キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】続ける美学 〜でんぱ組.inc『Dear☆Stageへようこそ2021』ライブレポート〜

『でんぱ組.incが10名体制に』……。同会場にて行われた久方ぶりの有観客ライブ『ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! ~バビュッといくよ未来にね☆~』のアンコールで発表され大きな話題を呼んだニュースから早3か月。新体制になったでんぱ組.inc初のワンマンライブ『Dear☆Stageへようこそ2021』が満を持して開催された。


定刻を少し過ぎて暗転すると、突然バックで流れ始めたのはこの日を象徴するナンバー“Dear☆Stageへようこそ♡”。世紀末の世の中、冴えないサラリーマンである田中(仮名)がディアステージ(でんぱ組.incがかつて活動拠点としていたライブバー)に辿り着くまでの語りが続く中、スポットライトが突如照らしたのは最年少14歳の新メンバー・高咲陽菜で、そのストーリーに沿うようにステージ上を彷徨い歩いている。観客の誰しもが高咲に目を凝らすのも束の間、メンバー全員による「ディアステージへ、ようこそー!」との声が響き渡ると、ステージが点灯。そこには高咲の他、お馴染みのメンバーである相沢梨紗、藤咲彩音、鹿目凛、根本凪に加え[注:古川未鈴は産休のため欠席]、新メンバーの愛川こずえ、天沢璃人、小鳩りあ、空野青空がお目見え。アイドルのライブに相応しい、キラキラとした雰囲気で会場を彩っていく。


“Dear☆Stageへようこそ♡”は今までのでんぱ組.incのライブでも幾度となく披露されてきた楽曲ではあれど、一挙増員し10名体制(この日は9人体制)となった大所帯でのダンスはやはり壮観で、目にも楽しい。サビ部分では多数のペンライトが掲げられたが、その中には早くも新メンバーのカラーに染められたものも多々。後のMCにて新メンバーの面々は、ライブ前に新体制初のライブであることに対して「緊張していた」と口々に語っていたけれど、蓋を開けてみれば全くの杞憂だ。ここまでの親密な関係性はこれまで変化を続けながら突き進み続けてきたでんぱ組.incだからこそで、この時点でライブの成功はほぼ確定したと言えよう。


10名の新体制となった一発目のワンマンライブである関係上、今回のライブで誰しもが注目していたであろう事象は大きくふたつ。ひとつは既存曲の数々がどのようなアレンジで披露されるのか。そしてもうひとつは、新たなでんぱ組.incそのものの是非である。そのうち後者は言葉を選ばずに言えば、よもやの発表で多くの混乱も生んでしまった故に、今後長く活動を続けるためにこの日はある種の『説明義務』がほぼ必須だった。そうしたことを踏まえて結論から書くと、今回のライブはファン誰しもの思いに完全に答えた素晴らしいライブだったと言わざるを得ない。人数が増えたことで奥行きが広がり、よりアグレッシブさを増したアレンジて魅せたのはもちろん、何より新体制のでんぱ組.incの在り方はMC以上に、その凄まじい練習量を感じさせる決意を秘めたステージングで間接的に伝わってきた。総じて今後のでんぱ組.incは安泰であると、心から感じることのできた大切な一夜であったのではないか。


猛然と駆け抜けた“破!to the Future”とここで来たか!な代表的アンセム“Future Diver”が披露されると、この日初となるMCへ。まずは全員が横並びになった状態でグループのリーダーである相沢が「皆様、いらっしゃいませ!ディアステージへようこそー!」とこの日ならではの開幕を宣言し拍手喝采を一身に浴びると、本来の豊洲PITの収容人数の半分以下に抑えた1116名が来場していることに触れ「こうした状勢の中来てくれて、本当にありがとうございます!」と感謝の思いを述べる。以降は(古川を除いた)総勢9名による自己紹介に移るのだが、古くからのメンバー以上に新メンバーはそれぞれ言葉も訥々としていて、緊張気味だ。ただ早くも客席には新メンバーが語るたびに多くのペンライトが掲げられていて、徐々に緊張も緩和。結果全ての新メンバーが突発的に「ありがとうございます!」と感謝を伝える、感動的な環境となっていたのが印象深い。そして自己紹介のトリを担った鹿目が「以上、未鈴ちゃんを含めた10人と、ここにいるみんなででんぱ組.incです!」と告げると会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こり、次いで根本が「私たち、たくさん練習して最強になってきたので。その姿をぜひ目に焼き付けてください!」と語ると、ファン垂涎のナンバーを連続投下。

今回のライブが新体制初のワンマンライブとして注目が集まっていたことは前述の通りだが、セットリストの観点で言えばかつては多くライブで披露されつつも、年月の経過と共にセットリストから徐々に外れていった楽曲を多数披露したよもやのライブでもあった。その中でも取り分け前半の印象部として映ったのは、イントロの時点でファンの多くが思わず声を漏らした“VANDALISM”と“ファンシーほっぺ♡ウ・フ・フ”の2曲で、“VANDALISM”では全員が縦一直線に並んでのダンスに加えて小鳩バッター、根本キャッチャー、高咲球審の新たな形の野球スタイルの振り付けでサビ前を彩り、“ファンシーほっぺ♡ウ・フ・フ”では高咲がメインボーカルを担っての歌唱など、まるで長いでんぱ組.incの歴史を新時代に引き継ぐような編成に、思わずグッと来る。


そして今回のライブで特筆すべきはやはり、ユニットで披露されたレア曲の数々だろう。先陣を切ったのは相沢と空野による予期せぬコンビで「ここで心機一転と言いますか、ゼロから新しいストーリーを一緒に作り上げていけたらなと思います」との一言からクールに“Truth of the ZERO”を。『古き良きでんぱ組.incの曲を届ける』をコンセプトに冠したチャペの泉(藤咲&小鳩&愛川)はハチャメチャな様相で“わっほい?お祭り.inc”と“ナゾカラ”、“ムなさわぎのヒみつ?!”を。もはやでんぱ組.incのスピンオフユニットとして確立しつつある仲良しコンビ・ねもぺろ(根本&鹿目)はキュートに“しゅきしゅきしゅきぴ♡がとまらないっ…!”、“ベイビー♡ベイビー”をそれぞれお届け。なお単純なグループ分けをしただけでは決してなく新体制ならではの試みも随所に取り入れられていて、“Truth of the ZERO”では相沢が本メロ、空野はコーラスと上手くパートが区分されていたり、チャペの泉による“わっほい?お祭り.inc”では3人横並びで手を繋ぐ一幕で藤咲が中心となっていたりと、先輩が後輩を先導するような形になっていたのも印象深い。後のMCで根本と鹿目は「私たち先輩が教えるのはもちろんだけど、後輩の頑張りを見て逆に私たちが教えられることもある」というようなことを語っていたように、既に新たなでんぱ組.inc内で双方向的な良い関係が築かれている故なのだろう。


熱狂そのままにライブは後半戦に突入。暗転した会場にカッと光が射し、新衣装に身を包んだ9人が一同に介し満を持して披露されたのは、2月16日にも新曲として披露された新生でんぱ組.incの誕生を告げたナンバー“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”だ。初披露時、ミュージカルを彷彿とさせるそのでんぱ組.incらしからぬサウンドで衝撃をもたらしたこの楽曲は1番、2番、そして最終部で大きく異なる構成となっているが、何より印象深いのは楽曲内で歌われるでんぱ組.incへの加入という夢を叶えた新メンバーと、問答無用で現実の厳しさを突きつける既存メンバーの対比だった。1番の歌唱を担うのは新メンバーの面々で、夢にまで見たプリンセスになることが出来た(=でんぱ組.incの新メンバーとなった)ことについて、屈託のない興奮と感動を爆発させていく。楽曲自体も彼女たちを祝福するようなきらびやかな代物で、ここまでは一貫してポジティブな内容……と思いきや《さあ 始まり!》との言葉が切り裂けば一転、サウンドがアッパーなものに変化。歌詞についても《夢が叶った? はい おめでと!》と一蹴する開幕、《夢が叶っただけで ハッピーエンド/そんなわけないっしょ! 》《「王子様が幸せにしてくれる」/そんなの幻想!》というサビらしからぬ痛烈な宣告と、『憧れの場所』の希望に満ちたイメージをひとつひとつ潰していくようなリアルを強制的に見せ付けていくが、そうした突き放すような言動の数々はつまり、新メンバーへの強い鼓舞でもある。この日のライブの当事者としては最も古いメンバーでもある相沢による《変わることは 変わらないためだから/もう 恐れない》のフレーズにもあるように、変わらない良さもあれば変わる良さもあって然るべきで、彼女たちはそんな中である意味では変わり、ある意味では変わらない選択をした。その深意は一貫して『でんぱ組.incをこれからも続けていくため』。……こと昔話のプリンセスは清楚端麗な姫が描かれがちだが、現代に生きる泥臭く愚直なプリンセス・アイドルたる新生でんぱ組.incは、きっと何よりも強い。

以降はクライマックスに突き進まんとばかりに、アッパーソングの連続だ。後のMCにて「お店のBGMで(この曲が)流れてて凄く良いなと思ってた」と回顧した天沢がメインを張る“惑星★聖歌 ~Planet Anthem~”を皮切りに、曲間に高咲と天沢がでんぱ組.incをイメージしたロゴをあしらった巨大旗を持ち込み、ステージ上部でたなびかせた“ファンファーレは僕らのために”、コールが出来ない代わりにファンが手拍子でリズムを刻んでのコロナ禍ならではの感動を生み出した“でんぱれーどJAPAN”、原曲における『6人』の歌詞が《10人と地球にいるみーんなででんぱ組.incです!》に切り替わり新たな風を吹かせた“愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ”……。増員した真骨頂とも言える、よもやのアレンジで突き進む展開に会場は興奮の渦に包まれる。確かに10人が忙しなくステージを動き回るため若干混雑している感覚も否めないところはあったが、おそらく今回9人体制で披露された楽曲は今後ライブで定番化する楽曲にもなるだろうと推察するため、回数を重ねれば間違いなくファンの見方も変わる。もう何ヵ月か後のことではあろうが、その第一歩とも言うべき重要な足掛かりが今回のライブであったと我々はいつしか気付くはずだ。


そして暗転の中助走的なBGMに新曲のイントロをも携えた最新型の“電波良好!”をバックに、暗転の中不明瞭ながらメンバーが配置に着くと一気に明点。本編最後の楽曲は“プレシャスサマー!”で、猪突猛進的と称して差し支えないどしゃめしゃなサウンドに乗り、メンバーは息継ぎもままならない程の歌唱とハイカロリーなダンスで魅せ、ファンの掲げるサイリウムは場面場面でダンスの動きとコールに合わせて揺れに揺れた。なお成瀬が卒業しセリフを1ヶ所変えざるを得ないという関係上、おそらく誰しもが注目していたセリフパートは「今年もステイホームかなー」と嘆く高咲をよそに相沢が「あおにゃんプール好きそうだよね!」と空野に振り、メンバーがひとりふたりと賛同。直後のアイスを望む根本に天沢が「じゃあ買ってこよっか?」とする形に変化。他にも楽曲途中に虹のコンキスタドール(根本がでんぱ組.incと兼任するアイドルグループ)の“かちとばせ!栄光のレインボー”の振り付けが取り入れられていたりと、これまで披露された既存曲全体を鑑みても取り分け新たなでんぱ組.incを想起させる楽曲に仕上がっていた。披露前には「次が最後の曲です」といった発言こそなかったため、ともすれば消化不良感の残る盛り上がりになる可能性さえあっただろうが、“プレシャスサマー!”は全くそんなことはなく、ファンもでんぱ組.incも全員が一体化してのパフォーマンスで猛然と駆け抜け、終了後は相沢が号令をかけての「以上、萌えキュンソングを世界にお届け!でんぱ組.incでしたー!ありがとうございましたー!」と感謝を表し、本編は幕を降ろした。


メンバーが退場してから間もなくし、示し合わせるでもなくファン一丸となっての手拍子で再度呼び込まれたでんぱ組.inc。まずは相沢が「新体制初のワンマンライブ、いかがですかー!」ともはや答えるまでもない幸福な質問をぶつければ、メンバーが着用する新衣装について触れ「未鈴ちゃんのやつも用意してる」とし、残念ながら産休中で欠席となってしまった古川へ「元気な赤ちゃん産んで、早くここに戻ってきてねー!みんな!未鈴ちゃんにエールを送ろう!」と、ファンはサイリウムの色を赤(古川のメンバーカラー)に変化させ頭上で大振り。正にライブの冒頭、鹿目が語った「未鈴ちゃんを含めた10人と、ここにいるみんなででんぱ組.incです!」を体現した感動的な光景が眼前に広がっていく。


高咲が独特のリズムを取ってアンコール1曲目に披露されたのは、先日発売された両A面シングルから“千秋万歳!電波一座!”。でんぱ組.incの人気を確立したアッパーソングを地で行く圧倒的な言葉数とシンセサウンドが、本編の終了と同時に一旦ブレイクした熱量を一気に再燃させていく。どしゃめしゃなサウンドにまみれながら歌われる内容は両A面に冠されていた“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”と同様に新生でんぱ組.incについてだが、“プリンセスでんぱパワー!シャインオン!”が新メンバーに焦点を当てていたのに対して“千秋万歳!電波一座!”は取り分け『でんぱ組.incそのもの』を描いていて、中でも《まだまだ本命 わちゃわちゃ存命/ピリオドを打つ気はないさ》《賛否どうぞいっぱい アンチごと take you high/さあ猫も杓子も楽しもうぜ》といったサビのフレーズは並々ならぬ決意を間接的に表した一幕のようにも感じられた。

ダンスに関しても今までのでんぱ組.incの楽曲と比較しても沸点突破の様相を呈していて、某お笑い芸人のネタをオマージュした冒頭の歌詞然り、鹿目が軽やかに踊るシーンを他のメンバーが真顔&直立不動で見詰めるCメロ前然り、藤咲が相沢にスカートをめくられてから放たれる《…取り乱しました…》の一幕然り、茶目っ気たっぷりで面白い。他にもその激しさのあまりマイクが幾度もぶつかったり、勢い余ってバランスを崩した空野が笑顔でメンバーに助け起こされたり……。その楽しげな姿からは、これから先の困難を感じさせる素振りは微塵もない。今回のライブでは総じて新生でんぱ組.incのネクストステージへの展望を見ることが出来たけれど、最後に《聞き分け悪くてごめんなさいね まあto be continued/ってことで(笑)》と締め括られたこの楽曲で、誰しもがでんぱ組.incの無敵性を強く感じたことだろう。


正真正銘ラストに披露された“イツカ、ハルカカナタ”が終わると、緩やかに点いた客電。ただ「本日の公演は全て終了いたしました」と終了を告げるアナウンスの目下、エンドロールのように流れる“秋の葉の原っぱで”を聴きながら、数十秒間に渡ってファンはその場で拍手を送り続けていた。……今回集まったファンはかねてよりでんぱ組.incに心酔する人は当然として、その他インタビュー記事などを読んで次第に新メンバーを応援したくなった人、はたまた「生まれ変わったでんぱ組.incの初ワンマンだけは観なければ!」と意気込んで参加した人など各自様々な思いを携えていたものと推察するが、今回のライブは結果どこまでもファン誰しもが思い描くでんぱ組.incそのものだった。ダンスに関しても今までのでんぱ組.incの楽曲と比較しても沸点突破の様相を呈していて、某お笑い芸人のネタをオマージュした冒頭の歌詞然り、鹿目が軽やかに踊るシーンを他のメンバーが真顔&直立不動で見詰めるCメロ前然り、藤咲が相沢にスカートをめくられてから放たれる《…取り乱しました…》の一幕然り、茶目っ気たっぷりで面白い。他にもその激しさのあまりマイクが幾度もぶつかったり、勢い余ってバランスを崩した空野が笑顔でメンバーに助け起こされたり……。その楽しげな姿からは、これから先の困難を感じさせる素振りは微塵もない。今回のライブでは総じて新生でんぱ組.incのネクストステージへの展望を見ることが出来たけれど、最後に《聞き分け悪くてごめんなさいね まあto be continued/ってことで(笑)》と締め括られたこの楽曲で、誰しもがでんぱ組.incの無敵性を強く感じたことだろう。


正真正銘ラストに披露された“イツカ、ハルカカナタ”が終わると、緩やかに点いた客電。ただ「本日の公演は全て終了いたしました」と終了を告げるアナウンスの目下、エンドロールのように流れる“秋の葉の原っぱで”を聴きながら、数十秒間に渡ってファンはその場で拍手を送り続けていた。……今回集まったファンはかねてよりでんぱ組.incに心酔する人は当然として、その他インタビュー記事などを読んで次第に新メンバーを応援したくなった人、はたまた「生まれ変わったでんぱ組.incの初ワンマンだけは観なければ!」と意気込んで参加した人など各自様々な思いを携えていたものと推察するが、今回のライブは結果どこまでもファン誰しもが思い描くでんぱ組.incそのものだった。


秋葉原のオタクが集まって結成されたでんぱ組.incという小さなアイドルグループ。あれから様々な幸福を経験した一方で、所謂『黄金期』と呼ばれるあの頃から数えると今や結成当初からのオリジナルメンバーは遂に古川ただひとりとなり、何歳も年下のメンバーが一挙に増え、でんぱ組.incはどんなアイドルグループより異質なものとなった。そんな中で『でんぱ組.incはこうだ』という一貫した意思表示が今回のライブでは窺えた気がする。新体制初のワンマンライブを大成功で終え、アイドル戦国時代を装いを新たに奔走する彼女たちの姿は最後まで、まるで「ついてこいよ」と言わんばかりの熱い決意に満ちていた。


※この記事は2021年6月25日に音楽文に掲載されたものです。