キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【音楽文アーカイブ】汗と笑いに包まれた赤坂の夜 〜打首獄門同好会『ツレ伝ツアー2018』@マイナビBLITZ赤坂〜

11月15日、マイナビBLITZ赤坂で行われた忘れらんねえよ主催、『ツレ伝ツアー2018』に参加した。ここでは対バン相手である、打首獄門同好会のレポートを記述する。
 
当日のネタバレが多く含まれているため、閲覧の際はご注意願いたい。
 
10月から全国各地で行われてきた、もはや忘れらんねえよにとっては恒例となった『ツレ伝ツアー』。今回『初心に返る36歳シリーズ』と名付けられた副題からもわかる通り、思い入れのある地を巡る形のツアーとなった。この日はツアーファイナルということもあり、盟友・打首獄門同好会を対バン相手に迎えたライブとなった。
 
開演1時間前、会場前には多くの人が集まっていた。皆寒空の下、半袖のバンTを着てガチガチに震えている。それを旗から見ながら「バカだなあ」と思った。自慰行為やSEXといった下ネタを炸裂させる忘れらんねえよと、脱力感満載の曲ばかり作る打首獄門同好会もバカだが、それに共鳴した客はもっとバカだ。もちろんいい意味で。
 
この日のチケットは全券種ソールドアウト。今回のツレ伝最大キャパの会場のため少しばかり心配していたのだが、全くの杞憂だった。有終の美を飾る準備は万端である。
 
会場に入るとロックバンド然としたギターやベース、ドラムと共に、大きなプロジェクターが目を引く。この一風変わったセッティングは、紛れもなく打首獄門同好会のものだ。開演時間が近づくにつれ、集まった観客の期待値が上がっていくのを肌で感じる。
 
暗転後、関係の深いバンドであるバックドロップシンデレラ『池袋のマニア化を防がNIGHT』のSEで登場した打首獄門同好会。「こんばんは、打首獄門同好会ですー!」の声と共に、まずドカンと一音。やたらと重厚なサウンドに、鼓膜と心臓がビリビリ震える感覚があった。
 
「あれ?後ろから何か来るぞ……?」と大澤会長(Vo.Gt)がボソリと呟き、雪崩れ込んだ1曲目は『島国DNA』。背後からは魚の形をした風船が客席に放り込まれ、一瞬にしてカオス状態に。
 
打首のライブは何度か経験しているのだが、他バンドと比較しても明らかに音が重い印象を受けた。マイナーコードを多用したギターフレーズは元より、ギターは7弦、ベースは5弦を使用しているからだろうか。それに全体重をかけて打ち下ろすドラムが加わることで、「本当にスリーピース?」と言いたくなる程の音の厚みに圧倒される。
 
プロジェクターに歌詞が投影される点も打首のライブの特徴ではあるのだが、この曲において表示される歌詞は、かつおのたたきやいわしのつみれといった日本食ばかり。それをドラムを叩くリズムに合わせて大合唱する観客。うーん、頭おかしい。
 
食べ物系の楽曲は続く。魚の次は『ニクタベイコウ!』、『ファミチキ』といった肉ソングへ移行。
 
『ニクタベイコウ!』では牛肉や豚肉、鶏肉を使った料理の数々が紹介され、会長の「肉食べ行こう!」に対し観客は「そうしよう!」の大合唱で答える。
 
続く『ファミチキ』はファミリーマートのレジ横の揚げ物コーナーである、通称『ファミマキッチン』に焦点が当てられた飯テロ曲。先程から食べ物の画像ばかりが表示されるものだから、無性に腹が減ってくる。
 
メンバーが生姜の被り物をして登場した『New Gingeration』は、栃木県の特産品である岩下の新生姜を題材とした楽曲。新生姜を使用した美味しいレシピを観客に伝えていくのだが、スクリーンに映し出される、料理番組の如く丁寧に調理行程を説明する様は爆笑もの。観客は文字通り火に油を注がれたような盛り上がりに、体を委ねざるを得ないといった様子。
 
間髪入れず、おもむろにギターをつま弾き始める大澤会長。すると「はたらきたくないよベイベー♪」と歌い始め、観客は大歓声。というのも、リズムは完全に忘れらんねえよのとある楽曲そのもの。しかもその中に『はたらきたくない』の歌詞を入れ込んでいる。打首なりの忘れらんねえよへのリスペクトであり、同時にエンターテイメント性も兼ね備えた手法で盛り上げていく。
 
そしてそのままの流れから『はたらきたくない』にシフト。ブラックバイトに勤めるとある男性の映像が流れるのだが、彼はベッドに寝転んで動こうともしない。すると満身創痍な状態で『心を折る7連勤』や『初任給ヒトデ2つ』といった歌詞が表示され、会場は笑いに包まれる。サビ部分の大合唱は、間違いなくこの日のハイライトだった。
 
時期的にぴったりの『布団の中から出たくない』の後には、結成当初からの代表曲『デリシャスティック』へ。前準備として観客にうまい棒が配布され、観客はまるでサイリウムのようにそれを突き上げて盛り上げる。一体何なんだ、この光景は。
 
気付けばライブも終盤。某有名チョコ菓子同士の終わらない戦いを描いた『きのこたけのこ戦争』で一体感を生み出した後、大澤会長による「それでは皆さんご唱和ください!」との指令で突入した最後の曲は『日本の米は世界一』。
 
魚に始まり肉や惣菜、果てはお菓子まで。様々な種類の食べ物ソングを披露した今回のライブ。そのラストを飾るのは、日本人には欠かせない存在である『米』であった。
 
モッシュやダイバーも出現し、サビではまたも大合唱。日常の辛いことも忘れてしまえるような、ぐっちゃぐちゃの大団円。満面の笑顔で幕を閉じた。
 
……彼らのライブを観るのは久々だったのだが、ここ数年でエンターテインメント性がぐんと向上していたように感じた。うまい棒を配っている時間のMCしかりプロジェクターの映像しかり、行動ひとつひとつに一切の隙がなかった。
 
極め付きは、その特徴的な歌詞だ。誰もが経験したことのある日常的な風景を切り取り、分かりやすい言葉で表現する……。思わず「あるある!」と共感させてしまう魅力が秘められていた。
 
打首終了後のドリンクコーナーにて、「何でライブハウスってご飯無いんだろうね」と満面の笑みで感想を語り合う観客を見た。打首は今回、忘れらんねえよの対バンという位置付けではあったが、集まった大勢の観客の心に大きな爪痕を残したのは明白だった。
 
僕はといえば、『デリシャスティック』で貰ったうまい棒をサクサクと食べながら、余韻に浸るのであった。


※この記事は2018年11月29日に音楽文に掲載されたものです。