キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】アンハッピー・ハロウィン 〜スタークローラー『Come As You Aren't』オンラインライブレポート〜

真綿で首を絞められるようなコロナ禍に憂いながら迎えた去るハロウィンシーズンに、スタークローラー初となるオンラインライブ『Come As You Aren't』が、アメリカはカリフォルニア州のライブハウス・ロキシーシアターから世界に配信された。MCも過度な演出もなし。曲間のインターバルさえほとんど挟まず遮二無二に駆け抜けた約1時間、演奏曲数にして19曲という今回のライブは、あまりに奇々怪々な音楽的ホラーショーとも言うべき代物だった。


定刻になると、視聴案内が記された全文英語の待機画面から遷移。そこにはジャック・オー・ランタンを右手に持った少女が魔女帽子を被りつつ街中を闊歩する様子が映し出されており、にこやかな笑顔を浮かべる少女はやがてとある一軒家へと辿り着く。すかさず「トリックオアトリート」と叫びながら幾度もドアをノックするが返事はなく、すっかり意気消沈した少女はとある鉄骨階段にへたりこんでしまう。暫くの沈黙の後にふと少女が視線を上げると、今回のライブの収録場所であるロキシーシアターがお目見え。そして少女が眼前のカメラに向けてスタークローラーの名前を呟くとまたも画面が遷移し、ロキシーシアター内のライブ映像へとシフト。


1曲目に披露されたのは、海外を代表するロックバンド・ラモーンズのカバー曲“Pet Sematary”。今までライブではほぼ例外なく中盤以降に組み込まれてきたこの楽曲がオープナーに選ばれたことも予想外ではあったが、更なる驚きとして映ったのはやはりバンドのフロントウーマンことアロウ・デ・ワイルド(Vo)その人であろう。極めて露出の多い真っ白な装束を身に纏い、188cmの長身から繰り出されるアクションは悉くエロティックかつ破滅的で、腰をくねらせて艶かしい歌声を響かせたかと思えば目をカッと見開いて恐怖におののく表情を見せたり、コマ送りのように痙攣したりと、言わば『怖い物見たさ』的魅力がふんだんに詰め込まれていて一瞬たりとも目が離せない。原曲をリスペクトしつつ、良い意味でスタークローラーらしいロックサウンドに昇華した“Pet Sematary”は開幕の勢いそのままに突き抜けたが、演奏の終了と共にアロウは音を立てて地面に倒れてしまう。その表情は全てに絶望するが如くの憂いを湛えていて、この後に待ち受ける壮絶な展開を明確に示していた。


早くも衝撃に彩られた彼らのライブパフォーマンスであるが、真骨頂はまだまだこれから。続いてはスタークローラーのライブにおけるハイライト的楽曲として知られる“I Love LA”が視聴者の虚を衝く2曲目の出順で披露されると、その後は自身の首にマイクコードを何重にも巻き付けたアロウがアウトロでそれを力一杯締め付け、白目を剥いてくずおれた“Love's Gone Again”、ヘンリー・キャッシュ(Gt)のギターサウンドがグルーヴを牽引したパンクナンバー“Home Alone”へとシームレスに雪崩れ込み、興奮の坩堝へと誘っていく。実際彼らのライブでは休憩なしで突き進むステージングというのは特段珍しい光景ではないけれども、今回は水分補給やチューニングといったライブに欠かせない行動さえ演奏の途中に行う程の忙しなさで、冒頭の“Pet Sematary”におけるロケットスタートを常に維持し続ける全力のパフォーマンスを見せ付ける。なお今回のライブではテクニックを度外視した乱暴なギターを鳴らし続けるヘンリーの他、オースティン・スミスの脱退に伴い新メンバーの座に着いたセス・カロライナ(Dr)、縁の下の力持ちことティム・フランコ(B)、そしてその眼鏡も相まってジーニアスなイメージを思わせる、若々しいサポートギタリストが同行。結果コロナ禍以前のスタークローラーのライブとはまた違ったイメージを抱かせる一夜でもあった。

今回のライブは取り分けライブハウスにおけるある種の生々しいリアル感に重点を置いている印象で、基本的にスタークローラーを映し出すカメラは激しく動き、メンバーからメンバーへ画面が切り替わる際に一瞬の暗転も頻繁するなど、お世辞にもトラブルが完全になかったとは言い難い。だがそうした事柄も無骨なロックをルール無用で繰り出し続ける彼らにとっては無問題で、むしろ画面越しで興奮を維持し辛いオンラインライブと上手く調和を保っている感すらあり臨場感抜群だ。


B級映画的なアロウの絶叫が鼓膜を震わせた“Lizzy”、仰向けに地を這うアロウを目下にヘンリーがギターを弾き倒した“Let Her Be”など今回のライブにおける印象的な楽曲は多々あったものの、中でも圧巻だったのはノイジーなミドルチューン“Hollywood Ending”。スタークローラーが過激度の高いパフォーマンスで注目を集めていることについてはもはや言うまでもないが、この楽曲では特にアロウのボーカルが非常に安定していて、照明効果がもたらす青々とした光に包まれながらロングトーンを多用し堅実な歌唱に徹するアロウの姿にはピンボーカリストとしての確かな実力が光っていた。……かと思えばやはりラストは喉に自身の指を突っ込みセスの打ち鳴らすドラムと共に奥へ奥へと突き入れるカオスっぷりを見せ付け、一筋縄ではいかないのは流石スタークローラーというところ。


“Toy Teenager”後はややメロウな楽曲群でクールダウンを図り、ライブは早くも折り返し地点に。ここからは全楽曲が3分以内に鳴り終わる、極上のカオス・タイムに突入だ。まずはアロウがマイクを頬張り嬌声を上げた“She Gets Around”で口火を切ると、恐るべき早さで楽曲を展開。気付けば楽曲が始まり、気付けば楽曲が終わっている異様な性急さもさることながら、その短い間にも楽曲全体がしっかりロック然とした体を成している点も興味深い。これまで地に足着けた演奏に徹していたヘンリーも繰り返される絶頂に理性のリミッターが外れたのか、カメラに向かって頻りに変顔を見せながら縦横無尽に動き回っていてクレイジー極まりない。あまりのハードな動きにギターのミスタッチも目立つけれど、それすらもおかまいなしといった様子で弾き倒すヘンリーの姿は、無邪気なロック少年そのもの。


そしてライブはいつしかクライマックスに。ライブバンドとしては最後を告げる一言や感謝の思いを述べるアクションがあっても良さそうなものだが、そうした発言も一切なし。正真正銘のラストナンバーに選ばれたのは、最新アルバム『Devour You』のリード曲として位置していた“Bet My Brains”。楽曲は徐々に大きくなるセスのドラムから猛然とその幕を開け、アロウが《Never coming(誰も来ない)》と絶叫した後にはヘンリーによるお馴染みのディストーションギターが鼓膜を揺らしに揺らす。この楽曲の肝とも言えるサビ部分ではアロウが記憶に残るキラーフレーズを連呼しつつ平衡感覚を失うレベルのヘッドバンギングを連発し、目眩を伴っての自傷的歌唱に終始する圧巻のパフォーマンスで魅せ、その光景はまさにラストスパートとも言うべき猪突猛進ぶり。

特筆すべきは楽曲のラスサビが終わりに差し掛かる頃に起こった一幕で、会場中に響き渡る爆音に衝動を突き動かされたアロウは突然ステージを飛び降りると、呆気にとられるライブクルーやスタッフを横目に会場中を疾走。その行動の一部始終がおそらくはアロウのアドリブであることはもはや言うまでもないが、猛然たるアロウの暴走に1台のカメラが反応した頃には時すでに遅しで、遥か遠くで縦横無尽に動き回る彼女を追随する形でカメラが凄まじい手ブレと共に動かされる弊害により、画面はもはや何が起こっているのかすら判別不可能な有り様だ。そして一頻り暴れたアロウが会場袖にポツリと置かれた脚立と一時のダンスを繰り広げると、ロキシーシアターの重い扉を開き、外に停車したバンの後部座席に倒れ込む形で演奏は終了。しばらくして残された楽器隊による全てのサウンドが鳴り止むとすっかり無音となった空間にメンバーの足音が冷たく響き渡り(おそらくはステージからそのまま扉に向かっているのだろう)、そのままバンに全員が乗車。視聴者の誰もが呆気にとられる中、とびきりの笑顔を浮かべたヘンリーの運転でバンはロキシーシアターを去っていき、そのまま車が去った何もない空間に『the end』の文字が映し出される形でカオスな宴はその幕を降ろしたのだった。


どしゃめしゃな演奏、絶叫に次ぐ絶叫、稀有なパフォーマンス……。スタークローラー初となるオンラインライブは、結果未曾有のコロナ禍によって衝動の行き場が失われた彼らの溜まりに溜まったフラストレーションを解放した何よりの空間として位置していた。ただライブパフォーマンスひとつ取ってみても、酷く破滅的なアロウの行動然り、事前アナウンスなしに突然加わったサポートメンバー然り、決まってライブの最終曲に位置していた“Chicken Woman”がセットリストから外されたこと然り、コロナ前とは明らかにライブの性質が異なっていたことも事実。では彼らは此度のライブで何を思い、何を伝えたかったのか……。楽曲の演奏以外には頑として口を開かなかった彼らの深意を知ろうとライブ終了後には公式のツイッターやインスタグラムに張りついてみたが、ライブから1日が経ち、1週間が経ち、1ヶ月以上の時が経過した現在まで、今回のライブに対するコメントはひとつも投下されていない。けれどもそうした言葉少ななスタイルさえ『スタークローラーらしさ』すら感じてしまうのはやはり、彼らが持つ類い稀なるスター性によるものなのだろう。


とりわけライブバンドにとって、最悪な年となり果てた2020年。未だコロナウイルスが世界的に収まる気配を見せないことから、おそらく彼らは今後も多大な制限がかけられる中での活動を余儀なくされることだろう。しかしながらスタークローラーの内なるエネルギーは一切衰えることなく、爆発の瞬間を今か今かと待ちわびている。彼らの次なる存在証明がいつになるかは不明だが、きっとその時は大勢の観客の眼前で、クレイジーな狂宴を存分に見せてくれるはずだ。


※この記事は2020年12月28日に音楽文に掲載されたものです。