キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】超実験的『承』、タイムリープにて。 〜集団行動初のプロデュース型ライブ、その中日を観た〜

TSUTAYA O-nestにて3ヶ月に渡って行われた、集団行動にとって初となるメンバープロデュース型ワンマンライブ『起承転』。去る10月27日、その中日に位置する『ミッチー的集団行動「承」』に足を運んだ。
 
『起承転』なる意味深なタイトルからも分かる通り、今回のライブはバンドの発起人でもある真部脩一(G)総指揮のもと、9月の『西浦謙助的集団行動「起」』、10月の『ミッチー的集団行動「承」』、11月の『齊藤里菜的集団行動「転」』と、各メンバーによる異なる趣向で開催される珍しい試みだ。
 
しかしながら集団行動が本格始動したのは2017年ということもあり、彼らの活動歴はまだまだ短い。毎年コンスタントにアルバムをリリースしてはいるものの、現在までに発売されているCDはミニアルバム『集団行動』と『充分未来』、そして今年発売されたフルアルバム『SUPER MUSIC』の計3枚のみ。
 
通常のワンマンライブでは今までにリリースした全アルバムの中から満遍なく選曲し、公式のMVとして上がっているようなキラーチューンを網羅しつつ進行していく形が一般的である。にも関わらず『起』では今までにリリースした『集団行動』、『充分未来』の計2枚のミニアルバムの楽曲を収録順に全曲披露し、最新アルバムの楽曲に至っては本編で1曲も演奏されないという予想外なものだった。
 
それでは今回の『承』の本編はどうだったのかと言えば、何と『起』とは対照的にミニアルバムからは2曲ずつ抽出されるのみで、残りの楽曲は全てニューアルバム『SUPER MUSIC』からの選曲というこれまた予想外なものだった。
 
定時を迎えると、まずはステージにゆっくりと現れたミッチー(Ba)が、スポットライトを浴びながら今回のライブのストーリーについて語る。
 
先月行われた『起』の終盤にて暴君に銃殺され、脳だけになってしまった真部(詳細は割愛)。集団行動の全作詞作曲を務める彼を救うべく旅に出たミッチーは、“とある力”を身に付けてライブハウスに帰還した。その力の正体はタイムリープで、彼の胸に身に付けられた時計を操作すると時間の巻き戻し及び時間停止が出来るという。早速時間を巻き戻したミッチーは撃たれる寸前で真部を庇い、代わりに自身が銃弾に当たったことにより真部の死は見事回避されたが、しばらくしてステージに舞い戻ったミッチーの頭には包帯が巻かれており、撃たれた際に怪我をしたためか僅かに血が滲んでいた。
 
そんなこんなで真部が殺害される未来を防いだミッチーは、改めてライブを行うことを決意。そして「お客さんにも気付かれてないし……。このまま行こう!起承転、スタートです!」と叫ぶと、ダンサブルなSEに合わせてメンバーが登場。別の世界線で銃殺されたはずの真部も元気そうだ。
 
少し遅れてステージ中央へと進んだ齊藤(Vo)が「集団行動です。最後までよろしく」と発してスタートした1曲目は、ニューアルバムでも同じく1曲目に位置していた『SUPER MUSIC』。
 
〈最高の瞬間を 最高の快感を まだまだ死ねないdon't stop the music〉

〈青春の衝動を 存在の証明を残そう 踊ろう さあdance dance dance〉
 
『SUPER MUSIC』はライブの開幕に相応しい、ダンサブルに進行するポップロックナンバー。ロックバンドのピンボーカルと言えば身振り手振りを駆使して盛り上げることの多いイメージではあるものの、齊藤はごく稀に体を翻して後ろを向く程度で、基本的にはじっと前方を見据え、圧倒的な集中力で歌唱に全身全霊を注ぐ。齊藤はかつて『ミスiD2016』のファイナリストにも選ばれた異色の経歴の持ち主なのだが、その美貌も相まって、じっと目を釘付けにさせられる神々しさを纏っている。バンド結成前は「音楽をほとんど聴かない」と様々なメディアで語っていた彼女だが、今回のライブでは明らかな歌唱力の向上と共に、いちボーカリストとして完全に自立している印象を受けた。

真部、ミッチー、西浦(Dr)、そしてサポートメンバーの奥野大樹(Key・ルルルルズ)から成る楽器隊は高度なテクニックこそ使わないものの、ずっしりとした演奏で土台を固め、抜群の安定感だ。
 
続く『テレビジョン』も同様に、アッパーながらもテンションの高さを然程感じさせないマイペースな雰囲気で魅了。日本の音楽シーンに多大な影響を与えた相対性理論の時代にも感じていたことではあるが、やはり真部の織り成すサウンドと歌詞は一度聴いただけで真部が手掛けたものと分かるような唯一無二の存在であり、そうした音の数々が目の前で繰り広げられている光景には、感動すら覚えてしまう。
 
しかしながら、集団行動の素晴らしきライブは早くも不穏な空気を見せることに。時間の概念を超越したミッチーは次第に、今なら全てが自分の思いのままになるという邪な考えに支配され、完全なる暴走状態と化してしまったのだ。そして「せっかくの機会だからメンバーへの日頃の鬱憤を晴らしてやろう」と企んだミッチーの高笑いが響く中、『セダン』へと移行。
 
冒頭こそ順調な滑り出しではあったものの、ピタリと静止した状況の後に全員が一斉に演奏するという『セダン』における一番の見せ場で時間を停止したミッチー。だがミッチーの所業はそれだけに留まらない。今まで散々弄り倒された鬱憤を晴らすべく、まずは西浦のドラムスティックを奪い取ると、その代用品として大根を握らせ、キーボードの奥野には「出す音全部和音にしてやる!」と鍋つかみを装着させ、真部には「プライベートがキザだから」との理由でピックの代わりに一輪の花を持たせる。更にフロントウーマンの齊藤には背中に“何か”を括り付け、時間停止を解除。
 
必然、演奏はぐちゃぐちゃ。あまりの不協和音ぶりに急遽演奏を止めさせたミッチーは、ここぞとばかりに「真部さん!何で花なんか持ってるんですか?真面目にやってくださいよ!あなたも大根なんて持っちゃって!」と満面の笑みで説教モードに。
 
数分後、ピックやドラムスティックに改めて持ち替えて再開したものの、齊藤の背中に括り付けられた“何か”の存在は未だ不明のまま。しかし直後に行われた真部のギターソロ中に齊藤が後ろを向くと、そこには大きく『←バカ』と書かれており、その矢印の先には真部が示されていた。目を瞑りながら美しいギターソロを繰り出す真部と、そんな彼を文字通り馬鹿にする『←バカ』のくだりに会場は爆笑の渦に包まれる。演奏終了後は背中の貼り紙に気付いて怪訝な表情を浮かべた齊藤だが、無表情でそれを観客に手渡すと、何事もなかったかのように歌い始める。
 
その後は間に1stミニアルバム収録の楽曲やミッチーの故郷である大阪・難波の話を挟みつつ、ニューアルバムの楽曲を惜しみ無く披露した集団行動。本編最後は「ありがとうございましたー!」とのミッチーの一言から、『鳴り止まない』でシメ。「鳴り止まないなないなななない……」のリフレインがぐるぐる回る中凄まじい疾走感でもって駆け抜け、笑顔でステージを去っていった。

ここまでで約40分。あまりにも早い幕切れに疑問を感じ、現時刻を確認する観客も多く見受けられたが、当然ながらまだライブは終わらない。アンコールを求める手拍子が広がる中、再びステージに舞い戻ったミッチー。「いやー、ライブ良かったなあ!」と語りつつ、若干の物足りなさを感じたミッチーは、もう一度ライブを最初からやり直すことを決める。早速時間を巻き戻した彼だったが、予想以上に時間を戻しすぎたようで、気付けば今まさに真部が銃殺されようかという状況であった。
 
危険を察知したミッチーは「ちくしょう!間に合ってくれ!」とステージを去り再び真部を庇う行動に出たのだが、冒頭では1発しか放たれなかった弾丸が何故か今回ばかりは数発発射され、戻ってきたミッチーは全身包帯だらけで満身創痍。
 
そんなフラフラの状況の中「今度はセットリストも変えてみよう。起承転、スタートです!」と何事もなかったかのように叫ぶと、40分前と同じ展開でもってメンバーが再登場。
 
ミッチーの言葉を裏付けるかの如く1曲目は『SUPER MUSIC』ではなく齊藤の手拍子に端を発した『充分未来』に変更されたものの、演奏終了後はまたもや不穏な空気に。演奏中に謎のドS心が芽生えたミッチー、今度は「次のターゲットはあんただ!フロントウーマンさんよー!」と齊藤ひとりに狙いを定め、演奏中に何かしらの方法で辱しめることを明言すると「さーて、いつ止めようかなー!」と上機嫌。そのまま移行したのは『皇居ランナー』だ。
 
ここでは後半に周囲の演奏が止み、齊藤の歌唱から再スタートする最も盛り上がるタイミングで時間を止め、ミッチーは「これこれー!」と高めのテンションで嬉しそう。ちなみに先に語っていた『何かしらの方法』とはすなわち齊藤が使っているマイクを巨大化させることであり、裏からは齊藤の顔をすっぽり覆い隠すほどの巨大マイクが登場。
 
ここでミッチーが齊藤のマイクに近付いて巨大マイクのセッティングを施すのだが、巨大すぎてどう調整しても齊藤の顔に当たってしまう。そのため絶対的にマイクの位置自体を移動させる必要があるのだがなかなか上手く行かず、いたずらに時間が経過していく。もちろんその間の時間は止まっている設定であるため全員が静止してはいるのだが、自身の目と鼻の先でマイクの設置に手こずるミッチーのグダグダ感に、齊藤が笑いを必死で堪えていたのは噴飯ものだった。
 
前述した通り、今回のライブの主軸は企画者であるミッチーである。そのためストーリーのみならずMCも全編通してミッチーに丸投げだったのだが、ライブであまりMCを担当することがないミッチーは頑張ろうとすればするほど発言が空回りし、何度も言葉に詰まってしまう。果ては「さっきの大阪の話の続きなんですけど、その後神奈川の実家に帰ったんですよ。実家は長い坂を越えた先にあるんですけど、突然目の前から胸に『芋掘り体験』って札を付けたおじいちゃんが歩いてきたんですよ!うん……。パタタス・フリータス!」と無理矢理楽曲に繋げたりと、どうにも歯切れが悪い。だが『とりとめのない話が逆に面白い』というのは逆に考えればこの日ならではの光景でもあり、ある意味では新鮮だった。
 
そんなこんなでライブは続き、ラストは本日2度目となる『鳴り止まない』で大盛り上がりの幕切れだ。

本編最後の楽曲ということもあり、今までほぼ感情を表に出さず歌唱に徹していた齊藤の表情も幾分朗らかで、ミッチーを初めとしたメンバーに関しても緊張から解き放たれて心から楽しそうだ。終盤では楽器隊が客席ギリギリまで近付いての小箱のライブハウスならではのパフォーマンスで魅了し、「ありがとうございました!」と大団円でステージを後にした。
 
しばらくしてアンコールに答えてステージに三たび登場したメンバーは、ここで本日初の5人交えてのフリートークの時間へ移行。
 
まずは真部が「今回の時間巻き戻すシナリオってさ……」と語ったことから端を発した『バンドメンバーはミッチーが時間の巻き戻し及び時間停止を行っていたことを知っているのか問題』について話が及ぶが、ミッチーいわく「(タイムリープ中の記憶があるかないかは)どっちでもいい」とのことで、最後までグダグダな設定を見かねた真部が「あのね、素人がSFに手を出したらダメだよ」と苦言を呈する場面も。
 
更に今回のミッチー作のシナリオが前回の『起』のシナリオと地続き(真部が銃殺された等)になっていることを受け、1か月後に『齊藤里菜的集団行動「転」』を担当する齊藤はこの流れを再度受け継ぐかどうか問われると、齊藤は断固拒否していた。
 
ちなみに「ミッチー、こんなグダグダで終わってどうするの?」と疑問を感じる真部に対しては「最後はめちゃくちゃ笑い死ぬレベルのやつがあるんで!」と自信満々のミッチーであったのだが、それについては後述。
 
10月から12月にかけて、3ヶ月連続の新曲配信を行ってきた彼ら。よってアンコールでは配信されたばかりの新曲を立て続けに披露することを宣言し、「新曲聴きたいかー!」との真部の一言から披露されたのは『ガールトーク』と『キューティクル』だ。
 
新曲群は、現在の集団行動のモードを色濃く反映したメロウチューン。『ガールトーク』では真部が担当楽器をギターからキーボードに持ち替え、打ち込みを用いたサウンドでもってゆったり聴かせる。『キューティクル』も同様に心地良い浮遊感を感じさせる美メロで進行し、本編で演奏した楽曲群とはまた一味違った雰囲気で会場を魅了した。
 
最後の曲はニューアルバム『SUPER MUSIC』に収録されている楽曲の中で、本編で唯一披露されていなかった『チグリス・リバー』。
 
メンバー全員が楽器を置いて横並びになり、オケを流しながらそれぞれがマイクを持って歌うという予想外の形で進行した『チグリス・リバー』……。長らく真部の音楽に触れてきた身としては、海外の民謡音楽を彷彿とさせる壮大なこの楽曲は異質な実験作というイメージが強かったのだが、サビ部分の一体感は確かに、ライブで強い一体感を共有するのに最も適していたようにも思う。事実この場では全員が腕を左右に振りながらの大合唱となり、まるで映画のエンドロールのような多幸感に満ち満ちていた。

曲の後半に差し掛かった際にはミッチーが突如体調不良を訴え、ヨロヨロとステージ裏へと撤退する謎の一幕もあったが、『チグリス・リバー』はそのまま続行し「ありがとうございました!」と全員がステージを降りた。
 
ただひとつ体調不良により『チグリス・リバー』中に去っていったミッチーが気掛かりだったが、その後白髪に顎髭、更には腰も大きく曲がってすっかり老人の姿となったミッチーが、スポットライトを浴びながら再登場。そして「これが力を使いすぎた者の末路なのか……」と語るオチが挟まれ、客電が点灯。『ミッチー的集団行動「承」』は、誰も予想だにしていなかったまさかのバッドエンドで幕を閉じたのだった。
 
『起承転』と名付けられると共に、メンバープロデュースという初の試みで行われた今回のライブ。始まる前はどうなることかと身構えていた部分もあったのだが、結果的には集団行動の新たな始まりを占う試金石とも言える重要なライブであったように思う。コント風の展開による実験的な試み。メンバーひとりひとりの重要性……。そして何より、新曲を含めた耳馴染みの良い楽曲群が、今の集団行動はかつてない程に素晴らしき状態にあるのだと雄弁に示していた。
 
完全なるミニアルバム再現ライブと化した『西浦謙助的集団行動「起」』、そして最新アルバムから全曲披露した今回の『ミッチー的集団行動「承」』をもって、現在までの持ち曲は全て演奏されたことになる。しかしながら漢詩において何かが起こる始まりを意味する『起承転結』の一部分を冠した今回のライブからも分かる通り、集団行動はまた次なる目標へと踏み出すことだろう。
 
今月は最後の新曲『マジックテープ』が配信リリースされ、来年には『POP MAGIC vol.1』と題された新たなワンマンライブも決定している。果たして今後、このバンドはどのように変化し、ファンを楽しませてくれるのだろうか。集団行動のメンバーたちによるより一層の『集団行動』に、より一層注視していきたい。


※この記事は2019年12月13日に音楽文に掲載されたものです。