全裸だと寒い季節になりましたね。
『そりゃそうだ』という話をしたいと思う。
10月某日、僕は夜道を歩いていた。
最近、ついていないような気がする。仕事の効率は相変わらず悪いし、上司が怒る回数も増えた。果てはコミュニケーション能力の低さから、社内での立ち位置も定まらない状態にある。
そのときは「辞めたい」、「会社に火を点けたい」などの考えは抜け落ちていて、「どうしたもんかなあ」という漠然とした思いが、頭の中を支配していた。
現状を打破する何かが転がってないだろうか。今まで何百回とした妄想を、再度脳内で構築する。
で、結局何の解決にもならず。耳元で流れる音楽だけが、やけにやかましかった。
ふと、道の端に目を向ける。
一匹の白猫がいた。生後何ヵ月かは分からないが、体はかなり小さかった。
猫は、僕を見るなり「ミィー」と鳴いた。
そして、ゆっくりと近づき、僕の周りをぐるぐると回り始めた。ズボンを引っ掻いたりもしている。
その姿は、妙に愛らしかった。
僕は一言「おいで」と言うと、猫の側に膝をついた。
待ってましたとばかりに膝に乗るネコ。
いつの間にか、悩みは消し飛んでいた。
実は、僕は重度の猫アレルギーである。そのため本来は触らないのだが、この日は特別な気がした。
なにせ、辛い思いを抱えている僕を励ますかの如く「ミィー」と鳴くのである。優しさを無下にして突き放すのは、それこそ愚かな行為だと思った。
猫の頭を、そっと触った。猫はごろごろと喉を鳴らしながら、さらに深く膝にうずくまった。
いつまでそうしていたのだろう。
気付けば、かなりの時間が経っていたことに気付く。
名残惜しいが、別れの時間だ。
僕は「ありがとね」と一言言うと、猫から離れて歩き出した。
すると、後ろからまた鳴き声が聞こえた。
「頑張れよ!」。そう言っている気がした。
さらば、猫。どこかでまた会おう。そんな期待を込めて、僕は大きく手を振った。
耳元では、シャッフル再生された曲が流れていた。
君らは君らしく生きていく自由があるんだ
大人たちに支配されるな
はじめからそう諦めてしまったら
僕らは何のために生まれたのか?
[サイレントマジョリティー/欅坂46]
僕はいつになく晴れやかな気持ちで、帰路についた。
次の日。
顔は真っ赤になりましたとさ。
そりゃそうだ。