こんばんは、キタガワです。
「甘いもん食いてえ……甘いもん食いてえ……腹一杯食いてえ……」
人間はみな、脳内にとある悪魔を飼っている。彼の名は『スイーツ・デビル』。普段はおとなしく眠りについているが、ふとした瞬間に目覚め、スイーツを求める邪悪な存在である。
特に理由もないのに、無性に甘いものが食べたくなることはないか?カロリー表記を悉く無視し、コンビニでアイスクリームやポッキー、シュークリームをバカ買いしたことは?
そう。人間の大半は気づいていないが、それらは全てスイーツ・デビルがもたらした思考なのである。
我に返ったときにはもう遅い。辺りには大量のお菓子の袋が転がり、体重は激増。一時の快楽に身を任せた後悔から、人間は一様に頭を抱える。それを見ながらスイーツ・デビルは笑みを浮かべ、またひっそりと眠りにつくのである。
……前述したように、スイーツ・デビルは誰の脳内にも潜み、思考を操作する悪魔である。それは毎日夜食と称してチョコクッキーを貪り、それを肴にアルコールをあおる自堕落な生活をしているキタガワにも、同様に訪れるのであった……。
10月某日、僕の脳内はスイーツ・デビルの温床と化していた。
今年で24歳になる男からは本来決して出ないであろう、最近のJKが憑依したような言葉の数々。無論それらはスイーツ・デビルがもたらした思考であるのだか、次第に僕は我を忘れつつあった。
「ア"……ア"……ズイーヅがだべだい"……」
人格さえも変えてしまうのがこの悪魔の恐ろしいところである。これはマズいと察したのだろう。まるで女神転生の悪魔属性のやつのような発言を繰り返す僕を見かねて友人が誘ってくれたのは、島根県松江市にあるホテル一畑の、ケーキバイキングだった。
ケーキバイキングとは、限られた時間内であればスイーツが食べ放題という、夢のようなサービスである。ちなみにこのケーキバイキングはかなりの人気のようで、チケットにも『完全予約制』の文字が踊る。そんな貴重なチケットを握り締め、僕らはホテル一畑の内部へと足を踏み入れた。
バイキング会場付近は、なかなかの混雑ぶりだった。周囲はカップルや親子連ればかりで、この非現実的な環境を体現しているようだ。途中俺らは男ふたりで何をやっているんだという思いもチラついたが、来てしまったものは仕方ない。
中に入ると、結婚式の披露宴や大学の卒業パーティーのような様相だった。ところ狭しと机が配置され、部屋の中心には大量のスイーツが鎮座。この光景には、正直テンションが上がった。僕らは今からここで1時間半、至福の時間を過ごすのだ!
僕らの席までは、スタッフの人が案内してくれるようだ。意気揚々と案内された席に向かうと、
えっ
何このモヤモヤした配置。本来このテーブルは5人とか6人とか、それくらいの人数で囲むようなもののはずである。何この……ぼっち感。
時計で言うところの3時までの範囲しかいらない。いや、ここに座るのがカップルとかだったらまだ良い。今日ここに座るのは、ガチガチの男ふたりなのだ。めちゃくちゃ目立つ。
中央の『♥️』が哀愁を誘う。
さて、ここからは待望のバイキング開始である。まずはババロアを攻めることに。
そもそも『ババロア』の意味が分からなかったので調べてみると、要するに『プディングです』とのこと。この瞬間「いや、プディングって何よ?」という新たな疑問が生まれたため、考えるのをやめる。ひとついただく。
いろいろ見て回ったが、『THE うまいやつ』とばかりにカタカナだらけのスイーツがこれでもかと置いてあった。適当に見繕って取る。
さて、こちらが1周目の皿である。真っ昼間にスイーツを山ほど食べれる感動。もちろん味も最高で、食べている間は終始「ウマーベラス、クウー!」という川平慈英のモノマネをしたり、ふいに脳内に『おっぱい』の単語が出たり消えたりするほど、理性を失っていた。
肝心のスイーツ・デビルだが、大満足のご様子だった。まるでエサを与えた後のネコのように沈静しており、心から「来て良かった」と思った。
さて、2周目も同様にスイーツのみでお送りしたのだが、やはり甘いものばかり食べていると塩気のあるものを欲してしまう。何かないかと辺りを見回すと……。
あった。
甘いものだらけの空間の中、ポツンと置かれたカレーとナポリタン。「食べてくだせえ」と言わんばかりの立ち位置。お前たち、さぞかし辛かったろう。お前らだって食べられたいよな。うんうん。
食べますとも。
結果的には2杯食べた。純粋にうまかったのもあるが、何より『この環境下でカレーを食べている』という背徳感がエグい。隣の友人がスイーツの食べ過ぎでダウンする中、僕はカレーをバカ食いしていた。もう一度確認しておくが、ここはケーキバイキングだ。
お互い腹いっぱいになり、各自ツイッターやFGOをやり始めたころ、ついにタイムアップ。最終的にはかなりの量のスイーツを食べた上、カレーまでいただくという完璧な時間を過ごすことができた。
気付けばスイーツ・デビルはすやすやと寝息を立てていた。我々の完全勝利である。
こうして戦いは終わった。1時間半の壮絶な死闘の末、ついにスイーツ・デビルの撃退に成功したのだ。僕たちは晴れやかな顔で、ホテル一畑を後にした。
機会があれば、また行きたいものである。願わくば、スイーツ・デビルがまた目を覚ました頃に。
ちなみに余談だが、友人はその後スイーツが腹にたまに動けなくなり、僕はバイトで死にそうになっていた。
結論・スイーツデビルは一生寝とけ