キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】yonigeの真髄、ここにあり 〜運命の矢で射抜かれた、ツアー追加公演〜

3月11日、島根県・松江canovaで開催されたyonigeのライブツアー『君のおへその形を忘れたツアー 追加公演(ダーツで決めた編)』に参加した。今回はそのレポートを記す。
 
今回のライブは昨年に開催されたyonigeのワンマンツアー『君のおへその形を忘れたツアー』の追加公演である。通常、追加公演と言えば比較的人が集まりやすく、高い収益率が見込める東名阪あたりで行うのが定石。ではなぜ今回数ある都道府県の中で、地方都市である島根県が選ばれたのか。話は昨年まで遡る。
 
ツアーファイナルであるZepp DiverCity TOKYOのアンコールにて、メンバーは次なる追加公演の地を決める方法として、ダーツを行うこととなった。結果的にはごっきん(Ba.cho)が埼玉県、牛丸(Vo.Gt)が海外を見事射止めた。そしてサポートメンバーであるホリエ(Dr)が放った矢は、ここ島根県に刺さったというわけだ。
 
8月には日本武道館単独公演も決まり、今のyonigeは脂が乗り切った最高の状態だ。そんな彼女たちの約2年ぶりとなる島根でのライブを見ようと、チケットは即ソールドアウト。最終的にはキャパシティを大きく上回る客入りとなった。
 
定時を少し過ぎた頃、暗転。穏やかなSEが流れる中、牛丸とごっきん、サポートメンバーのホリエが静かにステージに立つ。
 
ホリエのシンバルを打つ音と共に雪崩れ込んだ1曲目は、最新アルバム『HOUSE』収録のロックナンバー『リボルバー』。
 
〈永遠みたいな面した後 ふたりは別々の夢を見る〉

〈君のおへその形すらもう 忘れてしまっている〉
 
男女の切ない恋愛模様を、今ツアーのタイトルにも冠されている歌詞を織り交ぜながら描いていく。終始両目を瞑りながら歌う牛丸は、ひとつひとつの歌詞を噛み締めながら観客へ届けようと試みているように見えた。
 
間髪入れずに『our time city』『バッドエンド週末』へと進んでいく。まるで楽曲に憑依したかの如く鬼気迫る演奏を繰り広げるyonigeに、観客は手を挙げることもなく聴き入っていた。
 
『バッドエンド週末』演奏後には「島根楽しみにしてました。ありがとうございます」という短いMCがあったものの、すぐに演奏へと移行。
 
今回のライブは総じてストイックに楽曲と向き合っていた印象を受けた。曲間のMCはほとんどなし。水分補給やチューニングの時間も極端に少なく、終始ヒリヒリとした緊張感が会場を支配していた。
 
セットリストに関しては昨年リリースしたミニアルバム『HOUSE』を中心に、yonigeの知名度を飛躍的に上昇させたキラーチューンやワンマンライブならではのニッチな楽曲など、幅広いラインナップで進行していく。
 
『悲しみはいつもの中』終了後には、今回初めてとなる長尺のMCへ突入。
 
まずはベースのごっきんにスポットが当たる。しかし今まで一言も話していなかった彼女が突然話し始めたため、会場は一瞬にして笑いに包まれる。「何笑とんねん!」と一喝するごっきん。
 
「島根ホンマ、断トツで来るとこちゃうからな!」と辛辣なディスをかます。車で10時間かけて島根に来たことを明かし、「ライブハウスの前にセガ(ゲームセンター)あるやん。ヤバない?他にいろいろ置ける店あるのにセガて」、「ご飯食べようと思ったらほとんどが閉店してた」と語るごっきん。そう。特に今回のライブ会場となった松江AZTiC Canova周辺は辺鄙な場所としても知られている。地元民としては当たり前の風景だが、彼女たちが育った大阪府寝屋川市と比較すると見劣りするのも頷ける。

その後も島根での思い出やライブ会場に到着するまでのエピソードが語られるのだが、中でも面白かったのは牛丸の自由奔放な行動。本日の昼の12時にはホテルのロビーに集合予定だったらしいのだが、何と牛丸は早起きして誰にも告げず、自分でレンタカーを借りて出雲大社に行っていたという。
 
更に牛丸は「島根でスタバに行くのは逆にレアでは?」という考えの元、出雲大社近くと松江駅のスターバックスに立ち寄っていたそう。「1日でコーヒー2杯飲んでお腹壊した……」と呟く牛丸に、この日一番の爆笑の渦に。
 
ここからはニューアルバム『HOUSE』の楽曲を織り交ぜつつ『しがないふたり』『沙希』『また明日』といったレア曲もどんどんプレイ。これらは対バンライブやフェスではほとんど演奏しない楽曲ばかり。ワンマンライブならではの選曲に、観客は皆一様にゆったり体を動かしながら聴き入っていた。
 
最新アルバム曲の中ではイントロを鍵盤楽器に託していた『どうでもよくなる』と『ベランダ』も演奏されたのだが、該当するイントロ部分は一切演奏しなかったのが印象的だった。ややもすればキーボード類を配置したりPCの打ち込みで代用しがちなのだが、yonigeは一貫して3人による生演奏に拘っていた。
 
通常であれば「鍵盤楽器使わないのか」と落胆してしまいそうなシチュエーションではある。しかし今回のライブにおいては余計な音を省いたことで、直接的に楽曲に感情移入できた感覚があって良かったと思う。
 
中盤のMCでは事前に島根について調べてきた牛丸と、事前情報一切なしのごっきんの対比が顕著に表れた時間に。
 
「島根ってらっきょうが有名なんやろ?」と語ったごっきんはあっさり観客に論破されてしまい(実際に有名なのは鳥取)、逆に牛丸はしっかり調べた分「のどぐろ?」とアピール。
 
それ以外にも牛丸は「しじみ……あとは赤てん?」と次々に名産品を語っており、島根県民からすれば心から感謝するレベルで知識を蓄えて訪れていた。ありがたい。
 
「ここからは皆さんが知ってる曲もどんどんやっていきたいと思います」というのはごっきんの弁だが、その言葉の通りここからはyonigeのキラーチューンで畳み掛けていく。
 
『センチメンタルシスター』『さよならアイデンティティー』ではサビ部分に多くの観客が手を挙げ、この日一番の盛り上がりを見せる。yonigeの知名度を爆発的に上昇させた『アボカド』では牛丸が歌詞を忘れて鼻歌でカバーする場面もあったが、それもまたライブでしか体験できない一場面として昇華していた印象だ。
 
本編最後のMCでは「島根でライブするって友達に言ったとき『集まらないんじゃないの?』って言われたんですけど、始まってみればキャパを超えた人が集まってくれて嬉しかったです」と牛丸が語り、盛大な拍手が沸き上がる。
 
「ラスト2曲です!」とごっきんが発した後に「最後の1曲やります」と演奏を始めようとする天然の牛丸に笑いが起こりつつ始まったのは『さよならプリズナー』。
 
〈さよなら 次に会うときは他人でいようよ〉

〈それがわたしにできる最後のこと〉
 
期せずして失恋ソングの連発となった後半戦だが、その中でも『さよならプリズナー』は最も憂いを帯びていた。心から愛した恋人が家を出た喪失感と虚無感を、この楽曲はあまりにもリアルに映し出していた。

キーが高いのか時折苦しげに歌う牛丸を見ていると、更に強く心に突き刺さる感覚に陥る。日本には様々なバンドがいるが、恋愛模様を歌わせたらyonigeの右に出る者はいないのではないか。そう思わせるほどの迫力があった。
 
本編ラストはこれまた愛すべき恋人との別れを歌う『最愛の恋人たち』でシメ。ギターのアウトロが響き渡る中、メンバーは静かにステージを去った。
 
アンコールに答えて再登場したメンバーたち。牛丸がすうっと息を吸って始まったアンコール1曲目は、auのCMソングとしても話題となった『笑おう(Short ver.)』。アルバムバージョンとは異なるアレンジで、短いながらもエネルギッシュなロックを鳴らした。
 
続いて牛丸がギターを爪弾く調べから始まった正真正銘最後の楽曲は、今回のライブのセットリストの軸となった『HOUSE』の中で、唯一演奏していなかった『春の嵐』だった。
 
〈不安とか憂鬱が消えて無くなってしまうことは〉

〈僕にとって本当に求めてたことなのかな〉
 
倦怠期に差し掛かった男女の関係を表した『春の嵐』を、残りの力を振り絞るように歌った牛丸。偶然にもこの日は関東に爆弾低気圧が直撃し、春の嵐が吹き荒れた日でもあった。
 
その風の勢いと反比例するかのように、楽曲自体はゆっくりと進行していく。しかし静かな中に熱のこもった演奏でもって、観客の脳内には楽曲の情景がありありと映し出されていたはずだ。
 
打ち込みやアレンジなど余計なことは極端に省き、徹頭徹尾人力演奏だけで挑んだ2時間のライブ。それはとてつもなくストイックなものだったが、それでいて楽曲の持つ力を最大限見せ付けたライブであった。
 
汗まみれの体で会場の外に出ると、冷たい夜風が顔をぶん殴った。おそらく島根県にも春の嵐がすぐそこまで迫っているのだろう。
 
〈ある朝寝ぼけ眼で 見慣れた君にキスして〉

〈外では春の嵐が 通り過ぎていった〉
 
つい数分前に聴いたばかりの『春の嵐』を聴きながら帰路に着く。するとどこからともなく「yonige最高だった!」と嬉々として語る声が聞こえてきた。
 
今後間違いなく同様の言葉でもって称賛する声は増えるだろうし、僕らが想像もしなかった未来へ連れて行ってくれると確信している。
 
数カ月後には新たなライブツアーを開催。8月には念願の日本武道館単独公演と、多くのライブを控えるyonige。きっとこの日観た一連のライブは、長き旅路の序章に過ぎない。

 

※この記事は2019年3月27日に音楽文に掲載されたものです。