キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】ロックンロールはこれでいい。これがいい。 〜ザ・クロマニヨンズの信念が浮き彫りになった、某日のライブレポート〜

先日、島根県・松江市総合体育館にて、ザ・クロマニヨンズ、斉藤和義、SUPER BEAVER、My Hair is Badによるライブ『BONE TO RUN! YUMEBANCHI 2019~だんだんROCKS!~』が開催された。以下、2番手として出演したザ・クロマニヨンズのライブレポートを記す。
 
日本のロック界を牽引する偉大な存在でありながら、『アルバムをリリースしてツアーを回る』というスタイルを毎年全く崩さない不動のロックバンド、ザ・クロマニヨンズ。
 
思えば甲本ヒロト(Vo)と真島昌利(Gt)によるザ・ハイロウズの活動休止が発表されたのが2005年11月。その後新たにザ・クロマニヨンズを始動してからというもの、早いもので今年で13年の月日が経過した。
 
THE BLUE HEARTS、ザ・ハイロウズ共に8枚目のアルバムをリリースした後に活動休止や解散に至ったことから、8枚目のアルバム発売以降、ファンの間で一種の懸念事項でもあったザ・クロマニヨンズの活動。しかしながらそうした予想は全くの杞憂に終わり、それどころか来る10月9日にはなんと自身13枚目となるニューアルバム『PUNCH』の発売も決定している。
 
個人的には年功序列的な考えから、てっきりザ・クロマニヨンズの出順は斉藤和義の前か後……。つまり後半あたりだろうと勝手に推測していたのだが、なんと年若いMy Hair is BadとSUPER BEAVERの間に挟まれた2番手というまさかの順番で出演。
 
実際僕と同様の考えに至ったファンは多かったらしく、後方で休んだりゆっくりトイレ休憩から帰ってきた観客(主に30代)が、メンバーがステージに現れた瞬間に「え!?クロマニヨンズ!?」と猛ダッシュで前方に進む姿が多数見受けられ、気付けば周囲は押しくらまんじゅう状態に。
 
メンバーの名前が口々に叫ばれる中スタートした1曲目は、もはやザ・クロマニヨンズのライブでは定番となった直接的なロックンロール、『クロマニヨン・ストンプ』だ。
 
〈人間 人間 人間 人間
 人間 人間 人間 人間〉

〈宵越の 金もたねえ てやんでえ しゃらくせえ〉

〈クロマニヨン クロマニヨン クロマニヨン ストンプ〉
 
どしゃめしゃの演奏が展開される中、観客は一様に拳を突き上げながらの大熱唱。その熱は一瞬たりとも途切れることはない。加えて常に野太い声が飛び、ヒロトの歌唱に対してしきりにレスポンスを返す観客たちを見ていると、まるで古くからのファンのみが集まった大規模な単独ライブのようにも錯覚する。
 
寸分狂わずビートを刻み、泥臭いロックンロールを形作っていく楽器隊。ボーカルのヒロトはと言えば時折口をひょっとこのような形に変えて歌いつつ、間奏では両手両足を木偶人形のように動かすおなじみの姿を見せるなど、早くもトップギア。
 
その後もヒロトが「突撃、ロックだあー!」と叫んで雪崩れ込んだ『突撃ロック』、ギターサウンドが鼓膜を震わせる『エルビス(仮)』といった性急なナンバーが続く。
 
ザ・クロマニヨンズの楽曲は、悪い言い方をすれば非常に単調だ。一度聴いただけで瞬時に口ずさめるど真ん中ストレートの歌詞の数々と真っ向勝負の演奏はあまりにもシンプルであり、無骨であり、直感的だ。
 
特にギターとベース、ドラムから成る3つのサウンド面に関しては、打ち込みの多用やサポートギターの追加でもって音の厚みを重視する今の音楽シーンとは、完全に逆行する代物である。
 
おそらく彼らの歌詞に深い意味はないのだろうし、CD音源に至っては決して綺麗とは言えない一発録り。長く音楽活動を行ってきた博識なザ・クロマニヨンズのことだ。歌詞を深く練り上げたり、各自で録音してサウンドに広がりを与えたりといった方法もやろうと思えば出来るはずである。
 
だが彼らは絶対の確信を持ってそれをやらない。何故なら彼らの中にあるのは『自分たちが格好良いと思ったロックンロールを鳴らすこと』のみであり、それ以外に何の意味もないのだから。
 
思えば計算立てて攻略していくのではなく、野性的な直感で突き進むようなこのスタイルは、昔から微塵も変わっていない。それは今回のライブでも同様だ。ひたすらパッと思ったことを歌詞にし、ロックバンドの楽器で音を鳴らす。そんなザ・クロマニヨンズの猪突猛進型のロックンロールは、かくも最高で、美しい。
 
全編通してバラードチックな楽曲は一切演奏しなかった今回のライブだが、中でも4曲目に演奏された『ギリギリガガンガン』はひとつのハイライトだった。
 
〈ギリギリガガンガン ギリギリガガンガン〉

〈今日は最高 今日は最高〉
 
今回演奏された『ギリギリガガンガン』は、CD音源と比べてBPMが明らかに早い印象を受けた。時折ヒロトが歌詞を発しきれず詰まってしまう場面もあり、その焦燥感に満ちた流れは、まるで感情が理性を引っ張っていくかのよう。
 
ヒロトは歌うというよりはがなり立てるように進行し、終盤のサビにおいてはリズムを無視しつつ「今日は最高!今日は最高ー!」と絶叫。中でもTシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になったヒロトがステージに仰向けで倒れ込み、足をバタつかせながら歌う姿には心底痺れた。
 
『生きる』、『どん底』といったこれまたスピーディーなロックナンバーが続いたところで、この日初となるMCへ突入。
 
冒頭でヒロトは「今日は4つのバンドが出ます。でもそれは4分の1とかじゃなくて、みんなひとつを全力でやります。だからみんなは4倍楽しんで帰ってくれ!」と語っていた。僕はこの発言に、彼の思いが詰まっているような気がしてならなかった。
 
というのも今回、自分たちよりも遥かにキャリアの短いSUPER BEAVERを3番手に送り出し、いわゆるベテランであるザ・クロマニヨンズが2番手として出演したことは、ライブ開始当初から個人的に疑問に思っていたからだ。
 
ザ・クロマニヨンズと斉藤和義が主となって開催される『BONE TO RUN』というイベントは、何も今回が初めてではない。開催する都道府県こそ幾度か変化したものの、今までに何度も開催されている夏の恒例行事のひとつなのだ。
 
僕はその中の何回かに参加した経験はあるが、例外なく順番は若手バンド→ザ・クロマニヨンズ→斉藤和義というものだった。ではなぜ今回に限りザ・クロマニヨンズは後輩にバトンを譲ったのか……。その理由が秘められているのが、上記のMCなのではなかろうか。
 
そう。彼にとってロックバンドは平等なのだ。キャリアの長さや年齢の経過は大して重要ではない。大切なのはそのバンドに確固とした志があるか。そして楽曲を聴いたリスナーに開口一番「格好良い」と言わしめる力があるか。ただそれだけなのだ。それらの前では全てが平等であり、イコールなのである。
 
もちろんこれは僕の単なる推測で、真偽の程は彼自身にしか分からない。もしかするとニュー・ジェネレーションの力に未来を委ねたのかもしれないし、集まった観客の年齢層に合わせた計算なのかもしれない。

しかしながらこの推測は、あながち間違ってはいないとも思うのだ。なぜなら甲本ヒロトはそういう人間だから。良いものは良い、悪いものは悪いとはっきり口にする、不器用な人間だから。彼はロックンロールを愛し、同時に救われてきた人間だ。そんな彼が音楽の持つ魅力を無視してSUPER BEAVERをトリ前に譲り、自身は2番手に自ら進んだとは到底思えない。
 
結果的には今回の出演順についてMCで明言することはなかったものの、彼らのロックンロールに対する絶大な愛情は、勝手ながら十二分に感じた次第だ。
 
「ここから後半戦、どんどん曲をやりたい。レインボーサンダーからあと2曲くらいはやりたいなあ。行こう!」と語り、ここからは『恋のハイパーメタモルフォーゼ』、『GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)』をドロップ。
 
これらは昨年10月にリリースしたアルバム『レインボーサンダー』に収録された楽曲であり、言い方を変えれば今回のライブで披露された楽曲の中では唯一メジャーでない楽曲ということになるのだが、観客は皆踊り狂うどころか即座にサビを熱唱するほどの盛り上がりに。
 
その後は勢いそのままに『エイトビート』、『タリホー』の磐石の流れから、『ナンバーワン野郎!』でフィニッシュ。
 
〈やる事は わかってる 立ち上がる 立ち上がる〉

〈いつまでも どこまでも 立ち上がる 立ち上がる〉
 
シンプルなコード進行と歌詞の応酬は今までと同様。にも関わらず観客による感情の高まりからか、ここに来て熱量が一段階引き上げられたような感覚に陥る。
 
バンドTシャツを着ていた前半こそ分かり辛かったが、あばら骨が浮き出た上半身裸のヒロトは見るからに痩せており、一見するとハイカロリーな歌を歌えるようには思えない出で立ちをしている。しかしながら『ナンバーワン野郎!』ではステージ上を所狭しと動き回り、跳び跳ねながら絶唱するなど疲れ知らずのパフォーマンスに終始し、間奏ではブルースハープも披露する超人っぷり。
 
終盤では観客と共に声を枯らさんばかりの勢いで「イェー!」のコール&レスポンスを繰り広げ、完全燃焼で幕を閉じた。
 
持ち時間僅か40分の間に11曲を捩じ込んだライブ。ふと周囲を見渡すと、観客は皆汗だくだ。だがまだまだ物足りない観客も多かったらしい。メンバーが楽器を置き退場しようとした瞬間、口々にメンバーの名前を叫んだりアンコールを求める声が観客から上がる。
 
あれだけ熱狂的なライブを終えた後だ。多くのバンドの場合は退場前に真摯に観客への感謝の念を述べたり、「次はライブハウスで会いましょう」といったメッセージを発するものである。特にザ・クロマニヨンズに関しては今年新たなアルバムリリースを控えているわけで、その告知なりがあっても別段おかしくないと思っていた。
 
しかし実際は真島(Gt)がぽつりと「ありがとー」と言ったのみで、メンバーはいそいそとその場を離れていく。まるで一瞬で終わる映画のエンドロールの如く、気付けばステージ上には誰もいなくなっていた。最初から最後まで余裕綽々。それが何とも彼ららしくて笑ってしまった。
 
ライブ終了後、小休憩に向かった僕の目の前を、何人かの観客が全速力で通り過ぎていった。ふと行方を追ってみると、そこにはザ・クロマニヨンズのグッズを求めて物販ブースに長蛇の列が出来ていた。
 
この日初めて彼らの音楽に触れた人は一定数いただろうし、元々興味のなかった人さえいたかもしれない。しかしそんな人々が今、グッズを求めて列を成している……。おそらくそうした人たちのある種の決定打となったのが今回のライブなのだろうと思う。

10月からはニューアルバムを携えての約半年間のツアーが始まる。そして彼らはその会場ごとにまた新たなファンを獲得し、人気を拡大させていくのだろう。もしかしたら今のザ・クロマニヨンズは絶頂期……。いや、むしろTHE BLUE HEARTSとザ・ハイロウズの活動期間をも超えた現在は、絶頂期を超えた先の未踏の地へと足を踏み入れているのかもしれない。
 
……彼らの人気はまだまだ続く。そう心の底から確信した一夜であった。


※この記事は2019年8月26日に音楽文に掲載されたものです。