キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【追悼記事寄稿のお知らせ】偉大なる音楽家・坂本龍一の訃報に寄せて

uzurea.net様に、坂本龍一さんの追悼記事を寄稿いたしました。

僕はまだ20代なのでYMO世代とするにはちょっと違うんですが、自分の父がYMOの大ファンで、そこからいろいろ聴くようになりました。で、ふとした時に気づいたんです。僕が好きな音楽ってPOLYSICSとか電気グルーヴとかEDM系統とか、電子音楽が多いなあと。もちろんその理由は一番最初にYMOから入ったからなんですけど、多分この感覚と同じように、YMOから他の音楽に行ったりとか、自分が好きになったアーティストがYMOから影響を受けてたりとか……。音楽の広い意味での立役者こそ、坂本龍一という男だったように思います。

今回の記事は、本来ブログに載せるつもりでいました。あまりに個人的な衝動に基づいてのものでしたので……。ただ、やっぱりこの功績とバイオは多くの人に読んでもらいたかったのもあって、提案したところ急遽uzureaさんで載せていただける形になりました。興味をもった方、是非とも彼の生み出した楽曲を聴いてみてほしいです。

YMO、戦場のメリークリスマス、反原発……。偉大なる音楽家・坂本龍一の訃報に寄せて - uzurea.net

 

【ライブレポート】サバシスター・愛はズボーン・アフターアワーズ『アテンション!!TOUR!!』@心斎橋ANIMA

こんばんは、キタガワです。

まずライブ会場に着いた瞬間に驚いたのは、その熱気だった。今回のライブ会場である心斎橋ANIMAは、路上に面したとある一角から地下二階へ進んだ先にある小さなライブハウスなのだけれど、その地上……つまりは通行人が行き来する『普通の道』に、あり得ないほどの人だかりが出来ていたのだ。

僕が到着したのは18時50分過ぎ、ライブ開始は19時である。にも関わらず、スタッフさんは「整理番号100番の方ー!101番の方ー!続いて102番の方ー!」と、僕の手持ちのチケットの300番台が絶対に呼ばれないレベルの感覚で、チケット番号を読み上げている。ふと版に書かれた案内を見ると『Tichet Sold Out!』の文字と共に当日券の案内が刻まれていて、このライブハウスが本来のキャパを無理矢理増やした状態で当日を迎えたことは、この時点ではっきりと分かった。サバシスターの曲の歌詞を借りれば、まさしく《地下二階はすぐにソールドアウトするさ》である。

集まった人々のお目当て、その大半はサバシスターだろう。メンバーは弱冠20歳で、結成は2022年の3月とごく最近。にも関わらずライブは立て続けにソールドアウトするという、今波に乗りまくっているガールズバンドである。そんな彼女たちのライブには、地元大阪から愛はズボーン、アフターアワーズらマッチョなロックバンドが集結。新進気鋭の後輩を支える布陣で、平日の夜を踊らせにかかった。

https://iwzbn.com/

パンッパンのライブハウスは入場制限により開場時間が大幅に延び、結果的に客電が落ちたのは19時15分頃。1番手は大阪はアメリカ村から、破天荒なライブパフォーマンスに定評のあるロック集団・愛はズボーンである。SEと共に呼び込まれたのはもちろん儀間建太(Vo.G)、金城昌秀(G.Vo)、白井達也(B)、富永遼右(Dr)の4名で、そこからしばらくはジャム・セッションの様相で熱量を高めていく。

愛はズボーン "MAJIMEチャンネル" - YouTube

《死ぬ事忘れて遊びまくり/それ死んだも同然 地獄》と聴き覚えのあるフレーズが放たれると、代表曲“MAJIMEチャンネル”でもってライブは開幕。音圧のあるサウンドの中で、儀間の『じごっく〜』のポーズ(上動画参照)に笑顔になるのはもちろん、CD音源ではあまり重視していなかった《チャンスとパンとコオロギが/フェンスの向こうで見ている》、《屁理屈がジュースこぼして/カーペット汚れた》といったサイケな歌詞も、エンタメ的に耳に入ってきて最高だ。

そしてこちらも代表曲“ひっぱられる”で、ライブは早くもハイライトを迎える。《ひっぱ ひっぱられる ひっぱられないように ひっぱる》のフレーズが頭をグルグル回る中で、楽器隊の演奏は正確。歌いながら単音&リズム変化のギターを弾く儀間と金城のテクニックにも驚きつつ、その間奏ではグワっと盛り上がる煽りも取り入れていて、興奮が途切れることもない。きっと長年のライブがもたらす経験則が、無意識的にそうさせているのだろうけれど、我々的にもここまで引き込まれるライブはないのである。

愛はズボーン / ひっぱられる(Live) 2018.9.16 - YouTube

期待のMCでは、トーク管理に定評のある金城のツッコミが光る。まずは「サバシスター、まだ結成1年やって。ホンマ凄いなあ。でもあのホンマごめん、最初『えっ?ごうけ?』ってならんかった?」とメンバーのひとりのごうけの名前をイジりつつ、再度「あれやろ?なち、るみなす、ごうけの3人でサバシスターやんか。……ごうけ?」とオーバーキル。爆笑に包まれる会場で、金城は「うちのメンバーの名前も紹介しとくな。俺が金城やろ、白井、冨永、ほんで儀間や。……ぎま???」と矛先をボーカルの儀間にチェンジ。すると当の本人は「儀間ちゃんです☆」の独特のポーズ(指拳銃で自分のアゴからこめかみまでを90度移動させる感じ)でガンガン注目を浴びたがっていて、メチャクチャな爆笑が生まれていく。

以降は儀間が味をしめたのか、先程の「儀間ちゃんです☆」を連発しつつ“Z scream!”、“ラブラブチューイングガムガムチュー”といった楽曲でぐんぐん盛り上げ、初のMCで。ここでは金城が「改めてやけどサバシスター、まだ結成1年目でしょ?20歳くらい?」と後輩を上げながら、自身の高校時代の話へ。そこでは金城が4兄弟で貧乏だったため何かを買ってもらう機会が誕生日にしかなかったこと、ギターを買うためにアルバイトでお金を稼いだこと、何万円もするギターを初めて買ってコードを弾いた際、脳汁が出たことなどを語ってくれた。そして「おい!みんなも平日に金払ってライブハウス来とんねやろ!……音楽で食っていこうと思ったとき、俺は何を歌おうかと思った。金がないとか、メッセージ性のある歌詞とかそんなんやない。俺は『大人になればギターが買えるぜ』ってことを歌いたい!」と金城。

ニャロメ! - YouTube

そこから雪崩込んだのは“ニャロメ!”。奇天烈なフレーズの羅列から、子供時代の思い出を回顧する流れを聞いていると、やはり音源だけではアーティストの良さは語れなくて、ライブは必要なのだとも思わさせた。それこそ愛はズのライブに関してもこの楽曲で言われるように、洋楽を指して《意味なんてひとつも知らないぜ/それでもずっと聴いてんだぜ》というのがひとつの答えのように思う。爆音と興奮と、その中に潜む作詞者の心情。それでオールオッケーと断言できるのが、愛はズボーンなのである。

愛はズボーン『愛はズボーン』 - YouTube

ラストはもちろんバンド名を冠した、これを聴かなきゃ帰れない“愛はズボーン”。中毒性の強すぎる《ボンボンズボボン 愛はズボーン》のサビを熱唱する中、儀間は「行くぜエビバディ!」と叫びながら袋に入った大量の風船をフロアに投下!このパフォーマンスはコロナ前は頻繁に行われていたのだけれど、まさかこの場で復活するとは……。風船がフワフワと舞う下で、喉が潰れるほど叫び続けた最高のライブ。圧巻でした。

【愛はズボーン@心斎橋ANIMA セットリスト】
MAJIMEチャンネル
ひっぱられる
Z scream!
ラブラブチューイングガムガムチュー
ニャロメ!
愛はズボーン

 

https://afterhours3.amebaownd.com/

続いては大阪のスリーピースロックバンド・アフターアワーズ。個人的には関西のライブシーンに精通している人間ではないので、大変申し訳ないのだけれど今回が完全初見。そしておそらくこれは今回集まった観客の多くが同様の状態だったように推察する。ただ、リハーサルの段階で“どうでもいいことばかり”が鳴らされた瞬間、僕も周囲の観客も何か「おっ?」と感じるものがあったのか、そこからはリハそっちのけで歌詞とサウンドに耳を傾けていた。これぞ音楽の力である。

一度ハケてしばらくすると、暗転後にショーウエムラ(Vo.B)、タミハル(G.Vo)、上野エルキュール鉄平(Dr.Vo)の3名がステージに登場。オープナーは”グレイトエスケープ“と題されたロックチューンで、髪をバッチリ決めてフロントマン然としたウエムラ、動き回りながらリードするタミハル、パワフルなドラミングで鼓膜に襲いかかる上野のサウンドが、グッと押し寄せてくる感覚がある。

アフターアワーズ"グレイトエスケープ"(Oficial Music Video) - YouTube

セットリストについては、ファーストフルアルバム『AFTERHOURS』の楽曲が主。《ラララ》で大合唱を生み出した先述の”グレイトエスケープ“、美メロでゆらゆら揺らす”いいのにね“など、その全曲がキャッチー。かつ熱量高いパフォーマンスに耳を揺さぶられた観客が、どんどん腕を高く上げる様は素晴らしかった。MCでは「俺ら3人全員楽曲持ってるから、煽ったりとかなかなかでけへん。(コードが)Aやったらね、腕挙げたり出来るんやけど……」とウエムラがスリーピースならではの状況を口にしつつ、その他はライブハウスへの愛情と感謝を体現するトークが続く。「サバシスターの前に盛り上げるのが仕事!」と叫びつつ、基本的には楽曲をどんどん進めていくのも無骨で格好良い。

アフターアワーズ"どうでもいいことばかり"(Oficial Music Video) - YouTube

印象深い楽曲を挙げるとすれば、それは個人的には”どうでもいいことばかり“に軍配が上がる。泣きメロ的なサウンド面の魅力もありながら、大切な人以外はどうでもよく見えてしまう青春感、更にはサビで一気に爆発するべきライブアンセムのセオリーを考えても、とても高い水準に位置する楽曲だと思った次第だ。それこそライブが終わって何日か経つ今も「〜♪どうでもいいことばかり〜♪」と曖昧ながらも楽曲が頭で鳴り続けたりもしていて、メジャーインディーどうこうと言うより『良い楽曲は良い』という原点に立ち返ったような、そんな衝撃があった。

アフターアワーズ – 16【One Night STAND Live】 - YouTube

以降は”明日になったら“や”走り出せ、今夜“といった叙情的なロックチェーンをお見舞いすると、ラストは『AFTERHOURS』からリード曲の”16“。これまで通り『わたし』と『あなた』のふたりの登場人物で展開するのはもちろん、今回披露された楽曲の中では最もロック色の強い楽曲でもある。散弾銃のように放たれる言葉と荒々しい音像で、一気にフロアを高めていくアフターアワーズ。楽しそうな表情を浮かべ、最後は大阪で開催される次回のライブを告知しつつステージを去った3人に、大きな拍手が送られた。

【アフターアワーズ@心斎橋ANIMA セットリスト】
グレイトエスケープ
デイジー
いいのにね
どうでもいいことばかり
明日になったら
走り出せ、今夜
バイバイ
16

 

https://lit.link/sabasister

このあたりで、グッと前方に体が押し出される感覚があった。当然その理由はファンが後方から押し寄せたためだけれど、それはつまり次なるバンドへの期待値が異常に高い証左でもあった。……ライブを締め括るのは弱冠20歳、結成1年にしてソールドアウトを続出させるガールズバンド・サバシスターである。

暗転後に観客の手拍子でもってステージに呼び込まれたのは、なち(Vo.G)、ごうけ(Dr.Cho)、るみなす(G.Cho)、サポートのサトウコウヘイ(B)の4名。全員が様々なポーズを決めてテンション高めなのは初々しく、同時に緊張しているようにも感じた次第。なおSEにはビッケブランカの楽曲が選ばれていて「何でビッケ?」と疑問を抱いていたのだが、その楽曲が“Ca Va?”(読み:サバ)であると分かり妙に納得……。

サバシスター - ヘイまま!プリーズコールミー Music Video - YouTube

 

開口一番、AIR JAMのTシャツ(彼女が尊敬する横山健らHi-STANDARDが主催するフェス)なちが「サバシスターです、よろしくお願いしまーす!」と叫ぶと、1曲目は新作EPから“ヘイまま!プリーズコールミー”をドロップ。地元を出て東京で暮らすなちの「たまには電話してきてね」という母への思いを体現したメッセージソングだ。シンプルなロックサウンドの中、なちは時折腰に手を当てたり、《電話してちょうだい》の場面では電話をかけるポーズをしたりと目にも楽しい行動で楽しませ、1曲目にして心をガッツリ掴んでいた印象が強かった。

まだ結成1年のサバシスターが現状リリースしているのは、EPの『鯖ノ壱』と『アテンション!!』の2枚のみ。アルバム系統に関しては1枚もリリースしていない超新星状態だ。そのため今回のライブではこの2枚からの楽曲を全曲網羅したことに加え、CD未収録の旧曲である“しげちゃん”と“サバカン〜”といった楽曲も組み込んだサバシスターの今を惜しみ無く放出した代物となり、また来たる未来の可能性を見せ付ける夜となった。

サバシスター - スケボー泥棒!【ライブ映像】2022.09.29 - 下北沢SHELTER - YouTube

続いてはお気に入りのスケボーを盗まれた実体験を元にした“スケボー泥棒!”。ここ数ヶ月のライブ経験がそうさせるのだろう、なちはサビ前に「はい!」と合図しつつ、《スケボー スケボー スケボー泥棒》の大合唱を生み出していく。この時点で演奏を聴いていて驚いたのは、おそらくギターとベースは基本的にクリーン状態(エフェクターをほぼ使っていない)であることが判明したこと。サウンドの深みは敢えて外し、歌と直アンのバンド演奏のみで攻める時代に逆行したスタイル。同じスタイルで思い当たるバンドと言えばサンボマスターやヤバイTシャツ屋さんあたりか……。そして彼女たちの場合は、これが正解なのだ。多分。
 
MCでは「尊敬する先輩方に囲まれて緊張してます……」となちが語ると、まずはモニター越しに全てのライブを観ていたというなちが、愛はズ儀間のネタをもじった「サバちゃんです☆」で笑いを誘う。以降は大阪のライブが3日連続であることに触れて「大阪の人って大阪府民って言うんですか?じゃあこれで私も大阪府民ってことで……」とボケたり、たこ焼きの塩味を初めて食べた話、新型コロナウイルス感染と体調不良で大阪ライブを2度断念した後悔などを挟み、観客からはパラパラと拍手が。またそれらのMCの大半は、良くも悪くも発語後に一旦沈黙する流れになっているためどこかフワフワ。「私たちはあくまで楽曲で勝負する!」という思いすら漂っていて良かった。

サバシスター - ジャージ Music Video - YouTube

大勢の大合唱が響いた“アイリー”、ごうけと幼少期から側にいるぬいぐるみ(本名はしげちゃんでニックネームはしげっち)について歌ったバラード曲“しげちゃん”を挟むと、なちが「メルカリで売られたジャージの曲です」と語り、遂に鳴らされたのはキラーチューンの“ジャージ”。正直な思いを綴ってしまうと、個人的にこの曲は《可愛かった君とあのジャージは/知らん誰かに盗られたし》とするサビから『ジャージと誰かが盗られた=失恋曲』のイメージで捉えていた。しかしながらこのMCで語られていたようにその実、この楽曲で示されている『メルカリで私のジャージが売却されてた!』と『彼が他人に盗られた!』は完全に別の話で、それを同じ『盗まれた』のテーマで合致させたのがこの楽曲だったのだ。これもライブを観なければ決して分からなかった真実である。

そして素晴らしいのは、この半径数メートルの生活を綴るサバシスターの楽曲はつまり、人生経験を積むにつれて深みを帯びていくこと。ライブにたくさん出たり、大恋愛をしたり、何かを失ったり……。そのたびに彼女たちは出来事を歌詞にして発散するのだろう。今は20歳、上京し立てだからこそ“ジャージ”や“ヘイまま!〜”、“しげちゃん”といった初々しい楽曲を生み出しているけれども、間違いなく来年再来年はガラッと変わったテーマが生まれる訳で。グッと来たる可能性を感じさせるのがこの“ジャージ”だったような気も。

サバシスター - サバシスター's THEME (Live at 下北沢SHELTER) - YouTube

『アテンション!!』における“タイムセール逃してくれ”、更には「サーバ!サーバ!」コールからダメ押しの“サバシスター's THEME”で、ライブ本編は幕引き。サビで多数の手が挙がる幸福空間で、合いの手も入れつつ大団円を図る鯖姉妹たちである。キャッチーなのにアツい楽曲に心を掴まれながらも、いつしか終わってしまった性急さは完全にロック過渡期のそれであり、そうした音楽を2023年現在に20歳そこそこの少女たちが鳴らす重要性すら覚えた爆速の2分であった。

ナイスなガール - YouTube

もうこの時点で夜の21時15分というカオスなANIMAで、サバシスターのアンコールは過去曲から2曲をドロップ。まずは「次の曲は30秒で終わる曲なので、ブチ上げで行けますか?」と鳴らされた“サバカン 〜サバシスターより感謝を込めて〜”で一瞬で駆け抜けると、ラストは“ナイスなガール”で終了。高円寺を舞台に、その付近にいる様々な人の様子を俯瞰して観る楽曲である。ただ楽曲内の主人公(おそらくなち)は友人にバンTをあげたりライブハウスを中心に見ていたりと、“ナイスなガール”は彼女自身の原点すら詰まったロックチューンでもある。この楽曲をある種異様なスピード感で駆け抜け、ライブは終幕。まだまだ荒削りだが、その中に確かなスピリットを見た瞬間だった。……まだまだ行くぞ、サバシスター!

【サバシスター@心斎橋ANIMA セットリスト】
ヘイまま!プリーズコールミー
スケボー泥棒!
生活
アイリー
しげちゃん
ジャージ
タイムセール逃してくれ
サバシスター's THEME

[アンコール]
サバカン 〜サバシスターより感謝を込めて〜
ナイスなガール

 

新進気鋭の若手バンド・サバシスターと、本公演の大阪にちなんだ地元ロックバンドが肩を組んだ今回のライブ。それは名の売れたアーティストが行うホールライブでは決して得られない、言うなれば『ライブハウス最高!』を地で行くような、最高に泥くさい数時間だった。

そしてその中でもサバシスターは愛はズやアフターアワーズら先輩勢から、はたまた我々観客からしても、ロックの未来を託す存在として光っていた。それは彼女たち自身がライブハウスを愛しているからに他ならず、何だかとても嬉しくなってしまったのは筆者だけではないだろう。……繰り返すが、この日のサバシスターは今ある持ち曲をほぼ全て出し尽くしたセットリストだった。これが夏フェスを経てライブハウスツアーを経て、来年に出すアルバムに活かされるのだろうと思うと本当に末恐ろしい。この日を観測出来たことを誇れるようになる日も、きっと近い。……サバシスター、愛はズボーン、アフターアワーズの3組。どのバンドも素晴らしいライブでした。

【記事寄稿のお知らせ】SOUNDPEATS『Opera05』レビュー

uzurea.net様&SOUNDPEATS様からご依頼いただき、ワイヤレスイヤホンの新商品『SOUNDPEATS Opera05』のレビュー記事を寄稿しました。

いろいろとお世話になっている媒体様からの記事です。かつて2つほどイヤホンレビューを寄稿させていただきまして、売れ行きも好調らしく……。その流れで今回も、という流れでお話をいただきまして。

非売品の代物を数週間使わせて頂いた感想として、今回のイヤホンに関しては表題にも冠した通り、明らかに『今まで聴こえなかった音が聴こえるイヤホン』です。ギターソロの単音も全部しっかり聴こえたり、音数の多い曲(ずとまよとか米津玄師とか)を聴いた際は驚くほどのレベルでしたので、そちらを重点的に記す形で書いています。それこそくるり”ソングライン“のベンチマークとか……。

ただ全部ベタ褒めするのではなくて、商品提供記事ではありますが『今のイヤホンシーンではロー優先の方が良いよな』とか『価格帯的には前に紹介したイヤホンと比べてどうか』といった様々なことを考えて、今回も忌憚なく書くことに決めました。なので少し辛めの評価にはしてしまいましたが、素晴らしいイヤホンなのは間違いないです。使っていただければ驚くこと間違いなしのイヤホンなので、気になった方はぜひ。今ならuzureaさんのHPからお安く購入することも可能です!

SOUNDPEATS『Opera05』レビュー 音の再現を最優先させたワイヤレスイヤホン 今まで聴こえてなかった音に気付く!?【製品提供記事】 - uzurea.net


 

 

【ライブレポート】claquepot・竹内アンナ『crosspoint 2023』@梅田クラブクアトロ

こんばんは、キタガワです。

足しげくライブに通っている人間にとって、よく人から問われることがある。それは「今年観たライブの中で誰が一番良かった?」とする極めて難しいもので、興奮なのかセトリが自分好みだったのかなど、何を基準に『良かった』とするかを考えた結果、有耶無耶な回答をするのが常だった。

どうあれ2022年、個人的に最も衝撃を受けたのはclaquepot(クラックポット、以下クラポ)のライブだった。当日のライブレポについては本人にリツイートいただいたこちらの記事に詳しいが、ほとんど曲も知らないミーハーな状況下において、あまりに完璧な1時間を見せ付けられてしまった。そこからフルアルバム『the test』を含めて彼の楽曲に心酔してしまったのは言うまでもないし、おそらく僕同様、音源以上に素晴らしいクラポのライブを体験し、ファンになった人は一定数いるものと推察する。

そして訪れたのが今回の『crosspoint 2023』。この対バンイベントはクラポ自身がブッキングを交渉、その土地土地で一緒にやるべきと思った相手と2時間のライブを行う全国ツアーだ。なおこの日の対バン相手は京都育ちの竹内アンナ。最終的には驚きのサプライズがあったことも含めて、この日集まったファンの心に大きな興奮をもたらしたことだろう。

会場となる梅田クラブクアトロに足を踏み入れると、既に大勢のファンがフロアに集まっていた。前回のツアーの広島会場では圧倒的に女性が多いイメージだったのだけれど、今回は比率で言えば女性6・男性4といった感覚で今か今かと始まりの時を待っている。次にステージに目を凝らすと、先行が竹内アンナというのは間違いないにしても、クラポで使われるドラムセットとキーボードは既に鎮座。対して竹内アンナ側の楽器としてはフォークギターとDJというミニマルな編成である。

 

ライブは定刻ジャストの19時にスタート。まずは今回のサポートメンバーのISSEI(Beatbox.Sampler)のみがステージに立ち、自身のボイパとサンプラーの打音をルーパーで繰り返しながら、ファンと作り上げる「イェー!」のコール&レスポンスで徐々に空気を温めていくISSEIである。そこから少し時間を置いて現れたのは竹内アンナその人で、満面の笑みでフォークギターを構えつつISSEIと呼吸を合わせていく。

Anna Takeuchi - ICE CREAM. (YouTube edition) - YouTube

 

オープナーとして選ばれたのは“ICE CREAM.”。サンプラーのキック音をバックに弾き語るスタイルで進む竹内のピッキングにはかなりの力が入っていて、ISSEIの音に負けない音でギターが鳴っているのには思わず感動。サウンドの中心を突き抜けるように響く竹内の歌声も軽やかな雰囲気なのはもちろん、英語と日本語を織り交ぜた歌詞も耳馴染みが良く、初見の人が多いであろう環境ながら、集まった観客が一様に体を動かしていたのが印象的。

先月に最新EP『at FIVE』をリリースしたばかりの竹内、てっきりセットリストはこのEPを軸にするものかと思っていたのだが、実際はキャリア全体の作品から満遍なくプレイする形。更には“alright”を除いた全編において『ボイパ+サンプラー+ギター』のサウンドで突き進んだ結果、CD音源とはまた違った雰囲気で駆け抜けたレアな時間でもあった。また序盤のMCで語っていたように、この日のライブは竹内的にはコロナ禍以後はじめてとなる『声出しOK』のルールだったそう。そのため楽曲はアッパーかつレスポンス前提の曲が多く選ばれていた感もあり、観客の興奮を全く落とさず進行していたのは明らかなプラスだった。

Anna Takeuchi - SUNKISSed GIRL (Studio Live) - YouTube

 

以降のMCでは、竹内とclaquepotの出会いについて語られることに。これは正確には竹内と工藤大輝(Da-iCEのリーダーでclaquepotの弟)の関係性によるところが大きいそうで、当時デビューし立てだったという竹内の楽曲を工藤がラジオで紹介したことで交流がスタート。claquepotいわく「弟がお世話になっていて……」ということから、ほぼ初めまして状態での対バンに至ったのだという。今回大阪への出演となったのも、彼女が京都育ちであることが影響しているらしく、竹内は「クラポ兄さんホンマありがとうございます!」と大喜び。またこの日のサポートメンバーであるISSEIはclaquepotのライブカメラマン&サウンド面でも活動。更にはclaquepotのサポメンの神田リョウと舩本泰斗も、かつて竹内のバックバンドを務めていたとのこと。そのため彼女にとっては『ほぼ全員が身内』な状態であり、集まった観客を見渡しながら「めちゃくちゃアットホームな空間!」と嬉しそうだ。

Anna Takeuchi - Free! Free! Free! (Music Video) - YouTube

そこからはBPM速めの“SUNKISSed GIRL”、ミドルテンポな“Now For Ever”など、過去作から楽曲を次々投下。心なしか竹内のピッキングもどんどん強くなっている感覚さえあり、サウンドの厚みも加わっていて素晴らしい。中でも“Free! Free! Free!”→“WILD & FREE”のポップロック2連発の盛り上がりは凄まじく、“Free! Free! Free!”では発声が解禁されたこともあってか、サビの《Free! Free! Free!》の部分で声出しとハンズアップを要求。そこからも「会場温めんとclaquepotさん出てきはらへんから!」ともっともっとと興奮に導いていく様は圧巻。

Anna Takeuchi - ALRIGHT -Acoustic Session- (Music Video) - YouTube

ボイパとギターのみで魅せた“TOKYO NITE”、「楽し過ぎるからもうギター置いちゃおう!」と途中でハンドマイクに持ち替えた“YOU+ME=”を挟み、ラストの楽曲は竹内ひとりの弾き語りによる“ALRIGHT”。……今回のライブこそサポートメンバーありだったけれど、元々の彼女はアコースティックの弾き語りを主としていた。そんな彼女にとって初期曲の“ALRIGHT”でギター1本の原点に立ち返るパフォーマンスは、最も自分をストレートに見せることの出来る瞬間だったのではないか。演奏終了後、手を振りながら「この後のクラポ兄さん、一緒に楽しみましょう!」と叫んで会場を去っていった竹内。最後の最後まで客席をゆったり揺らした、極上の時間がそこにはあった。

【竹内アンナ@梅田クラブクアトロ セットリスト】
ICE CREAM.
SUNKISSed GIRL
Now For Ever
手のひら重ねれば
Free! Free! Free!
WILD & FREE
TOKYO NITE
YOU+ME=
ALRIGHT

 

ギターとDJセットが片付けられると、ステージ上はいつしかドラムとキーボード、マニピュレーターのみに。続いてのアーティストはもちろん、誰もが待ち望んでいたclaquepotだ。……ちなみに、本来対バンイベントというとセッティングに時間がかかることも多いのだけれど、彼のライブは『前アーティスト終わりに明転→ライブスタート』までの時間がやたらと早い。今回も少しドリンク交換で席を外して戻って来るまでの間に暗転していて、そのスピード感覚に改めて驚いた次第。

ライブはサポートメンバーの神田リョウ(Dr)、舩本泰斗(Key.Manipulater)両名によるフリーセッションからスタート。グングンと熱量が高まってきたところで、袖からまるで1階に間食を取りに来たような自然さで現れたのは、claquepotその人。色付きのサングラス、手には装飾。更には花柄のシャツの中に黒を織り交ぜたアーティスト然とした装いで、ニヤリと不敵に笑ったクラポ。その瞬間に「ヤバいライブが始まる……」と確信したのは、自分だけではないだろう。

useless / claquepot - YouTube

1曲目に選ばれたのは“useless”。バックサウンドにキーボード、ドラムの生楽器が合わさる音の海の中を、身振り手振りを繰り出しつつ軽やかに泳ぎ切るclaquepotに、思わず目は釘付けに。決して声を張り上げる訳でもないのに圧のある音像にも負けず鼓膜に響く歌声には驚かされるし、何より彼自身が余裕綽々な笑顔でステージに立っているのが様になって様になって……。バンドメンバーを観ようとしても気付けば彼に目が移ってしまうのは、彼の天性の魅力によるものに違いない。

昨年の12月にニューアルバム『the test』をリリースしたクラポ。そのためセットリストの大部分は今作からのドロップで、結果的にこれまでの歩みを総括する意味合いを込めた代物となった。おそらく来年からはこのうちのどれかの楽曲は外れていき、新規の楽曲が加わることになるのだろうが、その未来すら楽しみになってくるような現時点でのベストセットだ。

ahead / claquepot - YouTube

ライブは体揺らし特化型の“pointless”、曲中の歌詞を「我が道を行ける人はプチョヘンザ!」と変化させ、サビの《進め》でハンズアップを要求した“ahead”と進行。思った以上に盛り上がり過ぎたのか、水を飲んだ拍子に咳き込み始めたりと珍しい光景もありつつ、すかさず「おじさんみたいだと思ったでしょ?……でも違うんですよ。何故なら(年齢的に)おじさんだから」との自虐発言でフォロー。不測の事態さえもエネルギーに変えて会場を沸かすクラポ、明らかに場馴れしている!

「さっきも言いましたけど、この3年間は長かったですね。それは僕たちアーティストもそうで、ライブも出来ないから家で制作をしてネットに上げて、っていう活動をみんなしていて。でもそれを見せる場所もないと思って。だから僕はコロナの規制が少し緩和されつつあった頃から今回のイベントを考えて、声をいろんな人にかけていったんです」

「そこで考えたのは、自分から行動することの大切さで。それこそ今回の竹内アンナちゃんも『ちょっとやめとこうかな』と思ってたら実現してないし。皆さんも何かがひとつ違ったら、今日来れなかったかもしれない」

claquepot 「hibi (blackboard version)」 - YouTube

ライブ前半部で印象的に映ったのは、メッセージ性の強い楽曲“hibi”。彼は楽曲に込められた思いについて上記の通り語った上で《当たり前だった日々が 当たり前じゃなくなって/当たり障り無く過ごしていられなくなっていく》と、コロナ禍の生活に思いを馳せてくれた。それは確かな『日々』でありながらも心に生じた『ヒビ』をも意味していて、この改善しつつある状況下だからこそ、当時の辛い日々を思い返す役割を担っているように感じた。

彼の涼しげな顔にも汗が見えるようになってからのMCでは、トークスキルをいかんなく発揮する一幕に。涼しげな顔に汗をにじませた彼は「大阪今日、暑くないですか?一昨日の香川ではギンギラな服でキメてたんですけど、今日はこんな感じで……」と自身のラフな服装を紹介。更には「香川行ったー!」と高音の声で叫んだファンに対して「そうなのぉー?アナタ行ったのぉ?」と裏声で返したり、ファンによる「フゥ~!」の声にはすかさず「これこれぇ!これが欲しかったのよ!3年間我慢したもんね。当たり前だった日々が当たり前じゃなくなりましたからね」と先程の“hibi”の歌詞に繋げたりと、舌好調なクラポである。

choreo / claquepot - YouTube

 

以降は興奮を底上げする煽りを随所に取り入れながら代表曲のひとつ”resume“、ライブで初聴きの人も多かったであろう”rwy“、サビの《Up down》部分で腕が上下に揺れた“choreo“と、グッと盛り上がりに拍車をかける楽曲をドロップ。ふと周囲に目をやると、ライブ前には少しに陰りのある顔でスマホを見ていた人も、フロアの後ろの方でじっとしていた人も、誰しもが笑顔で体を動かしている。この感情の変化も、claquepotでなければ出来ない芸当だろうなと。


そして今回もclaquepotの最近のライブでは恒例となっている、動画撮影タイムも敢行。これは『SNSが発達した時代だからこそクラポのライブを共有してほしい』とするサービス精神と『この日行きたくても来れなかったファンのために雰囲気を届けたい』という、彼自身の思いが具現化されたものだ。ちなみに昨年のライブで行われたライブでも”むすんで“を我々がほぼ直立不動で撮る時間が作られていたわけだが、今回はその撮影方法を一新!今回のルールはズバリ『ブレブレの動画なら撮影・SNS投稿可』。つまりはカメラを構えながら動き続けなければならない成約が追加されたのだ。言うまでもないが、これはライブ中の撮影におけるスマホ集中状態を避けるための試みで、動画を撮りたくない人はそのまま観てもOKとのこと(逆に動画撮影を中断しない人は垢バンのペナルティ)。

blank / claquepot - YouTube

そこからの流れから披露されたのは”blank“。ブレブレの動画を撮るにはうってつけのアッパーチューンである。「行くぞ大阪!」と彼が叫んだ瞬間を合図に一斉に揺れる会場、そのファンの手にはスマホが掲げられるカオスな光景の中、どんどん迫力を増していくライブの対比がアツい。この場面の様子は『claquepot ライブ』でのエゴサーチに詳しいが、ファンがどんな動画を撮影したのかを観るのもまた一興である。余談だが、彼いわく「iPhoneだとカメラが優秀過ぎて、動きに合わせてブレないようにしてくれるから全然ブレない」とのこと。そうしたことも踏まえて皆様、ぜひ様々な方の動画をご覧ください……。

finder / claquepot - YouTube

気付けばライブも終盤戦。「竹内アンナちゃん最高でしたね!ISSEIのボイパも最高でしたね!では、claquepotのライブは最高でしたか?……聞くまでもなくない?」との一言から本編の実質的なラストとして鳴らされたのは“finder”!『キャッチー&チル&盛り上げ』なclaquepotのライブを1曲で体現するような代物だ。これまで以上に全身全霊で楽しむファンを目で追いかける彼は、まるでこの瞬間のひとつひとつを記憶しようとしているようにも見えた。《いつの日かまた合いましょう》と次なるライブの未来を予言させて軽やかに終えた“finder”がどれほど幸福だったことか、我々は帰宅の途で改めて感じたはずだ。

ここで終わると思いきや、claquepotからサプライズが。突如呼び込まれたのは先程出演した竹内アンナで、手にはマイクが握られている。驚くファンをニコっと見つめつつ、彼は「実はclaquepotはですね、新曲を作っております」との一言で、ファンの脳内の点と点を線で結んでいく。なんと最後に披露されるのは完全未発表の楽曲で、その名も“space feat.竹内アンナ”!

気になる楽曲については、サウンドとしてはゆったりとチル風。そこに竹内のボーカルが加わったことで、既存曲にはない新たな息吹を加えている印象だ。個人的に印象に残ったのはその歌詞で、あなたが月なら私は太陽、私が太陽なら僕は宇宙……といったように、近くて遠い存在の大切さを改めて示すメッセージ性が強いものになっていたのは素晴らしかった。それこそ“hibi”は『日々』と『ヒビ』のダブルミーニングだったけれど、この“space”も我々が距離を取りたいときに「スペースを取ろう」と言うように、無限の『宇宙』と人との空間の『距離』を意味しているように思えた。まだリリース日は未定なれど、claquepotいわく「必ずリリースします」とのことなのでファンは期待しておこう。

【claquepot@梅田クラブクアトロ セットリスト】
useless
pointless
ahead
hibi
resume
rwy
choreo
blank
finder
space feat.竹内アンナ(未発表新曲)

 

冒頭に記した通り、今回のライブは僕個人としては2度目の参加。1度目の広島の参加理由は恥ずかしながら「claquepotという名前を最近よく聴くから」とするミーハーな気持ちから。翻って、遠路はるばる向かった今回の大阪は逆に「前回のライブがめちゃくちゃ良かったから」という、ライブの素晴らしさに魅了されての確固たる参加だった。

そして今回、前回とは違って発声が可能になったライブで見えてきたものがあるとすれば、それは『ファンから見た彼への信頼度』だ。ともすれば「キャー!」といった黄色い声も上がりそうな部分も落ち着いて。全員が満面の笑顔でライブを観る、などなど。……もっと言えば、ゲストの竹内アンナのライブでさえも「claquepotの友達なら絶対に良いライブをしてくれる!」とする絶対的な信頼感があったのは素直に驚いた点だ。

言うまでもなく今回のライブの参加者は次のclaquepotのライブにも足を運ぶだろうが、彼自身が見据えている方向も、一貫して前である。この日初披露となった“space feat.竹内アンナ”のように、おそらく今ツアーの終了後には新たな情報が解禁されるのは明白。その未来はやはり、また彼と一緒に歩んでいって初めて分かることなのだろう。

映画『Winny』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

無料で楽しむことの出来る動画配信サービス。それらは我々の生活に欠かせないものになった反面、様々な権利的違反もつきもの。例えば、YouTubeでのテレビ番組アップロード。これは全体の4分の1サイズで表示させたり、声を加工することで限りなくさせることで、ポリシー違反になりづらくするものだ。他にもポルノ系や映画、アニメなどが無料かつフルで観られる状態にもなっていて、『訴えられればアウトだけど誰も訴えないからセーフ』のラインギリギリを攻める動画は、今この瞬間も増え続けている。

今回鑑賞した映画『Winny』は2004年、日本で実際に発生したサイバー事件である『Winny事件』を題材とした作品。市場に無料動画を流通させた主媒体であるWinnyの開発者・金子勇(演:東出昌大)の逮捕をきっかけに、弁護人の壇(演:三浦貴大)を含めた弁護団と共に裁判を戦うという、半ノンフィクション映画だ。

今作には重要部として、ひとつ大きな『答えのない問い』がある。それは冒頭で壇の口から語られた、「もし俺がナイフでお前を刺したとする。そら逮捕されるんは俺やな。じゃあ『ナイフを作った生産者』を罪に問えるか?っちゅう話や。生産者には罪はない」というもの。……そう。この事件の犯人とさせている金子は悪意ある動画を広める技術こそ作ったものの、そこに悪の心はなかった。つまり動画のフリー配布については、その技術を悪用した第三者が行ったものだったのだ。

このWinny事件は我々の生活を軸に例えると、その複雑さを深く考えることが出来る。例えば徹夜続きの人間が、店の商品を持ってフラフラと外に出てしまったらそれは万引きなのか?、かくれんぼで車の下に隠れていた子供に気付かず車を発信させたら殺人未遂なのか?など……。繰り返すが、今作における金子の罪は『金子の作った技術を悪用して、第三者が動画を無料配布(著作権侵害)させた』という、極めて微妙な立ち位置なのである。

果たして、前代未聞のこの事件を無罪にすることが出来るのか……。その結末はWikipediaを観れば分かってしまうのでくれぐれもネタバレなしで鑑賞してもらいたいのだけれど、実際の事件を題材にしているだけあって、そのリアリティは本物だ。加えて今作では彼と同じように正義感を持って内部告発する警察官や、裁判に至るまでの日々も合わせて描かれることで、当時の金子と壇弁護士の数年間を追体験する役割も果たしていて○。そして物語のクライマックス、判決が言い渡される瞬間とその後の数分間は、ここ数年の映画全体を通して観ても圧巻の代物。

今のご時世は著作権・肖像権問題は変わらず叫ばれているものの、その恩恵を受ける人も多数存在するあまり、線引きが曖昧になりつつある。YouTubeでテレビ番組を違法視聴する人はもちろん、長州力の「喰ってみな飛ぶぞ」然りアンミカの「白って200色あんねん」然り。実際の番組を切り取ったものがバズり、本人でさえ新たな武器として使おうという動きも強いのが今である。……それは一体、かつてのWinny事件と何が違うというのだろう。インターネットが発達した現在だからこそ、多くの人に届くべき傑作。

ストーリー★★★★★
コメディー★★★★☆
配役★★★☆☆
感動★★★★☆
エンタメ★★★★☆
=総合評価★★★★☆(4.5)

映画『Winny』予告編 3月10日全国公開 - YouTube

 

【記事寄稿のお知らせ】サバシスター、yutori、Aile The Shota、さらさ……春フェス必見のニューカマー

Real Sound様に、春フェスに出演する若きアーティスト4組の特集記事を寄稿しました。

長年目標にしていたリアルサウンドさん。本当にありがたいお話をいただいて、若輩者ながら記事を掲載していただけることになりました……。僕が音楽ライターを目指し始めたのは今から6年前で、そこからずっと目標にしていたのは、ロッキンさんとリアルサウンドさんで。本当に嬉しかったです。人並みにではありますが、やっぱりいろいろ考えながらの6年だったので、感無量です。

……リアルサウンドさんは、良い意味での緊張感を勝手に感じてます。それこそ音楽文で最優秀賞を狙ってた時期とか、ロッキンで30時間かけて書いたりしてたときは『命を燃やしてる感覚』みたいなのがあってプレッシャーが凄かったんですが。今ご依頼いただいている会社様からは「好きに書いてねー」のスタンスでやらせてもらっているので凄くフラットな良さもありつつ、この緊張感は新鮮です。嬉しいです。

今回の記事は開幕戦的な部分もあって、少し文字数少なめでまとめました。今月大阪でライブを観るサバシスターも含めAile The Shotaやyutori、さらさなど、個人的にはすぐ飛躍してもおかしくない4組を取り上げた感覚なのですが、いかがでしょう。今後もどんどん依頼をいただけるように、頑張りたいです。一番自信を持ってるのはライブレポートなんですけど、地方都市の暮らしだからなあ……。まずはやれることを全力でやれればと。もちろん会社員としての自分も、懇意にさせてもらっているuzureaさんの記事も同時にいろいろと。頑張りたいですね本当に。

サバシスター、yutori、Aile The Shota、さらさ……春フェス必見のニューカマー - Real Sound|リアルサウンド

【記事寄稿のお知らせ】Ado“アタシは問題作”レビュー

KAI-YOU.net様に、Adoの新曲“アタシは問題作”のレビュー記事を寄稿しました。

昨年は世界一のセールスを記録し、日本の音楽のトップを走る存在になったAdo。ただ、彼女はは紛れもなく世界的なアーティストだと思っている一方で『現実の自分と世間的イメージの乖離』に人一倍直面するアーティストだとも感じています。これに関しては良くも悪くも一気にバズった“うっせぇわ”の破壊力が一因で、それこそあの曲で僕らも『Ado=反逆者』的なイメージを持ってしまって。でも本人は我々と同じ人間なんですよね。しかもまだ若い。……そんなAdoに対して変な言い方ですけど、今の我々は彼女の曲を楽しみつつも「やっぱ“うっせぇわ”めちゃ良かったし、強い人なんだろうね!」などと聞こえないところでいろいろ言う、みたいな傍観者状態になっているように思います。

そこでハッと浮かぶのが、17歳でブレイクしたビリー・アイリッシュで。彼女は「私は若くして売れてしまったから辛さはあって然るべき」と『強い女性像』をメディアで作っていた裏で、躁鬱とチック症に苦しんできて。ただ彼女の場合は元々楽曲の中で自分の辛さを歌っていて、SNSで自分の鬱を発信したりしていて…。

そんな中でAdoはどうかと言えば、やっぱり自分の弱い本心を曝け出す楽曲というのが、圧倒的に少ない印象です。だから何というか、Adoも何か発散するような曲を出してほしい。そうじゃないと、どこかで彼女が潰れてしまうような感覚を勝手に持ってました。そんな中でリリースされたのが“アタシは問題作”で。いろいろな思いを込めて記事を書かせていただきました。

この楽曲が広がることにはリリース的にもそうですけど、Ado自身にも大きな安心感を抱かせるものだと思ってます。それらを踏まえて今年は2枚目のアルバムを出す流れだと推察され、世間的にもひとつ抜けた印象を持てるかなと。個人的には《アタシは問題作》と繰り返す中で、最後の最後に《アンタはどうだい?》とリスナーに問い掛ける様に心打たれました。サムネの引き攣った笑顔も、本当に秀逸です。

Ado「アタシは問題作」レビュー フィクションと呪縛を越えて届く“問題作” - KAI-YOU.net