晴天の日々が続き、夏の気配が次第に近付いてきた7月某日。ミオヤマザキの全国ツアー『47都道府県完全無料ワンマンツアー 「2020年1月11日ミオヤマザキ横浜アリーナやるってよ。」 』の13箇所目となる、島根公演が行われた。
タイトルにも冠されている通り、今回のツアーはミオヤマザキ初の47都道府県制覇、かつ完全無料という破格の条件下で行われるライブである。それだけに留まらず、ライブ終了後には基本的に強制参加となる『横アリチケット手売り会』なるものが開催され、ミオヤマザキのメンバーひとりひとりと直接会話をし『運命の決断(横アリのライブチケットを購入するか否か)』をしなければライブハウスから出られないという、常軌を逸したシステムまで取っていた。
前代未聞のテーマで行われる今回のライブにおける意味合いはひとつ。自身最大キャパとなる横浜アリーナのライブに向けた勢力拡大である。
横浜アリーナのキャパは17000人。彼らがかつて『最大規模のライブ』として開催した日比谷野外音楽堂の、5倍以上の収容人数だ。一見無謀にも思える試みではあるものの、本編のMCでtaka(Gt)が「何でこんな辛い思いをしてまで全国回ってるかって言うと、一度目を見て話した人たちで埋めたいんよ」と語っていた通り、彼らは楽曲とファンの力を本気で信じている。愚直に大真面目に、一度やると決めたら成功のためにあらゆる手段を尽くす。そのための47都道府県ツアー。そのための手売り会なのだ。
会場に足を踏み入れると、そこには開演20分前にも関わらず大勢の観客が。客層は女性がかなり多く見受けられ、開演前から黄色い声が飛び交っていたのが印象的だった。
ライブ開始まで残り数分となった頃、突如会場内に「本日はご来場いただいてありがとうございます!」というHang-Chang(Dr)の声が響く。ここでは本日のライブの趣旨を説明すると共に、数日前のライブで喉を痛めたmio(Vo)について、喉の負担を極力減らすためにmio本人によるMCは行わないことや、ライブ終了後の手売り会は筆談で応じることを説明。その後は一人で参加した観客の緊張を解すために、ツイッターにて「ミオヤマザキやばたにえん」と繰り返し呟く『魔法のおまじない』なる行動を今すぐ行うように指示。島根県に訪れるのは初となるミオヤマザキだが、ライブが始まる前からアットホームな雰囲気に包まれていた。
定時を少し過ぎた頃に暗転。「ミオヤマザキです。よろしく」とmioが短く発し、雪崩れ込んだ1曲目は『女子高生』。
マイナーコードと打ち込みを多用したゴリゴリのサウンドに、先程まで朗らかな雰囲気だった会場のボルテージは瞬時に上昇。あちらこちらでヘッドバンギングが多発し、一様に跳び跳ねまくる異空間に変貌した。
ライブ中はある種の匿名性を前面に押し出すミオヤマザキらしく暗い照明に徹しており、メンバーの表情はほとんど伺い知れない。しかしながらヘッドバンギングを促す様や楽器隊の演奏ははっきりと確認でき、むしろミステリアスな存在感でもってこの日のパフォーマンスに一役買っていた印象を受けた。
事前に声の不調をアナウンスされていたmioの歌声は想定していたよりも遥かに良く、ステージを所狭しと動きながら高音やビブラート、ロングトーンまでも完璧に歌い上げていた。通常重いサウンドに打ち込みが加わるとボーカルは聴こえにくいことも多いのだが、今回のライブにおいては話は別。爆音のサウンドにも一切負ける気配のない、ロックバンドのいちボーカリストとして圧倒的な存在感を放っていた。
「会いたかっただろ?楽しんで帰れよ」とのmioの一言からは『斉藤さん』、『鋲心全壊ガール』と矢継ぎ早に続いていく。時折オートチューンも織り混ぜつつの鬼気迫るパフォーマンスに、会場の熱量はどんどん底上げされていった。
『鋲心全壊ガール』後は本日初となる長尺のMCへ。事前に告知されていた通りmioの喉の負担を軽減するため、MCはギターのtakaが担当することに。
昨日は鳥取県、そして翌日からは1日おきに山口・岡山・広島を回るというハードスケジュールな公演を控えているミオヤマザキにとっては、今すぐに莫大なエネルギーを補給する必要があると考えたメンバーたち。そのためライブ前にライブハウスから車で5分ほど走った先にあるイオンに行き、昼食としていきなりステーキを食したそうだ。
この日は7月2日ということもあり、イオンの一角には『七夕コーナー』が設置されていたとのこと。願い事が書かれた短冊を確認した一行は、その中にあった「セックスがしたい」と書かれた短冊を発見。浮気や性行為、水商売を題材にした楽曲を多く発表してきたミオヤマザキにとっては「私たちらしいなあ」と思ったという(ちなみにmioは「私もしたい」と短冊に書いて飾ったそう)。
来たる横浜アリーナでのライブへの思いも吐露してくれた。17000人のキャパを埋めるには相当な覚悟と行動力が必要となること。今回47都道府県ツアーを敢行したのも「ミオヤマザキを愛してくれる人たちで最高のライブを作りたい」という意思の果ての行動であること……。「本当にみんなに来て欲しいんよ」と切実に語るtakaと一切茶化さず話に耳を傾けるメンバーを見ていると、その思いがどれだけ強く重いものなのかが分かる。
その後は『婚活ハンター』、『Que sera, sera』、『CinDie』、『un-speakable』といった新旧織り混ぜた楽曲群で進行。mioは「首を振れ!」と煽り倒し、更なるどしゃめしゃのサウンドの渦に引き込んでいく。観客もそれに呼応するように歌い踊り、大盛り上がりで時が過ぎていく。
最後に演奏されたのは代表曲のひとつである『正義の歌』だ。中でもmioによる「くそくらえ。もう一回言いますね。くそくらえよ!」の叫びに合わせての狂騒は筆舌に尽くしがたいものがあり、この日一番のカオス空間となった。ラストはダメ押しの「私の正義は誰かを救えます様に!」の絶唱と一面に広がるヘッドバンギングの海で完全燃焼。観客によって形作られた多数のハートマークが掲げられる中、大団円で幕を閉じた。
ライブ時間は約50分。ミオヤマザキの全てを把握するには明らかに短い時間ではあったものの、彼らの断片的な魅力を知るには有意義なものであったと思う。
ライブ終了後、ミオヤマザキはアナウンスにあった通り、ファン全員と交流していた。これは決して誇張ではない。メンバー全員が列に並んだファンの元を練り歩き、握手をし、何度もミオヤマザキのライブに足を運んだことのある常連のファンには近況を聞いたりと、本当にひとりひとりに対して大幅な時間を割いて話をしていたのだ。
「目の前のメンバー全員と会話ができる」というこの交流は、47都道府県を回る今回のツアーで必ず行っている。しかし本来アーティスト写真やメディアで一切顔を出さない姿勢を貫いているミオヤマザキにとっては、これらの活動は匿名性を前面に押し出した今までの活動とは180度異なるものだ。
ではなぜこうした活動をするのか。答えはもちろん『横浜アリーナ完売』の一文を見るためだ。正直横浜アリーナでライブをすると発表された当初は「いくらなんでも無謀だ」と思ったものだが、「次のライブも絶対行きます!」と満面の笑顔で語るファンを見ていると、横浜アリーナを埋めるのもあながち不可能ではないのではないかと思えてくる。
ミオヤマザキは今後もスレ(彼らのライブの通称)の勢力を拡大し、更なる知名度と人気を獲得していくことだろう。怒濤の47都道府県ツアーが終幕し、今月からは全国各地のZeppを回るツアーも控えている。全ての布教活動を終えたミオヤマザキは、間違いなく圧倒的な自信とスタミナを持って横浜アリーナという大舞台に立つはずだ。「ミオヤマザキ、横浜アリーナ完売したってよ」というスレが立つ日が来るのも、そう遠くはないのかもしれない。
※この記事は2019年11月7日に音楽文に掲載されたものです。