キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】こんな時こそ夏フェスを 〜オンライン型フェス『氣志團万博2020 ~家でYEAH!!~』、全出演アーティスト15組徹底レポート〜

氣志團万博、今年はオンラインで開催……。この一報に心底喜んだ音楽ファンは少なくないだろう。無論初のオンライン開催となった今年の氣志團万博は、今までの氣志團万博とは大きく趣を異にするものではあった。けれども会場に設置された30台以上のカメラ+ドローン、手の込んだ編集技術、そして何より画面越しであることを感じさせないアーティストたちの熱演で魅せた氣志團万博2020は紛れもなく音楽好きにとっての、夏フェスが軒並み消滅してしまった今年に出現した極上のオアシスだった。
 
記念すべきファーストアーティストは、森山直太朗。もはや氣志團万博恒例となったせり上がりから登場した森山は直後、おもむろに『氣志團万博と私』と題された手紙を懐から取り出し真剣な表情で読み上げていく。一瞬カメラに収められた手紙の文面には現在の心情と在りし日の渇望、此度の氣志團万博成功を願った文面がびっしりと書き込まれており、それらを朗々と届ける森山の目は僅かに濡れているようにも見えた。
 
持ち時間15分という短い時間の中、歌われたのは誰もが知るところである“さくら”と、緊急事態宣言が発令された頃に制作されたという新曲“最悪な春”の2曲。“さくら”の前半部では自身の歌声のみという完全なるアカペラで進行し、次第にフィンガースナップと足踏みでパーカッション的要素を追加するオンラインがもたらす静寂を最大限利用した試みで魅せ、続く“最悪な春”では卒業式の消失や無人のカフェといった、まさにコロナウイルスによって『最悪な春』となった今春のリアルを強烈に訴えた。総じて今鳴るべき2曲を通して、真摯に魅せる一面とフェスの幕開けを明るく飾るトップバッターとしての一面を見せた森山の姿は、氣志團万博2020における自身の役割を十二分に理解したこれ以上ない折衷案にも思えてならなかった。
 
森山が去った後は、ステージに神妙な面持ちで綾小路が登場しての開幕宣言。そして綾小路が半沢直樹のBGMをバックに顔芸全開でこの日チケットを購入した視聴者に感謝の思いを述べると、いよいよ本編最初のアーティストであるももいろクローバーZ with our soulmate DMBにバトンが渡される。
 
長きに渡って氣志團万博を彩り続けてきたももクロ。今回のライブはバックバンドを従えた完全なるバンドセットであり、曲目に関してもももクロの楽曲群を氣志團のカバー曲でサンドイッチするという予測だにしない30分となった。ダンサブルなSEに乗せて制服姿でステージに歩み出た彼女たちの姿は可愛さ以上に大人びた雰囲気を感じさせる代物で、ある種艶かしいダンスを展開する開幕の“BANG ON!”では大人の色気を振り撒きつつ歌い踊るも、終了後のMCでは佐々木彩夏が「みんなに会えなくてマジぴえん」と語った瞬間、リーダーである百田夏菜子がすかさず「それは(年齢的に)無理があるってあーちゃん!」と突っ込むなど至って楽屋的な、肩肘張らない雰囲気で魅力していく。
 
ラストに披露されたのは氣志團のカバー“Don't Feel, Think!!”。かつてはももクロにとってアウェーな空間と称されていた氣志團万博も今年で9年目。今では称賛の追い風を受け、名実共に氣志團万博に欠かせないアーティストの一組となったももクロのサビ部分の《感じるな 考えろ!!》と笑顔で熱唱する様は何よりの勝利宣言として響き渡り、最後は全員で高いジャンプを決め、高城れにによる「氣志團さん!キュンでーす!」とのメッセージを最後に軽やかにステージを後にした。去り際に一瞬マイクが拾った、遠方から観ていた綾小路による「すげー。マジすげー」との一言は、まるでこの日の彼女たちのライブの総括を意味するかのように響いていた。
 
続いては東京スカパラダイスオーケストラのライブへ移行。まずはスカパラ初のトリビュートアルバム『楽園十三景』にて“砂の丘~Shadow on the Hill~”を氣志團が演奏したことへの敬意からか、同曲を高らかにドロップし開幕を飾る。今回は30分の持ち時間にアッパーな楽曲を敷き詰めた言わばフェス的なセットリストであったが、谷中の「今年は全く夏らしいこと出来なかったんでね。夏の締め括りに氣志團万博、あればいいなって思ってました」とするMCを鑑みるに、彼ら自身オンラインという特殊な環境下ではあれど、やはりライブへの渇望は並々ならぬものがあったのだろうと推察する。

“仮面ライダーセイバー”では大森はじめが仮面ライダー特有の変身ポーズを再現し、“Paradise Has No Border”ではGAMOが「今日はどこの家庭が一番盛り上がってるんだー!」と叫ぶ場面も。それは彼ら自身がこの場を楽しんでいる何よりの証明であり、更にはそうしたバンド全体のハピネスな感情が回り回って画面越しの我々の興奮に直結するような無限構造さえ出来上がっている感もあり、グッと心を掴まされる。ラストはもちろん、スカパラ屈指のライブアンセム“DOWN BEAT STOMP”でシメ。9人が演奏を繰り広げる中、アウトロでカメラに向かい「ウィーアー・東京スカパラダイスオーケストラー!」と叫んだ谷中の表情は、我々が良く知る屈託のない笑顔に溢れていた。
 
ネクストアーティストはサンボマスター。彼らのライブではCD音源の原型を留めないほどの突発的な語りを山口隆が幾度も絶叫することで知られているが、それは持ち時間30分という今回の短いオンラインフェスの場でも健在で、1曲目“世界をかえさせておくれよ”の時点で「あれ?氣志團万博ではサンボマスター盛り上がらない協会の皆さんじゃないですよね?無観客とか関係ねえんすよ俺たちは!」と叫び、画面越しで観ている観客に対して「聴こえないんですけど皆さーん!」と無声の熱唱を要求。
 
半強制的なコール&レスポンス、全曲のクライマックス感、繰り返される煽り……。興奮に火に油を注ぐ勢いで幾度も焚き付けるその様は、どこまでも天井知らずの熱狂と山口の心中の渇きを体現するようでもあった。ラストを飾ったのはコロナウイルスが猛威を震う渦中に配信リリースされた新曲“花束”。山口は当然ながら頻りに叫び倒し、ファンや氣志團、ライブ関係者に感謝の思いを具現化したそれを凄まじい熱量で届けていく。後半では山口がカメラに向かってメッセージを捲し立てると共に、轟音の中「愛してる!」と絶叫。今回のライブは観客はひとりもおらず、故に必然有観客時代の彼らのライブで頻発された観客を指しての叫びは徹底してカットされていた。けれどもその興奮は間違いなく画面を通してでも多くのリスナーの心に伝わったろうし、ライブ自体も有観客と比べて遜色ないようにも感じられた。
 
続いての出演は唯一無二のエアーバンド・ゴールデンボンバー。股間のアップがやたらと多いカメラワークが印象的なVTRの時点である種の危惧を感じてはいたが、メンバーは股間に黒い前貼りを貼り付けただけのほぼ全裸状態でステージに現れ、1曲目“#CDが売れないこんな世の中じゃ”をドロップ。その楽曲の求心性もさることながら、何より気になるのはポロリの危険性を孕む彼らの下半身。足を高く上げる、真横を向く等激しいダンスを繰り広げる様にはハラハラしっぱなしで、色々と目のやり場に困る。
 
彼らはライブの都度、MCにて散りばめられた伏線を次曲で回収することでも知られているが、今回も例に漏れず喜矢武豊が瑛人の“香水”にハマっていること、樽美酒研二がSiriの利便性のトークを繰り広げると、続く“抱きしめてシュヴァルツ”で喜矢武はかき氷に香水……もといシロップをかけて一気食い。樽美酒は尻を突き出したSiri風の衣装に身を包み、鬼龍院翔が「ディズニーの熊のキャラクター何だっけ?」と問うと屁の音色が響き渡り、鬼龍院が「“プー”さんだー!」と喜びの声をあげるという抱腹絶倒の展開に。ラストはもちろん“女々しくて”。喉が限界を迎えつつある鬼龍院とボンボンを手にチアダンサー風ダンスを踊るも遂に前貼りをペラリと捲ってしまい、違う意味で限界突破の喜矢武との対比が熱をぐんぐん高め、最後はお馴染みのポーズで大団円。結果として今回の彼らのライブは、笑いをひとつのテーマに据える氣志團万博の異名に最も即した熱演となったのでは。

ゴールデンボンバーからバトンを受け取ったのは『楽器を持たないパンクバンド』ことBiSH。もはや語るまでもないが、今やBiSHは確固たるロックアイドルとして広く受け入れられていると言っても過言ではない。BiSHの氣志團万博出演は今回が3回目。であるからして、今回の氣志團万博への起用は言わばそんな彼女たちの凱旋ライブとも称すべきものでもあった訳だが、蓋を開けてみればあまりに圧倒的で、一気呵成に猛然と駆け抜けた30分であった。
 
袖から横並びでステージに現れ出たBiSH。ハシヤスメ・アツコが開口一番「BiSHは3年目も、氣志團一筋ですよー!」と笑顔で叫び、無数に存在する代表曲のひとつ“デパーチャーズ”でライブの火蓋を切った。背後に楽器隊はおらず、徹頭徹尾BiSHの6人のみに焦点が当てられるパフォーマンス。輝かしい照明効果もないため、演出としては控え目だ。しかしながらカメラに噛み付くが如くの獰猛なメンバーの一挙手一投足、眼前にオーディエンスの存在を錯覚してしまう程の渾身の熱唱でもって、ぐんぐんと興奮を底上げしていく。ラスト“BiSH-星が瞬く夜に-”ではハシヤスメが不良風の衣装にチェンジ。馴れない一昔前のヤンキー的行動に全員が笑みを浮かべる中、ステージ前方へ歩み出ての歌唱やヘッドバンギング等ハイカロリーなパフォーマンスで魅了。終了後は氣志團万博への感謝の言葉を口々に述べ、颯爽とステージから去っていった。
 
次なる出演はソロアーティスト、岡崎体育。荒唐無稽なVTRを経てライブの幕が上げられた岡崎だが、ダークに徹した照明等、どこか様子がおかしい。その内容を紐解くに、YASSAI STAGE出演を熱望しながらも昨年遂に3年連続でのMOSSAI STAGE出演となった岡崎は遂に『MOSSAI様』として崇め奉られる存在へと神格化してしまったようで、宗教的な雰囲気を帯びた“MOSSAI様”のSEに乗せて黒のマント姿でステージに歩み出る。けれども続くYASSAI STAGE出演者への嫉妬とYASSAI STAGEばかりに目を向ける観客へのヘイトを具現化した“MOSSAI様の憂鬱”でもって、いつのもファニーな岡崎のライブに変貌。
 
スレッド上で壮絶なレスバを繰り広げた果てに岡崎が完全敗北を喫する新曲“Fight on the WEB”で爆笑の渦へと誘うと、終盤2曲は楽器隊を従えての緩やかな“龍”と新曲“Eagle”を披露。今まで一貫してサポートを入れず自分自身でPCの再生ボタンを押してライブを進行していた岡崎が今回楽器隊を率いた理由について、自身の新たな音楽表現の形を考えた結果であると自身の口から説明があった。故に今回のライブはエンタメ性という既知の部分で笑いを誘うものであったと共に岡崎体育における第2章の幕開けを飾るライブでもあった訳だが、今回彼のパフォーマンスを刮目した全ての視聴者は、岡崎体育の第2章が晴れやかなものとなることを確信したことだろう。
 
コロナウイルスに翻弄され続けた2020年。けれどそうした中でも新進気鋭のアーティストが突如として注目を集めるという図式だけは今までと何ら変わることなく、未曾有のコロナ禍における数少ない逃避の手段として日常に寄り添ってきた。中でも今年SNSを中心に特に巨大なバズを巻き起こしたものこそが瑛人の“香水”であり、此度の氣志團万博は言わば、彼の功績を称えての祝祭的出演だ。
 
ステージに現れたのは瑛人と、かねてより共に楽曲制作に携わってきた旧知の仲であるジュンちゃん。まずは“HIPHOPは歌えない”をしっとりと歌い上げ、続いては“香水”……と思いきや、瑛人が歌い始めると同時に森山直太朗と綾小路翔が乱入するという予想外の展開から、テーマなしのアドリブトークへと移行。トークでは瑛人が現在のレーベルに所属するに至った契機が綾小路による一言であったこと、瑛人は森山をプライベートでは『オジキ』と呼んでいること、これからが最も大変な時期であるということ等が笑いを交えながら語られ、ラストは“香水”の生パフォーマンスに期待を寄せるふたりの思いに答えるように“香水”をしっとりとプレイ。ジュンちゃんによるギターの音色が鳴り止むと、瑛人はとびきりの笑顔でカメラを見詰めていた。

唯一神、降臨……。日本ロック界における帝王としての注目を一身に浴びし風雲児・HYDEが満を持して氣志團万博2020に出陣である。VTRで綾小路の口から「自粛期間中のHYDEは庭の芝刈りをしてたらしい」というそのイメージとは対極に位置する生活が白日のもとに晒されたが、今回のライブはこの数ヵ月間に燻らせた猛りに猛った内なる炎を全放出するが如くの、悪魔的な代物となった。VTRが終わり映像がステージへと切り替わると、そこにはアップで映し出されるHYDEが鋭い眼光でじっとこちらを見詰めており、「ピリオドの向こうへは、こっからでも行けんだよね。さあ行こうか……」と静かに呟いたHYDEは口紅が塗られた自身の唇を触って左頬に向けてゆっくりと滑らせ、楽器隊に合流。瞬間、マイナーコードを多用した重々しいサウンドが激しく鼓膜を震わせる。
 
その圧倒的な存在感でもって、ロックの帝王たる所以を存分に見せ付けたHYDE。最終曲“BELIEVING IN MYSELF”ではステージ前方へと進み、慟哭とも咆哮ともつかない絶唱を幾度も繰り出しながら跳び跳ね、いつしか暗さを帯びた照明が微かに照らすダークな会場には、やりきった表情でカメラを見詰めるHYDEの姿が映し出されていた。端的な感情表現では到底説明し得ない、名状し難い雰囲気を携えて進撃した30分。画面越しに誰もが息を飲んだと言っても過言ではない、あまりに稀有な時間であった。
 
数あるお笑い芸人という枠組みにおいて、名実共に令和的ブレイクを果たした一組、EXITが氣志團万博初登場。EXITは漫才師としての知名度が確立しているけれども、今回のEXITは持ち時間のほぼ全てを歌……つまりは『アーティスト・EXIT』としての時間に充て、徹底して音楽に振り切ったパフォーマンスとなった。2018年の後半を境にストリーミング配信やシングルリリースと、いちアーティストとして多種多様な楽曲を世に送り出してきたEXIT。今回のライブでは原曲をフルサイズで投下することは然程なく、様々な楽曲をインターバルを挟まず繋げていく所謂『リミックス型』のパフォーマンスに終始。その都度多数のダンサーを率いた軽やかなダンスと、美声を駆使したふたりの歌唱で魅了していく。
 
中でも抜群のエンタメ性を誇っていたのが著名な楽曲・芸人のリズムネタを音楽に落とし込んだメドレーで、最後の“アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士”ではDJ OZMAが乱入。クライマックスの《Bounce! Bounce! Bounce!》の一幕でダンサーを含めた全員がパンツ姿となり、暗転。暗闇に包まれたステージに「おあとがヒウィゴー!」とのりんたろー。の一言が木霊する形で、EXITの芸人人生における大舞台は大成功と相成った。
 
EXITの華やかなステージングから一転、ステージは一際ダークなムードに包まれる。続いては唯一無二の個性で人気を博すロックバンド・女王蜂が、氣志團万博に満を持しての初出演だ。まずはテレビアニメ『どろろ』のオープニングテーマに抜擢され、広く女王蜂の名を知らしめた契機とも言える“火炎”からライブはスタートし、以降はオートチューンを介した“金星”、どことなくバブル時代を彷彿とさせるサウンドが特徴的な“ヴィーナス”、韻を踏んだリズミカルな発語で惑わせる“BL”と続いていき、その絶大な存在感とロック然とした楽曲でもって途中休憩もほどほどに駆け抜けていく。
 
観る者に絶大な印象を与えたのは間違いなく、元々アルバム『孔雀』に収録されていた“告げ口”にライブ的音像を加えて再構築した“あややこやや”だろう。歌われるのは口にするのも憚られるような事象の数々であり、それらの告発がおどろおどろしいサウンドと共に襲い来る様は、さながら恐怖体験とも言うべき代物。ステージの中心で一身に注目を浴びるアヴちゃんは少女の語りや泣き声はファルセット、ネガティブな歌詞では低音と、声のトーンを事あるごとにスイッチし、怒りを直接的に画面越しにぶち撒けていく。最後はミドルテンポな“Introduction”を送り出し、様々な感情をごった煮した圧巻のライブはその幕を閉じたのだった。

続いては誰もが知る日本を代表するアイドルグループ・関ジャニ∞からの電撃的脱退を経てソロアーティストへと華麗なる転身を遂げた渋谷すばるが、遂に氣志團万博に参戦。彼のライブパフォーマンスを目撃すること自体が極めてレアな状況下となりつつある現在において、今宵の氣志團万博における彼のステージはいちファンにとっても必ずしもそうではない人々にとっても、あまりに貴重な瞬間でもあったというのは、もはや説明するまでもないだろう。
 
セットリストは昨年リリースのデビューアルバム『二歳』と、来たるセカンドアルバム『NEED』から満遍なくフィーチャー。ギターをプレイ出来るはずの渋谷は一貫してブルースハープのみの演奏を試みており、更にはマイクケーブルを首後ろにぐるりと回して歌う様も無骨そのものでシンプル。けれどもその淡々としたスタイルが何よりも雄弁に漢・渋谷すばるのフロントマン然とした立ち位置を明確にさせていた。「まだまだ安心できない日々が続くかもしれませんが、音楽、エンターテインメントと一緒にみんなで仲良く、楽しんで生きていきましょう」とのメッセージと共に、最後は希望的未来を切望する“素晴らしい世界に”を首筋の血管が浮き上がる程の渾身の絶唱で魅せた渋谷。その表情は全てを力を出し尽くしたかの如く、どこまでも晴れやかだった。
 
時刻は夜の20時半を回った。本来のフェスであれば若干の疲労感を覚えつつ、最終アーティストのライブに臨んで然るべしな時間帯ではあるが、宴はまだまだ終わらない。最も、次なるアクトがロックバンド界の重鎮・Dragon Ashとなれば尚更である。おそらくこれは彼らなりのかつての有観客ライブへの渇望を逆説的に唱える試みであると思われるが、コロナ禍における彼らは結成から今年に入るまでの長きに渡り、ほぼ例外なく組み込んでいた“Fantasista”を極力セットリストから外し、モッシュが頻発する楽曲以上に緩やかな楽曲を多数披露する傾向にある。それはこの日も同様であり、終盤の“百合の咲く場所で”と“A Hundred Emotions”を除く楽曲はBPMの比較的遅めの楽曲に統一されていたのが印象深い。
 
かつてのようなライブ体験が失われた今、彼らは何を思い、何を求めるのか……。その答えを痛烈に表したのは、最後に鳴らされた“A Hundred Emotions”。音楽への思いを真摯な表情で歌いかけるKjは、まるでやり場のない怒りとも寂寥ともつかない整理不能な心中を、無造作に吐き出しているようにも見えた。MCらしいMCはなし。Kjによる導火線に点火するが如くの煽りもなし。セットリスト然りパフォーマンス然り、ある意味ではDragon Ashらしくないとも言える今回の熱演は、在りし日の興奮を改めて回顧させるものでもあった。
 
今年のセミファイナルを飾るのは、かつて氣志團万博のトリを務めた経験も持つ米米CLUB。なお今回のライブはブラスバンド、コーラス、ビッグホーン等を引き連れた10人をゆうに超える大所帯で進行。大規模な歌謡ショーとも称すべき磐石のライブを展開していたのが印象的。

まずはフェス環境下に相応しい“あそぼう”、“愛 Know マジック”を披露すると、次いでカールスモーキー石井が「ヒットメドレー行ってみましょうか。君がいるだけで……この頃は略して『君いる』とか言われちゃったりしてね。ちょっとムッとするこの頃なんですけど……」と語ると、誰もが知る米米CLUBのかの名曲“君がいるだけで”のイントロが流れ期待を煽る。だが次の瞬間に披露されたのは「きみ!いる!」と叫ぶのみで秒速で終わってしまうその名も“君いる!”であり、続く大ヒット曲“浪漫飛行”についても楽曲披露前の石井は徹底してふざけ倒していたが、その肩の力を抜いた独特の緊張感のなささえも今年結成38年目を迎える米米CLUBのベテランの風格を堂々と見せ付けるようで、格好良い。以降はもうひとりのボーカル・ジェームス小野田がステージに降り立ち、山本リンダのカバー“どうにもとまらない”とアッパーなファンクロック“Shake Hip!”を鳴らすと、ラストは石井と小野田以外の全メンバーがステージを降り、徹頭徹尾ふたりだけの悪ノリ一歩手前のアカペラ歌唱で“アバンギャルド”を歌い上げ、友人との飲み会の帰路を思わせる自然な雰囲気でもって互いの肩を抱きながら去っていった。
  
長時間に及んだ今回の氣志團万博のトリを飾るのはもちろん、我らが氣志團だ。持ち時間は最長の40分……つまりは他の出演者の中では唯一10分程度長い時間が与えられたライブであったが、そのプラスに与えられた10分の大半はMCに消費。結果としてかなりの長尺となったMCではしきりに観客との双方向的なレスポンスを試みていたが、発語の後に必ず沈黙が支配してしまう稀有な環境下では当然やり辛い思いも存在していたらしく、その後の綾小路はオーディエンスの声を代弁しての自虐を展開。果ては「今んなって気付いたよ。失笑って嬉しかったんだなって」と有観客ライブを回顧。後のMCでは、人々の笑顔が見たいがためにバンドを始めたことや普通と思っていた日常が普通ではなかったこと等自身の胸の内を吐露し、最後に前向きな思考変換として、コロナ禍を経た今後は「更にいろんなことを今まで以上にいとおしく思えるようになる」と締め括った。
 
そして《俺んとこ こないか?》を《俺んとこ Go Toキャンペーン》に変化させるタイムリーな流れから鳴らされた“One Night Carnival”、氣志團万博2020の公式テーマソング“No Rain, No Rainbow”を立て続けに鳴らすと、最後は楽器隊が自身の武器を降ろして志村けん&田代まさしとだいじょうぶだぁファミリーの“ウンジャラゲ”をメンバー全員が踊りを交えてパフォーマンス。全てが終わった後「という訳で氣志團万博、ご苦労様でした!」との閉幕宣言が綾小路の口から発せられ、此度の氣志團万博は大団円と相成ったのだった。
 
今や多くのアーティストがオンラインライブに乗り出し、少しずつではあるが有観客ライブも再開。ライブシーンは緩やかに再生への道を歩み始めている。ただ今回の氣志團万博2020のようなアーティストの豪華さ然りライブの雰囲気然り、実際の夏フェスの熱狂をパッケージングし、ここまでフェスさながらの長時間に渡るオンラインライブを敢行した試みはコロナ禍において初と言って良いし、未来に繋がる1日と称して然るべきな運命的な時間だった。開演時のVTRにて、綾小路は「来年こそは俺んとこ来ないか?でも今は俺んとこ来ないで、お前ん家で会おう」と清らかな笑顔で語っていた。そう。今年の氣志團万博はとどのつまり氣志團万博の連続的継続、ひいては輝かしき来年度への布石なのだ。誰よりも彼自身の口から発せられる、あの日あの場所で幾度となく聞いた「俺んとこ こないか?」のフレーズを再び耳にすることを強く願って……。来年は必ず、あの袖ヶ浦海浜公園で会おう。

 

※この記事は2020年10月27日に音楽文に掲載されたものです。