こんばんは、キタガワです。
前回は『第一章についての紹介』を行った。今回はその続きである『第二章』について、分かりやすくまとめたいと思う。
さて、前回述べた第一章の内容は以下の通りだ。
・今の世界は「使っても良い」と認められた言葉(テンプレート言語)しか使えない決まりがある・決まりを無理して、自由に言葉を使う集団『言葉ゾンビ』がいる
・『言葉ゾンビ』に対し、彼らを探し出して“教育”する集団『新言語秩序』がいる
・主人公の実多は『新言語秩序』の仲間。幼い頃父親に暴言を吐かれたりレイプされた経験から、『言葉ゾンビ』を全員殺したいと思っている
これを踏まえて、第二章を書き進めたいと思う。
それではどうぞ。
“新言語秩序”は私のような人間の集まりだ。
“新言語秩序”は、初めは過激な発言を注意する程度の活動だったが、今では多くのボランティアが日本中で活動している。
今では、私たちの活動は“国民に広く受け入れられている”*1。警察と“新言語秩序”が作ったテンプレート言語矯正プログラム“再教育”*2も行われ、最近では小学校から高校までの授業にも、『テンプレート言語教育をやるべきでは?』という話があるくらいだ。
今ネット上の多くの表現は、とある企業によって初めから監視されており、『見ること』自体に大きな制限がかけられていた。それに対して言葉ゾンビたちは“制限を解除するアプリ”*3を配っていて、お互い決着がつかない状態だった。
『日本の良さを踏みにじるバカどもめ』
とまとめサイトに書いた十四歳の若者は、“再教育”されて、見事なテンプレート言語を身に付けて生まれ変わった。
『今の政権は狂った宗教のようだ』
とライブハウスで叫んで捕まった“希明”*4は、今日からまさに“再教育”される。
通報があったライブハウスに着くと、すでに入り口はバリケードテープで閉ざされていた。数人の男たちに取り押さえられた希明は、深く被ったパーカーのフードを振り乱して叫んでいた。
「この“言葉殺し”*5どもめ」
その声と目つきは、怒りに震えていた。
彼は路上の落書きやネットの書き込み、音楽や本など、言葉を使った様々な“テンプレート逸脱”活動をしていた。彼こそが多くの仲間を生み出した言葉ゾンビの若き活動家、希明だった。
このままではどんどん仲間を増やし、過激な行動をしかねない。そのため“新言語秩序”は彼を拘束することに必死だった。
「おい女。お前も言葉殺しか」
彼の角が、私に向いた。彼は口を開く度に“テンプレート逸脱”する。
「やっと捕まえましたよ希明。“再教育”を受けてもらいます」
彼の角には価値があった。この角をへし折って、今後活動させないようにするのが、私のやるべき行動だ。
彼は諦めたかのように見えた。だが彼は連行される際、ひとつの言葉を残した。
『言葉を取り戻せ』
彼がそう言った瞬間、ライブハウスにいた若者たちが声を揃えて叫びだした。
「言葉を取り戻せ!」
「言葉を取り戻せ!」
「言葉を取り戻せ!」
その言葉は仲間たちの怒りを、さらに大きくさせた。希明の仲間は私たちをあっという間に取り囲み、暴力を振るった。私は若い男に馬乗りされ、頬を殴られた。
一発。二発。三発。四発……。
私はポケットに手を突っ込み、持ち歩いていたナイフを握った。しかしその時、外で待機していた“新言語秩序”のメンバーが助けに入ったため、結局ナイフを使うことはなかった。
私にはその騒動の全てについては分からなかったけれど、頭の中で殴られた数を数えながら、父親のことを思い出していた。
痛みも、屈辱も、もう感じない。ただこの嵐が過ぎるのを待ちながら、父親が苦しんで死ぬ場面だけを想像した。
私は父を殺さなければならない。
私は言葉を殺さなければならない。
十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七、十八、十九、二十、二十一、二十二、二十三……。
[了]
さて、いかがだっただろうか。
第二章では、主に言葉ゾンビの中心的人物である希明の存在と、『言葉ゾンビ』と『新言語秩序』の抗争について描かれている。
まず冒頭では、ふたつの組織が非常に大きなものであることが分かる。僕は前回『ソ連や北朝鮮のようだ』と表したが、まさにそのイメージ。自由に言葉を使いたい『言葉ゾンビ』と、それを許さない『新言語秩序』。これらは真っ向から対立し、被害を拡大させている。
そして言葉ゾンビの主導者である希明は、新言語秩序に捕らわれの身となった。逆に実多は、言葉ゾンビの反撃を受けて暴行を振るわれてしまう。そのとき頭を支配していたのは、自分をレイプした父親の顔だった。ちなみに希明の「おい女」という発言から、主人公である実多は女性だということが初めて明言された。
さて、ここでひとつ考えてみてほしいことがある。
もしあなたがどちらかの組織に属さなければならないとしたら、どちらを選ぶだろうか?
言葉を自由に使える『言葉ゾンビ』と、ニュース番組で使われるような、キッチリした言葉しか使えない『新言語秩序』……。
答えは明白。全員が『言葉ゾンビ』と答えると思う。
さて、amazarashi側から配布されたとあるアプリをご存じだろう。大事なのはこの後。皆さんはこの第二章、どんな方法で読んだだろうか。
思い出してほしい。閲覧には制限がかけられていなかったか?そして、あなたはそれを『解除』しなかっただろうか?
第二章では『言葉ゾンビたちは制限を解除するアプリを配っていて~』と記されている。
そう。おそらく今の僕たちは『言葉ゾンビ』側の人間なのだ。つまり、新言語秩序と実多とは敵対関係にあると考えられる。
ここでもうひとつ。先日『リビングデッド』のPVが公開された。この曲は武道館公演のテーマ曲となっているにも関わらず、ちょっと異質な方法で観るようになっている。
amazarashi 『リビングデッド(検閲済み)』Music Video | 新言語秩序 テンプレート言語矯正プログラム
上に挙げた『リビングデッドの』PVは、聴いてもらうとわかるが全く意味不明なものだ。歌詞は新言語秩序によって変貌し、メロディはグシャグシャ。秋田ひろむの「クソ喰らえ」という声だけが鮮明に聞こえるばかりで、ただの雑音だ。
これをアプリで開くと、検閲が解除された状態で見ることができる。観た人なら分かるが、かなりショッキングな内容である。
内容をざっくり書くと『新言語秩序によって言葉ゾンビの誰かが“再教育”される様』について描かれる。“再教育”される誰かは、頭を振り乱し、叫び、暴れている。
そして“再教育”する側は、薄ら笑いを浮かべた女性……。
……何かが見えてきた気がしないか?でもまだはっきりとは分からない。次回は第三章。ご期待ください。
→第三章はこちら
→最終章はこちら
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