こんばんは、キタガワです。
『羊と鋼の森』という名前が話題になったのは、2年前のこと。
宮下奈都氏の小説であるそれは、ある時期を境に多くの書店で平積みされるようになった。その理由が『本屋大賞』である。
本屋大賞とは要するに『書店員が選んだ一番オススメしたい本』という意味である。受賞の有無が売上に直結するのはもちろん、歴代受賞作で言うところの『海賊と呼ばれた男』、『64』、『舟を編む』などのように、後に実写映画化がほぼ確約される重要な賞だ。
『羊と鋼の森』はそんな2016年度の本屋大賞で堂々の1位を獲得した作品なのだ。
大賞最有力候補と言われていた『君の膵臓をたべたい』を抑え、トップに君臨したこの小説は、たちまち有名になった。重版がかかり、『本屋大賞1位!』のポップが各書店にずらりと並べられた。
まさに2016年の小説業界は、『羊と鋼の森』の年であったと言えるだろう。
……で、今回の実写化である。
えもいわれぬ人気作の実写化とあって、そもそものハードルが高く設定されていたと思うのだが、個人的に実写化に際し、気になる点が2つあった。
ひとつ目は『主演である山崎賢人の危惧』。ふたつ目は『調律というテーマの描きかた』である。
まず、ひとつ目の点から見ていこう。
ネット上でも予告の時点で「え?山崎賢人?」と思った人はいるだろう。山崎賢人と言えば、ラブコメ映画の主演を多く務め、テレビに出ればキャーキャー言われるイケメン俳優。まあ容姿に関しては非の打ち所がないと思っているのだが、問題は彼の出演する作品にあった。
こんなことを書くのは申し訳ないのだけれど、彼主演の映画はいわゆる『駄作』の烙印を押されることが多かったように思うのだ(僕が個人的に観た作品で言うと、『氷菓』や『リアル鬼ごっこ3』がそうだった)。
なので世間的には「山崎賢人が主演=地雷」という声も、少なからずあったのではないかと想像する。
だが今回の『羊と鋼の森』に関しては、良い意味で予想を裏切られた。全くの杞憂でした。すいません。
山崎賢人演じる外村は、とにかくネガティブな性格の持ち主。上司に怒られまいと些細なこともメモし、「すいません」と繰り返す。しかし、調律に関しては明確なやる気を見せる。そんな人物だ。
山崎賢人はそんな癖のある外村を、うまく表現していた。
声の出し方(吃音)、仕草。それらの行動全てが外村のキャラクターとして、うまく昇華されていると感じた。山崎賢人、恐るべし。
次に、調律の件について。
大きなグランドピアノを分解してチューニングしたり、悪い部分を直すのが調律師の仕事なわけだが、とりわけ小説版は描写が細かかった。
一つずつ鍵盤を確かめる描写なんかは特にそうだが、『調律』という一連のテーマをどう映像で魅せるのか、気になっていた。
で、実写化。実にうまい描写が続くので見やすかった。まるで楽器が生きているかのような、躍動感と迫力溢れるピアノ。加えて調律前と後の比較が、伸びやかな音でもって鮮明に理解できる。
これは『調律』というテーマそのものに言えることだが、非常に実写化に向いていると感じた。
6月に入ってから多くの映画レビューを書いてきたが、今作は『友罪』、『万引き家族』と比べると大衆向きな作品だと思う。どちらかと言うと『恋は雨あがりのように』寄りの一般受けする作品かと。
物語の起伏もはっきりしているし、『調律師』という難解なテーマながら、ストーリーは極めて分かりやすかった。小説版も良かったが、実写もなかなか良かった。
この映画、ぜひ高校生、大学生に見て欲しいと心から願う。夢を持っている人。夢破れた人。夢が今ない人。
自身の将来について考える年頃の人には、必ず得るものがあるはずだ。加えて、クラシック音楽が好きな人やピアノの演奏経験がある人もマストだ。
どんな終幕を迎えるのか。意味深なタイトルは何を意味するのか。ぜひ劇場で確かめてみて欲しい。それでは。