こんばんは、キタガワです。
『賭博黙示録カイジ』のスピンオフ漫画である『1日外出録ハンチョウ』の5作目となる作品が、先日1月4日に発売された。
さて『1日外出録ハンチョウ』といえば、カイジがチンチロリンの闘いの末に撃破した、ハンチョウに焦点を当てた漫画。この漫画がウリにしているのは、何といっても飯テロ描写……すなわち食事シーンが多いことだった。
そもそもなぜハンチョウがそういった飯テロポジションを確立したのかというと、本編において酒とつまみの誘惑に抗えないカイジに対して、口八丁手八丁で背中を押す場面があったからだ。そこからのカイジの豪遊シーンが評判を呼び、結果的に漫画の売上に貢献した。そのためいつの間にか『ハンチョウ=飯』というイメージが定着し、このスピンオフ漫画の製作に至った。
……そんな『1日外出録ハンチョウ』では、常にハンチョウの普段の食事シーンに重点を置いていた。1巻では酒を飲めないサラリーマンを尻目にビールをかっ食らい、屋台で豪遊し、オムレツライスを「くぅー!うまっ!うまっ!」と食べる様子が描写され、いつしか『今世紀最大の飯テロ漫画』と噂されるまでに、確固たる地位を築き上げた。
しかしながら今作は、いつものイメージで購入すると「あれ?」と疑問に思うかもしれない。
今作で特徴的なのは、何といってもそのストーリー転換である。『THE 飯テロ漫画』というべき過去作から考えると、第5巻となる今作においては飯テロ描写は極端に減り、純粋なストーリー漫画として方向転換したようにも思える作りとなっている。
更には普段なら1話完結が定石だったにも関わらず、今回はまるでSteins;Gateに着想を得たようなループものが3話連続で展開したり、それ以外にもぬかや糀(こうじ)といった発酵食品のコアな層向けの話や、『カメラを止めるな!』といった映画作品にまで派生。およそ飯テロ漫画としての現状を吹き飛ばすかのような、雑多な内容で進行していく。
おそらくはこの巻を読んで「今までよりも微妙だな」と感じる人も多いと思う。飯テロを期待している人なら特に。
しかしながら、僕はこの5巻を評価したい。その理由はひとつ。全体通して『読者が入り込みやすい』のである。
例えば序盤の、沼川が味噌汁にキャベツを投入し、それを嘲笑されたことに憤慨した沼川が拗ねてしまう場面。「30歳を越えた大人が拗ねると面倒くさい」という部分に焦点を当てたこの話は、大人になった僕らなら誰しも「あるある!」と笑ってしまうリアリティーがある。自暴自棄になり、全てのことに対して「別にどうでもいい……」というオーラを醸し出し、子どもであればすぐ機嫌が直るものを、『大人は1日経っても引きずってしまう』という部分を忠実に描いている。
片や映画のネタバレを極端に拒んでなるべく話題にすら上らないような場所で時間を潰したり、ふらっと点けた高校野球に一喜一憂する……。
それは今まで語られてこなかった、僕ら大人の何ら着色していないリアルである。だからこそこの第5巻は、今まで以上に入り込みやすい。飯テロシーンは少なくなったが、それを補って余りあるほどのエンターテインメント性が盛り込まれているのだ。
だからこそ声を大にして言いたい。これは飯テロの殻を破った意欲作であると。マンネリ化しがちな展開をあえて打破し、新たな可能性を見せてくれた今作はやはり面白かった。個人的には同じヤングマガジンで連載中の本家『カイジ』より、遥かに面白いと思っている。
買おうかどうか悩んでいる人がもしいるのなら、僕ははっきりと「これは買いだ」と言う。それほどの傑作であった。ぜひ。