こんばんは、キタガワです。
昨今の音楽業界はヒップホップや4つ打ちロック、EDMといったジャンルが幅を効かし始めている。それこそかつては見向きもされなかったジャンルが、時代の変化を象徴するかの如く表舞台に立つようになった。
そして逆に言えば、数年前ならば売れ線だ流行りだと持ち上げられていたジャンルにおいては、今のご時世、ほとんど見なくなってしまった。
その中のひとつが『パンク』である。
今やパンクの意味もわからない人もいるかと思うので説明すると、物凄く雑に言うなら『バカでかい音でギャンギャン鳴らす泥臭いロック』のことである。歌詞も楽曲構成も至ってシンプルで、基本的にはボーカルとギター、ベース、ドラムがいれば成立する音楽のことだ。銀杏BOYZやHi-STANDARD、ガガガSPと同様のイメージと言えば伝わるかもしれない。
それこそ数年前のロックシーンは、パンクが中心だった。実際売れていたバンドの中にはパンクバンドも多かったため、僕が中学生だった頃なんかは偏差値の低いようなパンク(失礼)を聴きまくっていたのを覚えている。
しかしながら、前述したように現在ではパンクバンドブームはすっかり下火になり、いつしかほとんど見かけなくなってしまった。
そこで今回はパンクの勢いを再び取り戻すべく、パンクバンドの紹介をしたいと思う。更にはただパンクバンドの紹介をするだけでは面白くないので、パンクバンドの中でもさらに競争が少ない『女性ボーカルのパンクバンド』を取り上げてみたいと思う。
過激な歌詞もエロも、性別を感じさせないライブパフォーマンスも。パンクはパンクにしかない魅力が秘められている。今回はぜひそんな若きバンドたちを知ってほしい。
それではどうぞ。
スカートの中
「お前の汚いケツの穴に東京タワーをぶちこんで、痔になる瞬間見ててやるよ。私は紅茶飲みながら」……これは下記に載せている『逆立ち女』という楽曲の出だしの部分である。この歌詞を聴いただけでもゾクゾクしないか?
名前は『スカートの中』という。バンド名からしてパンク感が溢れているが、驚くべき点は彼女らは当時、現役高校生だったということだ。
高校生というのは総じて多感な時期である。恋愛、家族間の衝突、人間関係、夏休み、期末テスト、部活……。今大人になった僕たちならばわかるはずだ。あの頃の高校時代は間違いなく一番輝いていて、同時に悩んでいた唯一無二の時期であると。そんな時期に彼女たちは、パンクバンドを組むことを選んだのである。
音源を聴くと音は荒いし演奏も雑。歌声もメンバー全員でがなり立てるものが多く、決して誉められたものではない。しかしながら「知らない誰かとセックスしてる?」と叫び倒す『妄想彼氏』、「クソ男」や「ヤリチン」の過激な言葉の応酬でもって女性同士の陰口に焦点を当てた『陰口叩く!!』、初めてできた彼氏の“行為”に期待する『カラフルパンティーガール』など、描かれるのは女子高生の決して表沙汰にはならないリアルである。
個人的に、今の流行りの音楽は綺麗すぎると思っている。心が温まるメッセージソングや純情な恋愛描写、果てはリスナーへの感謝の言葉?そんなものは全部フィクションじゃねえか。この世で一番クソッタレで綺麗なのは、ノンフィクション。一切脚色されていない現実こそが、最も如実に感情を揺さぶるツールなのである。それをこのスカートの中は体現している。
残念ながら彼女らの高校卒業を境に、2012年に解散した。現在までの音源はファーストアルバム『ちこたん』のみである。今からでも遅くはない。気になった人は聴くべし。
日本マドンナ
plenty、真空ホロウらを輩出したロッキングオン主催のオーディション、『RO JACK』にて、最年少優勝(当時は高校生)を果たした日本マドンナ。
かつて日本マドンナ再結成の記事を書いた(当時はボーカルのあんな氏にリツイートしていただきました。本当にありがとうございます)くらい、僕は彼女らのファンである。なぜファンになったのかと言えば、彼女らの特徴であるそのストレートな歌詞に魅了されたからだ。
「村上春樹を読みました 何だかとってもつまらない 日本一の作家かよ 何だか酷く残念だ」と痛烈なディスを撒き散らす『村上春樹つまらない』、女性に月に一度訪れる地獄を歌う『生理』など、彼女らの歌詞には直視できないほどの破壊力が秘められている。
現代社会は生きにくい。ことコミュニケーション最優先の日本では、自分の本音を隠し続けることが美徳とされている。嫌いなやつにもおべっかを使い、周りに合わせて話を作り上げ、笑顔を貼り付かせて生きている。……でもそれってどうなんだろう。
僕自身そういった事実に辟易し、誰とも関わらないための手段としてブログをやっているのだが、おそらく彼女らがバンドを続けている理由も同様の意味合いなのだろうと推測する。
彼女らは一度活動休止して社会人となった後、再びバンドとして活動しようと決めた。彼女らは挫折も葛藤も、社会で生きることの諦めも知っている。だからこそ僕らのような社会不適合者には必要なのだ。ストレートに社会への意見を発する、日本マドンナのロックが。
ミドリ
言わずと知れた女性パンクバンドの金字塔。「パンクバンドを知らない」という人でも、彼女らの名前くらいは知っている人も多いのではないだろうか。
特に結成初期のミドリはあまりにも衝撃的だった。セーラー服でステージ上を縦横無尽に駆け巡り、マイクで額を殴り付けるボーカル後藤まりこには、心底驚いたのを覚えている。
彼女らのサウンドはパンクにジャンル分けされることが多いものの、実際はプログレ、ジャズ、ハードコアと、雑多なジャンルを網羅するクリエイティブバンドである。ひとつのアルバム取っても、様々な音楽が鳴っているので聞き応えがある。
しかしながらライブにおいては、完全なるパンクバンドなのである。下の動画では客席に飛び込んだり流血したり、果てはセーラー服を脱いで下着姿になるなどやりたい放題。中には履いていたパンツを脱いで振り回す動画もあったりして、「そう、これがパンクなんだよ!」と言いたくなるほどの魅力に溢れている。
そんなミドリは残念ながら2010年に解散。「解散って言ったのはチケットが売れなかったからや」とライブ中に後藤が語っているが、いかにもミドリらしい幕切れと言える。「これは僕の投身自殺や」と語り、直後にフロアにダイブした後藤の姿は、何年経っても忘れることができない。
Midori [ ミドリ ] Hatsutaiken Live at Hibiya Yagai Ongakudo, June 6, 2009 FULL
385
サイケデリック・パンクバンド。名前を385(さんはちご)と言う。
ボーカル兼ベースを務めるMIYAは、現在は向井秀徳のバンドであるZAZEN BOYSのメンバーとしても活躍している。このことからも分かる通り、385のサウンドの中核を担っているのはMIYAの恐ろしいまでのスラップベースである。
『スラップベース』というのは、本来指やピックで弾くべきベースの弦を、指の腹で叩きつけたり引っ張ったりして音を出す奏法のことである。この奏法のメリットは音が大きく迫力のあるものとして伝わること。そのためベーシストの大半が挑戦するのだが、ほとんどが挫折する。それはこの奏法の難易度が、非常に高いからだ。
しかしMIYAは、このスラップを歌いながらやる。もうそれこそベインベイン鳴るので、曲を聴いていても「うおお!」となること請け合い。スラップを駆使しながら壮絶なシャウトをかまし、髪をブンブン振り回すMIYAに酔いしれるといい。
385の編成にも注目したい。何とベース、ドラム、キーボードの3人しかおらず、本来バンドサウンドの中心にいるはずのギターは一人もいない。こんなのモーモールルギャバン以外に見たことない。
……だからこそスラップベースが映えるのだろうなと思う。解散や活動休止はしていないものの、活動ペースはあまりにもマイペース。いつかライブを観てみたい。
The xxズ
The xxズ。読みは『ザ・チョメチョメズ』である。以前『エロいアーティスト写真を集めてみた』という記事で、乳首をモロ見せしたなつみ嬢の姿について取り上げたのだが、今回はそのサウンドに注目したい。
The xxズの魅力はそのパンクサウンドにある。古き良きパンクというか。主に男性パンクバンドが行ってきたサウンドを、彼女らは見事に体現している。The xxズを聴いていると、やっぱり女性ボーカルのパンクは新鮮に感じるなとも思ってしまうのだが、そこがいい。それがいい。
コード進行も単調(同じフレーズの繰り返し)だし、歌詞も分かりやすい。しかしながらこれが本来のパンクなのだ。「米がないならフカヒレ食えよ」と歌う『平成のアントワネット』しかり、一見バラードかと思いきや後半からは一転してどしゃめしゃのサウンドに変貌する『裸でエレクトリックギター』しかり。パンクバンドのお手本とも言える作りに脱帽である。
ライブにおいても書いておきたい。服がヨレヨレになってブラジャーがあらわになったり、何度も絶叫する姿は数十年前のパンクバンドそのもの。それを10代の時点でこなしているのには驚き。
しかし2013年に無期限活動休止を発表。セカンドアルバム『POP TOWN』から「なつみが美しい!」というようなことを音楽雑誌等で言われるようになってから嫌な予感はあったが。現在ボーカルであったなつみ嬢が刺繍展を行っていることや、他のメンバーは別のバンドに所属していることを鑑みると、再結成はかなり先か、最悪ほぼないと考えて良さそうだ。
The Mash
公式プロフィールには『20歳が叫ぶ、最もイケて、“最も見苦しい”ロックンロール』と記載されているのだが、ライブを見るとまさにその通り。おそらく2019年現在、サウンドで言えば最も泥臭いロックを鳴らしているバンドであると思っている。
彼女らの楽曲は、The MashのサウンドはKEYTALKや[ALEXANDROS]といった売れ線のキラキラしたロックとはかけ離れている。ギター主体の、ロックにハマった昔の年代の人にとっては「ああっ」と懐かしさを覚えるサウンド。意図的に荒い音質にしているのも、昔のロックバンドへのリスペクトの思いもあるのだろうと推測する。
ボーカルのHALはかつて『ミスiD2017』で受賞したほどに美しいのだが、そんな彼女がギターを抱えてまるで80~90年代のようなロックを鳴らす姿にも痺れてしまう。
これを聴いて心に刺さらない奴らは、ちょっとどうかしている。素直に米津玄師や三代目 J Soul Brothersでも聴いとけばいいんじゃないか?そう思えるほどの良曲のオンパレード。ぜひこのまま、形を変えずに突き進んでいってほしい。
The Mash "最終回" (Official Music Video)
さて、いかがだっただろうか。
調べた結果分かったのは、現代に若い女性パンクバンドはほとんどいないという悲しい事実だった。
今回取り上げた中で今でも第一線で活動しているのは日本マドンナとThe Mashくらいで、他は全て活動休止や解散に追い込まれている。中にはThe xxズのように前のアルバムから大幅に方向転換して『美しいボーカルが歌うポップス』に振り切ったバンドもいるほどだ。
要はそれほど今のご時世、パンクは売れないのだと思う。かつて一世を風靡したパンクバンドもライブ動員はどんどん減っているそうだし、CD売り上げも他バンドと比べて恐ろしく低いそうだ。アニソンやYouTuber、歌い手などがチャートを独占している現状からも、それは明らかだ。
そしてもっとキツい言い方をするならば、女性のパンクは特に望まれていない。暗黒大陸じゃがたらやつしまみれといった女性パンクバンドが栄えたのはもう30年近く前のこと。いくら男女平等を掲げたところで、日本では「女性=事務職」や「女性=○○すべき」といった風潮は未だ拭いきれていない。それと同じで、おそらくパンクに関しても「男がやるべき」という色眼鏡が少なからずあるのではないかと思う。
おそらくは今回挙げたバンドも、儲かっているかと問われれば間違いなく「ノー」と答えると思う。
しかし、しかしだ。パンクバンドを求めている人も絶対にいるはずなのだ。僕のように街中で流れるようなホワホワした音楽に辟易しながらも、たまにパンクを聴いては心踊る人も少数派ではあるが、必ずいる。
そしてその中には女性パンクバンドを聴いて、男性にはなし得ない声の魅力やその全身全霊っぷりに心打たれる人もいるのだ。絶対。
なのでもし今回の記事で気になったバンドがいれば、CDを買ってほしい。レンタルでもいい。もっと魅力を知ってほしい。
そしてもしこの記事を読んでいる該当のパンクバンドの人がいるならば、一言だけいいたい。絶対に辞めないでほしい。何なら僕は島根県在住だが、「ライブの記事を書いてくれ」という依頼があるなら、あなたたちの魅力を発信するために喜んで飛んでいく。それほど今回紹介したバンドは大好きだし、一生聴き続ける自信がある。だから辞めないでくれ。ずっとその泥臭い男勝りなサウンドを鳴らし続けてほしい。
……パンクバンドの時代はもう来ないかもしれない。過去の栄光かもしれない。しかしパンクバンドは消えない。そう確信している。
それでは。