キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

神聖かまってちゃん・ちばぎんの脱退から見る、バンドマンのお金事情

こんばんは、キタガワです。


突然だが、読者貴君にひとつ問いたい。あなたはバンドマンについてどのようなイメージを持っているだろうか。


「音楽が好きな人がやる仕事」であったり「純粋に格好いい」など意見は様々だろうが、表だった部分としてまず第一に『夢のある仕事』という意見が多いのではなかろうか。


一口に『夢のある仕事』と言えば聞こえはいいが、実際問題バンドマンは周囲が思っている以上に辛く、厳しい職業なのである。

 

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先日のインターネット配信にて、神聖かまってちゃんのベース、ちばぎん(左から二番目)の脱退が突如発表された。彼は13年間に渡りバンドを牽引してきた、いわばリーダー的役割を担ってきた人物だ。ツアーには彼の運転する機材車で向かい、ライブ中に喧嘩をしたり暴言を吐くバンドメンバーを仲裁する役割を買って出ていた。


そう。彼は決して目立つ人物ではないものの、間違いなく神聖かまってちゃんの支柱だった。


数時間に渡る脱退発表の冒頭、ちばぎん自らの口から語られた脱退の経緯は以下の通りである。

完全に一個人の理由なんですが、昨年かな、11月に私結婚いたしまして。子どもをね、4歳の子どもがいきなり出来て、家族3人暮らしでここまでやってきたんですが、まあちょっとどうやらね、3人で暮らしていくには僕のお給料ではどうも厳しいらしいという感じで。

で、今年の2月とかですかね。第2子が発覚いたしまして。まあちょっと、いよいよバンドマンっていう生活に区切りをつける時が来たのかなって。

 


神聖かまってちゃん 2019.5.21② 神聖かまってちゃんの配信 ツイキャス

 

彼の口から語られた真実は至ってシンプルで、要約すると「バンドマンは稼げない。だから産まれてくる家族のためにも辞めざるを得ない」というものだった。


そう語る彼の表情は思い詰めているようでもあり、申し訳ない気持ちを抱えているようでもあった。今まで生放送やライブ活動を見続けてきた僕でさえ、見たことのない顔色をしていたのが印象的だった。彼はいつかの生放送で「神聖かまってちゃんは絶対に辞めない」という内容の話をしていた。そんな彼が脱退を選択し、公の場で報告したのは、にわかには信じられない大事件だった。


さて、ここからが本題である。彼は「バンドマンは稼げない」とはっきり明言した。しかしながら前述したようにステージ上の格好良さや楽曲の完成度ばかりが先行しているためか、未だバンドマンに対して憧れの念を抱く人は少なくない。


そこで今回はかつてバンド活動を行っていた自身の経験を踏まえ、あまり知られていないバンドマンのお金事情について赤裸々に語っていきたい。おそらく今回の記事を読んでいただければ、何故ちばぎんが脱退を選択したのか、そしてバンド業界全体が闇に包まれているのか理解できるはずだ。


まず大前提として、バンドマンの主戦場はライブハウスにある。


「現代はCDが売れない」と言われているがそれは紛れもない事実で、特にバンドのCDはJ-POPやアニソンと比較しても売れ行きが悪い。そこに違法ダウンロードの加速やYouTube市場が参入した結果、今はCD以上にライブが重要視されているのだ。


ライブが良ければファンが付く。CDやグッズの売り上げにも繋がるし、次のライブにも参加してくれる優秀なリピーターとなる。よってライブが最重要視されている一番の理由としては、『心から好きになってくれるファンを増やす』というのが正しいだろう。


そんなライブだが、何もバンドマンにとって良いことばかりではない。ライブを定期的に行うバンドマンにとって足枷となるもの、それこそがライブハウスにおける『ノルマ』の存在だ。


ノルマの話に移る前に、まずはライブハウス側のお金事情について語ろう。


ライブハウスの収入源は入場時に500円~600円で購入が義務付けられる『ドリンクチケット』だ。1人につき500円。10人だと5000円。100人だと50000円……というように、バンド側が人を集めれば集めるほどドリンクチケットがハケる計算になる。


なので結論としては、ライブハウス側はバンドがキャパシティを大きく超える動員を記録しようが、どうということはないのだ。その分ドリンク代で稼ぐことができるため、絶対に赤字にはならない。バンド側は多くの人に観て貰える。ライブハウス側はドリンク代で収入を得る。この部分だけ切り取れば、win-winの関係に見えるだろう。


……そうしたライブハウス側の事情を踏まえて、続いてはバンド側に課せられる『ノルマ』の話を見ていこう。


前述したように、ライブハウス側は観客がたくさん入ることが大前提である。そのためライブハウス側はバンド側に事前に「これくらいは最低でも呼んでね」という話をする。これがノルマだ。


例えば100人キャパのライブハウスのノルマが70人だとする。そこで結果的にバンド側がそれを上回る動員(71人以上)を記録すれば、その差額分のチケット代がバンドの収入になる。


それこそRADWIWPSやキュウソネコカミのように、チケットが軒並み売り切れるレベルのバンドになれば、バンド側はもちろん毎回黒字になる。それこそ先程の例を挙げるならば100人キャパ70人ノルマでも、機材席を取っ払ったりするなどして入れるだけの120人程度の観客を入れたりも出来る。バンドにとってはウハウハ。ライブハウス側もドリンクバカ売れでウハウハ。最高の関係性だ。


だがそこまでの動員が稼げないバンドならどうだろう。最初こそ友人らを誘ってノルマ達成もできるだろうが、回を重ねるごとに動員は下回る。そのため70人ノルマで50人しか呼べなかったりする。


ではノルマを達成できなくなるとどうなるか。そう。もうお分かりだろう。バンド側が自腹で補填するのである。


これこそが『ライブハウスの闇』というべき部分だ。僕自身動員が全く稼げないバンドを組んでいた頃(下画像参照)、1回につき1~2万円近くの場代を支払ってライブをすることもあった。結果的には解散に至ってしまったが、それには経済的な理由も大きかった。「こんな生活続けたら絶対に死ぬな」と当時は思ったものである。

 

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しかしながら、神聖かまってちゃんは当時の僕のようは無名バンドとは違う。なぜなら彼らはメジャーデビューを果たしている。今までに9枚のアルバムを発売。アニメや映画のタイアップも多数。年に数回大規模なツアーを全国規模で開催し、最近では自身が発起人となったフェスを主催するほどに、抜群の知名度と行動力を併せ持ったバンドなのだ。


そんなメジャーバンドである彼ら(ちばぎん)が、はっきりと「お金がない」と語った。それはバンド業界の悲しき現実を浮き彫りにしたようでもあり、今の音楽市場へのSOSを発信しているかのようでもあった。


もちろん、今回僕が記したことは世のバンドマン全てに当て嵌まるわけではない。ノルマがないライブもあるし、爆売れしていないバンドは全て金がないというのはいささか間違っていると思う。


だが現実問題として、大半のバンドは稼げていない。アルバイトで生計を立てながらバンド活動を行う人が多いが、バンドの年月が経つごとに正社員との収入格差や自身の年齢に悩み、苦しみながら頑張ってバンドを続けているのだ。


僕は今以上に世の中に、そういった一面を知らしめる必要があると思う。皆バンドマン(ミュージシャン)に夢を見すぎている。盲目になりすぎるあまり、その裏側に潜む事実を知らないままに「ミュージシャン憧れる!」と語っている。


今回は自分自身の経験とちばぎん脱退理由を照らし合わせてバンドマンについて記したが、漫画家、小説家、プログラマー……。何でもそうだろうが、『自分の夢』を叶えるのは最も難しい道程なのだと今一度理解してほしい。もしも浅はかな考えで夢(特にバンドマン)に片足を突っ込みかけている人がいるならば、じっくり熟考してもらいたいと思う次第だ。