キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

個人的CDアルバムランキング2019[5位~1位]

こんばんは、キタガワです。


長きに渡って続いてきた総文字数2万字超えの『個人的CDアルバムランキング』も、これにて完結。遂に5位~1位の発表だ。


果たしてキタガワが選ぶ、今年度最も素晴らしいアルバムは何なのか……。緊張の瞬間である。


それではどうぞ。

 

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5位
Weezer(ブラックアルバム)/Weezer
2019年3月1日発売

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3年前、『Weezer(ホワイトアルバム)』発売後にリヴァース(Vo.Gt.Pf)が「次のアルバムはブラックアルバムだ」と語ったことから全ては始まった。しかし蓋を開けてみればその翌年に発売されたのは『ブラックアルバム』ではなく『Pacific Daydream』と名付けられた代物であり、後にメディアに「いや、次は絶対にブラックアルバムだよ」と語ったリヴァースであったが、更に予想を良い意味で裏切る形で『ティールアルバム』を発表し、そして今作『ブラックアルバム』が発売された。気付けば彼がこのアルバムの制作を示唆してから、3年の年月が経過していた。


もはや言うまでもないが、このある種ランナーズハイ的なハイペースさはリヴァースの絶好調に起因していて、本人いわく「最近は毎日曲を作ってて、持ち曲のストックがありすぎるんだ」とのこと。ちなみに他のメンバーも「今のリヴァースはヤバい」と吹聴して回るレベルであると言い、「毎月とんでもない数の楽曲が渡されて大変」とも語っていた。御愁傷様である。


そんな『ブラックアルバム』だが、全編通してある意味ではWeezerらしくない新機軸の試みが多く成されている。自宅でピアノを弾きながら作曲したという今作は、ピアノの主張もさることながらメロの没入感が極めて高い。更には《死ね死ねゾンビ野郎》、《ハードなドラッグをやろうぜ》と今までになかった歌詞も相まって、確かにブラックなアルバムだ。


それでいてポップな魅力は一切衰えていない今作は『今のWeezerは無敵で最強』という事実を何よりも雄弁に現している。「次のアルバムはハードロックになる」と明言し、既に次回作とその次のアルバムタイトルまで発表しているWeezer。彼らの現在地を再確認する上でも、このアルバムは是非今触れておくべき1作と言えよう。

 


Weezer - High As A Kite (Official Video)


Weezer - Can't Knock The Hustle (starring Rivers Wentz)

 

 

4位
潜潜話/ずっと真夜中でいいのに。
2019年10月30日発売

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インターネットシーンを目下躍進中の注目株、ずとまよ初のフルアルバム。2019年は個人的にずとまよ関係の仕事依頼を複数いただいた関係上、ずとまよ並びに『潜潜話』については徹底的に掘り下げた感があるのだが、それはそれとして。当記事ではコラムでは然程触れなかった内容を中心として語っていきたい。


ずとまよの魅力はその独特な歌詞にあると思っている。僕はかつてコラムにて「ずとまよの歌詞は意味深な言葉の数々によって、聴く人によって異なる解釈ができる工夫が凝らされている」と書いたが、あれは非常に言葉を濁す形で書いていて、正直なところ今でも歌詞をどれだけ読み解こうともバンドの中心人物であるACAね(Vo)の本心は全く分からないままなのだ。


《遺影 遺詠 遺影 遺詠 遺影 遺詠 遺影 死体》で終わる“勘冴えて悔しいわ”、《でぁーられったっとぇん》との謎の言葉の羅列で始まる“こんなこと騒動”、サビで《ただはシャイいだって笑いあって さよなら差?》と絶唱する“正義”など、ACAねの歌詞は総じて作為的に捻じ曲げられており、フワフワと宙に浮いたまま一向に着地しない。その結果ずとまよ自身にミステリアスなイメージが付いたために、YouTube上のコメント欄で散見される「よく分からないけど凄い」という驚きと唯一無二の魅力に繋がっているのだと思う。


10月24日のZepp Tokyoのライブに足を運んだ際、ACAねがMCで語った発言が、今でも印象に残っている。


「新しいアルバムは、自分が中学生時代に悩んでいたことが軸になってて。昼休みとか休み時間とか、ひとりでいるじゃないですか。みんな、結局。私も友達がいなかったわけじゃないんですよ?でも、距離感を測ってる自分がいて。なるべく人に好かれたい、嫌われたくないっていうのがあって」


「その時から人に言われて気付いたんですけど、無意識に鼻歌を歌う癖が付いてたんです。本当に無意識で気付いてなかったんですけど、その話の『間』が怖くて。で、ある時それをつつかれて。友達に凄い耳障りな思いをさせてしまったのかと、悩んだりもして。でも今はこうやって歌ってるから、そうしたことも曲にしてるし。幸せだなって感じていて。弱い部分を歌で正当化して逃げてるだけかもしれないけど」


……彼女の飾らないMCを聞いて分かったのは、やはり彼女には確固たる思いがあったということ。そして同時に、彼女自身が直接的な言葉で伝えること自体あまりに苦手な人間であるために、こうした湾曲した表現に終始しているということだった。しかしながらこうした感情は今を生きる人……とりわけ若者に共通する事柄であるとも思っていて、『潜潜話(ひそひそばなし)』と題された当アルバムを鑑みても、やはりずとまよは「売れるべくして売れたのだなあ」とも考えてしまう。


……何だか話が完全に脱線してしまったが、とにかく。この順位にした理由はアルバム全体の完成度が非常に高かったことと、僕自身が聴けば聴くほど好きになっていく感覚が日増しに膨らんでいったためである。以上!

 


ずっと真夜中でいいのに。『ハゼ馳せる果てるまで』MV


ずっと真夜中でいいのに。『こんなこと騒動』MV

 

 

3位
人間なのさ/Hump Back
2019年7月17日発売

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突然だが、あなたにとって音楽に求めるものとは何だろうか。歌詞の良さ、歌声、ノれる……。人によって様々だろうが、個人的には『再生ボタンを押してからどれだけの短時間で心が動くか』であると思っている。


例えば「○○しか聴かない」といった音楽ファンであればひとつのアルバムを吟味する時間もあろうが、音楽ライターを生業にし、日々多種多様な音楽を聴かざるを得ない僕のような特異な人間にとっては、様々なバンドの良し悪しを判断するその第一歩は決まって冒頭10秒~20秒だ。そしてサビ部分まで通して聴き、2番に入る頃には別の曲に切り替える……。そうした形で一通りそのアーティストの音源を聴き、また新たなアーティストを探す、といった具合。だからこそ冒頭で「おっ?」とアンテナが反応するアーティストは何より貴重であり、同時に僕はそうしたアーティストを年間通して聴く傾向にあるし、今回のアルバムランキングに入った20枚のアルバムも基本的に、最初の取っ掛かりは冒頭10秒~20秒だった。


以下の“LILLY”、“拝啓、少年よ”に顕著だが、『人間なのさ』はそのあまりに無駄を削ぎ落とした作りから、必然的に『冒頭の心を掴むスピード』が異常に早いのだ。全曲に渡り長いイントロや環境音を用いた雰囲気作りは皆無で、再生ボタンを押したその1秒後にはギターもしくはドラムの音が襲い掛かってくる。実に収録曲の約半分が3分以内に終わるというその極端な性急さはあまりにも衝撃的であり、こと日本におけるガールズバンドの試みとしてはほぼ無かったのではなかろうか。


林(Vo.Gt)の中性的な絶唱とロックバンド然としたサウンド、小学生でも理解できるシンプルな言葉で思いの丈をぶつける歌詞が渾然一体になった今作は「つべこべ言わずに私たちの歌を聴け!」という力強さに満ち満ちている。


「日常にストレスとかしんどさを自覚することが全然ない」と語る林。彼女がそうしたポジティブな信念を抱く理由はひとつ。寂寥や悲壮といった鬱屈した感情を感じることが出来るのも、全ては『人間』であるからこその思いであると捉えているからだ。そしてそんな今作は『人間なのさ』と名付けられ、アルバム内には日常で経験しうるであろう、ありとあらゆる出来事が踊る。全ては幸福で、全ては必然だ。Hump Backの志を是非体感すべし。

 


Hump Back - 「拝啓、少年よ」Music Video


Hump Back -「LILLY」Music Video

 

 

2位
だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ
2019年4月10日発売

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2019年は『だから僕は音楽を辞めた』、『エルマ』という2枚のアルバムを世に送り出したヨルシカ。かの名曲“言って。”が巨大なバズを巻き起こしたのはもう数年前のことだが、今のヨルシカは間違いなくインターネットシーンにおいてEveやずとまよと同等か、それ以上の人気を博す存在であることは疑いようもない事実であろう。


数ヵ月前のツアーにおいて、数々の名曲をセットリストから省き『だから~』と『エルマ』の収録曲のみを演奏していたことからも分かる通り、上記の2枚のアルバムは完全なる地続きになっている。音楽に挫折したエイミーがエルマと出会い、音楽への情熱が再燃する『だから~』。そして、その後のエルマがエイミーの作る音楽を追い求める形で制作した『エルマ』。ふたつのアルバム内で繰り広げられるのは、まるでひとつの短編小説の如き重厚な物語だ。


『エルマ』ではエンドロールへ向かうようなスローな楽曲が全体を占めているのに対し『だから~』はまるで焦燥に駆られながら楽曲制作を行うエイミーの思いを体現するように、どちらかと言えばロック色強めの作風となっているのも印象深い。


《エルマ、君なんだよ/君だけが僕の音楽なんだ》と心情を吐露する“藍二乗”から始まり、ラストは《売れることこそがどうでもよかったんだ/本当だ 本当なんだ 昔はそうだった》と歌われる、“だから僕は音楽を辞めた”にて悲しき物語は幕を閉じる。かつてRADWIWPSの音楽が物語と密接に絡み合った映画『君の名は。』が爆発的ヒットを記録したのは記憶に新しいが、当アルバムは全体を通して、まさにそうした『音楽を媒体に介した壮大なストーリー』が見えてくるのだ。


正直『エルマ』を含めず『だから僕は音楽を辞めた』というひとつのアルバムのみを2位に選出してしまったのは、小説の前半部分を流し読みして全体像を判断してしまうようでもあり、心苦しい思いもある。だからこそ当ブログで『だから~』に少しでも興味を抱いた方は、是非ともふたつのアルバムに目を向けていただけないだろうか。そして歌詞カードをじっくり読み解きつつ、各アルバムの奥に潜むヨルシカの深意に思いを馳せてほしいと強く願う次第だ。

 


ヨルシカ - だから僕は音楽を辞めた (Music Video)


ヨルシカ - 藍二乗 (Music Video)

 

 

1位
SUPER MUSIC/集団行動
2019年4月3日発売

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……という訳で、2019年のアルバムランキングをトップで駆け抜けたのは、集団行動初のフルアルバム『SUPER MUSIC』。ロケットスタートそのままの勢いでゴールテープを切るが如く、圧倒的なポテンシャルで1位となった。


実は3年に渡って続けてきた当企画において、集団行動のアルバムは唯一3年連続でランクインしており、昨年に発売されたミニアルバム『充分未来』は12月に突如出現したネクライトーキーの進撃により総合2位となったものの、逆に言えばネクライトーキーのアルバムがその年に発売されていなければ間違いなく1位にする腹積もりであった。


僕はその際の短評にて「来年に発売されるアルバムが今回を上回る完成度であれば、おそらく次の集団行動は1位にする」という趣旨の内容を記した覚えがある。しかしながら『SUPER MUSIC』は僕自身もいち音楽ライターの端くれとして「ファンだから」との盲目な理由でもって即座に1位にするつもりは毛頭なかったし、むしろ1位のハードルを極めて高くして臨んだ感すらある。


にも関わらず、終わってみれば集団行動の圧勝。発売後から今に至るまで「聴いていない日は1日もないのではなかろうか?」と感じてしまう程に心酔し、実際ここ数年間のアルバムを総合してもここまで一切の捨て曲なしで終えるアルバムは思い付かず、栄えある1位と相成った。


何度も当ブログでも記しているが、集団行動のメインソングライティングを務める真部(Gt)は元々、“LOVEずっきゅん”で一躍活動の幅を広げた『相対性理論』というバンドの中心人物であった。これは誇張表現でも何でもなく、一部の音楽関係者から『日本の音楽シーンは相対性理論前・相対性理論後に分けられる』と言わしめたほど。


彼の魅力はそのあまりにも常識はずれなワードセンスと、キャッチーなメロ。そのエッセンスは集団行動の今作には今までに以上に多量に散りばめられており、鼓膜を際限なく刺激する。


《す巻きにして東京湾にポイ》とポップに誘拐事件を描く“クライム・サスペンス”、《私は誰?私は誰?私はバレリーナ》と疑問符が頭に浮かぶこと請け合いな“ティーチャー?”、《ピッピーそのひと止まりなさい》が耳から離れない“婦警さんとミニパト”、《課長になれても部長になれても社長になれても関係ない/おっきい隕石降ってきた》と謎のバッドエンドに突き進む“ザ・クレーター”……。今作に収録されているほぼ全ての楽曲にはどこか突飛で、かつ奇想天外なパワーワードが挟まれている。


そして何より耳馴染みの良い助走からサビで爆発する、その卓越したメロディーセンスには脱帽だ。別段特異な手法を取り入れている訳でもなく、ただ純粋に軽やかなポップスを地で行くメロディーは『みんなのうた』的でもあり、ロックバンド的でもあり、意味不明でもある。……総じてどう足掻いても「集団行動っぽい」以外に形容出来ない独特な楽曲群には、何度聴いても感服するばかりだ。


あまりにもマイペースな活動からか、注目度は決して高くない集団行動。しかし今現在売れているバンドもかつては売れない時期が絶対的に存在した訳で、今作は言わば今後音楽シーンを掻き回すであろう集団行動の、後に至る会心の一撃のようにも思う。音楽を確信的に鳴らす集団行動は、今もとんでもない音楽を画策しているに違いない。

 


集団行動 / 「クライム・サスペンス」Music Video


集団行動「ザ・クレーター」Lyric Video(Full ver.)

 

 

……さて、今年のCDアルバムランキング。これにて全ての順位が出揃った。改めて、20位~1位の個人的CDアルバムランキングの結果は以下の通りである。

 

20位……二歳/渋谷すばる

19位……WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish

18位……LIP/SEKAI NO OWARI

17位……i/上白石萌音

16位……ウ!!!/ウルフルズ


15位……ガールズブルー・ハッピーサッド/三月のパンタシア

14位……MOROHA Ⅳ/MOROHA

13位……VIVIAN KILLERS/The Birthday

12位……Hello My Shoes/秋山黄色

11位……瞬間的シックスセンス/あいみょん


10位……しあわせシンドローム/ナナヲアカリ

9位……TODOME/MOSHIMO

8位……Traveler/Official髭男dism

7位……834.194/サカナクション

6位……aurora arc/BUMP OF CHICKEN


5位……Weezer(ブラックアルバム)/Weezer

4位……潜潜話/ずっと真夜中でいいのに。

3位……人間なのさ/Hump Back

2位……だから僕は音楽を辞めた/ヨルシカ

1位……SUPER MUSIC/集団行動


……繰り返しになるが、今年はとりわけサブスクの発展やインターネットシーン発のアーティストの台頭が目立った。こと海外においては「ロックは死んだ」とまで揶揄され、まるで数年前と対極を進むように、現状に異を唱えるメッセージ性の強い音楽(主にヒップホップなど)が好まれるようになった。総じて良い意味でも悪い意味でも、新時代の到来を音楽シーン全体が体現するような、運命的な年であったと言えよう。


企画のタイトルを『個人的CDアルバムランキング』と題している通り、今回のランキングは基本的に自身の嗜好を最優先事項と捉えて作成している。そのため「○○が入ってない!」と憤慨する人や「そこまで良くないじゃん」という否定意見もあって然るべしだ。おそらく僕も僕以外の誰かが同じような『CDアルバムランキング』なる記事を書いたとしたら、同じように否定的な思いを抱くと思う。


しかしただひとつ声を大にして伝えたいのは、僕が長々とランキング付けをしている理由はひとつで『読者の方々にとっての更なる音楽の出会いになってほしい』というその一心だけなのだ。「ヨルシカいいじゃん」でも「集団行動の歌詞凄い」でも始まりは何でも良い。1組だけでも興味を持ったら。聴いて良いと思ったら。その際はCDを購入したり、あわよくばライブに足を運んでほしい。


YouTubeの関連動画や友人のカラオケ、街中で流れる音楽のように、今回の記事が何となくあなたの新たな音楽の引き出しを開けるその契機になれば幸いである。


次回は1年後。お楽しみに。

個人的CDアルバムランキング2019[10位~6位]

こんばんは、キタガワです。


やっとこさ10位から6位までの発表である。……過去3年間に渡り続けてきた『個人的CDアルバムランキング。結果的に今まで60枚に及ぶCDアルバムを紹介してきた訳だが、何と今回は5組全てが初のランク入り。まさに2020年の新時代に相応しい(2019年のうちに1位まで完結させようと思っていたのですが無理でした。申し訳ない)、フレッシュな顔ぶれとなった。


以下10位から6位までの順位と短評を書き記していく。それではどうぞ。

 

→20位~16位はこちら

→15位~11位はこちら

 

 

10位
しあわせシンドローム/ナナヲアカリ
2019年4月10日発売

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2年前突如YouTube上に君臨し、大バズを記録したナナヲアカリ。その会心の一撃とも言える楽曲は言わずもがなの“ダダダダ天使”であり、飛躍的な注目の獲得に至った訳だが、そんなナナヲアカリの急上昇は当然の如く年を経るごとに緩やかな傾向を辿っていき、今では(悪い意味では決してなく)YouTubeの関連動画に出ることもほぼない中、全国を回るライブ活動と楽曲製作を中心に活動を行っている。


『しあわせシンドローム』というタイトルに顕著だが、今作はとりわけ『幸せとは何なのか』をテーマに進行していく。変わらず電子音を多用したアッパーなサウンドではあるものの、その根底にはナナヲアカリが今まで表沙汰にしてこなかった、鬱屈したリアルがある。


SNSがもたらす疎外感や人間関係、リボ払い、アルバイト、責任転嫁……。アルバム全体を覆い尽くしているのは、今までのナナヲアカリのイメージとは真逆の鬱屈した感情だ。アルバムの帯に記載されている「自由って、なんか不自由だ」との一言にある通り、生き辛い《社会怖えーつれーうっそ》と“オトナのピーターパン”、MV内にて無表情に《幸せなら手を叩こう》と歌う“シアワセシンドローム”など、今作には「辛くても何とか生きなければ」という強い思いと共に、半ば自暴自棄に『幸せ』を自身に言い聞かせる楽曲が多く見受けられる。


声を大にして書くべき事柄ではないのかもしれないが、僕は個人的に『ネガティブな感情を一切表に出さず、辛いことがあっても笑顔で、一貫して相手に合わせて生活する』という人間が苦手である。……これに関しては実際に八方美人を貫いた結果精神的に潰れてしまった友人らを多く見てきたからでもあるだうが、とにかく。総じて仕事でも友人関係でも、嫌なことには異を唱えるべきであるし、辛いことがあれば吐き出すべきだと(そうした人間を否定することはないにしろ)、僕は信じて疑わない。


《やんないんじゃない、できないんだ ドヤ!》と一種ネガティブな本質を二次元のキャラクターで隠しながら、ポジティブなイメージに昇華していたかつてのナナヲアカリが一転、言うなれば偽りの仮面にヒビが入ったような『シアワセシンドローム』は、彼女の三次元部分の本質が見え隠れしている稀有な点でもって、大いに評価したいと思う次第だ。

 


オトナのピーターパン / ナナヲアカリ


シアワセシンドローム / ナナヲアカリ

 

 

9位
TODOME/MOSHIMO
2019年3月13日発売

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全国ツアーやフェス出演など精力的な活動を続けるロックバンド、MOSHIMO。ライブの規模も動員も拡大傾向にあった彼女らだが、11月末に突如としてメンバー2名の脱退が発表されたことで、実質的に今作が4人体制としては最後のアルバムとなってしまった。


MOSHIMOの魅力は、男女間の恋愛をテーマに愛を掘り下げる歌詞にある。しかしながら比較的穏やかに恋愛模様を綴る楽曲も多かった過去のMOSHIMOと違い、今作は『TODOME』とのタイトルやジャケットの岩淵(Vo.Gt)の憂いを帯びた表情に顕著に現れている通り、男側に対しての鬱憤をひたすら吐き出すダークなアルバムと化しているのが最大の特徴。


必然サウンドもロックに振り切った形となり、「キスはセーフだがセックスはアウト」というひん曲がった恋愛観が炸裂する“電光石火ジェラシー”、マイナーコードを多用しパンクに寄った“釣った魚にエサやれ”など、明るさを前面に押し出していたかつてのMOSHIMO像を良い意味で破壊し再構築。それでいてMOSHIMO印のキャッチーなメロは失われるどころか鋭さを増しており、サビ部分に至っては一度聴いただけで瞬時に口ずさめるほど。


加えて上記の楽曲では野球拳のフレーズやソーラン節のメロディーを取り入れるなど、今作『TODOME』で今までのポップな方向性をガラリと変えたMOSHIMO。果たしてメンバーの脱退を乗り越えた来年のMOSHIMOは、どのような視点で恋愛模様を描くのか。新たなMOSHIMOの第一歩は間違いなく、このアルバムだろう。

 


MOSHIMO「電光石火ジェラシー」MV


MOSHIMO「釣った魚にエサやれ」MV

 

 

8位
Traveler/Official髭男dism
2019年10月9日発売

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僕は生まれも育ちも島根県。ヒゲダンは山陰地方(島根と鳥取)では久々に誕生したビッグスターとして大いに盛り上がっている現状ではあるが、別段僕自身が「同じ島根の人間だから」と忖度した訳でも何でもなく、純粋にクオリティーの高いアルバムなのでこの順位となった。……ただそれだけの話なのだが、オリコンチャートの成績を見てもヒゲダンの名前がここまでの勢いで広がった、その契機とも言える出来事は間違いなくこのアルバムのリリースだろう。


注目すべきはその曲順。基本的には日本でも海外でも、所謂『リード曲』と呼ばれる楽曲はアルバム前半に固められることが多いことをご存知だろうか。これはアルバム1枚を丸々通して聴く人間が減少傾向にあり、人間の集中力は長時間続かないことを逆手に取った方法で、前半に代表曲を詰め込むことでさもアルバム全体が良質なものとなるかのように見せ掛ける形。『アルバムは売れない』と揶揄され、サブスクの発展が著しさを増した昨今ならではの試みと言っていい。


対してヒゲダンの発明とも言えるアルバム構成を見ていこう。当アルバムで主な核となる楽曲は“イエスタデイ”、“宿命”、“Stand By You”、“Pretender”の4曲だが、『Traveler』はこの4曲を前半のみに固めず、かつほぼ連続では流さない手法を取り入れているのだ。具体的にはまず1曲目と2曲目に“イエスタデイ”と“宿命”を流して没入感を高め、ミドルテンポな楽曲で織り成しつつ“Stand By You”は8曲目に。そしてロックに振り切った後半から12曲目に満を持しての“Pretender”を投下するという、気付けばアルバム曲も無意識的に頭に入るような工夫が凝らされている。


無論アルバム曲の完成度も素晴らしく、ロックやポップ、バラードと千変万化の引き出しでもって楽しませつつ、中でもかねてより彼らが強い自信であると語っているポップな楽曲の破壊力は随一。今年は紅白歌合戦の初出場も決定したヒゲダン。バンド名を「髭の似合う歳になってもワクワクするような音楽を作りたい」との思いで名付けたことや今作のタイトルを『Traveler(旅人)』と冠したことからも分かる通り、今作はいわばひとつの通過点であり、更なる高みへと登り詰めるヒゲダンのほんの序章に過ぎないことを証明した1作でもある。

 


Official髭男dism - Pretender[Official Video]


Official髭男dism - イエスタデイ[Official Video]

 

 

7位
834.194/サカナクション
2019年6月19日発売

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各地の夏フェスには決まって名前を連ねるサカナクションだが、オリジナルアルバムとしてのスパンは長く、今作は約6年ぶりのリリースとなった。


6年もの間アルバムリリースがなかったとは言え、“新宝島”を筆頭としたシングルは定期的にリリースしており、収録曲はシングルが中心。山口(Vo.Gt)がオケを流して踊るファニーな動画も話題となった“忘れられないの”、全国ツアーで披露されたものの大幅な歌詞の変更から、タイトル自体も変更を余儀なくされた“モス(仮タイトルはマイノリティ)”、度重なるライブと共に成長してきた“多分、風。”などほぼ全てで異なるアプローチが施され、サカナクションの様々な側面を垣間見ることのできる濃密なアルバムとなっている。


もはや周知の事実だが、サカナクションの発起人でありメインソングライティングを務める山口はひとつひとつの楽曲に対し、確固たる執念でもって向き合う人間である。……もちろん全てのアーティストにとって音楽は真面目に取り組むべきものではあるが、山口の熱意ははっきり言って異常。かつて“エンドレス”のAメロ部分の歌詞のみに1ヵ月を要したり、“新宝島”には1年単位の時間をかけて取り組んだ山口。そして今作を含めたほぼ全てのアルバムが発売延期を繰り返し、『834.194』は様々な事柄を経て奇跡的かつ運命的に誕生した。


そんな当アルバムは念願叶ってか、爆発的な売り上げを記録。総じて一切の妥協を許さないサカナクションと、最良のアルバムの完成を静観し待ち望んだファンとの双方向的な信頼関係が成し得た大成功と言っても過言ではない。サカナクションの新境地を体現すると同時に入門編としてもお勧めできる、濃密なアルバムだ。

 


サカナクション / モス


サカナクション / 忘れられないの

 

 

6位
aurora arc/BUMP OF CHICKEN
2019年7月10日発売

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ドーム公演を含めた過去最大規模となるライブツアーを敢行し、全公演ソールドアウトを果たしたバンプ。もはや世間的流行とは別の極致に突入しながらも、確固たる日本のポップアイコンの地位を確立したバンプ。


そんな彼らの絶大な人気は決して古参ファンによる長期的なものではなく、楽曲のその完成度から成るものであると共に名実共に証明した名盤こそ、今作『aurora arc(オーロラの弧)』である。


気付けば結成20年を優に超え、フルアルバムは今作で9枚目となる彼らだが、とりわけ今作は彼らのストロングポイントであったポップ主体に楽曲を展開している印象。更に教会の讃美歌の如き壮大さで幕を開ける“アリア”や《ベイビーアイラブユーだぜ》とかつてないほど直接的に放たれるラブソング(“新世界”)といった実験的な試みも挟みつつ、誰もが求めていたバンプ像を如実に体現している。


話は逸れるが、僕は全ての物事を懐疑的に捉えてしまう面倒臭い類いの人間だ。そのためアイドル中心の音楽シーンや街中で流れるポップソング、果ては若者の音楽離れやアーティストが突然有名になったりといった物事を見るたび、ある種モヤモヤした感情が頭を支配してしまう。


正直BUMP OF CHICKENも個人的には然程詳しくなく、何故ここまで人気が下火にならず全盛期以上の全盛期を発揮しているのか甚だ疑問だった。しかしながら今作『aurora arc』を一聴し、今までの疑問は瞬時に霧散した。今作はとにかく楽曲が良い、ただそれだけだ。だがその『ただそれだけ』のことが、何よりも雄弁に「BUMP OF CHICKENは最強の存在である」と語っている。大阪のライブを拝見した際、藤原(Vo.Gt)がアンコールにて「最初は俺ひとりでスタジオにこもってそこからメンバーと一緒になって作るんだけど、やっぱりその中では不安みたいなものもあって」と語っていたが、そうした思いを孕みながら期待を裏切らないバンプの人気を見ていると、やはり日本の音楽シーンを背負って立つべき存在であるとも思う。

 


BUMP OF CHICKEN「望遠のマーチ」


BUMP OF CHICKEN「Aurora」

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


次回は遂に5位~1位の発表である。果たして2019年、がむしゃらに音楽のみを聴き続けてきた僕が最も感銘を受けたアルバムは何なのか。近日公開予定。乞うご期待。

個人的CDアルバムランキング2019[15位~11位]

こんばんは、キタガワです。


さて、今回は前回に引き続き、『個人的CDアルバムランキング2019』の15位~11位の発表である。今回はロックシーンを牽引するベテランから、今年アルバムのリリース自体が初となる新進気鋭の若手アーティストまで幅広くラインナップ。必ずや「こんなアーティストいたんだ!」という興味関心と共に、新たな音楽との出会いをもたらしてくれるはずだ。


それではどうぞ。

 

→20位~16位はこちら

 

15位
ガールズブルー・ハッピーサッド/三月のパンタシア

2019年3月13日発売

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サブスクの流行や音楽価値の多様化など様々な動きがあった今年の音楽シーンだが、今年はとりわけインターネットシーン初の謎のアーティストが台頭した年であったように思う。


素顔を公表せず、MVの拡散力と楽曲の持つ求心力をベースに認知度を広げていくその様は、新時代の到来を現実的に実感させる一幕でもあり、同時に「メディアの印象操作やファンの大小に関わらず、良い音楽は評価されるべき」という音楽本来の有るべき姿を体現しているようでもあった。


そんなインターネットシーンで今年大きなバズを記録したアーティストのひとりが、三月のパンタシアである。


活動当初より『3月』をひとつのターニングポイントに定める三パシらしく、3月13日に発売された自身初となるフルアルバム『ガールズブルー・ハッピーサッド』は、まさに彼女の魅力をふんだんに詰め込んだ名刺代わりの1枚だ。アッパーな“三月がずっと続けばいい”を皮切りに、アニメ主題歌として広く浸透した“ピンクレモネード”など、ポップな音楽にアンテナを張る中高生のツボを見事に突いた今作は予想を遥かに上回る勢いでシーンを駆け抜け、現在ではラジオやスーパーマーケットでも頻繁に流れるレベルにまで達した。


昨今は新たに小説を軸とした独創的な活動をスタートさせ、来年には久方ぶりのライブ開催も決定している三パシ。他のインターネットシーン初のアーティストと比較しても圧倒的にミステリアスに水面下での活動を続ける彼女だからこそ、今後どのような跳ね方をするのか予想できない。彼女を知る絶好のタイミングは、紛れもなく今である。

 


三月のパンタシア 『三月がずっと続けばいい』


三月のパンタシア 『ピンクレモネード』

 

 

14位
MOROHA Ⅳ/MOROHA
2019年5月29日発売

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ギターと声の散弾銃とも言える独特なスタイルで話題のラップグループ、MOROHA。今年はアフロ(MC)のナレーションの仕事が活発化したこともあり、GALAXYやスシローといった多くのCMであの印象深い声を聞いた人も多いはずだ。


MOROHAの魅力はその類い稀なるメッセージ性である。……個人ブログということで好き勝手書かせてもらうが、そこでどうしても『メッセージ性』という面で個人的に対比の対象として脳裏を過ってしまうのはロックバンド、amazarashiの存在だ。


《僕が死のうと思ったのは 心が空っぽになったから》、《自分以外みんな死ねってのは もう死にてえってのと同義だ》と歌うamazarashiが同じく希死念慮と憂鬱に悩む人間の代弁者であるとするならば、MOROHAが歌うのは更にその奥の奥。すなわち生き方の根本的部分である。


MOROHAの楽曲には悩める人間の肩を掴み、唾と汗を飛び散らせながら「本当にお前はこのままで良いのか!」と問う力強さと、「1分1秒も無駄にしてはならない」と聞き手をリアルに急き立てる焦燥がある。《選ばれなかった人間は 自ら選び取るしかないんだ》と語る“五文銭”、《「やりたい」「やってた」じゃなく「やってる」 進行形以外信じない》と叫ぶ“上京タワー”など、今作には今まで以上に赤裸々に思いを伝える気迫が感じられ、聴く人次第では聴けば聴くほど心にダメージを負う。


個人的な話で恐縮だが、僕は今年MOROHAの当アルバムのリリースツアーに足を運んだ。その中でとあるバンドがMCにおいて「MOROHAに一言どうぞ」と促された際、メンバーが揃って「特にありませーん!」と笑顔で叫ぶ場面があった。後にバンドは「冗談ですよ」と訂正していたが、数分後にアフロはステージに進むなり、地面に頭を叩き付けんばかりの勢いで「俺はあれを冗談だって受け取らねえ!悔しい!悔しいよ俺は!」と絶叫してライブを行っていたのが印象に残っている。MOROHAの全ての楽曲の作詞を担うアフロは、そういう人間なのだ。


総じてこのアルバムが心に刺さる人間は、何かしらの鬱屈した感情と現在進行形で戦っている人間なのだろう。逆に言えば、順風満帆な人生を送っている人間には絶対刺さらない音楽でもある。……さて、読者の皆様はどちらだろうか。是非ともその目で、耳で、確かめてほしい。

 


MOROHA「拝啓、MCアフロ様」Official Music Video


MOROHA「五文銭」Official Music Video

 

 

13位
VIVIAN KILLERS/The Birthday
2019年3月20日発売

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今年活動14年目を迎えたThe Birthday。アルバムのリリースは今作品で何と10枚目となる。


ある種の反則技ではあるが、今回のアルバムは全体的に音がデカい。実際彼らのアルバムの音量は毎回大きいのだけれど、いつも以上にそう感じる一番の理由としてはやはり、徹底してロックに振り切ったサウンドにある。思えば前作『NOMAD』も前々作『BLOOD AND LOVE CIRCUS』も確かにロックアルバムではあったものの、緩やかに進行してサビで熱が入るような、ある種大人の魅力とも言うべきムーディーな雰囲気に満ち溢れている印象が強かった。


だが今作は例えるなら一世を風靡したチバの前身バンド、ミッシェル・ガン・エレファントの時代まで遡ったような、シンプルで爆発力の高いロックが鼓膜を震わせる代物。更に度重なる喫煙と飲酒で限界までしゃがれたチバ(Vo.Gt)の独特の歌声も迫力を増しており、古くからのファンであればあるほど感動もののアルバムに仕上がっている。


ベースの低音がダイレクトに響く“青空”や《このクソメタルババアがよ》とのキラーフレーズで開幕を飾る“DISKO”、一撃必殺のサビが脳内をぐるぐる回る“OH BABY!”など、総じて『VIVIAN KILLERS』はどこを切ってもファンが求めていた等身大のロックバンド・The Birthdayであり、何年経っても色褪せない彼らの魅力を再認識できるアルバムでもある。


今のThe Birthdayはその疾走っぷりも過去最高レベルだ。『VIVIAN KILLERS』リリース後には約半年にも及ぶ大規模な全国ツアーを完遂。更に大小様々な各地フェスにも出演し、同時にチバのソロプロジェクトにも着手し、こちらも今年アルバムを発売している。留まることを知らないThe Birthdayの快進撃だが、今後もセットリストの見所となるであろう楽曲が多数収録された今作は、是非とも今触れておくべき存在であると感じる次第だ。

 


The Birthday「青空」MUSIC VIDEO


The Birthday –「OH BABY!」Music Video (full size)

 

 

12位
Hello My Shoes/秋山黄色
2019年1月23日発売

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2019年突如現れた期待の新星、秋山黄色。インターネットシーンのみならず、インディー音楽シーンを加速度的に荒らし回る彼の初の一手となるのが、今作『Hello My Shoes』である。


テレビアニメ『けいおん!』に影響されて音楽活動を始めたというエピソードこそ平成世代らしいが、サウンドはギターリフ主体で進行する、どちらかと言えばナンバーガール寄りのド直球ロック。


メディアに顔を出すことは基本的にないが、片手で数えられるほどの音楽雑誌では貴重な素顔を公開している。そこではアーティスト名に偽りなしの金髪ながらも目を完全に覆い隠し、一切の笑顔を出さない彼のミステリアスな姿を見ることができる。自身について「普段家からほとんど出ない引きこもり」であると語る秋山黄色。“やさぐれカイドー”の《夜中の2時過ぎてやっと俺だ》、“とうこうのはて”での《借金まみれの顔を鏡で また洗っている》といった歌詞に顕著だが、今作で歌われる内容の大半は彼の飾らないリアルだ。しかしながらそれらの事柄に別段同意を求めるわけでもなく、はたまた前を向こうとポジティブに捉えるでもなく、一貫して「自分はこういう人間ですが何か」というある種達観したネガティブさでもって思いの丈を吐き出している。


必然的に声を出す機会も少ないはずだが、とりわけ“やさぐれカイドー”や“猿上がりシティーポップ”、“とうこうのはて”といったロックを前面に押し出す楽曲群には彼の鬱屈した感情が爆発している印象で、サビ部分ではキーの限界まで意図的に声を張り上げた絶叫に近い歌声がダイレクトに響いてくる。そんな初期衝動剥き出しの今作は、どれほど練られたベテランアーティストのアルバムよりも、心を揺さぶられる代物だ。


ツイッターのIDを@Ilikeakairoとし、現在配信中の新曲では更に引き出しを増やしている秋山黄色。反骨精神剥き出しの若き来年の動きに、来年も注目していきたい。

 


秋山黄色『猿上がりシティーポップ』


秋山黄色『とうこうのはて』Lyric Video (Short ver.)

 

 

11位
瞬間的シックスセンス/あいみょん
2019年2月13日発売

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紅白歌合戦への2度目出場は逃してしまった(おそらく実際は自分から出場辞退していると思われる)が、間違いなく今年最も音楽シーンに名を轟かせたのはヒゲダンでもKing Gnuでもなく、あいみょんだったのではなかろうか。


映画『クレヨンしんちゃん』の主題歌に抜擢された“ハルノヒ”や映画『空の青さを知る人よ』主題歌となった同曲、今までのあいみょん像を破壊した“真夏の夜の匂いがする”など、とりわけ今年は彼女のシングルリリースが目立った年であり、また同時に「あの“マリーゴールド”の発売がもう1年も前のことである」という事実にも驚かされるほど、例年にない多作っぷりを見せ付ける年でもあった。


そんな現状を踏まえてのこの『瞬間的シックスセンス』。何とこのアルバムには前述した3曲のシングルは一切入っておらず、それどころかシングルは全てこのアルバムリリース後に発売されている。そう。もうお分かりだろう。あれほどの大ブレイクを果たした“マリーゴールド”も“満月の夜なら”も、今作にて初めてアルバム入りしているのだ。……あいみょん、絶好調である。


言うまでもなく、このアルバムの中心を担っているのは“マリーゴールド”を始めとした耳馴染みのよいポップミュージックな訳だが、ドラムが印象的な“ら、のはなし”、《なんまいだー なんまいだー》のメロが頭を支配する“二人だけの国”、ロックに徹した“夢追いベンガル”も、どの楽曲がシングルカットされていたとしてもおかしくないほどの完成度を誇る楽曲がてんこ盛り。


今年は弾き語り形式でたったひとりで武道館に立ったり、全国ツアーや夏フェスの出演も活発化したりと話題に事欠かなかったあいみょん。来年もこの一種ランナーズハイのような高いポテンシャルをそのままに、突き進んでいくはずだ。冗談でも何でもなく、あいみょんは来年も若者の更なるポップアイコンになるだろう。

 


あいみょん - マリーゴールド【OFFICIAL MUSIC VIDEO】


あいみょん - 今夜このまま【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

 

 

……さて、次回はいよいよ1桁台。10位~6位までの発表である。3年間に渡って続けてきた『個人的CDアルバムランキング』だが、次回は何と全アーティストが当記事初登場というフレッシュぶり。乞うご期待。

個人的CDアルバムランキング2019[20位~16位]

こんばんは、キタガワです。


遂に今年もこの時期がやってきた。執筆にかける時間とアクセス数が全く釣り合わないと巷で噂の年末恒例企画、『個人的CDアルバムランキング』である。


その年に発売されたアルバムを独断と偏見でランク付けするこの企画は早いもので今年で3年目。更に個人的な話で恐縮だが、今年は有り難いことに音楽ライターとしての活動が活発化した運命的な年でもあった。しかしながらそれに伴って『音楽を3時間以上聴いていない日が1日もない』という未曾有の領域に突入してしまったことからも、選考は過去に例を見ないレベルで難航した。


さて、今年も今までと同様に今年発売されたアルバムとミニアルバムに絞り、なおかつ『曲単体ではなくアルバム全体として評価する』ことを第一義として選考を行った。なお選考対象外のもの、並びに過去のアルバムランキングについては以下の通りである。

・ベスト版
・リマスター版
・シングル
・カバーアルバム
・EP
・ライブ会場限定CD
・サウンドトラック
・レンタル限定CD

アルバムランキング2018はこちら→(~16位)(~11位)(~6位)(~1位

アルバムランキング2017はこちら→(~16位)(~11位)(~6位)(~1位


……令和に突入した2019年。今年のランキングは何と初のランクインが14組、更には女性ボーカルのアーティストが半数を占め、例年ランクインしていたアーティストも選考漏れとなるなど、正に令和の新時代に相応しい結果となった。


それでは以下より、20位から16位までをそれぞれの短評と共に発表していこう。

 

20位
二歳/渋谷すばる
2019年10月9日発売

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昨年末、社会的にも音楽的にも確固たる地位を確立するアイドルグループ、関ジャニ∞からの衝撃的脱退を発表した渋谷すばる。そんな世間を大きく震撼させた突然の申し出から1年が経ち、ほぼ沈黙を守ってきた彼の一手が遂に明らかとなった。それこそがソロ名義では初のアルバムとなる今作『二歳』である。


特筆すべきは、冒頭を飾る1曲目の“ぼくのうた”と名付けられたリード曲。この楽曲では誇張でも何でもなく、彼が何故人気絶頂にある関ジャニ∞を辞めてまで再び音楽を始めたのか、そして何故今ソロとして音楽を選ぶ必要があったのか、その心の内が飾らない言葉で綴られている。


《もしこの声に聞き覚えがありましたら》

《今日までの色んな出来事を聞いてくれませんか》

《もしこの僕に見覚えがあって興味がありましたら》

《これからも頭の端っこにそっと居させてくれませんか》


前述した“ぼくのうた”のみならず、アルバム全体で見ても使われる楽器はギター、ベース、ドラム、ハーモニカのみと、ひたすらシンプルに削ぎ落とされている。歌詞についても《トラブラーだからトラベラー》のリフレインがぐるぐる回る“トラブルトラ ベラ”、《なんにもない なんにもないな》と歌われる“なんにもないな”など、極端にシンプルな構成となっているのが印象深い。


あのお馴染みの声で鳴り響くのはフラワーカンパニーズを彷彿とさせる泥臭い音の塊で、そこにはテクニックもハイクオリティな試みも一切ない。ただひたすらがむしゃらに鳴らされる音、音、音……。それは関ジャニ∞と比較しても似ても似つかない、あまりに無骨なひとりの男の生き様だ。


しかしこのアルバムを聴けば誰しもが、渋谷がかねてより夢見ていた行動こそがソロデビューであり、その行動に至るまでには絶対的に関ジャニ∞を脱退する必要があったのだと、改めて思い知らされるはずだ。強い信念と熱意を携えて作られた今作は「自分はソロシンガーとしてはまだまだ新米である」との思いを込めて、やっとたどたどしくも言葉が話せるようになる年頃である『二歳』と名付けられた。


来年からは当アルバムを携えての全国ツアーも決定しているが、現時点でキャパシティを大幅に上回る応募が殺到している。間違いなく集まる大半は関ジャニ∞時代からのファンだろうが、何年か経った頃には「ミュージシャン・渋谷すばるのライブを観に来た」と語る純粋な音楽ファンがライブに行く予感がすると同時に、そうであってほしいと切に願う。

 


渋谷すばる『ぼくのうた』 [Official Music Video]


渋谷すばる「アナグラ生活」先行配信中!

 

 

19位
WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?/Billie Eilish
2019年3月29日発売

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YouTubeの総再生数は45億回を超え、実兄であるフィニアス含めグラミー賞で11部門ノミネートと前人未到の偉業を達成してしまった、今月18歳の誕生日を迎えたビリー・アイリッシュ。


既に海外における10代の女子を中心に一種宗教的なポップ・アイコンとなっているビリーだが、そんな彼女の勢いが加速度的に増すひとつの契機となったのが今作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(眠りについたらどこに行くの?)である。


アルバムは「歯列矯正したからめっちゃアルバム歌いやすいわ!」とビリーが爆笑する僅か13秒の“!!!!!!!”から幕を明け、本人もメディアで「何でこんなに売れたのか意味が分かんない」と何度も語っていた“bad guy”、黒い涙を流す衝撃的なMVにメディアが沸いた“when the party's over”など、終始陰鬱なムードに包まれた今作は、流行歌として街中で流れるものとしてはあまりにダークかつホラーである。だが実際このアルバムは街中で今なお流れまくっているどころか、アメリカとイギリスではアルバム1位を獲得。ライブ映像等を見ると分かるが、ビリーの存在は日本で暮らす我々がイメージする以上に、かつてのジャスティン・ビーバーと同等か、それ以上のムーブメントを巻き起こしている。


しかしながら今ビリーがここまで若者にとってヒーロー的存在を担っているのは、必然であるとも思うのだ。2019年現在、世界各国では様々な問題が巻き起こっている。ビリーが暮らすアメリカだけで考えても、市販薬の過剰摂取による10代~20代の若者の死亡事故が多発していることや、現トランプ政権による貧困層と富裕層の格差拡大、黒人への差別など、数年前と比べて格段に混沌化している。


映画『ジョーカー』が大ヒットを記録し、香港では連日デモが行われ、日本においても桜を見る会や消費税増税に異を唱える人々が増えているように、間違いなく今の人々にはそうした『クソッタレな今』に対して徹底してNOを突きつける姿勢が見受けられる。このアルバムはそうした『今』を切り取り、直接的な表現でもって白日の元に晒す稀有な存在を担っている。


今作がここまで流行っている現状を見て「この世はまだまだ捨てたものじゃないな」と思ってしまうのは、僕が純粋に歳を取ったからだろうか。いや、必ずしもそうではないはずだ。

 


Billie Eilish - bad guy


Billie Eilish - when the party's over

 

 

18位
LIP/SEKAI NO OWARI
2019年2月27日発売

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今年は『EVE』と『LIP』という2枚のフルアルバムの同時発売に至ったセカオワ。長らくアルバムをリリースしてこなかった彼らの活動を見ていると一見シングルの寄せ集めのようにも思えるが、実は2枚には明確な差別化が図られている。『EVE』はダークかつ実験的な楽曲を主とし、対して『LIP』は歌メロを重視しつつ口ずさみやすい楽曲を多く収録。


完全に二極化したふたつのアルバムを、バンドの中心人物であるFukase(Vo)はこう語っている。「『Lip』と『Eye』は口と目なんですけど、僕は両方語るものだと思っていて。『Lip』は口から出てくる希望みたいなものを歌っていると思うし、『Eye』は希望というものを見てる目って感じで」……。


けれども今までセカオワは“スターライトパレード”や“RPG”、“Dragon Night”といった口ずさみやすくメロ重視の楽曲を軸として人気を獲得してきたバンドであることを鑑みると、やはり個人的にはセカオワ像を地で行く形を貫いた『LIP』に軍配。『LIP』にはお茶の間に広く鳴り響いたオリンピックテーマ曲“サザンカ”、ジブリアニメの主題歌に抜擢された“RAIN”、昨今ではライブの定番曲と化している“YOKOHAMA blues”など、広く受け入れられてきたセカオワ像をはっきりと体現する楽曲が多く収録されており、耳馴染みの良さはピカイチと言って良いだろう。


今年はメンバーの結婚・出産のみならず、ライブではDJ LOVE(DJ)がドラムに転向したりがベースを担ったりと、大幅なパートチェンジが話題となっているセカオワ。残念ながら今年の紅白歌合戦の出場は叶わなかったものの、未だライブは全公演ソールドアウト、かつオリオンチャートでも上位に食い込む彼らは、必ずや来年も話題の中心を担うことだろう。

 


SEKAI NO OWARI「サザンカ」


SEKAI NO OWARI「RAIN」Short Version

 

 

17位
i/上白石萌音
2019年7月10日発売

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テレビ番組や舞台の出演のみならず、音楽活動も次第に本格化しつつある若手女優、上白石萌音(かみしらいしもね)。前作から約2年。満を持して放たれるミニアルバム『i』は、自身2枚目となるオリジナルアルバムとなる。


思えば彼女が『君の名は。』の宮水三葉役として抜擢され、認知度を飛躍的に高めたのはもう3年も前のこと。昨今では映画やドラマの出演で多忙を極める他、昨年は映画『羊と鋼の森』にて妹の上白石萌歌と共演し、その妹である萌歌は今年Adieu(アデュー)名義でCDデビューを果たすなど、姉妹揃って音楽活動が活発化したのも印象深い。


今作における最大のストロングポイントはやはり、全作に比べて圧倒的にパワーアップした歌唱力だろう。言わずもがな、彼女が歌手活動を始める契機となった出来事は『君の名は。』の一大ブームだったわけだが、当時は良くも悪くも『人気映画のヒロインが歌手デビュー』といったタイアップ的要素を前面に押し出す形で売り出されており、事実初のアルバムはRADWIWPSの“なんでもないや”を含めた全曲がカバー曲。言い方は悪いが、かつては上白石萌音というひとりの歌手としてではなく、世間の注目を集めるためのひとつの有効的手段として歌手に起用された感は、どうしても否めなかったのだ。


しかしながら今作では、完全にいちボーカリストとして自立した印象を受ける。ヨルシカのn-bunaが作曲を務めた“永遠はきらい”に始まり、時にポップに、時にメロウに変幻自在に雰囲気を作り替えるそのスタイルは、まさに歌手・上白石萌音のひとつの到達点と言える代物。


少し話は逸れるが、個人的に現在は『ある程度認知されている人が歌を歌えば話題になる』という、ミュージシャンとしては一種地獄のような時代であると思っている。それこそ今年はタレントや声優、YouTuberやVTuberなど『様々な知名度のある人間』が音楽業界に参入してオリコンチャート上位を独占し、話題をかっさらっていった。


そんな中、上白石萌音の骨太なサウンドにも決して劣らない力強い歌声を聴いていると、それこそ彼女は菅田将暉や桐谷健太のような天性の歌手なのだなあと改めて感じ入るような、強い驚きと感動があった。ぜひまたライブ活動を再開し、広く歌声を響かせてほしいところだ。

 


【好評配信中!!】上白石萌音「永遠はきらい」Music Video

 

 

16位
ウ!!!/ウルフルズ
2019年6月26日発売

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バンドの中心人物であるウルフルケイスケが活動休止を発表しスリーピースとなったニュー・ウルフルズ。約2年ぶりとなるオリジナルアルバムである。


まず初めに述べてしまうが、開幕を飾る“センチメンタルフィーバー~あなたが好きだから~”は、間違いなくウルフルズ史上……いや、今年の音楽業界全体を通して見ても最大の問題作だ。

 

かつて一世を風靡した“ガッツだぜ!”や“バンザイ~好きでよかった~”をイメージして聴くと「何だこりゃ!」とぶったまげること請け合い。昭和のアイドルを彷彿とさせるサビ、打ち込みを多用したサウンド、しかもフロントマンであるトータス松本(Vo.Gt)すらまともに歌っていないというまさかの楽曲。しかしながらこの大胆な方向展開はむしろ功を奏している印象で、続く“リズムをとめるな”、“ワンツースリー天国”といったかねてよりのウルフルズ像をより際立せる役割を担っているようにも思う。


長年活動を続けているアーティストであればあるほど、ファンからは「やっぱり初期のアルバムが一番良い」と言われることが多いと聞く。実際自分自身もそうで、ニューアルバムが発売されても一聴しただけで「あーいつもの感じね」と感じ、そこから全く聴かなくなってしまうこともある。


そうした背景を踏まえての『ウ!!!』である。再生ボタンを押した瞬間にアーティスト名を二度見してしまう驚きと新鮮さを与えてくれたこのアルバムは総じて、ウルフルズから距離を置いた人であればあるほどグッとくる存在なのではなかろうか。

 


ウルフルズ センチメンタルフィーバー ~あなたが好きだから~ MUSIC VIDEO YouTube ver.


ウルフルズ “リズムをとめるな” MUSIC VIDEO short ver.

 

 

……さて、いかがだっただろうか。


次回は当アルバムランキング初登場となるアーティストが多数入り乱れる、15位~11位の発表である。乞うご期待。