遂に来た運命の冬フェス『COUNTDOWN JAPAN 22/23(以下CDJ)』!中止や規模縮小を経て、今年は3ステージ4日間の開催となったこの日。出演者の多くが開催に際して感動的なMCを語ってくれていたように、音楽好きの我々にとってもアーティスト側にとっても、もはやCDJというイベントは一年を締め括る必須イベントなのだ。それが最高の形で行われることを、幸福と言わずに何と言おうか。
続いてはステージ間を移動しCOSMO STAGEへ。そのフロアは基本的には飲食店が立ち並ぶレストスペースになっているのだが、その一角にCOSMO STAGEが鎮座している、という感覚。……そこでプレイするのはチコハニことCHiCO with HoneyWorks!ボーカロイドや恋愛シナリオ中心の楽曲を制作していた音楽ユニット・HoneyWorks(ハニワ)に、ボーカルのCHiCOが加わったバンドである。ライブのMCでCHiCOは「この4分の1くらいかと思ってた」と集客について語っていた中で、何と結果は入場規制。僕はギリギリに滑り込むことに成功したが、その瞬間に入口の幕が降ろされ、そこから一度も開くことはなかった。今思えばチコハニを観ることができたのはとても幸運だった。
今回のアジカンはMop of Headのジョージ、RopesのAchicoのサポートを加えた6人編成。いつも通りに絨毯風のラグの上に立った後藤正文(Vo.G)は、早くも余裕綽々な様子でメンバーとジャム・セッションに興じている。そこから始まったのはまさかの“Re:Re:”。これまで中盤に鳴らされることの多かった名曲が最初にドロップされる、驚きの展開である。新録盤『ソルファ』と同様にイントロは長尺化され、一体感も長く感じられたアレンジは流石の一言だし、愛されてきた回数も段違いなのでもちろん全員が大盛り上がり。
「誰かのモノマネはしなくていいから、自分なりに楽しんで」という優しいMCの後には“You To You”、“出町柳パラレルユニバース”と比較的新しい楽曲を続け、“君という花”で再び爆発。やはり新しい楽曲を披露するのがフェスの攻め方とは言え、既存曲のドロップが最も気分が高揚するのだなと再認識。「ラッセーラッセー」の掛け合いこそなかったが、ここ数年あまり披露されてこなかった代表曲をこのタイミングで展開したことには、どこかCOUNTDOWN JAPANへの感謝というか、後藤たちにとっていろいろと思うところがあったのだろうと推察する。
最後の楽曲は『プラネットフォークス』から“Be Alright”。ハンドマイクに持ち替えた後藤がステージを練り歩きながら、「もう大丈夫」のメッセージを高らかに伝える、美しい幕切れだ。仲間はずれの日も、悪どいことを考える人たちに揉まれながらも……。それを最終的には《だけどここに集ったろう そうさWe gon be alright》と笑い飛ばすのは、この日アジカンがトリ前に配置された理由のひとつなのかもな、と思った。どこまでも涼しげな表情で、与えられた役割をしっかりこなして帰っていったアジカン。これこそが今でもロックシーンを牽引する、最強のバンドの姿だ。
【ASIAN KUNG-FU GENERATION@CDJ セットリスト】 Re:Re: リライト ソラニン You To You 出町柳パラレルユニバース(新曲) 君という花 Be Alright
言葉を選ばずに言えば、この時間EARTH STAGEに集まった人は大きく分けて2種類存在したと思う。まずひとつは、純粋にAdoのファンである人。そしてもうひとつは“うっせぇわ”や『ONE PIECE FILM RED』主題歌の“新時代”のバズから入った、いわゆるミーハー客だ。そんな全ての人々を一瞬で黙らせたのはやはり、あの特徴的な歌声だった。『異端』『衝撃』『非現実』……。この声を一言で言い表すとしたら、多分こうしたベクトルの話になるんじゃないか。それほどの稀有な声爆弾が、全員の頭を真っ白にさせた。本当に人の声かこれ……?
この日のセットリストの中心を担っていたのはファーストアルバム『狂言』と、ONE PIECEの映画主題歌集『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』の2枚。特に“ウタカタララバイ”→“Tot Musica”→“世界のつづき”と連続してドロップされた『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』ゾーンは圧巻で、映画上でウタウタの実の能力者として思いを歌で表していたウタにAdoが感情移入する一幕が光る。それぞれ歌声変化曲→ロック→バラードと曲調も内容もバラバラな楽曲群なので、ここまで歌い分けるのは彼女の力量によるものだろうなと。ウタは自分の歌声が他者の感情を動かす力を持つ人物だったけど、現実のAdoももしかすると『ウタウタの実』の能力者なのでは。
まさか毎年島根県の片田舎でコタツに嵌って紅白歌合戦を観ていた自分が、桑田佳祐のライブで年を越すとは思っても見なかっただろう。……自身最大規模となる桑田佳祐の全国ツアー・『LIVE TOUR 2022「年末も、お互い元気で頑張りましょう!!」』。元々は12月のある時期まで行われる予定だったこのツアー。もちろんこの時点では『毎年恒例の桑田佳祐のライブ』としての意味合いが強かったように思えるが、12月31日の追加公演が発表されたことで、ファンは大いに色めきだった。
開演は当日に事前報告があった通り、21:30→22:00に変更。一瞬「このライブが紅白で生中継されるかも!?」と頭を過ったがそんなことはなかったので、おそらく諸々の時間調整も込みの措置だろう。到着すると、まずは電子チケットと身分証明書の二段構えで本人確認。それから中に入っていくと、腕に着ける『リストバンド型5倍ライト(BUMP OF CHICKENで言うところのPIXMOB)』が渡されたり、協賛するUNIQLOのご厚意でマスクが配られたり……。それらに満面の笑みを浮かべるファンたちの姿に、それだけで感動してしまう。
ここからも同じく『いつも何処かで』から、収録曲を連発。雪の降りしきる映像が投影された“MERRY X'MAS IN SUMMER”、サビの《ダンディー》の部分で腕が振られた“真夜中のダンディー”とそのままの盛り上がりで進行。もちろんファンそれぞれ『自分が好きな曲』というのは異なるはずだけれど、個人的に嬉しかったのは“明日晴れるかな”だった。
そして先日、悲しい訃報が流れたアントニオ猪木の大ファンである桑田による“Soulコブラツイスト〜魂の悶絶”でパイロの炎に包まれた後、桑田は「年が明けるぞー!」と大声で叫んだ。そこから雪崩れ込んだのは遂に来たキラーチューン“悲しい気持ち(Just a man in love)”!ここで伝えておきたいことは2点。まずひとつは、この時点で誰もが楽しみすぎるあまり、時間感覚が消失していたこと。そしてもうひとつはこちらも楽しみすぎて、スマホを見ない(現時刻を把握できない)状況に陥っていたことだ。だからこそ我々は桑田の「年が明けるぞー!」発言をあろうことか、あまり深く考えなかったのだ。
そんな状態で始まった“悲しい気持ち(Just a man in love)”。歌詞で言えば《夢であえたら あの日に帰ろう》あたりの時間、しばらくは純粋に楽しんでいた我々の目に、予想外の文字がモニターに飛び込んでくる。そこには『年越しまであと3分』と書かれており、なんとこの時点で時刻が23時57分になっていたことに気付く。その瞬間から「もう年が終わる!」という興奮と、ハッピーな楽曲の雰囲気が混在し、全員のテンションがおかしくなってくる。そこからカウントダウンは続き『年越しまであと1分』と表示されたあたりで、楽曲は終了。曲は終わったが、ワクワク感は抜けない会場だ。
興奮冷めやらぬ中、モニターには56、55、54……と秒単位でのカウントダウンが映し出され、桑田は急いでバンドメンバーと準備。どうやらカウントダウンに合わせてドラムとリズムを取る形だったようで、そこからはファン全員で秒数をカウントしていく。そしてカウントがゼロになった瞬間、大量のクラッカーと、頭上からはめちゃくちゃな数の風船が降ってくる!それらを嬉々として手に入れるファンたちの構図が美しい。モニターには『HAPPY NEW YEAR 2023!』と映し出され、「本当に年が明けたんだなあ」と実感する。「2023年!この年を迎えることが出来たのも皆様のおかげでございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます」と喜びを表した桑田、嬉しそう。
まだまだ興奮冷めやらぬといった様子のファンたちの手拍子で再度呼び込まれた桑田、1曲目はメッセージ性の強い政治曲”ROCK AND ROLL HERO“。エレキギターの調べに自然に体が動く、まさしく最強のロックンロールナンバーだ。ただ家で聴いていただけでは政治批判のようにも思えるこの楽曲の向いている場所は、実際のところそこではない。「どんな状況でも頑張って生きなきゃ!」という個々人の思考の重要性を説いているのだと、この楽しそうな演奏を観て気付く。
13位 Bering Funny In A Foreign Language(外国語での言葉遊び)/The 1975 (2022年10月14日発売)
【ポップかつ、原点回帰の新章】
今夏の『SUMMER SONIC 2022』で、約2年半ぶりの活動再開を示したThe 1975。当日のライブの様子についてはこちらの記事に詳しいが、最も驚いたのはこれまでキラキラとしたVJで魅せていたのとは逆に、彼らのみを映すモノクロ映像に統一されていた点だった(これは初期のコンセプトと同じ)。そしてそのVJの通り、今回リリースされた『外国語での言葉遊び』はまさしく原点回帰とも言うべき、ふわりとしたサウンドに包まれるポップ・アルバムとなった。
“Can I Call You Tonight?”がZ世代を中心にバズり、一躍『期待の新人』としてシーンを駆け抜けたデイグロウ。ただその話は3年近く前のこと。あれから時が経った今では、彼の活動はようやく『バズった曲を作った人』ではなく『いちシンガーソングライター』として冷静に観測されるようになった。
今作はコンセプトや作曲、演奏、プロデュース全てを彼自身が担当するのみならず、制作にあたって都会から引っ越し、SNSを遮断。同級生との結婚も契機となってか、多くの時間を自分と向き合って作られた。その結果彼が至ったのはネガティブな要素を極力廃した音楽作りで、リード曲“Then It All Goes Away”を筆頭に、今作はどこか前向きな雰囲気で覆い尽くされている。