歓声が上がったフロアで、髪を振り乱しながら鋭い演奏を繰り広げるメンバーたち。サビ部分では「ラララ」から成るシンガロングも発生。周囲を見渡すと観客もメンバーも、一様に幸せそうな笑顔を浮かべていたのが印象的だった。

 


DYGL - Let It Sway (Official Video)


ここで初のMCへ突入。チューニングをしつつ、秋山が「調子はどうですか?」と話し始める。「今日のこの雰囲気いい感じですね。ここまでラフなのは久しぶりです。5年後10年後に、振り替えられるんじゃないでしょうか」と感慨深げ。


更には「あとライブ中は別に好きに喋ってもらってもいいし、写真や動画の撮影とかも禁止してないし。酒が無くなったらいつでも取りに行ってもらって大丈夫です。……これ言うと毎回、次の曲からみんなスマホ向けるんだよね……」と笑いを誘っていた。


僕は正直、この発言を聞いて驚いた。何故なら海外のライブならいざ知らず、日本におけるライブは暗黙のルールとして『撮影禁止』が共通認識としてあるからだ。それこそ昨年のSUMMER SONICの例が分かりやすいが、海外のアーティストは撮影に対して抵抗がない印象だったのに対し、フレデリックやback numberといった日本のアーティストは演奏中にも「撮影はやめてほしい」というような発言をする場面もあり、同じ『アーティスト』でも極めて対照的に写ったのを覚えている。


そのため今回、ライブ開始数分後に秋山が言い放った「撮影は禁止していない」との発言はおよそ日本のバンドとしては全国的に見ても貴重な試みで、かつ日本における『ライブかくあるべし』といった固定観念を払拭する狙いもあったのではと思った次第だ。

 

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さて、今回のライブはニューアルバム『Song of Innocence & Experience』リリースツアーということもあり、基本的にはニューアルバムの収録曲を中心に進行していく。更には所々にDYGLの名を広めるきっかけともなった前作『Say Goodbye to Memory Den』の楽曲を散りばめるという、DYGLの今までの歴史を網羅するようなセットリストだった。

 


DYGL - Boys On TV (Live)


事実『Let It Sway』から『I've Got to Say It's True』までの流れはほぼニューアルバムのモードで、合間に『Boys On TV』が挟まれた以外はぶっ続けでニューアルバムの楽曲をプレイ。まだリリースされてからあまり日が経っていないものの、観客は1曲ごとに大歓声で答えており、例えその楽曲がスローテンポであったとしても熱量が低くなることはない。


その後は前作『Say Goodbye to Memory Den』からの楽曲で盛り上げ、「ありがとうございます。次が最後の曲になります」と本編最後のMCへ。


「最後にやる曲はよりもっと……何だろうな。今の日本の忖度ムードだったり、自己責任論で責め合ってっていう今の状況を考えて作った曲です。歌詞に出てくる『wall』っていうのはトランプが作ろうとしてる壁(メキシコとアメリカを隔てる壁)のことなんですけど、……いろいろ問題はあるんですよ。韓国と日本の関係とか。でもそんな中で直接声を上げて、正しいことを正しいと言える世の中の方が良いと思って。自分がしたいと思ったことを、禁止とかキャラじゃないからとか、そういうので辞めたりせずに。そんな風になれば良いと思って作りました」


かねてより自分たちを「政治的なバンド」と語るDYGL。彼らの楽曲は英語で構成されているため一見伝わり辛いのだが、ほぼ全ての楽曲において現代社会の悪しき風潮や国々の固定観念、更には「そんな世の中でどう生きるべきか」といった意見が述べられている。

 


DYGL - Don't You Wanna Dance in This Heaven? (Official Video)


最後に演奏された『Don't You Wanna Dance In This Heaven?』は、直訳すると「あなたはこの天国で踊りたいのか?」という意味となる。つまりこの楽曲における『天国』とは『国』……。我々で言うところの日本国なのだ。日本では総じて本音と建前を使い分け、奥手であることが美徳とされている。それは世界の国々で活動してきたDYGLから見れば「多様性がない」とも取れるだろうし、逆に「それが幸せ」とも取れるだろう。詳しく明言はしなかったものの、彼らの心の中ではどっち付かずでモヤモヤとした気持ちは間違いなくあると思う。


今の世の中は決して良い状況とは言えない。アメリカは『アメリカ第一主義』を掲げ、韓国と日本の関係は悪化の一途を辿っている。日本も不景気や所得減、消費税増税など、枚挙に暇がない。思えば民法のテレビ局で明るいニュースが報じられることは、ここ数ヵ月でほとんどなかったのではなかろうか。


『Don't You Wanna Dance In This Heaven?』は、そんなDYGLの抱えるフラストレーションが爆発した一幕だった。轟音のノイズが渦巻く中、加治は跳び跳ねながら力の入った指弾きを連発し、下中は観客エリアに突入の後秋山と立ち位置を入れ替えて演奏。秋山はマイクに激突しそうなほどの熱量で髪を振り乱しながら歌唱。演奏が終わると、会場は大きな歓声に包まれた。


しばらくして、アンコールで再びフロアに舞い戻ったDYGL。「全然足りなーい!」「もっとやって!」と叫ぶ観客に対し「やらせてください!」と返す秋山に笑いが広がる。


アンコールの楽曲は、ニューアルバム『Song of Innocence & Experience』の中で唯一本編で演奏されなかった『I'm Waiting for You』、そして前作でも絶大な存在感を放っていたアップテンポなナンバーである『Don't Know Where It Is』だ。

 


DYGL - Don't Know Where It Is (Live)


『I'm Waiting for You』では全編通して穏やかに進行。かと思えば『Don't Know Where It Is』では出し惜しみなしの全力のパフォーマンスを繰り広げ、多くの拳が突き上げられる圧巻の盛り上がりで幕を閉じた。


今回のライブを観て、彼らは世界規模で有名になる資質を備えた類い稀なるバンドだと感じた。そう思った理由は直感ではない。秋山のボーカルはもちろんのこと、サウンドは研ぎ澄まされどこまでも肉体的。更には世界情勢や諸問題を俯瞰して見る観察眼も備えており、総じて『これからの音楽シーンで長く生き残る』ために重要な要素を兼ね備えている印象を受けたからだ。


SNSでの拡散やメンバーの顔面偏差値に重きを置く、いわゆる『ファッション音楽』が幅を利かせる現在の音楽シーン。しかしかつての音楽シーンを思い返してみてほしい。曲と歌詞を重点的に評価し、世間一般的に『売れた』と見なされるアーティストのそれ以外の部分については、ひとつの個性という認識でしかなかったはずだ。


もちろん彼らはそんな音楽シーンについても熟知しているはずで、今後もそうした現状に対して自身の考えを発信していくだろう。……これは来年や再来年というような規模の話ではない。これから何年もの時を経た後、更に劇的に変化した音楽シーンで最後に立っているのはDYGLなのかもしれないと、そう強く思った次第だ。


【DYGL@米子 セットリスト】
Hard to Love
Let It Swey
Let's Get Into Your Car
Spit It Out
Boys On TV
Bad Kicks
Only You(An Empty Room)
An Ordinary Love
Behind the Sun
A Paper Dream
I've Got to Say It's True
Thousand Miles
Waste of Time
Nashville
As She Knows
Come Together
Don't You Wanna Dance In This Heaven?

[アンコール]
I'm Waiting for You
Don't Know Where It Is