キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【記事寄稿のお知らせ】2023年最後のバズ曲・しぐれうい“粛聖!! ロリ神レクイエム☆”大解説

KAI-YOU.net様に、しぐれうい“粛聖!! ロリ神レクイエム☆”の楽曲解説記事を寄稿しました。

投稿して2週間にも関わらず、1000万回再生を突破したバケモノ曲。多分これからも伸び続けると思うんですが、今年も終わりに近付いたこのタイミングでバズったこの曲に「こりゃすげえ!」といたく感動しまして。休日を利用して一気に書き上げました。

今回の寄稿については、個人的にはKAI-YOUさんへの感謝を伝える意味でも大切な記事になりました。というのも、数年前からKAI-YOUさんにはお世話になっていたんですが、なかなか恩返しが出来てないなとずっと思っておりまして。

僕とKAI-YOUさんとの関係性は簡単に言えば「何か書きたいものがあれば送ってね。良かったら載せるよ」というもので。だからこそ個人的に書きたいと思った記事……それこそ洋楽とかAdoとか、更にはお笑いの記事もノンジャンルで載せてもらって、反応をいただいたりもしてて。

ただKAI-YOUさんが一番ウリにしてるのは、圧倒的にVTuberで。なのでそんな流れの中に、僕が音楽やお笑い記事を載せていることに、申し訳ないなという気持ちもずっとありました。……正直ホロライブやにじさんじの中に「グラストンベリーにケンドリック・ラマーが出るぞー!」みたいな話って、マジで絶対違うじゃないですか。でも僕は嬉しいし、相手方は記事のストックが増えるので一応はWin-Winで。でも心のどこかでは、いつかKAI-YOUさんの土壌、つまりはVTuber関係で何か恩返しが出来ればなと思ってました。

なので今回の納品で、ひとつ心残りが消えた感じがありました。記事自体も多面的に解説する形になったので、楽曲を聴き込む上で何かプラスになるかもですし。この曲自体もめちゃくちゃ良いので、ぜひ皆さんに聴いてもらいたいです。みんなでごめんなさーいしましょう。

しぐれうい「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」はなぜ中毒者を生むのか その計算と特異な主従関係 - KAI-YOU.net

映画『君たちはどう生きるか』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

毎月様々な作品が公開される映画業界。特にアニメ映画の興行収入は凄まじく、近年では『SLAM DUNK』や『すずめの戸締まり』、『ONE PIECE』といった作品がロングランを記録するなど、各劇場でも熱視線を送る重要なものとして位置。それぞれのオリジナリティーでもって勝負している。

そんな中で、今年最も稀有なマーケティングをした作品と言えば、宮崎駿のジブリ映画の最新版『君たちはどう生きるか』だろう。この作品は何と公あらすじはおろか、キャストや主題歌などその大半が非公開のまま上映。現在もその流れからネタバレ禁止が暗黙の了解になっている、過去に例のないジブリ映画なのだ。そのため今回は、あらすじ如何は一切省いてのレビューとなることをご了承いただきたい。

まず初めに、この作品は賛否両論がはっきり分かれる作品であることは明言しておくべきだろう。これには理由が2つほどあって、ひとつは作品全体の情報量の多さが挙げられる。というのもこの映画では場面場面で登場人物が移り変わって密な関係性を築いていくのだけれど、それぞれをじっくり観察していないと、最終的に意味が分からなくなる形になっているからだ。

そしてもうひとつは、抽象的表現の多用だ。今作品は『君たちはどう生きるか』のタイトルの通り、人間の誕生から終焉までを描くものである。しかしながら今作を全て観たとしても「このシーンは何を意味しているの?」という質問に100%の返答をするのは難しくなっている。例えば同じジブリ映画でも『となりのトトロ』のメイが実は死んでいてトトロは死神説、『千と千尋の神隠し』の油屋は遊郭説、など様々な説が噂されているけれど、それは作中で存在自体をあえて不明瞭にしているがゆえ。……そして今作はそうした抽象的部分が過去作と比べても多いので、脳内補完に秀でている人にとっては傑作に、そうでない人には「?」な作品になる。

繰り返すが、この作品は1度観ただけでは全貌の把握はほぼ不可能な、いわば『考察系作品』の極みのような映画だ。現在、大手映画レビューサイトでは平均★3と少し低評価多めなのだけれど、それは鑑賞した人々の理解度のバラつきが、そっくりそのまま高評価・低評価もバラける原因になっているように思う。実際、僕は今回友人と鑑賞して「これってどういう意味?」→「◯◯だと思う」→「なるほど!」的なやり取りを繰り返してようやく内容が分かった(それでも65%くらいだが)のだが、もしひとりで理解しようとするとほぼ無理だろうなと……。

なのであくまで個人的意見として、同じジブリ作品で言うところの『猫の恩返し』や『千と千尋の神隠し』などの直球型が好きなタイプなら割と低評価、対して『もののけ姫』や『風立ちぬ』などが好きなタイプなら高評価になる作品が今回の作品かなと。僕はスッパリ終わる系の作品の方が好みなので以下の評価だけど、様々な魅力もあるのは確か。あと、これは最後まで観て納得した部分だが、やっぱり劇場公開までネタバレなしで漕ぎ着けたのは正解だったように思う。ポスタービジュアルだけでは全然予想出来ないので驚くこと請け合い。ジブリファンは是非に……。

ストーリー★★★☆☆
コメディー★★★★☆
配役★★★☆☆
感動★★★☆☆
エンタメ★★☆☆☆

総合評価★★★☆☆(3.5)

【ジブリ新作】『君たちはどう生きるか』初日に見た観客の反応は - YouTube

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2023 大阪2日目@舞洲ソニックパーク

こんばんは、キタガワです。

前回の記事に引き続き、今記事ではサマソニ大阪の2日目をレポート!この日の個人的な特徴はと言えば『洋楽フェスにも関わらず、観たアーティストが邦楽オンリー』という点。これは前編にも記した通り、コロナ禍でチケットを持っていたのに結局行かなかったアーティストが多かった、というのが最も大きい理由。それこそPerfumeやずとまよはファンクラブで取ったチケットを何度も破棄した(コロナ感染拡大のため)経験があったので、このチャンスは見逃せないと思ったのだ。Two Door Cinema Clubやブラー、Wet Legもめちゃくちゃ観たかったが、今回は我慢……。

この日は元々観る予定だったJXDNがキャンセルになったこともあり、昼からゆっくり観るスタイルを選択。前日は朝からぶっ通しで動き回って、フェスらしい食べ物とはほぼ無縁だったので、2日目はゆったり。飲食店が立ち並ぶエリアで腹ごしらえをして、ちょっと酒も飲んで……。「そろそろ岡崎体育いくかー」と、穏やかな気持ちでの幕開けとなった。多分、この方が肉体的&精神的にも良い気がする。以下レポです(前編の様子はこちらから!)。

 

岡崎体育 SONIC STAGE 12:00〜

楽しみのあまり、ちょっと小走りで移動した先は岡崎体育。真裏がBE:FIRSTとWANIMAという半ば邦楽争いの様相を呈していた中で、完全ソロの岡崎を選んだ人もまた多く、状態としてはバッチリ。SE兼オープナーとして流れた“Open”の時点で会場は「EDMのライブ!?」と思わず感じてしまうほどの盛り上がりで、ステージ上にはiPadと岡崎ひとり、という状況をVJ演出でカバーする手法も、ライブハウスでは決して出来ないサマソニならではの一面だろう。

岡崎体育 LIVE映像「Open」 COMIN'KOBE16 - YouTube

岡崎のライブは、笑いのエッセンスが散りばめられていることでも知られる。そのうちハイライト的な笑いを生み出したのは、現在ライブのみで聴くことが出来る“Call On”。何故この曲が音源化されていないのかと言えば理由は単純、観客との掛け合いがあってはじめて成立するためだ。岡崎はこの楽曲の後半部で、集まった観客に今からコール&レスポンスをすることを明言。しかしながら「今から僕の歌に続いて歌ってください!」と歌われた歌詞は英語詞まみれの長文のもので、当然グダグダなレスポンスに……。そこで急遽今から流れる歌詞を『ナナナ』で歌うよう変更した岡崎だったが、そこも完全崩壊。その都度「違ぁう!」「あっ、もう全然ダメです」と反応する岡崎に、お笑いライブのレベルの笑い声が響くソニックステージである。最終的には手拍子で何とかしようとした岡崎、もちろんこちらもリズムや泊がごちゃまぜの鬼畜仕様のため全員がミス。ラストに岡崎が客席に泣き顔でブーイングする、衝撃的な幕切れとなった。

“Call On”を終え、長らく続くブーイングの声に岡崎は「えっ?間違えたのそっちですよね?みんな岡崎体育の時間にマルして来てくれてるんですよね?なんで予習して来ないんですか?」と喧嘩腰。その発言に更に巨大化する爆笑する、最高の流れである。以降も「『観客のボルテージは一気に最高潮に』っていうのが4回来るのでそこで盛り上がってください」とネタバレしてから音楽ライター泣かせの“Quick Report”、音楽への愛情を海に例えたメロウ曲“サブマリン”と続けば、いつしかその求心力に、誰もがこの場を離れられない状態に。

岡崎体育 『Quick Report』Music Video - YouTube

中盤のMCでは、サマソニに対する思いが爆発した岡崎。どうやら彼は住まいが大阪であることもあり、サマソニには何年も前から個人的に参加してきたフェスだったそう。そんな場所で今度は演者として立つことの出来る喜びを、グッと噛み締めている様子だった。「音楽が大好きな人たちが好き!」という心からの叫びも、その思いの具現化のひとつだったはず。

「昨日トラックが出来た曲です」と岡崎が地面の歌詞カードを観ながら最速で届けた未発表曲“Tricker Tricker”を鳴らし、早くも最後の曲に。ラストソングは“The Abyss”。緩急を付けて爆発する、岡崎のライブの代名詞的な1曲だ。雄大な自然をバックに歌い上げたかと思えば、後半は一転してEDMモードに。「全員踊れー!」と焚き付け焚き付け、キラキラな音像で盛り上げるのは流石は岡崎と言うところ。彼がトップバッターとして様々なフェスに出演していることは知っていたけど、なるほど確かに、このライブは幕開けにピッタリだと思った次第。今秋からの全国ツアーも否が応でも期待してしまう、最高の30分だった。

【岡崎体育@サマソニ大阪 セットリスト】
Open
Call on
Quick Report
サブマリン
Tricker Tricker(新曲。仮タイトル)
The Abyss

Perfume MOUNTAIN STAGE 13:10〜

お次は余韻そのままに、マウンテンステージへ。お目当ては今や国民的グループに成長を遂げたPerfume。海外フェスでは「絶対に観ておくべきだったアクト10」に海外勢を抑えて名を連ねるなど、取り分け最近ではそのライブ演出に称賛の声が上がる彼女たちのライブを一目観ようと、会場には多くのファンが。本当に愛されてるんだなあ。

[Official Music Video] Perfume「ポリリズム」 - YouTube

ダイレクトに来る尋常ならざる低音が体を揺らす中、定刻になるとあ~ちゃん、かしゆか、のっちの3名がオンステージ。1曲目に選ばれたのはデビュー曲でもある“ポリリズム”で、この時点で一気に心を奪いにかかる攻めセトリであることが分かる。楽曲の魅力については皆が知るところなので割愛するとして、とにかく驚かされたのはそのVJと音圧。背後のモニターには基本的にアンドロイド風の3人が映し出されており、実際のPerfumeとリンクしてダンスを繰り広げる流れは圧巻で、最先端の映像技術を見せ付けられている感もあって凄い。また音圧は特にローの出が異常で、『ズン』という音が鳴るたびに心臓が持ち上がる感覚があった。家でライブ映像を観るだけでは、絶対に出来ない体験である。

この日のライブは、ライブ鉄板曲を敷き詰めた完全フェス仕様。それも“edge”や“DISPLAY”といった低音特化の楽曲ではなく、世間一般的なキラキラなPerfumeイメージの楽曲が多めでハッピー。衣装はあ~ちゃんいわく「巷ではイワシって言う人もおるらしい」とするギンギラの銀で、また背後には先述の通り、様々なオリジナル映像が投影されていたのも見逃せないポイントだ。

MCではエンタメ性抜群の語りと共に、改めて熱中症の注意喚起を行うあ~ちゃんが光る。まずはお馴染みの広島弁で「みんなよお来てくれたねえ!水飲んどる?せっかく良い場所取ったのに、倒れてしもうたら元も子もないけえ。私らはチャチャッとやってバッとはけますんで……」と笑いを誘うと、「水分補給やっとく?はいみんな水出して!カンパーイ!」と強制給水タイムへと移行。その視線は最前列のファンはもちろん、2階で着席しながら観ている観客にも平等に注がれていたことからも、改めてPerfumeがファンを思って活動を続けていることを理解。

[Official Music Video] Perfume「エレクトロ・ワールド」 - YouTube

映画タイアップとして知名度を広げる契機となった“FLASH”、最新アルバムからドロップされた“Spinning World”と続き、ライブは“エレクトロ・ワールド”でひとつの絶頂へ。この楽曲は去る『コーチェラ・フェスティバル』でもメディアが大々的に報じた楽曲でもあり、背後には未来世界を闊歩する3人と、歌詞の「Ah Ah」に合わせてグーで殴るエフェクト、画角変化によるスピード感抜群の映像が流れていて、一瞬で引き込む力を備えていたように感じた。……かと思えばライブならではの『P.T.A.のコーナー』では他アーティストの楽曲をアカペラで歌って盛り上げたり、場数を踏んできたこれまでの集大成を見せ付けてくれた。

[Official Music Video] Perfume「チョコレイト・ディスコ」 - YouTube

そして「ここからは盛り上げる曲しかやりません!」と叫び、ライブは“チョコレイト・ディスコ”でシメ。彼女たちの代表曲としての立ち位置で盛り上げつつ、「チョコレイト?」→「ディスコ!」の掛け合いもバッチリ。チョコが溶けそうなレベルの灼熱空間の中歌い踊る3人に、興奮と共に無意識的に追従する観客との双方向の関係性が最高だ。先程の「ここからは盛り上げる曲しかやりません!」のMCからあと1曲やるのかなあと思っていたけれど、ライブは結果この楽曲がラストナンバーで、潔く終わったのもPerfumeっぽいなと。余談だが、ライブ後に一気に観客がハケてガラガラになったマウンテンステージを観て、「みんなPerfumeを観るためだけにここまで来たのだ」と実感した次第。次にサマソニに出るときはほぼメインステージが確定だろうとも思わせる、盤石の40分だった。

【Perfume@サマソニ大阪 セットリスト】
ポリリズム
FLASH
Spinning World
エレクトロ・ワールド
Moon(新曲)
FAKE IT
P.T.Aのコーナー(歯みがきじょうずかな→survival dAnce→ultra soul)
チョコレイト・ディスコ

ずっと真夜中でいいのに。 SONIC STAGE 15:20〜

Perfumeが終わり、一旦ブレイク。本来であればキタニタツヤを観て、ゆっくりずとまよに移動するイメージで動いていたのだけれど、何だか辺りの様子がおかしい。まだライブの1時間以上前にも関わらず、ずとまよTシャツを着た人たちが次々にソニックステージへ移動するのが見えたのだ。その頃の僕はソニックステージの目の前でフェス飯を食べていたのだが、集まる人の数が本当にエグく、「えっ?みんなずとまよ行くんじゃねこれ……」と焦りだし、慌てて予定変更。ちなみにこのずとまよのライブ、入場規制だったらしい。危なかった……。

ずっと真夜中でいいのに。『馴れ合いサーブ』Lyric Video (ZUTOMAYO - Nareai Serve) - YouTube

暗転後にまずステージに現れたのは、射影機のようなテープを回して音を鳴らす音楽集団・Open Reel Ensemble。彼らはACAね(Vo.G.扇風琴)の挨拶をサンプリングした声をテープで変化させながら、来たる主人公の到来を待っている。そして登場したACAねが歌い始めたのは、実質的なライブ初披露となる“馴れ合いサーブ”。この1時間前にMVが公開されることを名言、更には「サマソニではやるのか、やらないのか……」と示唆していたのでやるだろうなとは思っていたけれど、まさか1曲目とは。背後のVJには上記にある通りの卓球試合のようなカオス過ぎる映像が流され(意味不明すぎて爆笑してしまった)、目にも楽しい作りになっていて本当に素晴らしかった。

この日のメンバーはACAねの他、菰口雄矢(G)、二家本亮介(B)、伊吹文裕(Dr)、村山☆潤(Key)。管楽器隊として吉澤達彦(Tp)半田信英(Tb)。Open Reel Ensembleから和田永、吉田匡、吉田悠の計10名で送る、ほぼワンマンライブ状態だった。よってその音の広がりというのも圧倒的で、様々な音が駆け抜けるスピード感は、感覚がトリップする極上体験。また背後には『ZTMY』のロゴと元素記号的なタイトル予測(“馴れ合いサーブ”はNa、“残機”はZnなど)が付けられた他、“馴れ合いサーブ”と“綺羅キラー”、“暗く黒く”ではMVがそのまま投影。それ以外の楽曲では火柱に包まれる演出があったりと、とにかく金をかけまくっている40分が今回のずとまよライブだったのだ。

【期間限定】ずっと真夜中でいいのに。『綺羅キラー (feat. Mori Calliope)』(from ROAD GAME『テクノプア』~叢雲のつるぎ~)ZUTOMAYO – Kira Killer - YouTube

ライブではお馴染みのキラーチューンはさておいて、セットリストの過半数を占めたのはニューアルバム『沈香学』から。そのうち新鮮味溢れる楽曲として位置していたのは“綺羅キラー feat. Mori Calliope”で、フィーチャリング相手の不在を自身のラップパートに置き換え、更には自己紹介がてらのオリジナルパートに変化させていたのは驚きであり、ライブ的にも力量を感じさせる代物に。

ずとまよはライブにおいて、MCが極端に少ないアーティストとしても知られる。それはACAね自身が姿を非公開にしている(この日も顔は黒い照明で全く見えず)ことで匿名性を貫いている理由のひとつだとも思うが、この日も唯一のMCは「昨日、太陽の塔のところでお祭りをやっていて……。にんにくマシマシ餃子をたくさん食べました」というもののみ。そこから《ニンニク増しで目指した健康体》の歌詞の“残機”に繋げるあたりは流石というか、ここ数年で場数を踏んだ成果によるものだろうなと。

【期間限定】ずっと真夜中でいいのに。『あいつら全員同窓会』(from ZUTOMAYO FACTORY「鷹は飢えても踊り忘れず」) ZUTOMAYO – Inside Joke - YouTube

ラストナンバーは「最後はみんなでシャイなから騒ぎしましょー!」とACAねが語って雪崩れ込んだ“あいつら全員同窓会”。キャッチーなサウンドや歌詞も魅力のこの楽曲、中でも《シャイなから騒ぎ》の「シャイなから騒……」部分でしゃがみ「……ぎ!」で飛び上がるアクションがワンマンライブでのハイライトの恒例だが、この日はフェスなので知っている人も少ない。しかしながら前方にいるファンが後ろに行動を無意識的に伝達し、それを観た観客が理解して動く、という感動的な光景も見られ、本当に素晴らしかった。冗談抜きでこの日、引き込むことに関してはピカイチのライブだったように思う。全国ツアーは既に全公演がソールドアウト、この時点でグッズの大半も売り切れになっている状態だったが、彼女たちを観たファンが「ちょっと俺グッズ買うわ!ライブも今から取る!」とあたふたしている光景もいろいろな場所で観た。個人的にもこの日のハイライト。いやー凄かった。

【ずっと真夜中でいいのに。@サマソニ大阪 セットリスト】
馴れ合いサーブ
お勉強しといてよ
綺羅キラー feat. Mori Calliope
秒針を噛む
暗く黒く
残機
あいつら全員同窓会

SEKAI NO OWARI OCEAN STAGE 17:05〜

ここからはオーシャンステージへ移動し、セカオワことSEKAI NO OWARIを選択。思えばデビュー当初からセカオワはポップシーンの最前線を走り続けていて、何度もチケットを取ろうと思っても取れない状況が続いていたモンスターバンド。当然この日は最前列付近にはファンクラブ的ファン、後方には彼らの音楽を愛するミーハー含むファンが密集し、終わった瞬間にはブワーっとハケていった(つまり遠く離れたこのステージに、多くの人がセカオワのためだけに集まっていた)のが印象的だった。

SEKAI NO OWARI「炎と森のカーニバル」 - YouTube

聞き覚えのあるディズニー的なパーカッションと共に現れたのはFukase(Vo)、Nakajin(G.Per)、Saori(Key)、DJ LOVE(DJ)の、これまでテレビ画面を通して何度も観てきたあのメンバーたち。なお今回はドラムとベースのサポートメンバー2名を含む、スペシャルセットだ。そしてSEの音がだんだん大きくなり、始まったのは”炎と森のカーニバル“!ライブならではの臨場感という点でも素晴らしかったけれど、やはり実感したのはそもそもの『歌の力』。あのメンバーが、あの歌を、今目の前で歌っている……。もうこの瞬間に全てが勝ち戦で、彼らの音楽が耳に浸透していることを、改めて感じた一幕でもあった。

今回の持ち時間40分は、おおよそ誰もが知るセカオワらしさを見せ付ける時間に。不意を突かれる選曲は“Witch”と“umbrella”らダーク曲のみで、それ以外は基本的に代表曲を惜しみなく入れ込む流れだ。先述の通り、おそらくこの日の出演アーティストの中でセカオワは最もミニマルな構成で組み上げられていて、VJの視覚的効果はゼロ、MCもほとんどなし、更には楽曲のライブリアレンジもほとんどないという、言ってみれば『音源を生披露する場』として確立させていた印象が強い。しかしながら今回のライブはあまりに感動的で、国民的な人気を誇る彼らの、全てを受け入れられる土壌が元々作られていたからだろうなーとグッと来たりも。

 

SEKAI NO OWARI「RPG」 - YouTube

 

1度目のピークは、お茶の間に広く浸透した“RPG”。あのイントロが流れた時点で沸騰する環境ではあったが、更にFukaseは「歌える?」とマイクを観客に向け、天井知らずの大合唱へと繋げていく。本当に右を見ても左を見ても、全員が歌っているこの状況は紛れもなく国民的ソングのそれであり、ある種の余裕すら感じた次第。また実際に《空が青く澄み渡》っていて、《僕らはもうひとりじゃない》と伝えるように全員が歌っている環境には、心底感動した。これはFukase自身が絶望の中にも希望を見出す性格が反映されている歌詞でもあって、多くの人にその思いが伝播しているのだろうなとも。

「あるときにコロナワクチンの副反応で39度の熱が出まして。でもその翌日に歌詞を提出しないといけなくて、結果すごくドロドロした歌詞になりました。でも実際の僕は普通の温和なオジサンなんで……」とまさかのエピソードが語られたバズ曲“Habit”、個人的に何度もこの楽曲に助けられた経験があり、ハチャメチャにボロ泣きしてしまった“RAIN”と続き、ライブはいつしかラスト。

SEKAI NO OWARI - Dragon Night - YouTube

最後に披露されたのは盛り上がりの定番でもある“Dragon Night”!こちらも早い段階で「歌える?」とFukaseがもはや答えるまでもないキューを出し、大合唱続きの状態に。穏やかな笑顔を浮かべるSaoriとNakajinもとても楽しそうで、風も出てきて穏やかになったこのオーシャンステージに、幸福は確かに存在した。……突飛なことはせず、自分たちの色で周囲を染めていくような、どこか今の自分たちの立ち位置を達観しているようにも感じたこの日のライブ。一応は40分で終わったけれど、「もしこのままフル尺のワンマンで聴いていたらどんな感情になったんだろう」と、終わった後に思ってしまった。最高でした。

【SEKAI NO OWARI@サマソニ大阪 セットリスト】
炎と森のカーニバル
Witch
虹色の戦争
RPG
Habit
RAIN
umbrella
ターコイズ
Dragon Night

Cornelius SONIC STAGE 17:50〜

天秤に掛けた結果セカオワを選んだものの、個人的には絶対に観ておきたいアクトがこの時間帯にあった。それは日本が誇る超技巧派集団・コーネリアスで、この日は「絶対にライブは最初から最後まで観るぞ!」と決めていた中でも、たとえ途中からだとしても観なければならない存在として位置していた。思えば小山田圭吾が活動を自粛してから、もう数年が経つ。元々ライブをほとんどやらない彼を観る機会は少なかったけれど、特にこの数年の喪失は放送中止になった『デザインあ』然り、音楽シーンにひとつの停滞をも与えたように思う。だからこそこの日、彼の復活を絶対に観たかったのである。

CORNELIUS - I Hate Hate - YouTube

猛ダッシュで会場に向かうと、ちょうど“Count Five or Six”が鳴らされている瞬間だった。小山田圭吾(Vo.G)、堀江博久(G.Key)、大野由美子(B.Syn)、あらきゆうこ(Dr)らの音楽は基本的に、MVを背後に投影させながら演奏するものだが、特筆すべきはそのサウンドが完全にリンクしていること。上に載せた“I Hate Hate”のMVで例えると分かりやすいけれど、彼らはポタッとインクが落ちた瞬間に一斉にドカンと音を鳴らす……というのを、本当に1秒の隙もなく叩き込んでいくのだ。これはライブというよりは完全に演奏技術の極みというべき衝撃で、次第に「俺は今なにを観ているんだ……?」とトリップする感覚にもなる。加えてこの日のコーネリアスは音が異常にデカく、体感的には同ステージの岡崎体育やずとまよの1.5倍くらいの音圧が出ていたように思った。

CORNELIUS - GUM (ULTIMATE SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW) - YouTube

ライブは続く“Gum”で最高潮に。歌詞はあるようでまるでなく、五十音の中の一文字の羅列で構成されていて、それがモニターに映し出された口の動きと合致、そこに音の爆弾を加えれば、もうそれだけでOKな『捻じ伏せる力』のようなものすら感じた。かと思えば“いつか/どこか”以降はメロウなムーブ全開な流れになり、小山田のボーカル面に感動したり、ゆったり映し出される星空に視線を向ける時間が続いていく。ちょっとこの体験は文章で伝えるのは難しいので、機会があれば是非ともライブに赴いてほしいところ。

そしてここからは、坂本龍一の死去を受けてかセットリスト入りを果たした“Cue”、更にはMETAFIVEの“環境と心理”のカバー(注:小山田はMETAFIVEのメンバーだったが、あの騒動を経て脱退している)と涙腺に訴え掛ける楽曲を続けてドロップ。特に“環境と心理”はMVを観てもらうと分かるように、他者に引き摺りこまれてしまう今の世の中や、個人主義の難解さ……といった内容があえて抽象的に(ここが重要!)に描かれている。繰り返すが、この楽曲の意味するところは未だ不明だが、今を生きる我々にとっても、とても考えさせられる時間になったのではないか。

METAFIVE - 環境と心理 - - YouTube

最後の楽曲は“あなたがいるなら”。これまでと同様にメロウな音で魅せた他、映像に関しても新VJになり、浮遊する玉が部屋を動き回るものに。ただ、その渦中にもギターの『ピーン』と鳴る音に合わせて波形ができたり、ドラムが『ドン』と鳴ればギザギザ模様になったり、『ポン』で分裂『シャーン』で粒が降る……などなど、映像とのシンクロ率もより高くなっていて素晴らしい。最終的に一言だけ放たれた小山田の「ありがとうございました」にも様々な思いを汲み取ってしまうくらいの、圧巻の時間だった。個人的裏ベストアクト。

【Cornelius@サマソニ大阪 セットリスト】
Mic Check
火花
変わる消える
Audio Architecture
Another View Point
Count Five or Six
I Hate Hate
Gum
いつか/どこか
Cue(Yellow Magic Orchestraカバー)
環境と心理(METAFIVEセルフカバー)
あなたがいるなら

YOASOBI MOUNTAIN STAGE 19:55〜

当初の予定では、ここでCosmos Peopleを観てゆったり最後のYOASOBIに移動する予定だったのだが、ここで異変が。この日のためにダウンロードしていた公式アプリから、ひとつの通知が届いたのである。そこに書かれていたのは『マウンテンステージ入場規制中』のお知らせ。えっ、まだYOASOBIのライブまでまだ1時間近くあるんですけど。……にも関わらず入場規制とはこれ如何に、と思っている間にも、次々にマウンテンステージへと走る人、人、人。慌ててステージに走った僕らだったが、その時には既にあり得ないレベルの列ができていて、電波も全く繋がらない状況。なんじゃこりゃ……。

無事に入れて安堵するも、ステージを観て更にビックリ。その理由はステージに聳えるライブセットにあり、バックモニターの前にYOASOBI特性のモニター&照明器具が大量に設置された完全ワンマン仕様(上記の写真はセッティング時のものなので載せます)。で、これは後になって分かることなのだが、左右のモニターにも映像が干渉したり、爆発特攻や火柱などのパイロも配置済み。更にはサカナクションの“ルーキー”を彷彿とさせる緑照明(伝われ)も使われたりと、このセットだけでどれだけの金がかかっているのか心配になるレベル。

YOASOBI「夜に駆ける」 from 『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022』2022.8.06@千葉市蘇我スポーツ公園 - YouTube

照明が落ち、パカッと空いた背後から登場したのは主要人物であるAyase(Key.Sampler.Composer)の他、AssH(G)、やまもとひかる(B)、ミソハギザクロ(Key)、仄雲(Dr)らサポートメンバーたち。そして遅れてマイクを持って現れたのはikura(Vo)で、鳴らされた1曲目はなんと知名度を爆発的に広げた“夜に駆ける”!これまで僕らが何回聴いたか分からないあのフレーズがikuraから発せられた瞬間、興奮と共に「俺今YOASOBI観てるんだ……」という感慨深い気持ちにも。またすっかり暗くなった会場の背後は照明ビカビカ、我々の頭上にはレーザー的な光が当てられまくる空間で、テンションが上がってしまうのもクライマックスならではか。

この日のセットリストは、端的に言えば「今のYOASOBIがベストアルバムを作ったら多分こうなる」という、誰もが思うYOASOBIの中心を射抜いた作り。様々なタイアップ然り、音楽番組での歌唱然り、YouTubeの再生数然り……。何かを鳴らせば必ず知っている曲に当たるような感覚で、彼らがこの数年でどれだけ多くのバズ曲を量産してきたのかを、気付かされるものでもあった。

YOASOBI「祝福」(The Blessing) from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』2023.6.3@さいたまスーパーアリーナ - YouTube

またライブパフォーマンスに関しても、これまでの全国行脚の経験が活きたものに。“祝福”では早くも「オイ!オイ!」のコールが響き、“三原色”では「みんなタオル持ってる?」とのAyaseの呼び掛けから、会場内にタオルの海が広がっていく。楽曲の流れもバラードやミドルテンポ、キラーチューンを上手い形で配置している印象で、1時間超えの尺中でダレないような工夫が施されていたのも素晴らしい。

MCでは、YOASOBIのライブ感を赤裸々に吐露。「私たちは、昨年のサマソニをコロナ感染で辞退してしまって、今年が始めての出演になります。そして私たちはコロナ禍の中でも昨年からたくさんライブをするようにもなって、改めてライブの重要性を感じた年でもありました。皆さんいろいろなことがある中でも会場に来てくれて……。私たちにとってもライブは生き甲斐です」。ikuraはそう語ると観客全員にスマホのライトを点灯するように指示し、続く“たぶん”でライブの思いを共有。超満員のマウンテンステージがライトに照らされる光景がモニターに映し出されると、バンドメンバーもその光景を見て喜びを噛み締めていた。

YOASOBI「怪物」Official Music Video (YOASOBI - Monster) - YouTube

ステージ全体の映像が1匹の鳥を模した“ツバメ”を終え、ライブはいよいよラストスパート。中でも圧巻だったのは低音打ち込みが炸裂するヒット曲“怪物”。真っ黒なモニターに赤い爪痕が刻まれるホラーな開幕から始まった“怪物”は、打ち込みパートに突入した瞬間に大量の火炎特攻&レーザービームが放射!強制的に引き上げられた興奮そのまま、気付けば1曲が終わってしまう感覚はやはり、ライブが楽しかった何よりの証明なのではないか。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video - YouTube

YOASOBI「アイドル」(Idol) from 『YOASOBI ARENA TOUR 2023 "電光石火"』2023.6.4@さいたまスーパーアリーナ - YouTube

 

そしてライブはこれを聴かなければ帰れない、世界的に見ても最大のヒット曲である“アイドル”でシメ。サイケデリックな掛け声を開幕として楽曲はスタートし、ikuraが《天才的なアイドル様》と発した瞬間、前方の特攻装置がバァン!と大爆発。モニターには歌詞の羅列の他、アニメ【推しの子】の主人公・アイが歌い踊るオリジナル映像がスピード感抜群で投影され、恐ろしい程の盛り上がりに。ステージの中心で歌うikuraは実際のアイドルのようにポーズありで可愛らしく進行、対する我々はと言えば「オイ!オイ!」のコールで焚き付ける双方向的な関係性になっていて、既に“アイドル”が正真正銘、今世紀最大とも言えるバズ曲になっていることを理解。おそらくこのライブも今年〜来年にかけて起こるYOASOBIの躍進のひとつに過ぎないと思うけれど、本当に観てよかった。圧巻でした。

【YOASOBI@サマソニ大阪 セットリスト】
夜に駆ける
祝福
三原色
セブンティーン
ミスター
もしも命が描けたら
たぶん
ハルジオン
アドベンチャー
ツバメ
怪物
群青
アイドル

おわりに

YOASOBIの素晴らしいライブを終え、これにて今年のサマソニは終了。そのままWILLERの夜行バスに乗り込んで帰った訳だけれど、本当に夢かと錯覚するくらいの最高の時間だった。今もあれからかなりの日数が経ったが余韻が覚めないくらいに。

サマソニの主催者であるクリエイティブマン代表・清水直樹氏は、ある日のPodcastにて「中にはサマソニを中心に年内の予定を組んでいる人もいる」と語っていたが、僕もその中のひとり。個人的な話をしてしまうと、僕は島根県という片田舎に住んでいて、基本的にはどのライブに行くにも遠征になり、多くの金と時間がかかる。更には連休がほぼ取れない会社に勤めていることもあって、いつしか大好きだったライブに行くこと自体が『娯楽』のようになった。そんな中でサマソニの存在意義は、自分にとっては大げさでも何でもなく『生きる理由』に等しいものがあったのだ。

大好きなリアム・ギャラガー、ずとまよ、YOASOBIなどなど様々なアーティストに触れた今年のサマソニ。不思議なものでその翌日は普通に仕事だったのだけれど、何故かバリバリ仕事もできていて、改めて「やっぱり僕には音楽が必要だったんだなあ」と思った次第。多分こうした思いを抱いている人は、僕以外にもたくさんいるのだろう。

そんなサマソニは、既に来年の開催も決定している。現時点で清水代表は「ビリー・アイリッシュを絶対に呼びたい」ということ、アジア圏とK-POPの比重が高まる可能性も示唆していて(詳しくはこちらを参照)、今年とはまた違ったラインナップになることが期待できる。また来年も参加できるよう願いを込めて……。本当に開催していただき、ありがとうございました。

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2023 大阪1日目@舞洲ソニックパーク

こんばんは、キタガワです。

会場に到着した瞬間にまず思ったのは「ようやくこの日がやってきた!」という、これまでのイメージの帰結的なものだった。コロナ禍と仕事のダブルパンチでライブになかなか行けない生活が続き、指折り数えてやっと到来したこの日を心待ちにしていたのは、きっと自分だけではないだろう。

今回の記事では、そんな大阪サマソニの初日をレポート。アーティストのライブレポはもちろん、今年の運営のアレコレや個人的に感じたことなど、当日の熱量と共に書き記していく所存だ。総じてこの記事が余韻に浸りたい人、あるいはSNSなどで「サマソニ興味ある!」と思っている人などに、広く届けば幸いである。

・サマソニ2022レポ→1day  2day
・サマソニ2019レポ→1day  2day  3day
・サマソニ2018レポ→1day  2day

 

はじめに

これはフェスあるあるだと思うのだが、人間の体はひとつしかないので、全ての音楽を聴くことはまずもって不可能だ。ただ「それなら好きなアーティストを観れば良いじゃない!」と一蹴するのもそれはそれで難しく、観たいアーティストが被っていたりして、泣く泣く断念した音楽もかなりあるはず。……つまるところ、人それぞれに出演アーティストへの思い入れがあって、今回参加者が選んだ音楽の背景には、多くの物語が混在していることは事実としてあったのではないか。

そんな中で自分はと言うと、今年はふたつのテーマを決めて今年のサマソニに臨んだ。まずひとつは『コロナ禍での喪失を回収すること』。これは初日のベガスとmilet、2日目のPerfumeとずとまよが良い例だが、コロナ感染のリスクを考えた末、この3年間で個人的に『チケットを持っているのに行くのを断念した』アーティストがサマソニに多数出演していた。そのためこれらのコロナ禍で行けなかったアーティストのライブは、何よりも優先するよう心掛けていた。

ふたつ目は、体調管理の面。今年のサマソニはニュースでも取り上げられていた通り、熱中症で倒れる人が例年に比べ格段に多かった(詳しくは後述)のだが、結果として自分自身も初日の前半部で倒れかけてしまった。なので『動き回ってなるべく多く観よう!』という予定は早い段階で変更し、ドラクエで言うところの『いのちだいじに』スタイルに徹することとした。なので後半に行くにつれ、最初から最後までフルで観たアーティストが少なくなったのも、今年の稀有な点だろう。……ということも踏まえてのレポは以下より。

Fear, and Loating in Las Vegas MOUNTAIN STAGE 11:00〜

シャトルバスを降りて猛ダッシュで向かったのは、マウンテンステージ。お目当てはもちろん、日本が誇るカオスロックバンド・Fear, and Loating in Las Vegas(以下ベガス)だ。まだ午前中で目も覚めきっていない時間帯、真裏ではポップに魅せるももクロとゆったり系のtonunの音楽が鳴っている。しかしながら今からでも高カロリーの音楽を求めている人は一定数いるようで、客席にはかなりの人が。中にはタンクトップ姿で準備万端な人までいる。

新たに制作されたSEに乗せて現れたSo(CleanVo)、Minami(ScreamVo.Key)、Taiki(G.Vo)、Tomonori(Dr)、Tetsuya(B.Vo)の5名は、ステージに飛び出るなり煽りまくり。1曲目に選ばれたのは彼らの名前を一気に広めたセカンドから“Acceleration”で、SoのエフェクトがかったボーカルとMinamiの絶叫、更にはお馴染みのピコピコサウンドとマイナーコード乱発……という、とにかく情報量が多すぎるサウンドでグングン牽引。

Acceleration - YouTube

なお今回の選曲に関しては、新曲はほぼ撤廃。更には“Rave-up Tonight”や“Return to Zero”といった鉄板曲も演奏されず、代わりにこれまで様々なフェスで培われてきた無敵セットリストを凝縮して見せる、ある意味では数年前の彼らにカムバックした流れだったのは驚いた。この数日前に行っていたロッキンのライブとはセトリを大幅に変えていた事実からも、彼ら自身が自分たちの音楽に自信を持ち続けているのだろうなと。

アニメ主題歌の“Chase the Light!”と“Let Me Hear”を終え、続く“Crossover”では早くもSoとMinamiがステージに突入!もみくちゃにされながら観客の腕を支えにして叫びまくる2人を観れば、ファンならずとも虜になったはず。他にも流れが一気に加速した“Just Awake”では認知度の高さも相まって大きな合唱が巻き起こるなど、思わず「ロックバンドの良さってこれだよなあ」とじんわり来たりして。

[PV]Let Me Hear/Fear, and Loathing in Las Vegas - YouTube

MCでは過去の話はせず、来たる輝かしい未来についてのみ言及。そのうち大部分を占めていたのは9月22日に行われる予定の日本武道館公演で、Soは「僕らのことを知らない人もたくさんいると思います。でももし今日のライブを観て少しでも『良いな』って思ったら、また会いに来てください!」と思いを伝えていた。ベガスの楽曲が様々なサウンドの変異体であることからも分かる通り、彼ら自身もジャンルレスに音楽を好むいち音楽好きだ。だからこそ、音楽の思いをこうしてリンクさせるMCが出来るのだろう。

 

[PV]Love at First Sight / Fear, and Loathing in Las Vegas - YouTube

最後の楽曲は初期曲“Love at First Sight”。どこか懐かしいディスコサウンドに乗せてSoは「飛べ飛べ飛べ飛べー!」と焚き付け、Taikiに至っては尻をモニターに大映しにしたりとやりたい放題。最後には改めてライブへの思いを叫びつつ、灼熱の30分は幕を閉じたのだった。おそらく長年のファンでさえもここまでキラーチューン連発のベガスは初だったろうけれど、初見の観客には大いに刺さったようで、終演後にはあちこちで称賛の声を耳にした。さすがだ。

 

【Fear, and Loating in Las Vegas@サマソニ大阪 セットリスト】
Acceleration
Chase the Light!
Let Me Hear
Crossover
Just Awake
Party Boys
Love at First Sight

milet  MOUNTAIN STAGE 12:00〜

続いては同ステージでmiletを選択。miletに関しては個人的にファンクラブで取ったチケットを2公演連続で破棄した(仕事とコロナ感染への恐怖から)こともあって、都合2019年のサマソニ以来の鑑賞となった。ちなみにその際は“inside you”がバズりかけていたタイミングだったのだが、今に至る間にはフルアルバムリリース、更には紅白歌合戦連続出場やオリンピック主題歌など華々しい活躍をしてきたのがmiletであり、知名度的にもあの頃とは変貌。最前列で「ミレイちゃーん!」と叫ぶ女子の多さも同じく、あの頃とは全く違っている。

milet×MAN WITH A MISSION「コイコガレ」MUSIC VIDEO(テレビアニメ「鬼滅の刃」刀鍛冶の里編 エンディングテーマ) - YouTube

ステージに野村陽一郎(G)、Kota Hashimoto(B)、elley YHEL(Cho)、藤本藍(Key)、神宮司治(Dr)らサポートメンバーが顔を揃える中、肩先からをバッサリカットした涼しげなmiletが登場。オープナーに選ばれたのはまさかの『鬼滅の刃』主題歌の“コイコガレ”。milet史上最もアッパーな楽曲を、初っ端に持ってくる予想外な展開である。miletは体を前後左右に動かしながらのボーカリスト然としたパフォーマンスで、視覚的な「これ凄い……」感を体現、フィーチャリング相手であるMAN WITH A MISSIONパートは録音だったものの、フェスならではの開幕には心底驚いた。

先述のベガスが完璧なるフェスセトリだったとすれば、対するmiletは非常にワンマン的。古い楽曲はほとんどやらず、主に9月リリース予定のアルバム『5am』から次々ドロップしていく。活動が長くなればなるほど「昔の曲ももっと聴きたい!」と思ってしまうのはファンあるあるだけれど、miletの場合はまるで「今の私に着いてきて!さもないと置いていくよ!」と言わんばかりのスピードの速さがある。

そして驚きと共に迎え入れられたのは、前置きもなく突然披露されたOasisの“Wonderwall”カバー!これは同日にリアム・ギャラガーが出演することを理解してのサプライズだったと思われるが、そもそもmiletが誰かのカバーを行うこと自体がレア。そんなOasisの大ファンであるmiletならではの試みは、アコースティックアレンジながら原曲を殺さず、それでいてボーカル面でのアレンジが加えられていて素晴らしかった。一生モノの瞬間がここに。

milet「Hey Song」MUSIC VIDEO - YouTube

途中のMCでは、今年のサマソニの日差しについて言及。「一回みんな水飲んどこっか。カンパーイ!」とファンを思いやった一幕を挟みつつ、昨年は自身が出番が終わった後、実際に熱中症になった体験談を暴露。また今回は全体的に女子率が高い(主に前方)ことにも触れつつ、miletは「良い匂いがする!」と嬉しそう。その間にも至るところで「めっちゃカワイイ……!」という声が聞こえてきて、人間的にもファンを獲得しつつある光景にニンマリ。

以降は“Living My Life”や“Hey Song”といった新曲群をドロップ。大半の観客にとってはほぼ初聴きながら、どんな状況でも引き込んでいく様はさすが。特に最前列にいる長年のファンにとっては思うところもあったようで、miletはファンのひとりに「泣かないでー」と語りかけながら、目から人差し指を滑り落とすジェスチャーもする場面も。かと思えば、熱中症と思わしきファンを察知して「なんか!そこ!」と真剣にスタッフにSOSを出したりと、本当に彼女自身が『ファンが応援してくれているからこそ自分がいる』と痛感しているからこそ出来る、無意識的な行動にグッときた。

milet「checkmate」MUSIC VIDEO(『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』主題歌) - YouTube

最後の楽曲は予想外の“checkmate”。新曲でもなく、これまでフェスで演奏されること自体ほとんどなかったダーク曲で占めるのは意外だったが、よくよく考えれば後に出演するジャニーズWESTのメンバーが俳優として起用されていた……というバトンパスの意味合いもあったのかもしれない。ただレア楽曲であることは変わりなく、フェス会場で聴けるほぼほぼ最後の機会がこのサマソニだったのではないか。最後までキラッキラの笑顔で去っていったmiletと、完全新作モードのセトリの対比は、本当に最高だった。

【milet@サマソニ大阪 セットリスト】
コイコガレ
inside you
Wonderwall (Oasisカバー)
Living My Life
Before the Dawn
Hey Song(新曲)
おもかげ
checkmate

The Snuts SONIC STAGE 13:00〜

マウンテンステージを去り、ここでマッシヴステージをチラ見。新しい学校のリーダーズ(めちゃくちゃに超満員でほぼステージ見えず)の“オトナブルー”までを聴きつつ、そのまま次なるソニックステージへと移動した。お目当てはスコットランド出身の若きロックバンド・The Snuts。知名度的にはまだまだだけれど、そのサウンドには確かな熱があると感じていたので、記念すべき初来日は是非とも観たかったためだ。

真裏がマカえん、ジャニーズWEST、新しい学校のリーダーズであることが影響してか、最初こそ動員は少なめのフロア。気付けばほぼ最前でライブを観ることが出来たのはある意味では貴重だったが、ライブは熱量高めのロックテイストだ。まずはジャック・コクラン(Vo.G)、ジョー・マッギリブレー (G)、カラム・ウィルソン (B)、ジョードン・マッケイ (Dr)ら中学校から一緒の友人4人が、少しずつ息を合わせてのジャム。1曲目が分かっていても、この格好良さは生で観ると格別。

The Snuts - Gloria (Radio 1's Big Weekend 2023) - YouTube

……という訳で、オープナーは最新シングル曲“Gloria”。そしてこの楽曲はこの40分のステージにおける、重要なハイライトとしても位置していた。イントロが鳴った瞬間「アウアウアーウー!」と叫び、歌詞の一節一節を口ずさむその様は、まさしく彼らがロックアイコンとして崇拝しているアークティック・モンキーズやザ・ストロークスのそれ。ただ、そうした光景がまだ20代前半の若いインディーバンドに対して起こっている状況は決して偶然などではなく、遠く離れた日本でも確かにThe Snutsの音が達している証左でもあった。

The Snuts - Burn The Empire (Live from KOKO, 2022) - YouTube

セットリストはこれまでにリリースした『W.L.』と『BURN THE EMPIRE』の2枚のアルバムが中心。明らかにインディーロックに寄った前者と、少し雰囲気を変えた後者をほぼ交互に演奏する流れは最良だったし、飽きさせない工夫もあって良かった。彼らはあまり話すタイプのバンドでも、楽曲ごとに毛色が違う曲調でもないので、そうした意味でも『音楽でバランスを取る』というのは上手い流れだなと。

そして楽曲を聴いていくうちに思ったのは、彼ら自身がほぼノンジャンルで音楽を好む雑食嗜好ということ。どの楽曲も確かにロックにしろ、ダークだったりモダンだったり、ところどころ振れ幅がある。中でも『BURN THE EMPIRE』からの楽曲はその極みと言って良いもので、若手としてここまで広い視野で音楽に触れるのは末恐ろしいとさえ思った。それこそ、今回のサマソニで日本の音楽に触れることでも、また新たなインスピレーションに繋がるのかもしれない。

The Snuts - Fatboy Slim (Official Music Video) - YouTube

最後の楽曲は“Fatboy Slim”。これは一昨年に行われる予定だったサマソニの兄弟的フェス『SUPERSONIC』に出演が決まっていたEDMの兄・Fatboy Slimの名前をそのまま冠した、挑戦的な楽曲。「ラーラーララーララー」のコール&レスポンスもバッチリ決まり、最後まで涼し気な顔で去っていった4人の姿は、1時間尺でもやれそうな未来性すら感じた。

【The Snuts@サマソニ大阪 セットリスト】
Gloria
Seasons
Maybe California
Knuckles
Dreams
Burn The Empire
Hallelujah Moment
Elephants
The Rodeo
Fatboy Slim

ー熱中症により休憩ー

このThe Snutsのライブを観たあたりで、さすがに一旦のブレイク。「どこかで座って飯を食いてえ」との考えに至った僕は、とりあえず様々な出店をブラブラして腹ごしらえをすることに。このあたりで痛感したのは、そもそも日差しを避ける場所がほとんどないことである。見つけたとしても既に誰かが座っていたりするので、まずは日陰を探すために汗を流すカオス時間に。

そもそもの話をすると、これまで僕は何年もサマソニに参加しているが、基本的にサマソニでは何かしらの問題が毎年起こる。前日の台風の影響でステージが2つ消失し、他方から怒りが噴出した2019年。コロナで中止が発表された2020年。声出しNGだったもののコロナ禍での開催が批判に晒された2021年。ワンオクやヤングブラッドが、制限なしのライブを扇動した2022年……。もちろん良い面もたくさんあったけれど、そのうちの少しの問題は見過ごせない事態としてSNSを駆け巡ったのも事実だ。

そして今年はと言うと、間違いなく問題は『熱中症』だった。1日目の時点で『熱中症者が100人出た』というニュースが報じられたが、今年のサマソニは本当に暑かった(いろいろ叩かれているNewJeansの件は場所取りに問題があったように思うけど)。それこそmiletのライブでも倒れる人を見たし、それは自分自身も例外ではなかった。The Snutsが終わったあたりで頭痛と吐き気が出てくるようになったので、ここで1時間程度休むことにしたのだった。そのせいでメイジー・ピーターズを観られなかったのは残念だったが、この経験から行動予定を変更することを決意。具体的には野外の『sumika→Inhaler』と進む予定を、全て室内であるソニックステージで行われる『女王蜂→Awich』に変更することにしたのだった。この時点でいろはす500mlを4本消費していたけれど、それでも熱中症ってなるのね……。

女王蜂  SONIC STAGE 15:20〜

という訳で、熱中症も落ち着いたあたりで再びスニックステージへ。2日目もそうだったが、このあたりの時間からは2階の着席可能な場所は全て埋まっていて、ソニックステージに入った観客は例外なく1階のスタンディングエリアへ移動を余儀なくされた。ただここで驚いたのは、1階も尋常ならざる人だったこと。先程のThe Snutsのライブではほぼ最前に行けたはずが、今回は1階の一番後ろで観るのがやっと。そのため当初こそ「いやーこの暑さじゃみんなソニックステージ来るよなあ」と思っていた。が、実際はこの大半が女王蜂を観るために集まっていたというのは、終わった後に気付いたことだが。

女王蜂 『火炎(FIRE)』Official MV - YouTube

日本民謡のような少しおどろおどろしいSEから登場したのはアヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ひばりくん(G)、そしてサポートメンバーとしてここ最近の牽引役となっている福田洋子(Dr)、ながしまみのり(Key)の5名。ドロっとした雰囲気の中1曲目にプレイされたのは“火炎”で、ファンの視線を一瞬で集めていく。驚いたのはもちろんアヴちゃんの女性のファルセット&男性の低音を自在に使い分ける歌唱で、CD音源でも分かってはいたことだが、実際に相対すると凄すぎるレベル。世界広しと言えど同じ歌い方をするアーティストは皆無だろうし、同時に日本語詞だから可能な歌唱のようにも思えて、心底感動した。

女王蜂のフェスセトリは『楽曲を前半で切ってなるべく多くの曲数をプレイする』という、一風変わったもの。アヴちゃんはかつてツイッターにて「ライヴは、人間を越えないといけないときがある。心の一番奥底からそう思っています」と綴っていたけれど、元々衝撃的な面の強い楽曲を、どうライブで昇華させるのかはひとつの見所でもあった。

女王蜂『バイオレンス(VIOLENCE)』Official MV - YouTube

そこで今回のライブ。アヴちゃんは最初の時点で「地獄へようこそ」と叫び、そこからは徹底してダークな楽曲を展開し続けたのである。そしてそれこそが紛れもない、女王蜂に対して我々リスナーが「女王蜂って唯一無二の音楽性だよね〜」と漠然と感じている部分の、核心を突いた一幕だったようにも思うのだ。特に“PRIDE”から“バイオレンス”まで約20分続いた場面は圧巻で、地に落ちた絶望っぽくもあり、希望を探す暗黒期間のようでもあり……。とにかく舞台芸術を観ているような、息を呑む体験が延々続く感覚。

女王蜂 - メフィスト / THE FIRST TAKE - YouTube

キャッチーにフィンガースナップのスパイスを加えて新アレンジにした“催眠術”、ディスコ状態の盛り上がりを記録した“バイオレンス”と後半はアッパーな楽曲を連発しつつ、最後に披露されたのは『【推しの子】』EDとしても認知された新たな代表曲“メフィスト”。あの印象的なイントロが流れた瞬間に沸くフロアに、率直に楽曲を叩きつける様はこの日一番無骨でもあったし、彼らなりの思いさえも内包されていたようにも思う。

アヴちゃんはサビでは何度も「SAY!」とレスポンスを要求し、実際のアイドルのように振り付けありで魅せ、かと思えばラストのアウトロではゆったりとした原曲のオチを修正。音をぐるぐる回転させるループ状態でして、カオスな状況を作り出していてライブアレンジ抜群。そして最後には「次は私たちのライブで会いましょう」と言い放ち、マイクを地面に投げ捨てて退場したアヴちゃん。ガツンという音が響くステージに、大勢の歓声が上がったのは言うまでもあるまい。

【女王蜂@サマソニ大阪 セットリスト】
火炎
BL
HALF
PRIDE
ヴィーナス
KING BITCH
催眠術
ハイになんてなりたくない
バイオレンス
メフィスト

Awich SONIC STAGE 16:30〜

先述の通り、この時間帯のソニックステージは女王蜂目当てのファンが密集。そのためライブ後はブワーっと一気にハケていったのだけれど、僕自身はこちらも先述のように熱中症の流れが(幸か不幸か)あったので、その隙に前方に移動。なるべく良い位置でAwichを観ることにつとめた。なお昨年あたりにリリースされた『Queendom』の完成度はもちろん、今観るべきアーティストだと判断した人はこの場にも多くいたらしく、始まる際にはギチギチの状態に。凄いぞAwich。

Awich - Queendom (Prod. Chaki Zulu) - YouTube

DJひとりと、それ以外はポッカリ空いた稀有なステージにAwichが登場、オープナーは処女作から“Queendom”だ。重々しいトラックをバックに彼女が放つのは、ノンフィクションの物語。沖縄で生まれ育ち、後に伴侶となる人と出会い、伴侶が薬物依存で逮捕され、既にその頃のAwichは子供を授かっていて。そして伴侶がとある銃撃事件で死去し、残されたAwichと娘が取り残されてしまう。時は巡って、今の私はこの場所でラップをしている……という、言葉にすることすら憚られるような痛烈な体験談を、Awichは気丈に捲し立てていく。これを『Freedom(自由)』を模して『Queendom(女王の自由)』と変化させていることすらも、彼女の強さを表しているように思った。

Awich - ALI BABA feat. MFS (Prod. Chaki Zulu) - YouTube

以降も痛快な言葉で紡ぐ言葉の応酬は続く。世間に中指を立てながら“Bad B*tch 美学”然り、MFSをゲストに迎えてキャッチーな歌唱で魅せた“ALI BABA feat. MFS”然り、彼女の楽曲には強いメッセージ性が必ず存在する中でも大部分を占めているのは怒りの要素で、“WHORU?”では「誰かの心ない言葉で光を見失いそうになった時、この言葉を思い出してほしい。……お前誰?」とどうでもいい他者を一蹴し、切れ味抜群のリリックでギッタギタにする場面が描かれ興奮の坩堝に。

MCでは主に故郷の沖縄と、ファンとのやり取りが光る。“TSUBASA”の前には「ある日学校の校庭に、米軍のヘリコプターの部品が墜落して。私の娘はアメリカの血が入ってるから、学校でいじめられたんだって。でも自分らしく頑張ってたら、だんだんみんなが仲良くしてくれるようになって」と回顧してメッセージ性を強めてくれたし、突如飛んできた「Awichー!」「カッコいいー!」に紛れての「顔の上に乗ってー!」に対して「顔の上乗ってー!はヤバすぎるでしょ」と突っ込んだり、水分補給を半強制的にさせる乾杯の音頭も、密な関係性を築くがゆえの出来事だったのではないか。

Awich - Bad Bad (Prod. Chaki Zulu) - YouTube

ラストソングはお馴染みの“Bad Bad”。タイトルの通り悪い感情を抱える中にも、明るい未来を希求するサウンドが光るこの楽曲を、Awichはきらびやかな映像をバックに歌い上げていく。その光景は半ばワンマンライブに近い様相でもあって、気付けばフロアには大勢の人が。……この35分のセットでもって完全に空気を掌握したAwich。初見の人も圧倒的に多かった環境で、ここまでの印象を見せ付けたのは完全勝利と言わざるを得ない。

【Awich@サマソニ大阪 セットリスト】
Queendom
Remember
Bad B*tch 美学
ALI BABA feat. MFS(新曲)
RASEN in OKINAWA
LONGINESS
TSUBASA
WHORU?
洗脳
Link Up
GILA GILA
Bad Bad

Liam Gallagher OCEAN STAGE 18:25〜

さて、Awich後はすぐにメインステージであるOCEAN STAGEに移動。このステージは先述のソニックとマウンテンと比べると非常に遠い場所にあるが、今フェスのビッグネームを多数取り揃えた、キャパシティの最も大きな場所。そこに出演するのはもちろん、Oasisの絶対的フロントマンだったリアム・ギャラガーだ。

と同時に彼の存在は、個人的に僕が今年サマソニに足を運ぶ大部分を占めていた。そもそも僕が洋楽を好きになったきっかけは間違いなくOasis。全てのアルバムを聞きまくる学生時代を過ごしていた。ただ音楽と出会った時には既にOasisは解散していて、彼らの音楽はCDから流れるばかりだったのだ。実は毎年行っているこのサマソニも、2018年に初めて参加したきっかけはリアムの兄であるノエル・ギャラガーが出ると知ったから。このときの様子については5年前の記事に詳しいが、とにかく自分にとって、死ぬまでに観たいアーティストのひとりはOasisのボーカリストであるリアムだった。

翻って、今回のリアムである。既に多くのファンが断言しているように、この日のライブはまさに最強無敵、我々が抱くリアム像を体現した最高のコンディションだった。ライブが始まる前にも関わらず大勢のファンが“Don't Look Back In Anger”を合唱する中、OasisのSEである“Fuckin‘ In The Bushes”が流れると、そこら中で怒号にも似た歓声が上がる。モニターに映し出されたのは我々のよく知るリアムその人で、『ロックンロールスター』『伝説』『神のような』といった超過大評価(ちなみにリアムはこうした大きな発言を頻繁にする)、と共に、往年のライブの様子が投影される。そして『OSAKA JAPAN』『SAT. 19TH AUG』と表示され、袖から本物のリアムが登場した瞬間、既に号泣状態。この瞬間を何年も待っていたんだなあ……。

Oasis - Morning Glory (Official HD Remastered Video) - YouTube

マラカスとタンバリンを持って臨戦態勢のリアムは開口一番に「お前ら調子はどうだ?」と焚き付け、1曲目はいきなりOasisの代表曲“Morning Glory”!もちろん歓声と共にブチ上がる会場である。基本的にリアムはリハーサルをしない関係上、1曲目を歌いながら声のバランスやリヴァーヴの高さなどを調節していくストロングスタイルなのだが、この日はこの時点でほぼ完璧と言って良い状態で、声の伸びがすこぶる良い。Oasis解散からもう何十年も経つけれど、今が最もコンディション的に最強なのではないかと強く感じた瞬間でもあった。

この場にいた多くのファンのとしては、ズバリ「Oasis曲を何曲やるのか?」という思いは確実にあったことと推察する。結論を述べてしまえばこの日のリアムは、なんとセットリストの大多数をOasis曲で固定し、ソロ曲はそのうち少し配置……という、圧倒的にOasis回帰のセットリストだった。リアムがOasisを再結成したいことは知っていたが(対して兄のノエルは断固拒否状態)、ここまでとは思わなかった。しかもその楽曲群も全てずっぱまりで、誇張無しで全員が歌いすぎて半カラオケ状態、場合によってはリアムの声さえかき消すほどの熱量だったのは特筆しておきたい。

Oasis - Rock 'N' Roll Star (Official HD Remastered Video) - YouTube

続いての楽曲は、これまたOasisの最強曲Rock 'N' Roll Star”。これはステージ上にも同じ文字で書かれているものだが、リアムにおける「俺こそがロックンロールスターなのだ」という絶対的な思いを表している楽曲だ。リアムはあの特徴的な歌唱法でひたすら声の爆弾を落としまくり、空いた両手ではマラカスとタンバリンをシャンシャンしている。……逆に言えば彼のライブの見所はこれで完結するのだけれど、たったこれだけのことが、リアムから1秒も視線を外させてくれない魅力になっている。

ちなみに今回のステージにはリアム以外にギター2名、ベース、ドラム、キーボード、コーラス隊2名という大所帯だったが、“C‘mon You Know”からの2曲は予期せぬスペシャルゲストが登場。ステージの袖付近から出てきたドラムに座っていたのは、なんとリアムの実の息子であるジーン・ギャラガー!なお余談だが、この後のMCでリアムは「ジーンの野郎が昨日アルコールを飲み過ぎてよ。前から後ろからマジでヤバかったんだぜ」と暴露していたのは爆笑ポイント。元々英語の訛りが凄いリアム、日本人の我々的には言葉が分からない部分もいくつかあったのだけれど、リアムは「お前らマジで俺の言ってる意味分かってんのか?もっかい言うぞ。あいつが、酒を、飲み過ぎたんだよ。昨日な!」と噛み締めるように語り、ファンを焚き付けるのも最高。あと、ステージ袖にリアム&ノエルの兄であるポール・ギャラガーさんもいた気がするんですが、気のせいですか……?

Liam Gallagher - Once (Reading 2021) - YouTube

また、リアムのソロ曲も完全に受け入れられていたことも重要だ。この日披露されたソロ曲は、リアム像を完璧に体現した“Wall Of Glass”、讃美歌のようなコーラスから始まる新境地“More Power”、Oasisファンにはたまらないロックアンセム“C‘mon You Know”と様々だったが、圧倒的な盛り上がりを見せたのは“Once”。リアムが歌えばもうそれでOKというか、全員が歌いまくる環境がソロでも暗黙の了解として伝わっているのは、本当に素晴らしい。それでいてOasis曲の前には「お前らの好きなOasisの曲だぜ」とか、「Oasis好きなやついるか?」と聞いてくるリアムを観ていると、本当に再結成したいんだなとも。個人的に面白かったのは、リアムがでっかく映されたネブワース公演のアナログレコードを掲げるファンに、リアムが「おっ、それ俺じゃねえか。イケメンだよな」みたいなドヤ顔で指差していたシーン。自信過剰の塊のような人だが、これこそがリアムである。

Oasis - Champagne Supernova (Official Video) - YouTube

Liam Gallagher - Champagne Supernova (Live From Knebworth 22) - YouTube

熱唱しまくっていたら、辺りはいつの間にか暗く。するとリアムは「最後の曲だ。“Champagne Supermova”か“Live Forever”。どっちか選んでくれ。時間がねえんだ」と腕時計を指差しながら、何とファンにOasis曲のどちらかを選ばせる究極のシーンが到来!「リヴ・フォーエヴァー!」「シャーンペン!シャーンペン!」のコールがあちこちで飛ぶカオス状態の中、最終的にリアムが選んだのは“Champagne Supermova”。すっかり夜になった風景に全員の大合唱とリアムの歌声、緩やかな楽器隊の演奏が溶け込んで、この世のものとは思えない多幸感で包まれた会場。《お前と俺はここでやっていくしかねえ/俺らが分からなくても世界は回り続けるのさ》というサビに差し掛かったとき、サマソニまで指折り数える每日だったり、辛い仕事を経てここに来てるんだという思いすらも回顧して、改めてボロボロに泣いてしまった。それを最終的に《Why?Why?……?(分かんねえ)》と考える部分も含めて。最後に「ビューティフォー!」と叫んだリアムさん、会えてよかった。お陰さまで死ぬまでにやりたいことリストの、大きなひとつが埋まりました。

【Liam Gallagher@サマソニ大阪 セットリスト】
Fuckin‘ In The Bushes(SE・oasis)
Morning Glory(oasis)
Rock 'N' Roll Star(oasis)
Wall Of Glass
C‘mon You Know
Stand By Me(oasis)
Roll It Over(oasis)
More Power
Diamond In The Dark
The River
Once
Wonderwall(oasis)
Champagne Supermova(oasis)

ケンドリック・ラマーのライブ中に体調不良がぶり返したため、ここでサマソニ初日は終了。本当にどのアーティストも素晴らしく、心から「この1日のために生きてた!」と思える時間だった。次回はずとまよやAwich、YOASOBIなど、この日とはうって代わって邦楽特化の1日となった2日目を総力レポート。随時書き進めていくので、どうか今しばらくお待ちいただければ。余韻はまだまだ続く。

【インタビュー】島根県出雲市発、ライブで『おもろい』を体現するロックバンド・ジャパニーズモンタナ。その真の魅力に迫るメンバー全員インタビュー!

大小関わらず日々盛り上がりを見せる、全国的なライブシーン。そんな中で今島根県のライブハウスを中心に、コンスタントに活動するバンドがいる。その名はジャパニーズモンタナ。昨年結成と活動歴としては短いながらも、多くの音楽ファンに支持されるニューカマーだ。

そこで7月某日、彼らのことを知りたくなった筆者は居酒屋でのインタビューをオファー。多忙な中で快諾してくれた彼らとの元々の予定は2時間……だったのだが、大いに盛り上がった結果、彼らが行き付けのバー・LIBERATE(リベレイト)にも立ち寄っての計4時間、数にして約30杯のアルコールが消費された濃密過ぎる一夜となった。以下、現在進行系で自身初となるレコ発ツアーで全国を回る彼らの本質に迫る、貴重なインタビューである。

ジャパニーズモンタナ

しょーご(Vo.G 写真右)
やのゆー(Ba.Cho 写真左)

 


【開幕】

──本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます!

しょーご「ジャパニーズモンタナです。よろしくお願いします!」

やのゆー「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします!」

──こちらこそです。じゃあ早速、生で乾杯を……。

(乾杯と同時にやのゆーがビールを一気飲み。しょーごは3分の2を消費)

やのゆー「(店員さんに向かって)すいません、生2 つで」

──開始2秒でビールなくなった!(笑)普段居酒屋では何飲まれるんですか?

やのゆー「僕はビールやレモンサワー、ハイボールとかですね。他は言われるがままっていうか、選んでる時間がないっていう」

──バンドマンの飲み会って、割とお酒の回転早いですもんね……。


【四星球のコピーから始まったバンド】

 

嘘でもええから!?四星球コピーしてみた!クラーク博士と僕 Mr.Cosmo - YouTube

 

──まず最初の質問なんですけど、結成の経緯ってどんな感じだったんですか?四星球のコピーバンドの『五星球(読み:ウーシンチュウ)』を組んでいたことは伺っていますが……。

しょーご「結成をどこから数えるかっていうところなんですけど、五星球から数えると6年目か7年目くらいで。ジャパニーズモンタナとしては去年の5月が初ライブです」

──ここで少し五星球時代の話を伺いたいんですが、元々は四星球が好きでコピーしてたっていう感じで?

しょーご「はい。四星球は昔から好きで。実は『コピーバンドをやってからオリジナルやろうよ』っていう話だったんです。で、何のコピーをやろうかなって思った結果、四星球が一番ハマりそうだなと。それでライブをしたら、ウケが良くて」

──ライブも盛り上がるし、笑いのエッセンスもあって。

しょーご「そうですね。それで四星球のコピーをずっとしてて、オリジナルに行けるタイミングはあまりなかったんですよ。それで『コピーで行けるとこまで行こう』ってなって、『コピーバンドとして四星球と対バンする』っていうのを目標にして5年間くらい……」

──凄いですよね。本家の四星球と対バンするっていうのがひとつのゴールで、しかも実現した。

しょーご「そうなんですよ。でもそこからすぐオリジナルに行けたら良かったんですけど、上手く行かなくて。それで去年の5月くらいにやっとオリジナルに行けたっていう」

──そこからジャパニーズモンタナを結成して。

しょーご「でも僕ら、初ライブが本当に最悪で。そのときのドラムが体調不良で出れなくなって。それでよくわからない弾き語りやって、土下座して終わったっていう(笑)」

──記念すべき初ライブが(笑) 


【影響を受けた音楽】

──個人的に思ったことで恐縮なのですが、ライブを拝見したときにサウンド的にはB-DASHを筆頭としたメロコアに影響を受けてらっしゃるんじゃないかなと思っていて。サウンド的に影響を受けた音楽って何があると思いますか?

しょーご「確かに、B-DASHはめっちゃ好きですね。僕が曲を作る上で参考にしてるのはB-DASHやBEAT CRUSADERSのような音楽が基盤で、それ以外はそのときに聴いた曲の『ここ良いな』って思った部分を。ジャンルは気にしてないです」

──なるほど。

しょーご「B-DASHは大人になってから聴き始めて。五星球のとき、メンバーとカラオケに行ったときにB-DASHを聴いて、その時に知ったんです」

──『何だあの歌詞!?』みたいな驚きもありますよね。

しょーご「そうなんですよ。聴いた瞬間『これだわ!』と思って。オリジナルをやるにあたって方向性は何個か考えてはいたんですけど、B-DASHと出合ったときにもう流れが決まった感じですね」

【OFFICIAL MUSIC VIDEO】ジャパニーズモンタナ - Dandy Fight!!! - YouTube


【縁の下の力持ち、やのゆーのベース】

──ライブハウスって、どうしても対バンだと初見の人が多かったりするじゃないですか。その中でもモンタナさんのライブは心から震える衝動みたいなものがあって。

しょーご「(やのゆーを指差して)こいつが引き込んじゃうんで」

やのゆー「どこがや!僕は打ち上げで死ぬ係なんで(笑)」

──でもマジでやのゆーさんの一挙手一投足って、めちゃくちゃ魅力的ですよ。“ASAKURA”でのアクション(注:この曲ではやのゆーがドラマのワンシーンを再現する場面がある。以下参照)とか。

やのゆー「ありがとうございまーす!」

ジャパニーズモンタナからお知らせ - YouTube

──そういえば、やのゆーさんは五星球ではピンボーカルでしたよね?

しょーご「(やのゆーとは)アポロで出会って、バンド始める?みたいな感じで。で、ドラムとベースは見付かったんですけど、ボーカルがいなくて。それで『じゃあやのゆーがボーカルね』って」

やのゆー「最後にボーカルが決まるパターンって珍しいですよね(笑)」

──ですね!じゃあジャパニーズモンタナがベース歴としてはほぼ初?

やのゆー「はい。特にピック弾きとかはモンタナが完全に初めてで、だからモンタナ歴=ほぼベース歴なんです」

──そうなんですか!……あとさっきから思ってたんですけど、皆さんめちゃくちゃ飲みますね!ちなみにツイッターでの、飲み潰れた八王子の飲み会ってどんな感じだったんですか?

やのゆー「あれはマジでヤバかったっす」

しょーご「八王子のライブハウス(八王子MatchBox)の打ち上げって、バーカウンターで聞いたことないコールが無限に出てくるんですよ。ひたすらイッキみたいな」

──すげえ。

しょーご「で、僕は遠くで見てたんですけど、よく見たらその輪の中心にこいつがいるんですよ(笑)」

──ハハハハハ!(笑)

やのゆー「テキーラをめちゃくちゃ飲んで。2日記憶飛ばしました」

しょーご「ライブハウスに、こいつ最初は長ズボンで行ったはずなんですよ。でも打ち上げが終わったらなぜか半ズボンになってて」

──それはヤバい(笑)


【サウンドを牽引するしょーごのギター&ボーカル】

──では次にしょーごさんどうですか?

しょーご「俺は右手の動きは負けんけど、左はウンコなんで」

──いやいや(笑)コードを弾く左手が重要なのかなと思ってたんですけど、ギターは右手が大事なんですね。

しょーご「右手の動きで、ギターの音がマジで変わるんですよ」

やのゆー「いろんなバンドマンに『島根でギター上手い人誰ですか?』って聞いたら、みんなこの人(しょーご)って言うんですよ」

──こう言われてますけど、しょーごさんマジですか!?

しょーご「(急に真面目な顔になって)……みんなでイッキしましょう」

──ハハハハハ!(笑)

やのゆー「逆に、みんなが褒める凄腕ギタリストと、初心者ベーシストが一緒にいるっていうプレッシャーを分かってほしい!」

しょーご「練習すればいいやん。1時間やって駄目だったら8時間やったらいいし」

やのゆー「……俺、今から闇金行ってきていいすか?働かんでいいように。その分練習するんで」

──ハハハハハ!(笑)でもやっぱりショーゴさんはフロントマン然としている印象があって。それこそボーカル面でも、ロックサウンドの中心を突き抜ける声というか。しょーごさんの声だからこそ成り立つような感覚というか。

しょーご「マジですか。ありがとうございます!」


【ライブバンド、その原動力】

──お二人はライブをとても大切にされている印象があります。お二人にとってライブって、どんなものなんですかね。

やのゆー「正直、僕はずっとライブがやりたかったんです。でもやりたくてもライブができなかった時期がけっこう長くて」

──それはコロナ禍でっていう意味で?

やのゆー「いや、単純にメンバーがいなくて。で、ようやく五星球でボーカルとしてライブに出たとき、お客さんの反応が嬉しかったんです。元々ベーシストに憧れてたんですけど、今はそれをさせてもらえてますし。演奏は下手だし音楽知識も少ないんですけど、めちゃめちゃ楽しいんですよね。ライブは飽きないです」

──自分たちの『楽しい』を具現化するひとつとして。しょーごさんは?

しょーご「そうですね、ライブがなかなかできなかったっていうのは、僕の中でもデカいです。僕、出身が広島なんですけど、広島にいたときもコピーバンドを組んでスタジオで合わせたりはしてたんですけど、ライブをするっていうところまで至らなかったんです」

──なるほど。

しょーご「それがいろんなきっかけで出雲アポロでライブができるようになって、繋がっていってっていうのがあって。『ライブができる楽しさ』からずっと始まってる。そこは変わらないし、理由はないです。ライブができることが楽しいんです」

──その言葉で納得したんですけど、ライブのときに『楽しそうにやってるなあ』っていうのは凄く思います。

しょーご「できなかったときに比べたら、今は凄くたくさん出来てるし、そこに慣れそうになっちゃうんですよ、やっぱり。そこをいかに慣れんようにというか、いかに真面目にやり過ぎないかっていうので、楽しくしてる」

──以前ライブでモンタナさんの出番になったときに、お客さんがグワーっと前に来たのを観たんですよね。そのときにモンタナさんが培ってきたライブが、しっかりみんなの心を掴んでることを改めて感じました。

しょーご「ありがとうございまーす!」

やのゆー「有り難い限りですよ。本当に」

ジャパニーズモンタナ 1st single「UMA」トレイラー - YouTube


【初のレコ発ツアーに向けて】

──今月には自身ファーストシングルとなる『UMA』がリリースされ、シングルを携えた全国ツアーも決定しています。その意気込みについてもお二方にお伺いできればと。

やのゆー「リリースツアーっていうのをしたことがないから、めちゃくちゃ嬉しいですね。ジャパニーズモンタナを迎えてくれるライブハウスにも感謝してますし」

しょーご「シンプルに『大変だなあ』っていう(笑)でもツアーだからどうこうっていうのはなくて、いつも通りのライブをするだけです」

やのゆー「どういう感じなんだろう、っていうのはあるね」

しょーご「楽しみだし、初めて行くライブハウスもあるんで」

──ここからもっと景色が広がっていくの、最高ですね。

しょーご「やっと『バンドやってるなあ』っていう実感がありますね」

やのゆー「俺、ツアーバンドに憧れてたんですよ。お客さんが全然おらんでも、ツアバンで出雲アポロに来てくれたり、そんなバンドがめちゃめちゃ格好良くて。ずっとそうなりたかった。フライヤーに名前が載るのとか超嬉しいです」

しょーご「大きいところでライブをやる、その数字が重要なのも分かります。バンドの看板にもなるし。でもお客さんが……極端に言ったらゼロのライブハウスにも格好いいバンドはいるし、俺らはそれをリアルで観てきてるんで。バンドの格好良さと、お客さんの数は必ずしも比例せんってのもわかってます。だからそこには固執してないし、だから続くんです」

やのゆー「現場主義で。自分らがおもろくないと」

【OFFICIAL MUSIC VIDEO】ジャパニーズモンタナ - Dandy Fight!!! - YouTube


【今後の展望】

──アツい話も聞けたところで。今後のバンドの展望について、2人ともどうですか?

しょーご「俺はないです」

やのゆー「俺もないです」

──ハハハハハ!(笑)

しょーご「今が一番おもろいんで」

やのゆー「そう!」

──それ、バンドとして最強じゃないですか。

しょーご「今おもろいが続くのもそうだし、『こういうことやりたいよね』って言って、みんながそこに向かえるのもそうだし。今が楽しくないと楽しいことは起こらないと思ってるので」

──それがしっかりと結果として表れているのが今回の全国ツアーだと思います。成功を心から願ってます!

しょーご「ありがとうございますー」

やのゆー「絶対来てください!」


【おわりに】

今回彼らと直接話して分かったことは主にふたつ。そのうちのひとつは『この2人の絶妙な人間性が、ジャパニーズモンタナが愛される基盤を作っている』ということだ。会話にパスを出しながら、冷静に現状を見据えるしょーご。要望されたことの大半を肯定し、場の雰囲気に即座に順応するやのゆー……。一見対照的にも思える2人だけれど、ひとたび話せば胸襟を開いて、笑いも携えた絶妙なトークで場を作り上げてくれる。それは横の繋がりが次のブッキングに直結するライブシーンにおいて、大きな武器であるように思った。

そしてもうひとつは『彼らのライブに対する熱量』である。インタビューの後半でもしょーごが「今が一番おもろい」と語ってくれている通り、モンタナの原動力は至ってシンプルで、ズバリ『自分がやりたいからやる』という、本能的な要素が大部分を占めていた。彼らのそんな思いは現在敢行中の全国ツアーで遺憾なく発揮されることだろうけれど、バンドの未来を考える上でも今の彼らは無敵だと断言できる。

島根県発・出雲アポロをホームに全国的な活動に向かうジャパニーズモンタナ。ファーストシングル『UMA』のリリースを経て、きっと彼らはこれからもライブでフォロワーを増やしながら、最終的に大きな存在になっていくのだろう。脂の乗り切った彼らのサウンドに出会うべきは、絶対に今である。

【記事寄稿のお知らせ】2023年の夏アニメの楽曲にも注目!アニメのOP/ED曲特集

uzurea.net様に、『夏アニメの主題歌15選』の記事を寄稿しました。

uzureaさんには、以前『春アニメの主題歌5選』の記事を寄稿したことがありまして。そこでは5作品を取り上げて徹底解説する……という形で一旦は完結したのですが、個人的にもとても楽しく書けた記事でして。漠然と「次は夏アニメでやりたいな」と思っていました。

ただ今回はまた少し違う形で、なるべく多くの作品を解説することを心がけました。『少ない作品を濃密に書く』『多くの作品を紹介する』のどちらが良いかはまだ分からない中ですが、いろいろ試行錯誤しながらやっていければ。

アニメから音楽に行ってもいいし、逆も然りで。アニメタイアップは『世間的な間口が広い』というのが最大の強みのように思います。この記事を読んでくださった方にも、何曲か刺さればいいなと。次回は秋アニメでお会いしましょう!

2023年の夏アニメの楽曲にも注目!! 『飛天』『熱風は流転する』『貴方の側に』など計15曲 アニメのOP/ED曲特集!! - uzurea.net

【記事寄稿のお知らせ】『サマソニ2023』タイムテーブル発表の最終盤!

uzurea.net様に、サマソニ記事の最新版を寄稿しました!

遂に今月19日・20日に開催されるサマソニ。長らく続いてきたサマソニの更新も、今回のタイムテーブルを以て一旦終了。合計の文字数は2万5000字で、これまで書いてきた記事の中でも最長のものになりました。 

個人的にサマソニにはいろいろな思い入れがありまして。それは『海外アーティストを観ることができる稀有な都市型フェス』という意味でもそうですし、僕のライター活動においてもThe 1975の記事が音楽文で入賞して、ロッキンさんからのご依頼に繋がったり……。本当に、1年を通して一番楽しみにしているイベントなんです。

なのでこれまでもブログで『第1弾!』『第2弾!』『第3弾!』のように小出しで情報を出して来たのですが、今回のuzureaさんの記事では特殊な方法として、『発表された情報を毎回更新して厚みを出す』という形を考えていただきまして。いわゆる『2023年サマソニ保存版』みたいな、まとめサイト的なものを目指そうと動いておりました。

余談ですが、ここ最近友人らと会うたびに「みんな大変な中毎日を生きてるんだなあ」と思うことが増えました。僕は小中高で陰キャ生活を送っていたので、友人も同じ性格の人が多いんですけど、仕事を辞めた人、精神的に鬱になった人が身の回りにはたくさんいて。それこそ今回サマソニに一緒に参加する友人も、障害者手帳を持っている状態だったりします。

総じていろいろ大変なことも多いけど、少なくともこの日だけは全てを忘れることができるような日になることを心から願ってます。1年のうちで良い思い出が少しでもできれば、それでプラスなので。

『SUMMER SONIC 2023』情報まとめ 最強夏フェス サマソニを全力で楽しむ!【8月4日更新】 - uzurea.net