その空気が大きく変化したのは、作者のとある告白から。それは“きゅうくらりん”がホラーゲーム『Doki Doki Literature Club!』(ドキドキ文芸部・通称DDLC)にインスピレーションを受け、ヒロインのひとりである『サヨリ』というヒロインをベースに制作されたという事実にスポットが当てられた頃合いからだった。この告白こそが、結果として“きゅうくらりん”に決定的なメッセージ性を与えるに至ったのである。
パンクバンドに挟まれる形で満を持して現れたのは、下ネタのナポレオンことクリトリック・リス(以下スギム)だ。まずは“老害末期衝動”で口火を切ると、楽曲の途中でスギムが早くもステージからフェードアウト。そして配信会場にいる自分でさえも居場所が分からなくなる中、次の瞬間なんと緑生い茂る木を突き抜けて再登場。一瞬で爆笑の渦と化した会場をリリックの応酬が埋め尽くす最高の空間は心底痛快だ。なおこの日のスギムは冒頭の“老害末期衝動”もそうだったが、“サワーナイトミラクル”や“PUNKISHMAN IN BBQ”、“おっさんライオット”など新曲を多数披露する完全ニューモード。いつだって今が最高!な精神性が如実に表れた力強い構成である。ラストに披露されたのは自粛期間中に制作された新たなライブアンセム“STAY MUSIC”で、スギムは見知らぬ人に声を掛けたり芝生に転がったりしながら《音楽は魔法 ライブハウスは奇跡》のフレーズを晴れた空へと緩やかに溶かしていく。笑いあり興奮あり、そして何よりその熱量に心動かされる素晴らしいライブがそこにはあった。
お次はロックの重鎮、ニートビーツが爆音と笑顔をご提供。その自然に体が踊り出してしまうガレージロックぶりはもちろん、ギターウルフとは親密な関係性にある彼らはMCも舌好調で、ステージ上部に取り付けられた発泡スチロールで作られたセイジ作『SHIMANE JETT FES』の文字の出来に切り込んだり、朝の集合時間が圧倒的に早まったこと、果ては直前に発生した回線トラブル(配信サービスはdocomoの電波を使っているので配信会場でそれを使うと混線、使用を制限するようお達しが出ていた)を指して「みなさんこの機会にauにしませんか?」と勧誘したりと、自由奔放だ。しかしながら決して演奏がおざなりにならないのも、ニートビーツらしさと言うもの。“ハートを渡そう”や“TWISTIN‘ TIME WITH YOU”といった往年の楽曲をここぞとばかりに畳み掛け、我らがニートビーツの存在を強く証明していく。全ての楽曲が終わると直ぐ様インタビューに臨んだメンバー。全身汗だくにも関わらずまるで「まだまだ行けるぜ」と感じているようにも見えたのは、やはりベテランバンドゆえか。
気付けばフェスも大詰め。盤石のトリ前を飾るのはギターウルフの前座歴28年、ガソリンである。オープナーの“Do you feel alright”で早くも上裸&赤パンツ姿になると、ここで彼らのライブでは恒例となっているビール一気飲み……はご時世柄出来ないので、スタッフが持って来たカフェラテ→コーラ→水の順で「いつもお酒が飲めるのはガソリンさんのおかげです!」のコールと共に一気飲み。なお中心に立つGAN(Vo.G)は何度も「これお酒入ってないですからね!」と半ばダチョウ倶楽部的に叫んでいたけれど、実際ライブ後の彼の姿を現地で確認していた身としては、その中身に本当にアルコールは全く入っていなかったということはこの場ではっきりと証言しておきたいところ。以降もカーネル・サンダースのモノマネやジミヘンが乗り移ったギターソロなど盛大に掻き回しつつ、最後は「西宮のバンドはな、弦が1本でもライブ出来るんだよ!」と叫びつつギターの弦を5本引き千切ってスタートした“Aflo Cow”。アウトロでGANの住所と電話番号を公開しかける抱腹絶倒のパフォーマンスで締め、ギターウルフにバトンを繋いだ。
当然彼らのこのハイペースは「もっと売れたい」→「売れるためには何をするか」という考えに基づいてのもので、結果ふたりそれぞれに認知と箔が付いた状況はアーティスト界全体を見ても稀有。実際楽曲は知らずとも彼らの名前を認知している人はかなりの数おり、逆にこの紅白はDJ松永でもR-指定でもなくCreepy Nutsとしての活動を広げる最大のチャンスだ。惜しむらくは絶大に跳ねた曲があまりない点のみだが、こちらも“かつて天才だった俺たちへ”や“Who am I”といった数あるタイアップ楽曲があるため無問題。ちなみに紅白でヒップホップが台頭するのも何年ぶりかの快挙なので、彼らの抜擢は多方面から注目されることも請け合いである。
紅白の初出場アーティストは例年、基本的に5組〜6組程度。ここまで個人的に本命と思われるアーティストを続けて列挙してきたが、他にも可能性大なアーティストは大勢存在する。例えば顔出しNGであることから可能性はゼロではないだろうと思われていながら「多分無理だろう」と誰もがイメージしていたところに、今年は紅白と同列のNHKによる音楽番組『SONGS』に出演したことで出演の可能性は非常に高まったずっと真夜中でいいのに。や、ロックバンド界隈では最もお茶の間にアピールしたマカロニえんぴつ。“勿忘”のブレークそのままにAwesome City Clubや“猫”のDISH、これも同じくNHK経由で爆発的人気を誇る藤井 風や上白石萌音、アイドル枠としては異例のスピードの大抜擢だが注目度という点ではなにわ男子やBiSHも捨てがたい。更に昨年はmiletとBABYMETALらが予想外の起用として充てられたが、今年もこれらの予想に関わらずデビューの周年を記念したアーティストであったり、中には直接的な出演ではないにしろSNSを中心として話題をさらったアーティスト(ひらめやハラミちゃん、和ぬか、FloweRなど)がスペシャル企画として取り上げられることもあるかもしれない。……時代は変わる。ならば音楽シーンの最前線である紅白も演歌然りバズブーム然り、次第に変遷していかねばならないと考えるのだが、どうか。