キタガワのブログ

島根県在住のフリーライター。ロッキン、Real Sound、KAI-YOU.net、uzurea.netなどに寄稿。ご依頼はプロフィール欄『このブログについて』よりお願い致します。

【ライブレポート】The 1975『SUMMER SONIC 2019』@舞浜ソニックパーク

こんばんは、キタガワです。

 

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今年で20周年を迎えたSUMMER SONICの最終日である、8月18日。時刻はまもなく18時を回ろうかというところで、海沿いに設置されたオーシャンステージには時折暖かさを携えた風が吹き抜ける。今フェス最大規模のオーシャンステージで演奏するアーティストは、早くも残り2組を残すのみとなった。


集まった観客のお目当てはもちろん、イギリス・マンチェスター出身の4人組ロックバンド、The 1975である。リリースしたアルバムは3作品全てがUKチャート初登場1位を記録し、今最もチケットが取れないバンドとしても知られている彼ら。昨年にリリースされた『A Brief Inquiry Into Online Relationship』の興奮もさることながら、来たる2020年には『A Brief~』と地続きになったニューアルバム『Notes On a Conditional Form』の発売も決定しており、言うなれば最高に脂の乗り切った状態での出演となる。


そんな彼らを一目見ようと、メインステージであるオーシャンステージは見渡す限り人、人、人の大混雑。


Weezerの時点でもパンパンの客入りだったオーシャンステージ。そのため当初は「Weezerのライブが終わった後は波が引くように去っていくだろうな」と思っていた僕だったが、実際にステージを後にする人は微々たるもので、むしろどんどん人が多くなっていく感覚さえある。果ては人がひとり移動した瞬間に、その空いた隙間を求めて観客が一斉に前へ詰め掛けるものだから、気付けば一切の身動きが取れない。完全なる鮨詰め状態だ。


定刻を少し過ぎたところでお馴染みのSEである『The 1975』が鳴り響き、メンバーがステージに降り立った。彼らにとっては実に3年ぶりとなるサマソニ。まずはThe 1975のライブのオープナーとしてもはやお馴染みとなった『Give Yourself A Try』で、軽快な幕開けだ。

 


The 1975 - Give Yourself A Try


薬物中毒や罹患によるどん底の毎日を送っていた自身の経験を赤裸々に綴った『Give Yourself A Try』は、繰り返されるギターリフが印象的なロックナンバー。ジョージ・ダニエル(Dr)のリズミカルなドラムから端を発した盛り上がりは途切れることなく続き、サビ部分ではマシュー・ヒーリー(Vo)の歌声を上回るほどの大合唱が巻き起こる。

 

そしてやはりと言うべきか、最も注目を集めていたのは、フロントマンであるマシュー・ヒーリーその人だった。マイクを握り、残った指でタバコの火を燻らせながら歌う様も衝撃的ではあったものの、この日は焦燥感と名状し難い躁鬱が終始彼を襲っていた。突然笑い出したかと思えば真顔で虚空を見つめ、ヘッドバンギングを繰り出して舌を出し、マイクのコードを首に巻き付けて咳き込んだりと、どこか危ない雰囲気を漂わせながら縦横無尽に動き回るマシューの一挙手一投足に、目を釘付けにさせられる。


多数の『TOOTIME』の文字が下部から徐々に引き上がって始まった『TOOTIMETOOTIMETOOTIME』では、ミドルテンポで盛り上げるのはもちろんのこと、黒人の女性ダンサー2名がマシューの脇を固め、息の合ったダンスを繰り広げる。中でも意中の相手への電話の回数を数えるサビ部分では、皆一様に自身の指を数字に合わせながらゆらゆらと踊っていたのが印象的だった。


今回のライブは完全なる『A Brief~』のモードで、最新アルバムである『A Brief~』の楽曲を軸としつつ、過去作である『The 1975』と『I Like It When You Sleep, For You Are So Beautiful Yet So Unaware Of It』に収録されている代表曲を随所に散りばめた、磐石のセットリストで進行していく。

 


The 1975 - Sincerity Is Scary (Official Video)


その後はポップな世界観で魅了した『She's American』や耳の突出した帽子を被ったマシューが「僕はウサギだよ」とおどけて始まったアダルトな『Sincerity Is Scary』、ダンサブルなサウンドで会場の熱量を底上げした『It's Not Living(If It's Not With You)』と、そのひとつひとつがハイライトとも言うべき盛り上がりを記録。「日本人は海外の歌が歌えない」と揶揄されて久しいが、この日は大合唱に次ぐ大合唱だったのも印象深い。The 1975の楽曲がいかにキャッチーかつ唯一無二の存在なのかを、改めて実感した次第だ。


時に神秘的に、時にきらびやかに姿を変える最新鋭のVJにも触れておきたい。カメラマンが撮影する映像をリアルタイムで加工して表示することから始まり、四方八方から飛び交う色彩に高揚し、美しい街並みに息を飲む……。まるでミュージカルの舞台のように著しく姿を変えていくそんなVJの数々も、The 1975のライブには必要不可欠。視覚的にも楽しめる、重要な役割を担っていた。


さて、これは僕個人の単なる憶測に過ぎないが、今回のThe 1975のライブは今まで画面を介して観たどのライブよりも、刹那的かつ衝動的だったように思う。特に前述したようにボーカルのマシューに至っては、何度も感情のコントロールを無くしている印象だった。


そうした言動はフロントマンとしての圧倒的な存在感を見せ付ける意味では良かったものの、まるで自己破壊的に歌うマシューは、心の奥底に何か重く大きい悩みを抱えているのではないか……。そんな風にも思えて仕方なかった。


マシューのそんな精神状態に合点がいったのは、『I Like America & America Likes Me』前に語られた長尺のMCでのことだった。


「普段は言語の壁があるからたくさんは話さないけど、今回は少しだけ話をさせてほしい」と前置きしたマシューは、次のように語った。


「僕は8月14日に、ドバイでライブをした。その時に最前列にいた男性のファンに「キスしてくれ」と言われて、キスをしたんだ。でもドバイではLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)を厳しく制限していて、僕らは非難の嵐にさらされた。かなり大きなニュースにもなったし、もしかしたら今後はドバイへの入国を禁止されるかもしれない(意訳)」


「僕は普段あまり抗議はしない。でも人間と人間との間の関係でやったこの行為は凄く美しかったし、ピュアな行動だと思う。僕が最終的に言いたいのは、後悔はしてないってことなんだよ(意訳)」


ドバイ(アラブ首長国連邦)の法律において、同性愛は最大で10年間の禁固刑に処せられることもある重大な犯罪行為のひとつである。実際のシロとクロの境界線については定かではないが、今回マシューが行った行為は、ドバイの法律中の何かしらの部分に抵触する可能性が高い。


しかしながら「後悔はしてない」という彼の発言は間違いなく本心なのだろうし、後に彼のツイッターの個人アカウントでも「もう一度チャンスがあっても、僕は同じ事をするだろう」と述べている通り、彼が自身の主張を曲げることは今後もないだろうと思う。


そう。彼はこの日、私見と他国の法律の狭間でがんじがらめになったグチャグチャの心境で、この場に立っていたのだ。ステージドリンクとして頻繁にアルコール(日本酒)を摂取していたことも、いつになくがむしゃらなパフォーマンスに終始していたのも、全てはこのドバイの一件が大きく絡んでいたのだ。


そして「怒るのは今だよ」と語って雪崩れ込んだ次曲『I Like America & America Likes Me』は、あまりにも衝撃的だった。

 


The 1975 - I Like America & America Likes Me


〈この街の若者として 信念を持って声を上げるんだ(和訳)〉

〈頼むから聞いてくれ! 頼むから聞いてくれ!(和訳)〉


MVと同様の映像が流れる中、マシューはオートチューンがひび割れて地声が表れてしまうほど感情を爆発させながら、何度も絶唱。時折よろけて足元がおぼつかない場面もあり、後半では大きな音を立てて地面に倒れてしまう。しかしそれでもマイクは離さずに歌い続けるマシューの姿には、強く心を揺さぶられた。


その後も怒濤の盛り上がりは収まることなく、あっという間にクライマックスへ。ラストはもちろんこれを聴かずには帰れない屈指のキラーチューン、『The Sound』で完全燃焼を図る。

 


The 1975 - The Sound (Official Music Video)


〈君が近くにいると分かるんだ 君の音を知ってるから(和訳)〉

〈僕は君の心の音を知ってるよ(和訳)〉


歌われるのはThe 1975の十八番とも言えるラブソング。すっかり暗くなったオーシャンステージにピンクに彩られたVJが神秘的に輝く中、ポップなサウンドがオーシャンステージ一帯に広がっていく。その中心で注目を一点に集めながら歌い踊るマシューは、心から楽しんでいるように見えた。


打ち込みを多用した爽やかな楽曲である『The Sound』。しかし後半にかけては一転、ミステリアスな雰囲気に。正確には楽曲自体は相変わらずポップに響いているのだが、モニターには「まだこんな曲を作ってるのか?」、「説得力のない歌詞」、「甲高いボーカル」、「『チョコレート』は1回だけ聴いたけど嫌いだった」など、実際に彼らの目に飛び込んできた批評家の評論やアンチコメントが列挙されていく。


そんな中マシューはそうした罵詈雑言など何処吹く風とばかりに一層歌に力を込め、高らかな歌声を響かせていく。ラストは「イチ・ニ・ファッキンジャンプ!」の一言で会場が完全に一体化。午前中から動き回ったことで観客は皆疲労困憊であったと推察するが、溜まりに溜まった疲れすらも超越する感動的な光景がそこにはあった。


個人的にはこの18日のみならず、サマソニ3日間全体を通して最も印象深かったシーンこそ、今回のThe 1975のライブだった。それは押しつ押されつで全身汗だくになったオーディエンスからも、肩で息をしながら「君の大好きなバンドに拍手を」と言い残して去っていったマシューの姿からも明らかで、きっとこの先何十年にも渡って思い返すであろう歴史的な一夜であった。


The 1975の勢いは止まらない。7月には環境保護活動家であるグレタ・トゥーンベリのスピーチをフィーチャーした『The 1975』、更にサマソニのライブ終了から僅か5日後には、今までのThe 1975像を根本から破壊する意欲作『People』を公開。前述の通り、来年にはこれらの楽曲を収録したニューアルバム『Notes On a Conditional Form』の発売が決定している。そのため確定事項ではないものの、近い将来日本での単独公演が実現する可能性も大いにあると考えて良いだろう。


間違いなく次にThe 1975が来日する際は、今とは想像もつかないほどの知名度と、完成度の高い楽曲群を引っ提げてやって来る。そう考えると、サマソニで彼らの勇姿を観ることができたオーディエンスは幸運だったと言えるだろう。何故なら彼らが次回来日することが確定たとして、その時にもしもあなたが「The 1975のライブに行こう」と意気込んだところで、チケットが取れる保証などどこにもないのだから……。


【The 1975@サマソニ大阪 セットリスト】
The 1975(SE)
Give Yourself A Try
TOOTIMETOOTIMETOOTIME
She's American
Sincerity is Scary
It's Not Living(If It's Not With You)
I Like America & America Likes Me
Somebody Else
I Always Wanna Die(Sometimes)
Love It If We Made It
Chocolate
Sex
The Sound

 

→サマソニ2019全体レポはこちら

人々は『AI:ソムニウムファイル』の虜になる。(感想・ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。


いきなり自分語りをしてしまって恐縮だが、僕はかなりのゲーマーである。……いや、ゲーマー“だった”というのが正しいだろうか。


思えば僕のありふれた日常には、何かしらのゲームの存在があった。幼少期、近所のゲーム屋にポケモンスタジアム2の体験版があったのだが、その体験版をやりたすぎて「お母さんかくれんぼしよー!」と提案し、母が悠長に100数える間にゲーセンに走った通称『ポケスタ失踪事件』を引き起こしてからというもの、僕の人生は大きく歪んでしまったのである。


小学生の頃にはゲーム博士と呼ばれ、中学生の頃の卒業コメントには『将来の夢はファミ通の編集者』と書き、大学在学中にはPS4のトロフィーコレクターと化した。今でも僕を形成しているのは、間違いなくゲームの存在が大きいと、強く信じて疑わない。


そんな僕だが、いつしかゲームは一切プレイしなくなってしまった。「大人になった」と言えば聞こえは良いが、実際は純粋に「興味がなくなった」のだ。歳を取るにつれ、他の趣味というのは出てくるものだ。そうした物事にあれこれと取り組んだその弊害として、僕はゲームのプレイ時間を犠牲にせざるを得なかったのである。


ふと思いついて何度か息抜きにとゲームを購入してみたこともあったが、総じて数分プレイして「めんどくせ」と辞めてしまう始末。嗚呼、心の奥底にぶっ刺さり、時間を忘れて没頭できるゲームがやりたい……。そんな思いを抱きながら、僕は長年ゲームを触ることもなく、当たり障りのない人生を送っていた。そう。あのゲームに出会うまでは。

 

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さて、今回紹介する『AI:ソムニウムファイル』(2019年9月19日発売)は、そんな僕の頭にハンマーで殴られたような衝撃を与えた稀有なゲームである。


ジャンルはアドベンチャー。キャラクターはキュート。それでいて18禁という一体どこの層を狙ったのか皆目分からない作りだが、製作が『ダンガンロンパ』や『ザンキゼロ』、『ウィッチャー』といったカオス作品を多数生み出したゲーム界の異端児、スパイク・チュンソフトということで、妙に納得。


ストーリーはズバリ、一言で『サスペンス』と称して差し支えない。左目をくり貫かれた死体を発見したシーンから、物語は幕を開ける。主人公である伊達は、自身の左目に埋め込まれたAI-Ball(アイボウ)と共に事件の収束を図る、唯一無二の警察官。プレイヤーはこのふたりを操り、一風変わった操作方法を経て真相に迫っていく。


しかし犯人はそんなふたりを嘲笑うかのように、次第にシリアルキラーの様相を呈していく。果たして犯人は誰なのか。残虐非道な犯行の意味するところとは……。以上がざっくりとしたあらすじである。


そもそもの話、アドベンチャーゲームに限らずこの世の全ての創作活動において、最も重要な比重を占めるのはシナリオである。それこそネット上で炎上した『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』や『メタルギアソリッド5』、『龍が如く6』といった作品群に顕著だが、どれだけ素材が良くともシナリオという名の調理方法いかんでは、瞬時にクソゲーになり得る。


その点『AI:ソムニウムファイル』はシナリオが素晴らしい。昨日発売された作品のため僕はまだ9時間程度しかプレイしていない身ではあるものの、矢継ぎ早に繰り出される予想外の展開やギャグ要素、特殊な操作パートにより、既存のゲームにはまずない程の高いレベルの没入感をもたらしてくれる。


そしてやはりというべきか、CERO Zの記載は伊達ではない。おそらくは今までの日本ゲームシーンの歴史ではまずない、それどころか今後も出てくることはないであろうスプラッターシーンがいくつか出てくるのだが、その凄まじさは筆舌に尽くしがたい。中でもモニタ越しに繰り広げられる『某シーン』は「よくOKを出したな」というレベルで、人によってはトラウマになる可能性すらある。


ちなみに今作は、全編通してゲーム実況OKときている。おそらく数日後には『ソムニウムファイル グロシーン』との文言が検索トップに君臨し、さらに数日後にはYouTubeで実際の映像が流され、大いに拡散されることだろう。あの『龍が如く』でも全編録画禁止の措置を取り、クローズドサークル系ホラーゲーである『アンティルドーン』に至っては、グロシーンを全て真っ黒な暗転で隠す(通称・暗転ドーン)といったほど、昨今のゲームはグロに敏感。にも関わらず、ジェイソンもビックリな殺戮を繰り返すこの作品の録画、ゲーム実況、動画保存に「オールオッケー!」の指示を出したスパチュン、はっきり言ってアホである。


なぜかモンハンやペルソナという様々な有名作品が発売されるこの時期にリリースしたためか、なにかと注目度の低い『AI:ソムニウムファイル』。どこを切り取ってもネタバレになるこのゲーム。好き嫌いは分かれるだろうが、ぜひ出来る限り多くの人にプレイしてもらいたい。


個人的には「これを買わずして何を買うんだ?」というレベルで心酔する作品であることは間違いないし、昨今のオープンワールドや取って付けた続編、DLCありきの商法ばかり蔓延るゲーム業界の、土手っ腹に風穴を開ける作品であるとも思っている。


なお、ストーリーはマルチエンディングを搭載している。死因が全く異なっていたり、別のルートでは語られなかった真実が垣間見える仕組みである。眠れない日々はまだまだ続きそうだ。

 


PS4/Switch/PC『AI: ソムニウムファイル』紹介トレーラー「捜査パート」編

【ライブレポート】BUMP OF CHICKEN『TOUR 2019 aurora ark』@京セラドーム大阪

こんばんは、キタガワです。

 

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9月11日、京セラドーム大阪にて、BUMP OF CHICKENの全国ツアー『aurora ark』が開催された。今記事では2夜連続で行われた京セラドームのライブの、初日をレポートする。


今回のツアーは、BUMP OF CHICKENにとっては約1年ぶりとなる大規模なツアー。言わずもがなだが、彼らは日本のロックシーンのみならず、音楽全体で見ても第一線で活動を続けるバンドである。当然の如くチケットは早い段階で全会場ソールドアウトとなり、彼らの人気の高さを改めて証明した。


更には大阪会場に選ばれた京セラドームは5万5000人が収用可能な大型施設としても知られており、他会場と比較しても圧倒的なキャパシティを誇る。普段は野球場として使われることが多い会場であることは周知の事実ではあるものの、やはり直接対峙するとその迫力に圧倒される。日本のロックバンドとしては間違いなく異例の規模の会場であることに加え、ド平日にも関わらず2デイズとも即日完売するというのは、正直ほとんど聞いたことがない。


朝9時から始まった先行物販では、会場周辺が早い段階で大勢の人々で溢れていた。中でも事前に用意された80台以上のレジで物販を捌いていく様は衝撃的だ。そこから数メートル先にあるショッピングセンターには青を基調としたBUMP OF CHICKENグッズを身に付けた人々でごった返しており、この時点で「とんでもないライブになる」という確信にも似た興奮が、心を支配していた。


場内に入るとやはりと言うべきか、そこには予想を遥かに越えた人々が密集していた。案内に従いながらやっとこさ自席に着くと、隣の人と肩が触れてしまうほどに席ごとの間隔が狭いことが分かった。おそらくはキャパシティのギリギリまで客席を設置したためであろう。そう。今この会場にはBUMP OF CHICKENを観るためだけに集まったファンが5万5000人いるのである。ひとつのライブでここまでの規模でライブを行うことができるアーティストは、世界広しと言えどなかなかいないだろう。


開演が近付くとライブ時の注意事項と共に、事前に配布されたLEDリストバンドである『Pixmob』の装着を促すアナウンスが。もっとも一見普通のリストバンドに見えるこのアイテムの存在が今回のライブの大きな目玉となることを、この時は知るよしもなかったのだが。


定時を15分ほど過ぎた後に暗転。直後SEとして流れたのは、ニューアルバムのタイトルにも冠されていた『aurora arc』だ。


ギターを爪弾く調べの中、3ヶ所に設置された大型モニターには、メンバーがステージに向かうまでの映像がモノクロ加工を施されながらリアルタイムで映し出される。更にはメンバーが雪原地帯を歩く様子やオーロラ、アーティスト写真といった今ツアーにちなんだ映像も次々と表示され、『aurora arc』が終わったと同時にニューアルバムのジャケットが大写しになった。最高の時間の幕開けである。

 


BUMP OF CHICKEN「Aurora」


記念すべきオープナーとして演奏されたのは『Aurora』。イントロが流れた時点で、実際のオーロラを模した照明がゆらゆらと会場全体に広がっていく。そして突如事前に配布され、着用がアナウンスされていたLEDリストバンドであるPixmobが青に発光。更に頭上にはゆらめく緑の照明が、まるで本物のオーロラのように輝いている。頭上にはオーロラ。客席には紺碧の海……。この世のものとは思えない幻想的な光景が、観客の熱量を底上げしていく。


『Aurora』の中盤では早くも銀テープが発射され、「こんばんは、BUMP OF CHICKENです!大阪、会いたかったぞ!」と叫んだ藤原基央(Vo.Gt)に、観客は大歓声で答える。


そして何より、フロントマンである藤原基央の歌声が素晴らしかった。CD音源と寸分違わないそれは観客ひとりひとりを包み込むように、高らかに響き渡っていく。無意識的に涙腺が緩む感覚と共に、この場に居て良かったとも、BUMP OF CHICKENのファンで良かったとも思えた瞬間だった。


今回のライブはリリースツアーと言うこともあり、ニューアルバム『aurora arc』を軸にしたセットリストで進行していく。しかしながら完全なる『aurora arc』のモードというわけでもなく『プラネタリウム』や『ダイヤモンド』、『リボン』といった過去の楽曲も入れ込みながら、総合的にファン垂涎のセットリストとして完成させている印象を受けた。


『天体観測』終了時にはCHAMA(Ba)による初のMCへ移行。


今回のライブではこのMCのみならず、終始ハイテンションだったCHAMA。まずは「バンプのライブに初めて来た人ー!」と挙手を促し、「いち、にい、さん……」とおもむろに人数を数え始める。それ以降も長尺でたわいもないMCを繰り広げていくCHAMAだが、「みんなMC長いって思ってるでしょ?でもやめねえから!」と笑いを誘う場面も。


この日がツアーの折り返し地点であることから、「こんなに格好いいオーディエンスの前で折り返せるのは本当に嬉しいです。ありがとう」と感謝の弁を述べるCHAMA。マイクで拾われた「楽しすぎる。ヤバい。一瞬で終わる」との言葉は本心だったに違いない。

 


BUMP OF CHICKEN「Butterfly」


その後はフレームマシンが炸裂した『月虹』、メロウに聴かせた『プラネタリウム』、サビで会場内がひとつになった『Butterfly』と間髪入れずに進行。そのままの勢いで雪崩れ込んだ自己紹介タイムでは、「升秀夫(Dr)はメンバーの中で一番真面目」、「スタジオに遅刻したことがないのはCHAMAだけ」、「CHAMAは大阪の親戚によっちと呼ばれている」といった新情報が明かされ、アットホームな空間を作り出していた。


さて、今回のライブではライブハウスでは絶対に体験し得ないほどの驚きの演出がいくつか存在した。それこそ前述したフレームマシンやPixmobの興奮も筆舌に尽くし難いものではあったが、最も驚かされたのは『話がしたいよ』後に行われたとある試みだった。


突然ステージから客席に降りたメンバーは、花道を進むかの如く客席後方へと移動していく。するといつの間にかそこには四畳半ほどの特設ステージが組み上げられており、何とその場で『ダイヤモンド』と『リボン』を披露するサプライズが。その粋な計らいに観客は大歓声。特にいわゆる『ハズレ席』的なポジションでライブを鑑賞していた後方の観客は、喜びもひとしおだったろう。


曲間に挟まれたMCでは、トークを促された藤原が「久しぶりに大阪に来れて嬉しいです。最高に楽しくやらせて貰ってます。マジで」と語り、それに対してCHAMAが「Tシャツの色は黒と白をたくさん持ってきたけど、青ばっかり売れるんだよ」と語る場面も。その後はグッズのひとつであるドッジビーを客席に投げ入れる一幕がありつつ、再びメンバーは客席を移動して元のステージに帰還した。


暗転後は2度目の『aurora arc』が流れ、ここからは怒濤の後半戦に突入していく。

 


BUMP OF CHICKEN「望遠のマーチ」


後半戦一発目はCMソングとしてお茶の間に広く響き渡った『望遠のマーチ』からスタート。ここまでハイカロリーな楽曲が続いていたため一種の懸念事項だった藤原の歌声についても衰え知らずで、いつになく絶好調だ。それどころか「聴こえるか大阪!お前らに歌ってるんだぞ!」と藤原が高らかに声を張り上げる場面もあり、観客はモニターに映し出された歌詞に沿って大合唱で答えていた。


その後はアッパーな『アリア』、メロウに響いた『Spica』と、ニューアルバムからの楽曲群を惜しみ無く投下。そして待ってましたとばかりに祝祭の如く鳴り響いた屈指のキラーチューン『ray』でもって、観客の意識を覚醒へと導いていく。


全編通して多幸感に包まれた今回のライブ。過去曲も『aurora arc』の楽曲も、BPMが比較的速い楽曲もバラードも。それら全ての楽曲が集まった観客の心の奥深くに刷り込まれている印象を受けたのだが、『最も盛り上がった』という点でひとつのハイライトとして移ったのは、次に披露された『新世界』だった。

 


ロッテ×BUMP OF CHICKEN ベイビーアイラブユーだぜ フルバージョン


〈ベイビーアイラブユーだぜ ベイビーアイラブユーだ〉

〈ちゃんと今日も目が覚めたのは 君と笑うためなんだよ〉


『aurora arc』収録曲のみならず、過去のアルバム全体から見てもポップロック色の強い『新世界』。この楽曲の特色は、あまりにも直接的な歌詞である。中でも「丸ごと抱きしめるよ」や「ベイビーアイラブユーだぜ」といった部分に顕著だが、ここまで飾らずに思いを伝えるラブソングというのは、BUMP OF CHICKENの長い活動の中でも初と言っていい。


おそらくこの楽曲がデビュー当時に生まれていれば、年相応の初期衝動に溢れた歌詞としてすんなり受け入れられていただろう。しかし今の彼らはバンド結成から20年を超え、今や日本の音楽シーンを背負って立つベテランバンドだ。そんな彼らが今、あえて「ベイビーアイラブユーだぜ」と歌う意味と理由について、僕はずっと答えを見出だせないでいた。しかし今回嬉々として演奏された『新世界』を聴いて、ひとつの答えが見えた気がする。


その答えとは、『新世界』における直接的な歌詞はすなわち、ファンへの全幅の信頼の表れなのだということだ。


そう。今のBUMP OF CHICKENには確信があるのだろう。「どれだけ赤裸々に言葉を吐き出しても、絶対にファンは好きになってくれる」という確信が。だからこそ飾らない言葉でストレートに愛を表現する『新世界』は、BUMP OF CHICKENの新機軸とも言える1曲となり、同時に今回のライブにおいて絶大な多幸感をもたらす楽曲に成り得たのではなかろうか。


結果としてこの日鳴らされた『新世界』は、過去何年間にも渡って鳴らされてきたBUMP OF CHICKENの代表曲のようにも感じられた一幕だった。先日ロッテとコラボしたアニメーションが動画サイトにアップされたことでも話題になったが、そのロングバージョンとも言うべき映像が流れる中、雑踏に溶け込む形で歌詞が投影される。


藤原は時折観客にサビを託したり、客席ギリギリまで近付いたりとサービス精神旺盛のパフォーマンスを魅せる。バンド演奏が鳴り止んだ瞬間の「ベイビーアイラブユーだぜ」の一言は、観客の脳裏に深く刻み込まれたことだろう。


『supernova』終了後には「最後の曲です。寂しいなあ……」と呟いた藤原。ラストは『流れ星の正体』でもって、しっとりとした幕切れを図る。


〈今日は何もない一日と 言えばそれまでの毎日〉

〈増え続けて溢れそうな 唄の欠片たちが〉

〈早く会いたがって 騒ぐんだ〉


アコースティックギターの調べに乗せ、藤原の透き通った歌声が会場を包み込んでいく。宙には三たびオーロラを模した照明がたゆたい、腕に着用したPixmobは白に発光。その光景は実際に一面に敷き詰められた星星のベッドで寝転びながらオーロラを鑑賞しているようにも感じられ、感動的に映った。


この時点でも『「aurora arc」の中でも屈指のバラード曲』としてドーム全体を包み込んだ『流れ星の正体』。しかしながらこの楽曲には後に藤原の口から明かされることとなる、ある真の意味が秘められていた。……のだが、それについては後述。


アンコールとしてもはや定番となった、自然発生的に広がった『supernova』のサビ部分の大合唱を経て、再びBUMP OF CHICKENが登場。


開口一番「お前らにひとつ伝えたいことがありまーす!それは物販についてだー!」とCHAMAが叫び、そこからは本日から新発売となる商品を含む物販紹介(ベアブリックが全然売れていないという自虐的な報告も)プラス、Pixmobを活用した神秘的な記念撮影へと移行。


BUMP OF CHICKENのアンコールはその都度演奏曲を変える臨機応変ぶりで知られているが、この日披露された楽曲は1999年のインディーズ時代のアルバム『FLAME VEIN』から『リトルブレイバー』、そして2007年にシングルカットされてリリースされた『メーデー』という、特に古くからのファンにとっては垂涎ものの選曲であった。


『メーデー』終了後、ステージにひとり残った藤原の言葉が今でも忘れられない。その一部を抜粋、かつ重要部分以外の箇所においては意訳的に解釈し、以下に記述したいと思う。


「3年半かけて作ったアルバムが世に出て、ちゃんとみんなの元に届いたんだなあと思えて嬉しかったです。ありがとう。最初は俺ひとりでスタジオにこもってそこからメンバーと一緒になって作るんだけど、やっぱりその中では『本当に(ファンのみんなが)好きになってくれるのかなあ』っていう不安みたいなものもあって」


「今日大阪に来れたのは、音楽を受け止めてくれる人がいたからです。そして今日はそれを確かめに来ました。本当に嬉しかったです。ありがとうございました!」


ライブで見せる自信に満ちた歌唱とは裏腹に、言葉をひとつひとつ吟味しながら発する藤原。その姿はファンへの心からの感謝を表しているようでもあり、同時に決意に満ち満ちていた。


ミュージシャンには『産みの苦しみ』が存在すると言われている。自身の脳内で曲がスパークしたことから端を発し、曲の全体像を練り上げ、歌詞に起こす。そこからは度重なるレコーディングの日々だ。外界との接触を極端に減らし、ああでもないこうでもないと、毎日缶詰状態で作業に当たる……。それは世間一般の人々からすれば想像も出来ないほどに、途方もない道程であったはずだ。


藤原はこのMCにて、『aurora arc』を3年半かけて作ったアルバムであると語っていた。3年半。3年半である。赤ん坊がこの世に産まれ落ちてから辿々しくも会話が成り立ち始めるのが、この3年半という月日なのだ。彼らはこの3年半という長い月日を、アルバム1枚を完成させるために費やした。この期間に彼らがどのような思いで、どのような『産みの苦しみ』と戦いながら制作に当たっていたのかは想像に難くない。


なぜBUMP OF CHICKENが今でも多くのファンに愛されるのか。その理由は、曲が良いからである。


なぜBUMP OF CHICKENは良い曲を作り続けられるのか。その理由は、愛してくれるファンがいるからである。


世間一般的に見ても、BUMP OF CHICKENは『有名なバンド』だ。たとえ普段音楽を聴かない人であっても、彼らの名前は皆熟知していることだろう。しかし一見当たり前にも思えるその事柄は、決して当たり前などではない。総じてBUMP OF CHICKENとファンとの相互的かつ絶対的な信頼関係がなければ成し得ない、奇跡的なものなのだ。


この日セットリストの大半を担っていた『aurora arc』の楽曲の中で、最後に演奏されたのは前述した『流れ星の正体』だった。この楽曲が表していたのは、『aurora arc』が世に出るまでの3年半に渡る藤原の心境だったのだ。


そして曲中で最後まで明かされなかった流れ星の正体こそが、ニューアルバムの『aurora arc』なのだ。だからこそ彼らは「伝えたい誰かの空に向かう」し、「せめて君に見えるくらいには輝いてほしい」と願う……。それはまさにファンにとっての『aurora arc(弧状のオーロラ)』に違いないと思うのだ。


「じゃあそろそろ帰ります。舐めてると風邪引くかんな!あったかあったかにしろよ!」と叫んだ藤原に5万5000人が「はーい!」と満面の笑みで答え、大阪1日目のライブは大団円で幕を閉じたのだった。


退場のアナウンスを聞きながら、未だ光り続けるPixmobに刻まれたツアータイトルに目を落とす。本当に楽しいライブだった。


僕は「この光景は一生忘れまい」と心に誓った。おそらくは実際のオーロラを観た人が、そう感じるように。


【BUMP OF CHICKEN@大阪 セットリスト】
aurora arc(SE)
Aurora
虹を待つ人
天体観測
月虹
プラネタリウム
butterfly
記念撮影
話がしたいよ
ダイヤモンド
リボン
aurora arc(SE)
望遠のマーチ
アリア
Spica
ray
新世界
supernova
流れ星の正体

[アンコール]
リトルブレイバー
メーデー

 

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映画『チャイルド・プレイ』レビュー(ネタバレなし)

こんばんは、キタガワです。

 

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世の中の映画には様々なジャンルが存在する。代表的なものとしてはラブストーリーやミステリー、コメディーやSF、アクション……。もう少し的を絞るとすれば戦争映画やノンフィクション映画、時代劇や主観映画なんてものもある。


そんな中、映画好きとしては避けて通れないジャンルと言えば、やはり『ホラー映画』だろう。


しかしながらホラー映画は、万人受けし辛い映画とも言われている。描写が描写なので、まず子供には絶対に見せられない。デートで女性と観る映画としても不向きだ。加えて一人で観るにしても、相当な勇気が必要となる。


そんなわけでホラー映画業界は今、かなりの危機に晒されている。今でこそ有名なホラー映画である『SAW』や『パラノーマル・アクティビティ』も、かつてはアメリカの大きな劇場数館でしか上映されなかったと聞く。上映したとしても動員が少ないことも多く、中には映倫の審査の結果公開自体が危ぶまれることもしばしばだ(ムカデ人間や殺し屋1など)。


だが「ただ怖いだけでしょ?」と判断してそれっきりというのは、あまりにも早計だ。ホラー映画にはホラー映画の良さがある。それを知らずして「無理無理!」と首を振るのはお門違いというものだ。


……さて、ここまで熱弁しておいて何だが、僕はホラーが大の苦手である。いや、こう書いてしまうと語弊がある。正しくは「ビックリ系」のホラー映画が苦手なのだ。


例えるならば長時間銃を向けられている状況で「撃つぞ!本当に撃つぞ!」という過程を経てバンと撃たれるなら、別に体が炸裂弾でズタズタになろうが脳漿が出ていようが、特に問題はない。何故なら「もう少しで撃たれるだろうな……」という心の余裕が出来るからだ。


それに比べて「ビックリ系」のホラーは予想がつかない。前述した例えを使うとするなら「撃つぞ!」と言われている過程で二人で第三者に数キロメートル先からヘッドショットされて死んだり、突然床がパカッと開いて串刺しになったりといった感じ。


そうなると僕はもう無理である。瞬時に「ヒィ!」と恐怖の声をあげ、そこからは常に『不意打ちのビックリホラー』に怯えながら残りの時間を耐えなければならない。こうなるとホラーというより、単なる嫌がらせである。


……話が長くなってしまったが、要は今回紹介する『チャイルド・プレイ』は完全なるビックリ系だ。それどころか終始暗い照明+死角、果てはグロ要素までバンバン放り込んでくるので、SAN値が減少すること間違いなしのホラー映画と言える。


まず、物語の核を担っているチャッキー(人形)が洒落にならないほど怖い。そんなチャッキーが夜な夜な人を殺すのだ。それが2時間続く。拷問か。


しかもその驚かせ方はかなり性格が悪い。例えば『冷蔵庫を開けてジュースを飲む→冷蔵庫を閉じる→そこにチャッキーがいる』というのはまあベタな流れだが、『チャイルド・プレイ』はそこにプラスして『冷蔵庫を閉じる→いない→安心して顔を上げる→チャッキー』、もしくは『一番怪しい冷蔵庫のシーンでチャッキーが出てこない』というように絶妙にタイミングをズラすため、心の休む暇がない。


実際僕の隣で鑑賞していた女子学生二人組はあまりの怖さにずっと抱き合っていたのだが、心の底から「その空間に僕も入れてほしい」と思った。それほどに怖く、観ること自体が苦痛だった。生まれて初めて『途中退席』の四文字が頭を過ったほどだ。


しかしながらストーリー自体は悪くなく、話の筋も通っている。チャッキーにしても単なるサイコキラーではなく確固たる信念の元で殺人を行っていたし、ラストには胸アツの展開(心は氷点下)が待ち受けているので、おそらくビックリ系ホラーが好きな人はかなり面白いだろう。


なので普通に考えれば星3が妥当だろうし、人によっては星4でも問題ないのかもしれない。だが申し訳ない。このブログは『キタガワのブログ』だ。どんな映画であり、最終判断を下すのはなんと言おうと僕である。その僕が「もう無理」と心から思ったのだ。今後一生観ることはないだろうし、何なら今でもあのチャッキーの表情を思い出すと縮み上がってしまう。


……というわけで、今回は限りなく星3に近いこの点数ということで。どうかひとつ……。


ストーリー★★★★☆
コメディー★★☆☆☆
配役★★★☆☆
感動★☆☆☆☆
エンターテインメント★★★☆☆
SAN値減少度★★★★★

総合評価★★☆☆☆
(2019年公開。映画.com平均3.2)

 


映画 『チャイルド・プレイ』予告編

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2019@大阪(3日目)

こんばんは、キタガワです。

 

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8月16日から18日にかけて舞洲SONIC PARKにて開催されたSUMMER SONIC大阪の各日レポート。約2万字に及ぶ熱量で書き殴った1日目、EDMの圧に揉まれた2日目に引き続き、今回は最終日である3日目のライブレポートを書き記していく。当日のタイムテーブルは上を参照。


→サマソニ大阪2019の1日目レポはこちら
→サマソニ大阪2019の2日目レポはこちら


20周年を記念して3日間開催となったサマソニ大阪も、遂に最終日。


来年は東京オリンピックの影響により開催しない意向を決定しているため、この日をもってサマソニとは2年間のお別れとなる。朝から晩まで灼熱の気温に体を3日間晒し続けているため、正直疲れている感は否めない。しかしむしろ「最後は全力で楽しまなければ!」という思いが強まったことで、テンションは3日間の中で最も高くなっている感覚がある。


そんな3日目は「まさにサマソニ!」な歌って踊れるロックンロールに振り切ったラインナップで、盛り上がるのは必然と言える。


泣いても笑っても、これが最終日。以下、ライブレポートです。

 

 

amazarashi SONIC STAGE 11:00~

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最終日のサマソニ、記念すべき1番目として選んだアーティストはamazarashi。過去も何度かこのバンドの記事は書いているけれども、個人的な話としてはどん底だった最悪の時期を乗り越えさせてくれ、そして同時に生きる活力を与えてくれた、大切なアーティストの一組である。


開場時間である10時より早く到着した僕だったが、ソニックステージ前の光景に唖然とした。人があまりにも多すぎるのだ。


2階の入り口から螺旋状になっているスロープをぐるりと回り1階に抜け、そこから更に一直線の列が延々伸びている。最終的には総合案内所のすぐそばまで列は続いており、その光景を目にした通りすがりの観客は皆一様に「なにこの列!?」と驚きの声を挙げていた。


会場に足を踏み入れると、目を引くのはステージに設置された紗幕スクリーン。amazarashiのライブではもはやお馴染みとなったそれは、ステージをすっぽりと覆い隠しており、背後の機材も全く見えないほど。ここが匿名性と映像を武器に演奏するamazarashiの主戦場となる。


暗転した瞬間間髪入れずに始まったのは、『ワードプロセッサー』


哲学的な言葉の数々が散弾銃さながらの勢いで矢継ぎ早に繰り出される様は圧巻で、家でPCを観ているだけでは絶対に知り得ない興奮と衝撃がある。更には目が眩むほどの目映い光も作用し、意識は異様に覚醒していく。「歌うなと言われた歌を歌う。話すなと言われた言葉を叫ぶ」とはかつて音楽シーンで虐げられてきた秋田ひろむ(Vo.Gt)そのものであり、彼のそんな信念はまさに今、満員のソニックステージに高らかに響き渡っている。


轟音のアウトロの中「サマーソニック2019、舞浜ソニックパーク!青森から来ました。amazarashiです!」と叫んだ秋田に、観客は大きな拍手で祝福する。

 


amazarashi 『ジュブナイル』


その後はPVをそのまま投影した『ジュブナイル』、人形が痛々しい最期を迎える『命にふさわしい』、紗幕を一切使用せずひたすら歌の力だけでやり切った『僕が死のうと思ったのは』と続いていく。


ワンマンライブであればそれら全ての楽曲は『希死念慮に苛まれる人間や人生に絶望している人間に対して鳴り響く応援歌』とも言うべきものであるが、今この場においては夏フェスということもあり、普段のライブではまず見られない腕を挙げる人や口ずさんでいる人も多く、楽曲の持つメッセージ以上に、サウンド面での完成度の高さを改めて感じた次第だ。


最後の楽曲は、先日行われたライブツアー『未来になれなかった全ての夜に』にて事前情報なしで演奏された新曲、『未来になれなかったあの夜に』だ。


30分間、極めてハイカロリーな楽曲を歌い続けた秋田である。特に高いキーを必要とするサビ部分では声が裏返る場面もあったが、体力を気力で超越せんとばかりに演奏と歌唱はぐんぐん熱を帯びていく。ラストは「ざまあみろ」と何度も繰り返し、完全燃焼で幕を閉じた。


ライブ終了後のソニックステージは出口に向かう客でごった返していた。これはすなわち『amazarashiのライブを観るためだけにソニックステージに来た人』が大半だったことを明確に示す光景でもあり、古参ファンとしては嬉しい気持ちになった。


今回のamazarashiのライブは集まった観客からすれば、サマソニ最終日を飾る1発目としてこれ以上ない衝撃だったのではなかろうか。

 

【amazarashi@サマソニ大阪 セットリスト】
ワードプロセッサー
ジュブナイル
命にふさわしい
僕が死のうと思ったのは
美しき思い出
未来になれなかったあの夜に(新曲)

 

Psychedelic Porn Crumpets SONIC STAGE 12:10~

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続いては同じソニックステージで待機し、サイケデリック・ポーン・クランペッツを観ることに。同時刻、真裏ではグレース・カーターやCHAIといったポップミュージックが存分に鳴らされているが、やはり最終日の前半くらいはゴリゴリのロックで目を覚ましたいところだ。


サイケデリック・ポーン・クランペッツはオーストラリアの最西端で生活するロックバンドだ。『Psychedelic=幻覚』というバンド名からも分かる通り幻覚の如き爆音とノイズが入り交じるサウンドが特徴で、風の影響で音が動かないこのソニックステージにおいては、まさに最適な音楽性と言えるだろう。

 


Psychedelic Porn Crumpets - Hymn For A Droid


緑と赤を基本としたおどろおどろしい映像が大写しにされる中、ライブは『Hymn For A Droid』からスタート。トリプルギターから鳴らされるハードロック調の爆音はとてつもない破壊力で、鼓膜に直接訴えかけてくるよう。長髪を振り乱しながら演奏するメンバーも格好良く、まるで数十年前のロックバンドを観ているような感覚がある。


セットリストは今年発売されたニューアルバム『And Now For The Whatchamacallit』を主として構成されており、勇者がサイケ空間を旅する映像が流された『Bill's Mandlin』や、ゆったり系かと思いきやラストに爆音が響き渡る『Social Candy』と、彼らにしか鳴らせないノイジーなサウンドが終始鳴り続ける異次元空間がそこにあった。


VJには赤い円が外側にグルグル回り続けたり人の顔が分裂したり、目に痛いほどにグロテスクな色のペンキがぶちまけられるという、変な言い方をするならば「マジで頭が狂っている」映像が流れており、次第に意識がトリップしてくる。


中盤に至っては音圧が一段階上昇し、更には数分間に及ぶジャム・セッションまで繰り出すのだから堪らない。最初の方こそ後方で観ていた観客もいつの間にか前へ前へと押し寄せ、ラストの『Cornflake』が始まる頃には超満員となっていた。

 


Psychedelic Porn Crumpets - Cornflake (Official Video)


そんな『Cornflake』がまたとてつもない破壊力で、ノイジーなギターフレーズが延々と回り続けるサイケ曲。MVの映像をそのまま投影しつつ、最後は何度もヘドバンを繰り返して大団円。


今回のサマソニで初来日を果たしたが、海外でも日本でも知名度はまだまだの彼ら。しかし間違いなく今回のライブは『サイケデリック・ポーン・クランペッツ』というバンドを知らしめる、ひとつの通行手形的ライブだったと思う。それは最終的に超満員だったソニックステージを見ても明らかで、ツイッターを開けば賛辞の言葉で溢れていたほど。


もしかしたら、今年大ブレイクするのは彼らなのかもしれない。そう強く感じたライブであった。


【Psychedelic Porn Crumpets@サマソニ大阪 セットリスト】
Hymn For A Droid
Bill's Mandolin
Gurzle
Surfs Up
Found God in A Tomato
Social Candy
Buzz
Cubensis Lenses
Cornflake

 

SCANDAL MOUNTAIN STAGE 13:45~

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時刻は13時過ぎ。この時間帯は今年の3日間に及ぶサマソニの中で、唯一全てのステージで海外アーティストが出ないという稀有な状況下にあった。


メインステージではマイファス、更には堂本剛率いるエンドリケリーやキュウソネコカミと、どのステージを選択しても邦楽アーティストにぶち当たる環境の中選んだのは、今やガールズバンドの先駆者的存在であるスキャンダルだ。


かなりの大人数が収容可能なマウンテンステージだが正直かなり厳しい客入りで、集まった観客は疎ら。しかし流石はスキャンダル。夏に相応しいアッパーな楽曲の連続でもって、「私たちは私たちらしくやる!」という声が聞こえてきそうなほどの熱量で、マウンテンステージを揺らしていた。


思えば『メンバー全員が女性』という状況はサマソニ全体を通してもある種珍しくもある。会場は灼熱の気温に加えて設置された鉄柵の照り返しも相まってもはや理解不能な暑さだが、スキャンダルが姿を現した瞬間には爽やかな風が吹いたようにも感じる。

 


SCANDAL - 「マスターピース」 / Masterpiece - Music Video


リハの段階で『EVERYBODY SAY YEAH!』のフレーズが繰り返し流れていたにも関わらず結果的には演奏しないというまさかの流れには驚いたが、セットリストについてはここ数年間でリリースした比較的新しめの楽曲を軸に構成されていた。更にその中に『瞬間センチメンタル』や『SCANDAL BABY』といったスキャンダルの名前を広く知らしめた楽曲を散りばめることで、メリハリのある40分間に仕立て上げていた印象だ。


中でも抜群の盛り上がりだったのは、やはり『瞬間センチメンタル』だろう。テレビアニメ『鋼の錬金術師』の主題歌に抜擢されたこの曲は、ギターリフの時点で多くの歓声が上がるほどに大盛り上がりで進行。ボーカルのHARUNAは静かな中に熱を秘めた歌い方に徹し、ギター担当のMAMIはステージを所狭しと動き回って観客を煽り倒しながら高難度のフレーズを弾き倒していた。

 


SCANDAL 「瞬間センチメンタル」/ Shunkan Sentimental ‐Music Video


「知ってる人は歌ってね!」とのHARUNAの一声で始まった最終曲『SCANDAL BABY』に至っては、冒頭の「Let's go!」のフレーズからトップギアで進行。


中盤では中心で歌っているHARUNAに対してMAMIとTOMOMI(Ba.Vo)がパーソナルスペース完全無視の領域まで近付き、キス一歩手前の状態でプレイするアドリブも。しかしながら歌に集中できずに笑ってしまうHARUNAを見られるのもライブならではで、熱量を底上げする一種のスパイスとなっていた。


思えば僕がスキャンダルと出会ったのは、中学生の頃だった。当時『少女S』のPVで観ることのできた彼女たちは学生服姿で演奏していたのだが、それが今でも強烈な印象として残っている。あれから10年が経ち、少女だった彼女たちは今や立派な大人の女性となり、そして今でもスキャンダルとしての活動を精力的に続けている。


そんな彼女たちのいわば『ニュー・モード』とも言うべきライブが、今回のサマソニだったように思う。まさしく『今の自分たちの姿』が存分に詰まった新曲たっぷりのライブは少女の頃のスキャンダルしか知らなかったミーハーな観客にも、かねてより応援し続けているファンにも、鮮烈な印象を残したことだろう。


【SCANDAL@サマソニ大阪 セットリスト】
マスターピース
恋するユニバース
FREEDOM FIGHTERS
STANDARD
瞬間センチメンタル
Fuzzy
テイクミーアウト
SCANDAL BABY

 

YUKI OCEAN STAGE 15:30~

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スキャンダルのライブ終了後はソニックステージで演奏中のSam Fenderをチラ見し、予定より少し早いがオーシャンステージに向かうことに。


JUDY&MARY時代から数十年間に渡り、特に女性ボーカルによるバンド音楽の進化と発展に大きく貢献してきたYUKI。そんな彼女がサマソニ20周年を記念して出演を快諾し、ほぼロックバンドで固められたこのオーシャンステージに立つのは感慨深く、また今後数十年間続くであろうサマソニを占う試金石的な役割を担っていたようにも思う。


すうっと息を吸ってから始まった1曲目は、かつて紅白歌合戦でも披露した代表曲『プリズム』だ。

 


YUKI 『プリズム』


思えばかつて、太鼓の達人やアニメ主題歌、流行歌として無意識的に聴いていたのがYUKIだった。そんなYUKIがあれから何年もの月日を経て、今目の前でCD音源と全く変わらない歌声を響かせている……。それは何よりも感動的で、神秘的だった。彼女の清らかな歌声を聴くたびに当時の思い出がフラッシュバックする感覚があり、気付けば瞳は涙で濡れていた。


話は少し脱線するが、ライブの途中で酒を買いにドリンクエリアに赴いた際、店の店員が涙を流しながら接客をしていたのが今でも忘れられない。「YUKI、良いっすよね……」と僕が話しかけると、「うん……うん……」と泣きながら店員は頷いた。多くの言葉を交わしたわけではなかったが、心中を察するにはそれだけで十分だった。YUKIは本当に多くの人に愛されているのだと、改めて実感した次第だ。


ライブは『ふがいないや』や『ランデヴー』といった比較的古い楽曲を中心に、キャリア全体を網羅する形で進行。イントロが鳴った時点でどよめきが起こる楽曲自体の魅力もさることながら、総勢6人で鳴らす奥行きのあるバンドアンサンブルも相まって、自然に体が動いてしまう。


そして何よりYUKIである。先日47歳の誕生日を迎えたということだが、あまりにも可愛すぎる。左右に設置されたモニターに時折アップでYUKIの姿が映るのだが、どう見ても20代にしか見えない。歌っている最中もくるくる回ったり口を押さえてはにかんだりと、その一挙手一投足に目が離せない。

 


YUKI 『JOY』


中でも一番の一体感を見せていたのは『JOY』。終始ゆったり体を揺らす観客で溢れ、サビでは口ずさむ人も多くいた印象。ラストの「死ぬまでドキドキしたいわ」、「死ぬまでワクワクしたいわ」の観客との掛け合いもバッチリ決まり、YUKIも嬉しそうだ。


最後はひとつ前のアルバム『すてきな15才』から『フラッグを立てろ』をドロップし、ロックテイストな幕引きだ。ステージを去る瞬間「本当に今日は20周年、おめでとうございました!」と叫んだYUKIに対して、大きな拍手が送られた。


前述の通り、この日YUKIが出演したオーシャンステージは、YUKI以外は全てロックバンドで固めている特殊なタイムテーブルであった。例えば後に出演するWeezerやThe 1975といったバンド目当てに来た観客も多く、言うなれば非常にアウェイな環境下であったとも思う。


だが終わってみればYUKIの完全勝利。全身ロックバンドのコーディネートで固めたライブキッズや、日本語が分からない海外の観客でさえも、最終的にはYUKIのサウンドに身を任せていたのだ。


長く音楽シーンを牽引してきた歌姫、YUKI。彼女はこれからも音楽を鳴らし続けることだろう。そんな彼女を今この場所で観ることが出来たのは本当に良かったと心から思えたし、同時に誇りに思う。


【YUKI@サマソニ大阪 セットリスト】
プリズム
ふがいないや
ランデヴー
やたらとシンクロニシティ
2人のストーリー
ワンダーライン
JOY
フラッグを立てろ

 

Weezer OCEAN STAGE 16:40~

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おそらくフェスに赴く人の一般的な思考として、何よりも重視しているのは『誰が出るか』ということだと思う。家からの近さや環境、チケット代……。人によって優先すべき事柄は少しずつ違うだろうが、とにかく。まずもって重要なのは何よりもそのフェスのラインナップなのだ。


思えば僕が昨年初めてサマソニに行ったきっかけはノエル・ギャラガーだった。生粋の島根県民である僕がサマソニに行くのは容易いことではない。しかし「彼のライブを観られるのなら」と、一念発起してバイトに励み、結果的に彼のライブを観ることができた。


今年のサマソニ2019の僕の目的は、WeezerとThe 1975だった。この二組は今回の出演者の中では数少ない『全ての曲を知っており、また口ずさむことができる』というレベルで心酔し、聴き続けているアーティストだ。


必然YUKIのライブ終了時には「オラオラどけどけ」とばかりに僕の足は前方へ踏み出しており、結果的にはかなり前の方に陣取ることができた。あと数分でWeezerに会える……。そう思うと何故だか泣けてきた。


テレビの司会者チックなWeezerの紹介が流れた後、雪崩れ込んだのは不朽の名曲『Buddy Holly』だ。

 


Weezer - Buddy Holly (Official Music Video)


テクニックなんぞ知らんとばかりに無骨な演奏を繰り出すWeezer。その全てのサウンドが重く、心臓の奥まで響いてくる感覚がある。そして観客は当然の如く、ボーカルをかき消すほどの大合唱だ。しかもWeezerをWeezerたらしめた『Buddy Holly』が1曲目ともなれば、その興奮は相当なもの。


この日のライブでは、終始観客の大合唱がリードするという多幸感に満ち溢れた極上の空間となった。「日本人は英語の歌を歌えない」と揶揄されて久しいが、この日はまるで何十年間もオリコンチャートに食い込む楽曲と言わんばかりに常に観客が歌い、踊り、笑顔に包まれる環境だった。


更に驚きだったのはそのセットリストで、今年発売された『ブラックアルバム』、更にはその前年の『Pacific Daydream』、そしてその前年の『ホワイトアルバム』からの楽曲はひとつもなし。ではどのアルバムから重点的に演奏されたのかと言うと、なんと25年前に発売された記念すべきファーストアルバム『ブルーアルバム』から大半。更にはこれまた数十年前にリリースされた『グリーンアルバム』や『Make Believe』からの数曲を連続して鳴らすという、古参ファン号泣必死のセットリストだったのだ。


中でも『Beverley Hills』に挟まれた『Buddy Holly』から『My Name Is Jonas』というブルーアルバムゾーンは、特に30代あたりの観客がめちゃくちゃに熱狂していたのが印象的だった。早くも声が枯れている観客も何人か見受けられ、第一線で活動し続けるWeezerの凄さを感じずにはいられなかった。


ボーカルのリヴァース・クオモは日本人女性と結婚し、日本語だけを使って呟く個人ツイッターも開設しているほどに日本との関わりが強い人物。そのため日本語のMCも期待されていたところだったが、夏はジメジメすることに掛けて「はじめじめまして」(ジメジメと初めましてを掛けている)や「暑いですね。でも大丈夫です。ファンがたくさんいるから」(ファンと扇風機を掛けている)といった高度な親父ギャグを披露。以降も「イタダキマース!」や「オオキニ!」、「オオサカのオコノミヤキをタベマシタ」といった流暢な日本語を連発し、大きな笑いを生み出していた。


中盤にかけては今年発売のカバーアルバムである『ティールアルバム』から、タートルズの『Happy Together』、アーハの『Take On Me』を演奏したり、『Island In The Sun』で「ヘッヘッ」の応酬など、笑顔にならない人がいないレベルの楽しい空間を演出。

 


Weezer - Say It Ain't So (Official Music Video)


もはや全曲がキラーチューン状態のライブだったが、ラストは『Say It Ain't So』でだめ押しの大合唱。演奏終了後はメンバーが横並びで腕を挙げ、「ゴチソウサマデシタ!」と言い残して帰っていった。


ほぼ毎年アルバムをリリースし、今年に至っては2枚ものアルバムを出したWeezer。最近では来年発売予定のニューアルバム、更にはもうひとつアルバム制作中との噂もあるほどここ数年のワーカホリックぶりが凄まじい彼らだが、やはりそれはそれとして、初期曲の破壊力は素晴らしかった。


……全曲熱唱したライブは、いつ以来だろう。ガラガラになった声を自覚しながら「次は単独公演で観よう」と強く心に誓った僕であった。


【Weezer@サマソニ大阪 セットリスト】
Buddy Holly
Beverley Hills
Surf Wax America
Undone -The Sweater Song-
My Name Is Jonas
Happy Together(Turtlesカバー)
Island In The Sun
Take On Me(A-HAカバー)
Pork And Beans
Perfect Situation
Hash Pipe
Say It Ain't So

 

The 1975 OCEAN STAGE 18:05~

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もう最初に書いてしまうが、今年のサマソニ3日間で最も素晴らしかったアクトは個人的にThe 1975だった。


様々なライブを観てきた自負はあるが、この先The 1975のライブを超えるものは現れないような気がする。そう感じてしまうほどに刹那的で、衝動的で、何より圧倒的だった。


「Go Down……」と突如としてモニターに文字が映った『The 1975』のSEから、メンバーが次々ステージに降り立つ。1曲目はもはやオープナーとしてお馴染みとなった『Give Yourself A Try』。

 


The 1975 - Give Yourself A Try


甲高いギターリフが延々続く『Give Yourself A Try』は、The 1975のニューモードを予感させるロックナンバー。ライブのたびに風貌を大きく変化させるカメレオンぶりを魅せるマシュー・ヒーリー(Vo)は、今回はバウハウスのTシャツでシックな装い。早くも手にはタバコ。マイクを握って歌いながら残った指でタバコを挟むというロックスター然とした佇まいに、まず圧倒される。終盤ではマイクのコードをグルグル回転させて首に巻き付けるなど、早くもフルスロットル。


多数の『TOOTIME』の文字が下部からグーンと引き上がって始まった続く『TOOTIMETOOTIMETOOTIME』では、黒人女性ダンサー2名がマシューの脇を固め、息の合ったダンスを繰り広げる。彼女への電話の回数を数えるサビ部分では歌詞が投影され、観客は自身の指を数字に合わせながらゆらゆらと踊っていた。


今回のライブは完全なる『A Brief Inquiry Into Online Relationship』(昨年発売のアルバム)モードで、セットリストの大半をこのアルバムからドロップしていた。更には時に神秘的に、時にはきらびやかに姿を変える最新鋭のVJも圧巻で、ライブの盛り上がりに火をくべる役割を担っていたように思う。


さて、今回のライブで印象的だったのは、マシューによる最初のMCだった。その中でマシューは「普段はあまり言語の壁があるからたくさんは話さないけど、今回は少し話をさせてほしい」と前置きし、次のように話していた。


マシューは8月14日(この日のライブの4日前)に、ドバイのコンサートで最前列のファンの男に「キスしてくれ!」とせがまれ、キスをしたそうだ。だがドバイでは『反LGBTQ法』なる法律があり、同性愛を厳しく制限している。このニュースはメディアでたちまち話題になった。そう。彼はそのさざ波を受けた状態で、今サマソニのオーシャンステージに立っているのだ。


マシューはそのことについて「入国禁止になるかもしれない」と語った上で「僕は普段は抗議とかしないけどさ、人間と人間との間の関係でやったこの行為は美しかったし、ピュアな行動だと思うんだ。僕が言いたいのは、後悔してないってことだ」と締め括った。


そして「今怒ろうぜ」と語って雪崩れ込んだ『I Like America & America Likes Me』はあまりにも衝撃的だった。

 


The 1975 - I Like America & America Likes Me


The 1975: I Like America & America Likes Me


MVと同様の映像が流れる中、マシューはオートチューンがひび割れて地声が表れてしまうほどに感情を爆発させながら何度も絶唱。時折フラつく場面もあり、後半では大きな音を立てて地面に倒れてしまう。しかしそれでもマイクは離さず歌い続ける様は、心を動かされた。


ラストは『Sex』からの『The Sound』でシメ。『Sex』では「ポップバンド」「危険さがない」、「歌詞に説得力がない」といったアンチコメントが次々投影され、ラストは『ロックンロール・イズ・デッド』、『The 1975に神のご加護を』の文字と共に終了。そして「まだ時間ある?」とスタッフに確認した後、正真正銘最後となる『The Sound』で大団円。マシューは演奏終了と同時にステージに崩れ落ち、やりきった様子でステージを降りていった。


繰り返しになるが、今年のサマソニの個人的にベストアクトはThe 1975だった。というよりこの日のこの時点でもamazarashiやWeezer、YUKIといったアーティストに心打たれてはいたのだが、最終的にThe 1975に全部持って行かれた。


あの壮絶なライブを観て、虜にならない人などいるのだろうか。あの体験は一生忘れられない。久々に『バンドに惚れる』という経験をした。The 1975、罪なバンドである。書ききれなかったので詳しくはまた後日、個別レポを書きたいと思う。


【The 1975@サマソニ大阪 セットリスト】
The 1975(SE)
Give Yourself A Try
TOOTIMETOOTIMETOOTIME
She's American
Sincerity is Scary
It's Not Living(If It's Not With You)
I Like America & America Likes Me
Somebody Else
I Always Wanna Die(Sometimes)
Love It If We Made It
Chocolate
Sex
The Sound

 

Bananarama MASSIVE STAGE 20:00~

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The 1975の密集地獄を何とか潜り抜けた後、Two Door Cinema Clubの前にBananaramaを4曲くらい観れそうだったので、急遽マッシブステージヘ移動。


今回のサマソニ3日間で、個人的にどうしても観たかったアーティストを選ぶとするならば、まずは前述したWeezerとThe 1975。この後トリに観る予定のTwo Door Cinema Club。そしてBananaramaだった。


この日のサマソニで唯一心残りがあるとすれば、Bananaramaを最後まで観られなかったことだ。まさか僕が産まれる前から活動している彼女たちが一番最後に、しかも一番小さいステージで演奏するということは全く考えていなかったので、タイムテーブルが発表されてからは随分と悩んだ。悩んだが泣く泣く、本当に苦渋の決断でツードアに移動した。


……というわけで個人的に観たのは4曲目の『Move in My Direction』までなのだが、そこまでの時点でほぼ立ち止まらずに最前列に移動できるほどにステージはガラガラで、若干の物悲しさを覚えた中でライブを鑑賞。


しかしながらその『ガラガラ感』はむしろ良い方向に作用しているようにも感じた。まずステージが近いので、音がダイレクトに耳に伝わってくる。そして何より御年58歳を迎えるカレン・ウッドワードとサラ・ダリンが、目と鼻の先にいるのだ。海外でのライブは軒並みソールドアウト必死のBananaramaである。こんな光景、どのライブでも絶対に味わえない。

 


Bananarama - I Heard A Rumour (OFFICIAL MUSIC VIDEO)


中でも『I Heard a Rumour』の盛り上がりは格別で、すっかり暗くなった空も相まって、数十年前のディスコの雰囲気を漂わせる演奏となった。サビ部分では腕をくるくる回すおなみじの振り付けも披露され、カレンが「叫んで!」と語ると、観客は一様に「フウー!」の大盛り上がり。今から32年前の曲とは思えない、まさにベテランな貫禄を見せ付けていた。


ちなみに僕は(先程から自分の話ばかりで申し訳ないが)ウイスキー片手に最前列で踊っていたのだけれど、『I Heard a Rumour』で『島根県の超絶陰キャが踊っている姿』を見付けたカレン・ウッドワードが僕を指差して笑ってくれたのは、一生の思い出になった。


そのすぐ後にTwo Door Cinema Clubを観に行ってしまったこと、この場を借りて謝罪させてください。Bananaramaの皆様、申し訳ございませんでした。最後まで観たかったです。多分『Love In The First Degree』か『Venus』か『I Want You Back』聴いてたら泣いていた。……と思ったら終盤で演奏したらしい。くそう。


【Bananarama@サマソニ大阪 セットリスト】
Stuff Like That
I Heard a Rumour
Dance Music
Move in My Direction
Nathan Jones
Look on the Floor
Cruel Summer
Love Comes
I Want You Back
Robert De Niro's Waiting
Looking for Someone
Love In The First Degree
Venus
Na Na Hey Hey(Kiss Him Goodbye)

 

Two Door Cinema Club SONIC STAGE 20:25~

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3日間続けてのサマソニ、最後のアーティストはイギリスのロックバンド、Two Door Cinema Clubに決定。


会場内は既に蒸し風呂状態であり、初の日本人アーティストでトリを飾るB'zも、どしゃめしゃのパンクを鳴らすFall Out Boyも、ディスコソングで一昔前にタイムスリップさせるBananaramaも選ばなかったロック好きたちがここソニックステージに終結し、今か今かとその時を待っている。


今までは一切VJを使用してこなかったが、今年に入ってからは積極的にVJを用いるようになったツードア。定刻になると突如緊急を知らせるアラームが鳴り響き、ステージは真っ赤な照明に照らされる。


「Here We Go Rhythm」の合図で鳴らされたのは、最新アルバム『False Alarm』収録の『Talk』だ。


特にニューアルバムはCDジャケット(とアーティスト写真)に顕著だが、昨今のツードアの楽曲は打ち込みを多用したりテンポを変えるなど、ロックバンドの枠に囚われない作りで進行する今まで以上にチャレンジングな試みを行っている。『Talk』では頭を剃ったアレックス・トリンブルは声色を変化させてキャラクターを演じるように歌い、果ては打ち込みやボコーダーも使用するという、変幻自在のパフォーマンスで観客を魅了。

 


TWO DOOR CINEMA CLUB | UNDERCOVER MARTYN


かと思えば続く『Undercover Martyn』と『I Can Talk』ではBPM速めのロック路線に逆戻りし、サビでは観客がギターの音色を合唱するという一種のアークティック・モンキーズ状態に。そして次なる『Are We Ready?(Wreck)』では再び実験作に戻りゆったり聴かせるなど、良い意味でどっちつかずなバラエティー豊かな楽曲群で攻めていく。


やはりと言うべきか、今回のライブで「凄い盛り上がり!」と感じる部分は基本的にファーストアルバム『Tourist History』からの楽曲で、それこそ序盤の『Undercover Martyn』や『I Can Talk』のようにド直球のギターロックが好まれる傾向にあるようだ。……というわけで一番の盛り上がりを記録したのは間違いなく、ファーストアルバムのリード曲『What You Know』だった。

 


TWO DOOR CINEMA CLUB | WHAT YOU KNOW


特に最初のギターリフでは待ってましたとばかりに観客は「ううううーうっうー」の大合唱。思い返すと『サビよりもギターメロの方が有名』という楽曲は、世界中探してもほとんどないのではなかろうか。


今までに発売した4枚のアルバムから満遍なく披露した今回のライブ。ラストは『Sun』でゆったりとした幕引きだ。


背後のスクリーンには大きな日の出が大写しになっているが、サマソニという状況下も相まって、まるで日本国の国旗にも見える。アレックスはハンドマイクで縦横無尽に動き回り、後半ではお立ち台に上がってビシッと天を指差す場面も。


ラストはマイクスタンドをぶん投げ、ビールを飲み干して帰っていったツードア。アンコールはなかったが、むしろ「もう何も演奏出来なくないか?」と感じてしまうほど、聴きたい曲全部乗せの出し惜しみなしのパフォーマンスだった。


【Two Door Cinema Club@サマソニ大阪 セットリスト】
Talk
Undercover Martyn
I Can Talk
Are We Ready?(Wreck)
This Is The Life
Next Year
Do You Want It All?
Once
Bad Decisions
Changing Of The Seasons
Dirty Air
What You Know
Lavender
Satellite
Eat That Up, It's Good For You
Something good Can Work
Sun

 

……さて、以上でサマソニ大阪の3日目のレポートは終了だ。


今年は10年ぶりの3日間開催となったサマソニ。各日ごとに出演者のジャンルを均一化したり、1日目は混乱が起きたりといろいろあったが、今年も楽しかった。


来年は東京オリンピックのため中止が発表されているサマソニだが、今後何年間も続いていくフェスだと確信した。というより、絶対になくなってほしくないと感じた。サマソニ(とフジロック)は、今や海外アーティストを観ることができる貴重な機会。最先端の海外の音楽シーンに触れることができるのはもちろん、日本の音楽シーンの発展のためにも続けてほしい。いや、続けなければならないと強く思う。


本当に最高の3日間だった。また再来年、レポートを書けることを強く願いながらお別れしたいと思う。それでは。

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2019@大阪(2日目)

こんばんは、キタガワです。

 

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8月16日から18日にかけて舞洲SONIC PARKにて開催されたSUMMER SONIC大阪の各日レポート。約2万字に及ぶ熱量で書き殴った1日目に引き続き、今回は2日目のライブレポートを書き記していく。当日のタイムテーブルは上を参照。


→サマソニ大阪2019の1日目レポはこちら


さて、今年のサマソニは各日ごとに明確なジャンル分けが図られるという、非常にチャレンジングな試みが成されていた。


例えば先日公開した1日目はゴリゴリのロックバンドが多数出演する暴れたがりのライブキッズにとってはこれ以上ない環境だったし、3日目はUKロックとUSロックが渾然一体となったロックンロール・デー。


そんな中今回レポートする2日目は全くの別次元とも言うべき様相だった。そう。世界各国のポップ・アーティストが集い、ほぼ全てのステージでダンスミュージックが響き渡るという、言い方を変えれば『サマソニらしくない一日』であったのだ。


メインステージであるオーシャンステージでは基本的にZeddやThe ChainsmokersらDJ陣がフロアを揺らしまくり、GENERATIONSやSEVENTEENといった男性アイドルグループが脇を固める。


更にはヒップホップやソロポップアーティストも多数出演という徹底ぶりで、前日とうって変わって希少な存在となったロックバンドでさえシンセサイザーや打ち込みを多用してキラキラしたサウンドを鳴らすバンドばかり。この日だけはa-nationやULTRA JAPANを彷彿とさせる、極上のポップス空間として彩られた。


実際そうしたラインナップが影響したのか集まった観客の年齢層もグッと低くなり、Tシャツをズボンにインして簡易扇風機を持った10代~20代が続出。特にダンスミュージックが長時間鳴らされたオーシャンステージには、個性的な髪色で酒を片手に踊り狂うイケイケな人々やカップルが多数見受けられ、前日の半ば男男しい感じは皆無となった。


そんなパリピたちが跋扈する2日目(失礼)を、果たして陰キャ代表ことキタガワは攻略できるのか。ライブレポート、以下からスタートでございます。

 

 

Cash Cash  OCEAN STAGE  10:50~

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本日は会場に到着した瞬間、すぐさまオーシャンステージに移動することに。前日のこの時間帯はオーシャンステージが完全封鎖されていたため、朝イチでこの場に訪れることが出来たのはある意味得した気分になる。


更にそんな記念すべき1発目がDJ集団であるキャッシュ・キャッシュとなれば、否が応にも期待値は高まるというもの。この日の命運を分ける大事な30分は、彼らに託された。


『Take Me Home』のイントロと共にステージに降り立った3人。「こんにちは、キャッシュ・キャッシュだ!サマーソニック、今日は盛り上がろう!」といきなりの極悪サウンドで鼓膜を震わせる。ここから夜まで続く長丁場のサマソニである。そのため午前中からのダブステップは少々ハードにも思えるが、集まった観客は心頭滅却すれば火もまた涼しとばかりに跳び跳ねる。

 


Cash Cash - Take Me Home feat. Bebe Rexha [Official Lyric Video]


思えば今でこそDJパフォーマンスで有名な彼らだが、彼らは元々ロックバンドだった。2枚目のアルバムまでは打ち込みは入っているものの生楽器の演奏も存在し、中にはギターを主軸としたバンド然とした形で進行する楽曲もあるなど、今とは全く異なるスタイルだったのだ。


しかしそんな彼らの活動は大きな知名度には繋がらず、長らくの低迷期に入る。そして3rdアルバムからは遂に『ロックバンド→DJ集団』という大幅な路線変更を図り、ギターとベース、ドラムはステージ上から姿を消し、ひたすらDJブースの前で観客を煽り倒すスタイルに変貌した。


そんな1st、2ndの存在自体を抹消するかのような路線変更は、音楽シーンに大きな衝撃を与えた。なぜならそれほどに大幅な路線変更は長い音楽シーンを通して、今まで誰も行っていなかったからである。もちろん多くの批判にも晒されたが、彼らはその後は一貫してDJスタイルを突き進んだ。そして気付けば、絶大な人気を手にしていたキャッシュ・キャッシュ。


そんな彼らの人気を不動ものとしたのが、次に鳴らされた『Surrender』だ。

 


Cash Cash - Surrender (Official Video)


口ずさみやすい歌詞とコミカルなイラストが渾然一体となってモニターに表示された『Surrender』は、一見サイケデリックで、様々な国籍の人々がビカビカ光りつつコンマレベルで入れ替わる様は特にカオス。だがこの映像によって盛り上がりは更なる高まりを見せ、おそらくこの時間帯としては一番の盛り上がりを記録していたように思う。


しかし終始「オイ!オイ!」のコールに包まれた30分のライブは気付けば終わっていて、周囲には「もっとやってー! 」と叫んでいる観客もかなりの数いた。演出と音圧には一切文句なしだったのだが、他国のフェスではドロップされていたブチ上げ曲『Overtime』やAviciiの『Level』といった楽曲はなし。やはり持ち時間30分は少なかったか……。


徹頭徹尾1stと2ndからのトラックは一切流さず、3rd以降のDJスタイルでセットリストを固めたニュー・モードのライブだった。しかしながらあと30分は観たいので、次は来年のULTRA JAPANあたりで再来日を希望。


【Cash Cash@サマソニ大阪 セットリスト】
(セットリスト未確定により記載なし)

 

中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅ  MOUNTAIN STAGE  12:10~

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お次はマウンテンステージに移動。気付けば前日は一切このステージには立ち入っていなかったので、個人的には実質初めてのマウンテンステージとなる。


だが、会場周辺の様子がどうもおかしい。大勢の人々が数メートルに渡って列を成しており、そこから一切動いていないのだ。


その光景は台風の影響で入場不可となって大混乱を引き起こした前日と似ており、一瞬「またトラブルか!?」と焦った僕であったが、実際は全く違ったのだった。


そう。トラブルなどではない。この列はれっきとした『中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅを観たい人』だけが集まった結果、大行列が出来ていたのだ。


僕はキャッシュ・キャッシュ終了後に急いで駆け込んだため何とか入場出来たのだが、そのすぐ後に「もう無理。入場規制!」とスタッフが発しているのを聞いてしまい、ホッと胸を撫で下ろした自分がいた。ちなみに後日きゃりーの公式ツイッターにて投下された画像を観て更に驚いた。昨年もマウンテンステージには何度か訪れた経験はあるが、こんな光景は観たことがない。

 

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ステージ上にはDJ卓とお立ち台が備えられており、結論としてはキャッシュ・キャッシュやアランウォーカー、ゼッドと同様に音源を流しつつEDM感満載のライブパフォーマンスだったわけだが、個人的には間違いなくこの日観たアーティストの中ではベストアクト。それどころかライブ終了後には「もうこのままサマソニ終わってもいいな……」と心底思ってしまうほどに圧倒的だった。


髪を金に染めた中田ヤスタカと全身真っ白でコーディネートされたきゃりーぱみゅぱみゅがステージに現れた瞬間、怒号のような歓声に沸くマウンテンステージ。まずはいきなりの有名曲『ファッションモンスター』からライブスタート。

 


きゃりーぱみゅぱみゅ - ファッションモンスター,Kyary Pamyu Pamyu Fashion Monster


音源ではキラキラしたイメージを中心に進行する『ファッションモンスター』だが、今この場においては要所要所で中田ヤスタカが極悪なダブステップを入れ込み、全く違う『ファッションモンスター』として成立。


しかもその全てが原曲を破壊しているわけではなくあくまで元の楽曲の良さを残しつつ改変していたのも好印象。口ずさむ際に違和感を感じることもなく、更には原曲を擦りきれるほど聴いた人でさえも新たな魅力を脳裏にぶち込まれるという、まさに『中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅ』でしかなし得ない興奮を生み出していた。


今回のライブでは、基本的にきゃりーぱみゅぱみゅが数曲歌い、その後きゃりーが裏で水分補給をしている間に中田ヤスタカがDJスタイルでダブステップを鳴らす(主に自身のアルバム『Digital Native』から)という独自の形で進行。インターバルはなし。加えてかつて流行歌として一世を風靡した楽曲が流れてくるのだから、盛り上がるのも必然と言える。

 


中田ヤスタカ - White Cube (Official Video)


背後のVJにも触れておきたい。『インベーダーインベーダー』では「おっしゃLet's世界征服」の文字が映り、『にんじゃりばんばん』では振り付けを完コピするキャラクター、『みんなのうた』では手拍子で体感的に楽しませるといった1曲ごとに必ず何かしらの映像が投影され、目でも楽しめる作り。


更には『CANDY CANDY』では矢印が出現し「右!右!右!」「左!左!左!」と会場全体を動かしたり、『PONPONPON』は手拍子のパンパンという音に合わせて食パンが宙を舞う。『み』に至ってはBPMがどんどん速くなり、最終的には倍速になるというドS仕様に。


その盛り上がりは凄まじく、加えて灼熱の気温である。観客も中田もきゃりーも相当過酷な状況下だったと思う。基本的にお立ち台に立って動き回っていたきゃりーの体力低下は特に厳しいものがあり、後半にかけては声も掠れ気味で、正に肩で息をしているかのようなグロッキー状態に。そんな中最後までやり通したきゃりーには、素直に「格好いい」と思ってしまった。


思えばこの日様々なアーティストがマウンテンステージでライブを行ったが、大規模な入場規制が起こったのは中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅオンリーだったのではなかろうか。こんな最高のライブ、一生忘れられない。

 

【中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅ@サマソニ大阪 セットリスト】
ファッションモンスター
White Cube
つけまつける
爽健美茶のうた
原宿いやほい
CANDY CANDY
インベーダーインベーダー
最 & 高
みんなのうた
PON PON PON
演歌ナトリウム
にんじゃりばんばん

Level Up
きみがいいねくれたら
キズナミ
もんだいガール
音ノ国

 

番外編・もぐもぐタイム  13:30~

キャッシュ・キャッシュ、そして中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅというEDMの連発に少し疲れてしまったので、前日と同様にオアシスエリアで休憩を挟むことに。

 

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今回の食事は「なるべく腹持ちの良いガッツリしたもの」、かつ「並ばずに食べられるもの」をチョイスした結果こちらの牛串(700円)と焼きそば(500円)を購入。ちなみに焼きそばは出てきた瞬間に「うわー!飯だー!」と興奮し1分で食べきってしまったので、思い出した頃には写真を撮っていなかった。無念。


……さて、話は変わるが、前日のサマソニで僕はひとつ思ったことがある。それは『酒が高い』ということ。


これについてはサマソニに限らずフェスあるあるだと思うのだが、フェスはとにかく酒が高い。例を挙げるとするならば、コンビニで200円少々で販売されているスミノフはここでは600円。ビールも同様に本来の3倍近い価格で販売されている。


正直これに関しては「別に飲まなければいいじゃん」という流れではあるのだが、この日に限ってはそういう事も言っていられない。なぜならこの日の後半はアランウォーカーとゼッドが続くいわば『パリピエリア』。昨年マシュメロのライブを観たときにも思ったことだが、僕はEDMのライブとはどうも相性が悪い。普段はロックバンドを中心に聴いているため、どうしてもほぼ直立不動でアクション自体が少ないEDMのライブは、途中でダレてしまう傾向が強いのである。


しかしアランウォーカーとゼッドは曲自体は好きなので絶対に観たい……。そんな中編み出した『とある対策』がこちら。

 

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そう。酒の持ち込みである。

 

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実はサマソニに来る前、近所にあるドンキで酒をしこたま買い込んでおいたのだ。 中でも極め付きはこのウイスキー。約40%という極めて高いアルコール度数を持ち(一般的なビールは5%)、更には尻ポケットに入るほどコンパクト。かつキャップも付いている。僕はこの瞬時に異次元にトリップできる魔法の飲料を、チビチビ飲みながらこの日を過ごす予定だ。嗚呼、何と素晴らしいフェス体験。


ちなみに爆音で音楽を聴きながらそのまま飲むのも乙なものだが、裏技としてコンビニでウィルキンソンを買い、その中にウイスキーを入れれば即席のハイボールにもなる優れもの。今後フェスに行く予定のある人は是非ともチャレンジしていただきたい。子どもはマネしちゃダメ。

 

JAIN  SONIC STAGE  14:10~

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腹も膨れたところで、快適かつ音響の良い(と勝手に思っている)ソニックステージに移動し、今大注目の新星・ジェインを観ることに。


ジェインは弱冠27歳のフランスのシンガーソングライター。4年前に公開した『Come』が瞬く間にバズり、現在は1億を超える再生数を記録していることでも注目を集めている。


世界の各地を転々とし、アートの活動を行ってきたジェイン。中でもドバイやコンゴ共和国で受けた音楽知識は現在の曲調に大きく繋がっており、彼女の楽曲を一部分だけ聴いただけでもどこかラテンらしき雰囲気が垣間見える。『流行の音楽』とはまた一味違う魅力……。それこそがジェインサウンドなのだ。


ソニックステージに入ると、予想だにしない光景が広がっていた。そこにあったのは何とちょこんとしたテーブルにPCが置いてあるのみで、バンドセットもギターもマイクスタンドも存在していなかったのだ。そう。ジェインは徹頭徹尾自分一人の力だけで、40分間のライブをやり遠そうというのである。


暗転後、全身真っ青のおなじみの姿で登場したジェイン。体のラインがくっきり出る服装がジェインのスレンダーな身体を際立たせ、まるで雑誌モデルのようにも見える。


ライブはその都度ジェインがPCのトラックボタンを押し、オケを流しながら歌うスタイルで進行。一見地味にも思えるパフォーマンスだが、ジェインの大振りな一挙手一投足と心臓に響く低音、きらびやかなVJが作用し唯一無二の世界観を形成していた。

 


Jain - Come (Official Video)


40分間のライブで最も盛り上がったのはやはりと言うべきか、『Come』であった。曲の途中で客席に突入したジェインは、最前列の観客に無作為にマイクを渡し「Come, come, my baby come」のフレーズを歌わせる。冷静に考えていきなりマイクを渡されて「歌って」と指名されるのはなかなか酷であり、当然の如く観客のほとんどが音は外すわブツブツ途切れるわ、歌声の大きさもバラバラと、もうぐちゃぐちゃ。


そうして10人ほどに歌わせたジェイン。するとステージに上がった瞬間、PCのスイッチを押す。そこで流れ始めたのは何と先程歌わせた観客の歌声。実はジェインがこっそりと録音していたらしい。


その後はルーパーで観客のヘタウマな歌声をループさせながら『Come』に逆戻り。ジェインの綺麗な歌声とバラバラな観客の歌声が渾然一体となり、必然的にスピーカーから流れる音は完全なるカオス状態と化す。そこで再び訪れたサビはもちろん皆大合唱で、ライブ中一番の多幸感に包まれた瞬間だったように思う。

 


Jain - Makeba (Official Video)


ラストは『Makeba』。歌唱前に「コンテスト!」と叫んだジェインが客席を右と左に分けてどちらが一番大きな声を出せるかを競わせ、後半は「sit down please……」と観客を全員座らせてからのジャンプで大団円。


本当にたったひとりで会場を掌握したジェイン。その後のサイン会ではライブの衝撃を受けてサイン会会場に押し寄せる人もかなりの数おり、ジェインのステージングの凄さを物語っていた。


【JAIN@サマソニ大阪 セットリスト】
Heads Up
Alright
Zombie
Inspecta
Dream
Star
Come
Makeba

 

VICKEBLANKA  MASSIVE STAGE  15:05~

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続いては今ドラマ主題歌やCMソングで大注目の日本アーティスト、ビッケブランカを観る。


個人的にはファーストアルバム『Slave Of Love』から長らく追い続けているアーティストであり、最近でも『ウララ』や最新曲である『Ca Va?』といった楽曲を好んで聴いていた。だが同時にフェスや単独公演の機会を何度も逸し続けていた存在でもあり、ようやくこの目で観ることができたので感慨深い。


映画ライオンキング『サークル・オブ・ライフ』のSEでステージに舞い降りたビッケブランカ。瞬間「Oh……my……」との呟きがスピーカーから流れ始め、1曲目『ウララ』がスタート。

 


ビッケブランカ『ウララ』(official music video)


『ウララ』は正に1曲目にぴったりの、キラキラのサウンドが織り成すアッパーな楽曲。ビッケブランカは時折高いファルセットで楽曲を彩り、もはやおなじみとなったピアノは激しく主張している。前方では踊り狂う観客が多数見受けられ、後方ではビール片手にゆらゆら踊る観客。灼熱の気温ではあるが、涼しい風が吹いているようにも錯覚するような爽やかなパフォーマンスだ。


SEVENTEEN(ツイッターの合計フォロワー数500万超えのK-POPグループ)が真裏でライブを行っていたためか、決して多い動員ではなかった。だがこの時間マッシブステージに集まった観客は、一人のこらず賛辞の言葉を口にするだろう。それほどに完成され、ひたすら心に訴えかけるライブであった。


ライブならではのアレンジも数多く存在したのが、今回のビッケブランカのひとつのポイント。本来であれば中盤に「No thanks……」と語られる『Slave of Love』は観客を指差し「好きっ」と笑顔で伝え、その後は原曲にはなかったピアノの独奏で終えるアレンジを披露。続く『夏の夢』では「夏なんて知らない」と歌った瞬間「あれっ!?ベース変じゃない?」と大声で叫び、「壊れたのでベース抜きでやります。何かアコースティックな感じになるな。ベースが無いと……」とニューバージョンの『夏の夢』を演奏。笑いありアドリブあり。しかし曲は終始真面目に聴かせる、素晴らしいライブであった。


その後も「バラードを2曲続けてやります」と言ったかと思えば「何を血迷ったか、今から僕はバラードをやろうとしていた!危ない!」とロック調に変えてみたり、「皆さんこれだけは誰にも言わないでください。ゾフ(ビッケブランカがモデルを務めるブランド)のサングラスを忘れて今レイバンをかけているということは……」と語るなど、30分のライブ中MCをふんだんに取り入れ、余裕のライブを見せ付けていた。

 


ビッケブランカ / 『Ca Va?』(official music video)


2曲に渡ってゆったり聴かせてからの、ラストは最新曲『Ca Va?』でファンキーな幕引き。中でもサビ部分における「カモン、サヴァー?」の一体感は凄まじく、いつの間にかかなりの客入りになった会場内に高らかに響き渡っていた。


ダンサブルな楽曲、バラード、タイアップ曲と、総じてフェス向きのセットリストで進行した今回のライブ。この30分にビッケブランカの魅力が存分に凝縮された、パーフェクトな時間だったように思う。ニューアルバム『wizard』が良作立ったことや昨今の勢いを鑑みるに、これからは更にチケットが取れない存在になりそうな予感。なので今度はぜひ、単独公演で会いたいところだ。


【VICKEBLANKA@サマソニ大阪 セットリスト】
ウララ
ファビュラス
Slave Of Love
夏の夢
まっしろ
Ca Va?

 

Alan Walker  OCEAN STAGE  16:30~

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続いてはこの後アラン・ウォーカーとゼッド、更にはザ・チェインスモーカーズという世界的DJが連続する、ダンスミュージックエリアことオーシャンステージに向かう。


するとすぐさまステージ入場口からズラリと伸びる列を発見し、早くも「これはヤバいライブになる」という予感が。確かによくよく考えてみればアラン・ウォーカーの後に全く別ジャンルのアーティストが出演するならいざ知らず、アラン・ウォーカーの後に出演するのは同ジャンルのアーティストしかいないわけで、おそらくはゼッドのファンやザ・チェインスモーカーズのファンもごちゃ混ぜになっての大渋滞であった。


そんな予感が的中したのは、中に入ってすぐのこと。一言で表すならば『パリピ感』。どこぞの海やクラブに入り込んでしまったような、圧倒的な場違い感が僕を襲った。


例えば男性は上半身裸や無数のタトゥー、短パン、サングラス。女性はヘソ出しルックや谷間を強調する服、簡易扇風機持ち、イヤリングや派手な装飾と、普段絶対に関わらない類いの人種がゴロゴロいた。しかも年齢がかなり若い。


普段は全身真っ黒のユニクロコーデで固めながら島根県で細々と暮らしている僕である。そこには生まれ変わっても関わることのないであろうタイプがごまんとおり、頭がクラクラした。最終的には学生時代の虐められた経験がフラッシュバックする始末で、中でもPornhabやxvideosのTシャツを着ている人には心底「関わりたくない」と思ってしまった。


閑話休題。

 


Alan Walker - The Spectre


アラン・ウォーカーのライブは主にリミックススタイル。セットリストは発売済みのアルバムである『Faded』と『Different World』からの楽曲と自身がリミックスを務めた他アーティストの楽曲で固め、基本的には再生してから最も盛り上がる1番のサビ部分まで流し、その後別の曲にスイッチする形で進行。必然的に休憩時間はほぼなしで、ひたすらEDMが爆音で流れるクラブ状態であった。結果的にセットリストは以下の通りとなり、なんと約50分で26曲を流し切った。


大歓声の中迎え入れられたアラン・ウォーカー。まずは肩慣らしに『Faded』のイントロバージョンをドロップし、そこからはいきなりの『Different World』から一ヶ月前フジロックでトリを務めたシーアの『Move Your Body』でガンガン攻め立てる。周囲の観客はこの時点で汗だくで、1曲が終わるたびに「ヤバい!」と声を上げていたのが印象的だった。


モニターには終始モノクロかつざらついた処理が成されたアラン・ウォーカーがリアルタイムで映し出されており、激しい楽曲でありながらある種の悲壮感を感じさせる。そのVJは後に極彩色でテンションを底上げしたゼッドとは完全に真逆に位置するものであり、明るい曲調でありながら鬱々しい歌詞が踊る『Alone』や『The Spectre』といった楽曲を多く世に送り出してきたアラン・ウォーカーらしい演出。


矢継ぎ早に繰り出される大音量かつダンサブルな楽曲の数々でもって、まだまだ明るい時間帯ではあるものの、気分は深夜0時のクラブそのもの。僕は偶然アルコールを販売する出店の前にいたのだが、次から次へとビールやジントニック、ショットのウイスキーが売れていくので面白いことこの上ない。更には常にEDMが「早くしろ」と急き立てるように流れているため、店員はいろいろな意味で死にそうになっていた。お疲れ様です。


後半では火柱やスモーク、クラッカーの発射である種のお祭り状態になっていたアラン・ウォーカーのライブ。ラストは某動画サイトで驚異の24億回再生(!)を記録した『Faded』の大合唱でシメ。

 


Alan Walker - Faded


最後には『Faded』の極悪リミックスで追い打ちし、「ありがとうサマーソニック!」と語って終了。恐ろしいスピードで駆け抜けた50分のステージングであった。


ライブ終了後はもちろんゼッドを観るためにそこに残る人が大多数だったのだが、疲れた表情でステージを去る人もかなりの数おり、このアラン・ウォーカーの50分がいかに濃密なものだったのかを鮮明に表していた。


ちなみに僕も同様に完全に疲れ果ててしまい、良席を放棄してステージ後方に移動したクチ。これは僕の単なる推測に過ぎないが、おそらくアラン・ウォーカー→ゼッド→ザ・チェインスモーカーズの流れでこの日を最前列で楽しんでいた観客は、多分何人か熱中症で倒れていたと思う。それほどまでの盛り上がりだった。あっぱれ。


【Alan Walker@サマソニ大阪 セットリスト】
Faded~Intro Edit~
Different World
Move Your Body(SIA)
Diamond Heart
Lonely
Home(FROZT)
Tired
Recognise(Lost Frequencies)
You Don't Know(Vol2Cat)
Darkside
ResuRection(Planet Perfecto Knights)
Champion Sound(Nicky Romero & Teamworx)
On My Way
All Falls Down
Matrix(W&W × Maurice West)
Ignite
Ups & Downs(W&W × Nicky Romero)
Tsunami(DVBBS & Borgeous)
Kernkraft 400(Zombie Nation)
BAWAH TANAH(Quintino)
Alone
Get Down(Retrovision)
Your Melody(Mesto & Jonas Aden)
The Spectre
Lost Control
Faded

※括弧内は原曲アーティスト

 

Zedd  OCEAN STAGE  17:55~

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今年20周年を迎えたサマソニだが、当初レッチリやB'zを抑えて唯一の『シークレットアクト』として発表されていたのが、何を隠そうゼッド王子である。


世界DJランキングでは名だたるDJが存在する中長年上位をキープし続け、リリースした楽曲も軒並みチャート上位。最近購入した自宅は『17億円超えの豪邸』とも称され、まさに時代を席巻するEDMプリンスとなった。そんな彼を一目観ようと、会場はアラン・ウォーカーの時間帯以上に超満員。更には全員が出来る限り近い距離で観ようと前方へ移動し、もはや人ひとりが抜ける隙間もないほどビッシリの客入りだ。


ふとステージに目を凝らすと、おなじみのDJブースに加え、ゼッド仕様の巨大な円形状の証明機材がセッティングされる。さながらその光景は一種の要塞のようでもあり、否が応にも期待が高まる。

 

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ゼッドがステージに降り立ち、腕を高く掲げたところで1曲目『Spectrum』がスタート。

 


Zedd - Spectrum (Official Music Video) ft. Matthew Koma


瞬間、目映い光が網膜を刺激する。その光はあまりに非現実的なものであり、異次元に迷い混んだような感覚に陥る。例えるならば『光が物理的に殴ってくる感覚』。ポカンと口を開けて方針状態に陥っている人が多数見受けられた。人間はあまりに非日常的な光景を観ると方針状態になるというのが身に染みて実感した次第だ。


それこそ1時間ほど前のアラン・ウォーカーのライブではサビに突入した瞬間すぐさま次曲へ移行していたのだが、ゼッドは1曲あたりの持ち時間が意外と長めで、特に自身が作曲した楽曲に関してはじっくりと聴かせていた。


しかしそんな楽曲の数々は、あまりにも爆音かつインパクト大の迫力でもって押し寄せてくる。これに関しては口で説明するのは不可能のため、ゼッドの公式ツイッターから画像を拝借したので確認してほしい(以下参照)。要するにこうした場面が毎分訪れるイメージでほぼ間違いない。これほどの光景を観れば、盛り上がらないということの方が難しいレベルである。


選曲については言わずもがなで、車のCMでお茶の間に鳴り響いた『Beautiful Now』、日本ならではのショーン・メンデスの『Lost In Japan』、そしてドラムプレイヤーだったゼッドをDJに走らせるきっかけとなった、ダフト・パンクの『One More Time』など、やりたい放題。

 


Zedd - Clarity (Official Music Video) ft. Foxes


後半はここ数年でリリースしたゼッド楽曲オンリーで進行する力技。中でもやはり最終曲の『Clarity』は圧巻。サビ部分ではボーカルをオフにして観客に託す場面があったどころか、ほぼ全編通して大合唱。VJの激しさも次第に増していき、空が暗くなり始めた後半にかけては目が眩むほどの光が会場を包んでいた。ラストは「エーエーオー!」の部分も観客に託し、凄まじい一体感で終了した。


僕はステージ後半で寛ぎながら観ていたのだが、それでも興奮を体感するには十二分な環境だったと思う。しかし同時に思ったのは、「最前列で観ていたらどうなっていたんだろう」ということ。この日後悔することがあったとすればその点だけである。分かってはいたことだが、やはりゼッドは偉大なアーティストだった。


【Zedd@サマソニ大阪 セットリスト】
Spectrum
Find You
Bad Company(Dirtcaps, DJ AfroJack)
Thunderstruck(AC/DC)
Starving
The Time(The Black Eyed Peas)
I Want You To Know
Addicted To A Memory
Rude(MAGIC!)
Beautiful Now
Stay
Lost In Japan(Shawn Mendes)
One More Time(Daft Punk)
Happy Now
Break Free
The Middle
Stay The Night
Clarity

※括弧内は原曲アーティスト

 

The Vamps  MASSIVE STAGE  19:00~

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午前中から踊り狂ったサマソニ2日目も、もうじき終わりを迎える。最後に選択したアーティストはフォロワー数400万超えのボーイズバンド、ザ・ヴァンプスだ。


「バンド版ワン・ダイレクション」との呼び声も高い彼ら。海外では各会場数千人を動員するツアーが全公演即日完売するなど、18歳そこそこでデビューしてからというもの、全く変わらない人気を今でも誇っている有名バンドである。ちなみに彼らは1994年~1996年生まれなので、一番の年長者であるトリスタン・エヴァンス(Dr.Vo)でさえまだ24歳というピチピチっぷり。


そのためラインナップが発表された際にはてっきり『ザ・ヴァンプスは多分メインステージに出るだろうな』と思っていたのだが、結果としては一番小さいマッシブステージというから驚きだ。普段は最低でも1000人規模のアリーナでライブをしているザ・ヴァンプスである。もちろん全員が入り切る訳がなく、柵の外でも多くのファンが塊になっていた。


その美貌にも注目が集まるザ・ヴァンプスらしく客層としては女性が約8割で、しかも全体的にかなり若い。ちなみに最前列を陣取っている観客は全員が20代前半の女性だった。そんなこんなで、ライブ開始前から多数のカメラと黄色い声が飛び交うカオスな環境でもって、この日最後のライブは始まったのだった。


焦らしに焦らすカウントダウンの末、メンバーが登場。観客は大歓声……というよりはもはや絶叫に近い(「キャー」ではなく「ギャァー!」寄り)形でお出迎え。1曲目『Just My Type』のイントロが流れた瞬間には、日常で経験しうる何物にも当てはまらないような、名状し難い盛り上がりに包まれる。

 


The Vamps - Just My Type


ザ・ヴァンプスの今回のライブでは、ほぼ全編通して観客が歌っていたのも印象的だった。これは決して誇張表現ではない。サビだけではなく本当に最初から最後まで、1時間の間ずっと観客が大合唱しているのである。


特に『Just My Type』での大合唱は凄まじく、ボーカルであるジェームズ・マグウェイはしっかり歌ってはいるのだが、彼の歌を相殺する勢いで観客が熱唱しているため、ジェームズは時折歌うのを放棄して客席にマイクを向けていたのが印象的だった。おそらくこうした光景は日常茶飯事なのだろう。ジェームズは嬉しそうな表情を浮かべながら、歌のほとんどを観客に託していた。


『Just My Type』終了後、ジェームズが「ダイスキ!」と発した瞬間には再び怒号のような歓声に包まれる。ちなみに隣にいた女性は「oh……ジェームズ……」と言いながらボロ泣きしていた。こんな素晴らしい光景は、世界中どこを探してもないだろう。


今回のライブはザ・ヴァンプスの今までのキャリアを総括する、まさにベスト盤的セットリストで進行。マイナーな曲は皆無。それどころか某動画サイトでミュージックビデオが公開されている楽曲に関してはほぼ全て演奏したのではなかろうか。そんな大盤振る舞いの楽曲の数々に対し、朝から動き回って疲れている筈の観客は絶叫と興奮で応戦。もはやワンマンライブ状態である。


ちなみに「どれだけ凝った映像が出てくるんだ……」とライブ前に期待していた背後のVJは、あまりにも簡素だった。もちろん『For You』や『Middle Of The Night』、『Wake Up』の際には目映い演出があったりもしたが、基本的には『The Vamps』と書かれた映像を投影し続けていた。そんなあくまでも歌の力と観客との一体感のみで掌握していた今回のライブはむしろ好印象で、常に大合唱する観客を観ていると「VJって別に要らないなあ」とも思える程に良かった。


『Somebody To You』ではメンバー全員がステージドリンクを客席にぶん投げ、『Last Night』終了時には「今日は初めての人も多いと思うけど、来てくれて本当にありがとう。ダイスキ」と語り、最新曲『Missing You』ではジェームズが客席突入と、アイドル的人気を誇るザ・ヴァンプスならではの盛り上げ方もしっかり押さえた磐石のライブ。

 


The Vamps & Matoma - All Night (Official Video)


ラストはこれを聴かなければ帰れない『All Night』。「最後の曲だよ」と前置きされたことも作用してか、今までよりも遥かに観客の歌声が大きく響き渡る。後半では観客を座らせてのジャンプで盛り上がり、大団円で幕を閉じた。


代表曲の固め打ち。全員の大合唱。イケメン。ジェームズのフロントマン然とした動き……。ザ・ヴァンプスのこの日のライブは、どの一場面を切り取ってみても最高の画が撮れるほどに満点の出来だった。何年経っても時折思い出してしまうような、そんな空間だった。歌いすぎてすっかり枯れてしまった自分の声を自覚しつつ、「次は単独ライブで2時間くらいは観たい」と心から思った。ザ・ヴァンプス、ダイスキ。


【The Vamps@サマソニ大阪 セットリスト】
Just My Type
Personal
Wild Heart
For You
Middle Of The Night
Somebody To You
Last Night
Can We Dance
Wake Up
Missing You
Cheater
All Night

 

……さて、2日目のレポートは以上である。いかがだっただろうか。


個人的にベストだったのは中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅ、次点でThe Vampsといったところで、逆に言えば「僕はあまりEDMには耐性がないんだな」という事実を改めて感じた一日でもあった。ウイスキーイッキ飲みという悪魔の所業でハッピーになってはいたものの、特に後半のオーシャンステージにおけるEDMの連発は、世間的に陽キャ(パリピ)と呼ばれている人たちでさえ『本物の陽キャと似非陽キャ』にスッパリと二分する、ある種ULTRA JAPAN的な環境下だったように思う。


別にそれが悪いわけではないのだけれど、やはりサマソニはロックフェスなのかなと思った次第である。


次回はついにサマソニレポの最終日である、3日目をレポートする。ロックバンドのパートが何ヵ所も点在し、終始興奮しきりだった最終日。なるべく近いうちに書き進め、公開したいと思う。


それでは。

【ライブレポート】SUMMER SONIC 2019@大阪(1日目)

こんばんは、キタガワです。

 

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8月16日から18日にかけて舞洲SONIC PARKにて開催されたSUMMER SONIC大阪に、今年も参加した。今回はその1日目のライブレポートを書き記していく。当日のタイムテーブルは上を参照。


昨年のライブレポートは以下を参照。


→SUMMER SONIC 2018 前乗り編はこちら
→SUMMER SONIC 2018 初日レポはこちら
→SUMMER SONIC 2018 最終日レポはこちら

 

 

ハプニング①……台風10号の発生

今年のサマソニ……特に今回記述する1日目は良い意味でも悪い意味でも、ふたつのハプニングに直面した歴史的な一日と言えた。おそらくは運営にとっても観客にとっても、人それぞれに様々な感情を抱いたことだろうと思う。


まずは本編に入る前に、2019年度のサマソニを語る上で絶対に避けられないほどに重要な、その『ふたつのハプニング』について語らねばなるまい。少し長いがお付き合い願いたい(ライブレポートだけ読みたい人は飛ばしてください)。


サマソニから遡ること2日前。8月14日に、その一報は日本列島を駆け巡った。


『超大型の台風10号が、15日にも関西へ接近の見込み』。ひとつ目のハプニングは何を隠そう、この台風10号の発生である。

 

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お盆休みを直撃したこの台風10号は『超大型台風』と称されていることからも分かる通り範囲が非常に広く、更には雨量が局地的に1000mmという、もはや災害レベルの台風としてニュース番組で報じられた。そんな歴史的な超大型台風が事もあろうにサマソニの前日である15日に関西に直撃することが確定事項となった。


……結果的には当然のように、15日に僕が島根から乗る予定だったバスは運休となった。それどころか15日はバスのみならず電車や新幹線も、終日全線運休という最悪の流れに。


そんなこんなで15日に前乗りする予定だった僕だが、「もう15日は無理だ」と判断し、予定を大幅に変更してその前日である14日には大阪に向かうことを決意した。


無理を行ってバイトを早上がりさせてもらい、その足で最終便の新幹線に飛び乗った。結局大阪に着いたのは、日付が変わるか変わらないかくらいの時間帯で、その日は死んだようにホステルで夜を明かした。


しかしながら「台風が来るため全線運休」と報じられた15日の大阪は雲ひとつないドッピーカン状態だった。僕は心底「本当に台風なんて来るのかよ」と疑問を抱いたのと同時に、「これはサマソニは間違いなく開催されるだろう」と思いつつ大阪の街を堪能した。

 

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だが夜19時を過ぎようという頃、どしゃ降りの雨が大阪を包み込んだ。その勢いは凄まじく、痛いほどの雨が体を打ち付けて一寸先も見えないほど。体験したことのないほどの大雨に、僕は考えを改め「明日のサマソニは中止だ」と感じつつ、取り敢えず開催される僅かな可能性を信じて床に着いたのだった。


しかしながら予想に反して、サマソニは開催された。台風一過により灼熱の気温となったサマソニ会場に着いた僕は、最高の日になると確信していた。そう。あのアナウンスがあるまでは……。

 

ハプニング②……直前での出演キャンセルの多発

もうひとつのハプニングは、予想外の形で知れ渡った。ヤバイTシャツ屋さんを観ようとマウンテンステージに向かった僕は、目を疑った。腕をクロスして×サインを作った係員が、大声で何かを叫んでいる。


「オーシャンステージとマウンテンステージは、台風の影響による復旧作業のため、開場致しておりません!」


何とメインステージであるオーシャンステージ、更には2番目に大きなステージであるマウンテンステージが、今現在も復旧作業に追われているというのだ。確かに昨日の台風は凄まじかったので、何かが破損したり飛ばされたりしたとしても仕方ないと思う。


しかしながら問題なのは、その情報共有がスタッフ間で密に行われていないことだった。


集まった観客はアーティストを観たい。もし出演がキャンセルになるなら他のステージに行くし、演奏する可能性が少しでもあるならば待機したいと思っている。


片やアルバイトスタッフは『そもそもライブをやるのかどうか』すら把握していないため、何も言えない。言えるのは不明瞭な「演奏を見合わせております」との言葉だけ。結果ふたつのステージ前では『状況を知りたい観客』と『何も分からないスタッフ』が衝突する、文字通りの大混乱となった。


結果的には上のタイムテーブルを観ると分かる通り、1発目のアーティストどころか、かなり後に演奏するアーティストさえも出演をキャンセルする事態となってしまったのだ。


はっきり書いてしまうが、これは前代未聞だ。と同時に、サマソニ大阪の運営を根本から見直す必要があると示した一大事件でもある。


極端な話、復旧がどこまで進んでいるかを明確にしたり、もしくは「夕方○時から通常通りに進行します」といった正確なアナウンスが出来ていれば、ここまでの混乱はなかったはず。この問題がここまで大きくなったのは、間違いなく運営の不手際だ。

 

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実際僕は10-FEETの演奏時間になった頃オーシャンステージに行ってみたのだが、そこは罵詈雑言が飛び交うパニック状態となっていた。そりゃそうだ。本来の演奏時間から数十分が経過しても一切アナウンスはなく、入場さえも出来ていないのだから。


公式のツイッターを観てみても、そこには焚き付けるように「東京は盛り上がってますよー!」といった文言が笑顔の写真と共に上がっているが、大阪のアナウンスはほとんどなし。その様はまるで大阪会場を軽視しているようでもあり、この事件そのものを隠蔽するかのようでもあった。


結果的に最後までオーシャンステージに集まった観客は、「やるかどうかも分からない状態のまま、演奏を一切聴けずに演奏時間が終わる」という意味不明な環境に立たされていた。僕なんかは「10-FEET観れないなら他のステージ行くか」と思える人間だったからまだ良かったものの、もし10-FEETのためだけにサマソニに参加したり、地方から遠征した人はたまったものではない。「もうサマソニは行かない」と強く心に決めた人も一定数いるだろう。


さて、ここまでは悪い点ばかりを列挙してきた。僕個人としても10-FEETやZEBRAHEAD、Tash Sultanaといったアーティストを観たかったりした。だが正直な気持ちとして「今年のサマソニ(1日目)はクソ!」と思っているかと問われれば、別にそこまで怒りを覚えてはいないのだ。


何故ならスタッフは、最後まで頑張って復旧作業を続けてくれたから。16日のサマソニ自体を中止することも出来ただろう。ふたつのステージを終日立ち入り禁止にすることも出来ただろう。だが彼らは台風一過で灼熱地獄となった野外の大阪で、頑張ってくれたのだ。


そんなスタッフたちには感謝こそすれど、文句を言うのは御門違いなのではなかろうかと思う。実際普通にサマソニ1日目は楽しかったし、午後には全ステージが解放された。悪い一部分だけを切り取って「もうサマソニ行かん!」と激昂するのはあまりに早計で、浅はかだ。


ハプニングの連続でツイッターは炎上し、Yahooトップにも載ってしまったサマソニ大阪1日目。しかし総合的に見れば最高に楽しい1日だった。僕は今回の記事で、これを声を大にして伝えたかった。話が長くなって申し訳ない。以下、ライブレポートに移ります。

 

 

milet SONIC STAGE 11:00~

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本日の記念すべき1番手は、昨今のドラマ主題歌で一躍注目を浴びる新星、milet(ミレイ)だ。


「今からサマソニがスタートする」という観客の高揚感とは裏腹に、静かにステージに現れたミレイ。その姿は闇に包まれてほとんど伺い知れない。会場内のダークな照明も相まって、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。


すうっと息を吸い込んで始まった1曲目は、自身初となるCDとなる1stEPに収録された『Waterfall』だ。


キーボードと打ち込みのサウンドを軸にソウルフルな歌声を響かせるミレイはCD音源で聴こえていた歌声と全く遜色ない。おそらくは静かな滑り出しでスタートする『Waterfall』は、30分間歌い続ける上でのウォーミングアップ的な意味合いがあったのだと推測するが、この時点で大半の観客の心を掴んでいたように思う。


続いての楽曲は、早くもミレイの名を広く知らしめるきっかけとなった『inside you』をドロップ。

 


milet「inside you」MUSIC VIDEO(先行配信中!竹内結子主演・フジテレビ系ドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』OPテーマ)


この楽曲に、僕は心底痺れてしまった。まず声量がとてつもない。「良い声だな」というレベルではもはやなく、空気が震えているような錯覚に陥るほどの絶大な声の爆弾となって襲い掛かってくる。『inside you』後は、観客は皆ポカンと棒立ちの状態となり、はっと思い出したように拍手を送っていたのが印象的だった。


中盤のMCでは「サマーソニック大阪、ありがとう。ここはちょっと涼しい。あとちょっと暗いんだね。さっきから新曲ばっかりやってるけど……」と語ったミレイ。言葉の端々には帰国子女のようなカタコト感も垣間見え、一瞬日本人であることを忘れてしまうかのよう。


ここからは8月21日発売のニューEP『us』に収録されている楽曲を4曲連続で披露するという力技から、ラストに演奏されたのは『I Gotta Go』。


今回のライブは総勢4名のバックバンドを引き連れてはいたものの楽器の主張は少な目で、あくまでもミレイの歌を第一義に考えた演奏に終始していた印象を受ける。中でもキーボード担当と呼吸を合わせ、大半をアカペラに近い形で進行する『I Gotta Go』は、最もミレイの歌声を前面に押し出す楽曲でもあり、いつの間にか後方までびっしりと詰め掛けた観客の元に、高らかに響き渡った。


ミレイのライブ終了後、僕はこの時点で申し訳ないが「このままサマソニ終わってもいいや」と思ってしまった。それほどの力がこの30分間には凝縮されていたし、今すぐにCDを集めてみたいとも、近々のライブに応募してみようとも思えた稀有な瞬間だった。

 


milet「us」MUSIC VIDEO(日本テレビ系水曜ドラマ『偽装不倫』主題歌)


特に今回のセットリストの半分以上を占めていた『us』の破壊力はとてつもなく、発売前でほとんどの観客が初見であるにも関わらず、グッと心を掴まれた。このブログを書いているのは8月21日過ぎ、つまり『us』の発売日が最近過ぎた頃なのだけれど、即座にCDショップに買いに行ったほどだ。


間違いなく今後ミレイは日本のJ-POPシーンで重要な役割を担うことだろう。その原石をサマソニの初っぱなというこの時間帯で見ることが出来たのは、それこそ昨年で言うところのビリー・アイリッシュのような、数年後には「あのとき最前列でミレイ観たんだぜ」と自慢できるほどに、意義深いものになると確信した次第だ。


【milet@サマソニ大阪 セットリスト】
Waterfall
inside you
Diving Board(新曲)
Fire Arrow(新曲)
Rewrite(新曲)
us(新曲)
I Gotta Go

 

ELECTRIC PYRAMID SONIC STAGE 12:10~

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本来であればミレイのライブ終了後、すぐさまマウンテンステージへThe Interruptersを観に行く予定ではあったものの、前述した『台風の影響でステージの復旧作業中』とのことでThe Interruptersの出演がキャンセルに。


そのため予定を大幅に変更し、大量の温存を図るためソニックステージに留まることを決めた。なので次なるELECTRIC PYRAMIDはYouTubeで楽曲を予習したわけでもない、いわば完全なる初見状態で臨むことに。


ステージのモニターには、夕日をバックにヤシの木が鎮座するという南国チックな画像が大写しになっており、どことなくゆったり出来そうな雰囲気。


僕はこの時点でまず事前情報が皆無のため「メロウな音楽を鳴らすバンドなのかな?」、「名前からして電子音を使うバンドかな?」などと思いを巡らせていたのだが、実際の彼らの音楽性はそうしたイメージとは完全に真逆を行くものだった。

 


Womans Touch


結論から書くと、ド直球かつゴリゴリのロックバンドだった。『エレクトリック』という名前にも関わらずシンセサイザーや打ち込みは一切なし。更にはディストーションで極限まで歪んだギターが爆音で鳴り響き、背後のモニターに映っていたヤシの木はいつの間にか消失。様々な色をごちゃ混ぜにしたサイケデリックな色合いに変貌していた。


今回が初来日と語るELECTRIC PYRAMID。ボーカルはしきりに「コニチワ!」と日本語で叫んでいたが、MCでは英語で「日本語下手でごめんね。今度は勉強しておくよ」と語るピュアな一面も。冒頭からトップギア。終盤ではボーカルが客席に突入するまさかの展開もあり、大きな爪痕を残していた。


彼らはお世辞にも有名なバンドではない。各国のフェスでは決まって前座の立ち位置で、某動画サイトのMVの再生数にしても決して高くない。しかしながら『全4ステージ中2ステージが入場不可能』という前代未聞のハプニングが起こった1日目・サマソニ大阪のこの時間帯においては避暑地として、またひとつの音楽を楽しむ場としてこのソニックステージに赴く観客はかなりの数おり、結果としては彼ら史上最も多くの目に触れた一日だったのではないだろうか。


実際彼らのテンションは後方に人がどんどん入って来るのと比例して高まっていき、ヘドバンを何度も繰り出して完全燃焼。ラストには「おいおい見てくれ!物凄い人がいるよ!ありがとう!」と感動していた。


個人的には最初からソニックステージにいる予定だったようにも錯覚してしまうほどに、ハッピーな空間だった。あっぱれ。


【ELECTRIC PYRAMID@サマソニ大阪 セットリスト】
(セットリスト未確定により記載なし)

 

番外編・もぐもぐタイム 13:00~

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ソニックステージから外に出ると、クーラーが効いたアリーナから灼熱の気温に触れたことにより、一瞬倒れそうになる。


「暑い……死ぬ……」と数分おきに一人ごちながら歩いていると、次第に気分も辛くなってくる。夜まで続く長丁場のサマソニである。ここらですぐさまオアシスエリア(飲食店が立ち並ぶ場所)に逃げ込み、一旦小休憩を挟むこととする。


しかし同じように考えている観客も多いのだろう、オアシスエリアは人でごった返す地獄絵図となっていた。そういえばふたつのステージが入場不可能、更にはめちゃくちゃ暑く、加えてお昼時というダブルパンチならぬトリプルパンチの状況である。どの店にも大行列が出来ており、とても何かを買って食べようとは思えない有り様だ。


結局オアシスエリアは完全に諦め、近くにあるローソンへ移動することに。


そう。実はサマソニ大阪には、ローソンがあるのだ。写真がないので申し訳ないが、中には塩分タブレットや各種おにぎり、更には熱冷まシートや飲み物がこれでもかと陳列されており(ちなみにおにぎりやタブレットはは3つのレーンを全て使用した超展開)、中で購入すればさぞかし安く食料が手に入るだろう。


しかし僕には中に入る気力も余裕もない。こちとら喉が渇いて腹が減って死にそうなのだ。店の外までズラっと続いた列に並ぶ気もないので、その近くにあるローソンの臨時屋台でフランクフルト(200円)とハイボール(300円)を購入し、ぐいぐい流し込む。焦って食べたので写真が一口食べた後なのが申し訳ないところ。ちなみにこの日の飯はこれだけである。


まあまあ腹も膨れたところで、急いでコロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)を観にマッシブステージへ。本来であれば10-FEETとTash Sultanaを観にオーシャンステージに行く予定であったが、未だに公式からアナウンスがないので泣く泣く断念。ちなみに今年もマッシブステージはいろいろと問題ありな部分があるのだが、それは昨年のライブレポートを参照していただきたい。何故かって?文字を書きすぎて疲れたからです。

 

コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店) MASSIVE STAGE 14:20~

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……というわけで足取り軽くマッシブステージへ向かったわけだが、どうも様子がおかしい。人があまりにも多すぎるのだ。


コロナナモレモモとは『本家』であるマキシマム ザ ホルモンが公式にオーディションを行い、その末にメンバーを固めたいわば『公式が認めたマキシマム ザ ホルモンのコピーバンド』である。そのため原則としてマキシマム ザ ホルモンとコロナナモレモモは同じ日に出演することはなく、演奏する楽曲もホルモンが認めた楽曲のみという制約が課せられている。


そのため僕自身としてはこの集まった大勢の観客は『本家』であるマキシマム ザ ホルモンは今回大阪には出演せず、更にはコロナナモレモモ自体がほとんど活動をしないというレアな感覚からある種の「有名だから観ておこう」という思いがあってのものだと捉えていたのだが、実際は違った。


思い返せばメインステージで演奏する予定であったFear, Loathing in Las Vegasと10-FEET、加えて04 Limited Sazabysらが続々と出演を取り止めることが発表され、現時刻の選択肢は主に『ポップ系か激しいコロナナモレモモ』に狭まっていた。そう。おそらくこの場に集まった一定数は、そうしたいわゆる『激しい楽曲をプレイするバンド』を目当てに訪れた観客であり、ある種焦らしに焦らされた期待と心のざわめきを求めて足を運んだのではなかろうか。

 

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そうした人たちで、マッシブステージは超満員……どころかチケットエリアに入りきらない多数の観客が柵の外で固まり、普通に移動するだけでも困難という異常事態が発生。僕は昨年サンボマスターがマッシブステージでライブを行った際、当ブログにて今回と同じように『超満員だった』と記述した覚えがあるのだが、正直その比ではない。ほぼ一歩も動けない。それどころか、動かない観客が皆一様にステージの方向を向き、コロナナモレモモのライブを心待ちにしているのである。


そんな集まった観客のドでかい歓声に迎え入れられたコロナナモレモモ。1曲目は早くもトップギア!な『ぶっ生き返す!!』だ。


DJの存在により、電子音が爆音で鳴り響く新機軸のアレンジが加えられた『ぶっ生き返す!!』は暴れたがりな腹ペコたちを焚き付けるには十分で、『一面に広がるベドバンの海』という独特の愛情表現でもって大歓迎。


その後はわかざえもん(Ba)が『コロナナモレモモの紹介』として「3度の飯より飯が好き!」と本家のおなじみのフレーズを丸パクリし、赤飯(Vo)がツッコむ場面も見られ、終始和やかな雰囲気に包まれていた。


僕はといえば『シミ』終了後に木村カエラを観にソニックステージへ向かってしまったため全てを観たわけではなかったが、純粋に良いライブをしていたので驚いた。正直ホルモンがコピーバンドをプロデュースして売り出す策略については個人的に懐疑的な気持ちも大きかったのだが、こうして実際観てみると「これもこれでアリかな」と思った。やはり、何事も百聞は一見にしかずである。


【コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)@サマソニ大阪 セットリスト】
ぶっ生き返す!!
包丁・ハサミ・カッター・ナイフ・ドス・キリ
シミ
「F」
恋のメガラバ

 

木村カエラ SONIC STAGE 14:40~

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さて、冒頭でも述べたが、今年のサマソニ大阪は台風の機材復旧作業のため、ある時間帯になるまでは『全4ステージ中2ステージが使用不可能』という前代未聞の事態に見舞われた。よって必然的に観客の大半は残りの2ステージに殺到するわけで、これらのステージでは『入場規制』の枠を遥かに超える著しい形でもって盛り上がったアーティストが何組か存在した。


残されたふたつのステージ。無論その中のひとつであるマッシブステージでは上述したコロナナモレモモが大混雑となった。……それでは同時刻、もうひとつのライブ場所であるソニックステージは一体どうなっていたのだろうか。


結論から書くと、ソニックステージはマッシブステージ以上の超満員だった。2階も1階も前に進むことが不可能なほどにビッシリで、本来スタンディング席のみ配置されている2階に至っては、座り切れない観客が各所で立ちっぱなし状態でライブを観ているというまさかの光景が。


以下はラストの『Magic Music』終了後個人的に撮影したもの。まるで大物アーティストの単独公演並みの客入りだ。これだけでもこの時間帯のソニックステージのカオスっぷりが良く分かると思う。

 

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もちろんライブは大盛況。木村が『今日のバンドメンバー、ほぼOKAMOTO' S!』と語っていたように、熟練者ばかりを集めた楽器隊でもって、『リルラ リルハ』や『Butterfly』に代表されるヒット曲、更にはCM曲としてお茶の間に広く鳴り響いた『Tree Climbers』や『Ring a Ding Dong』といった楽曲をメドレー形式でプレイするなど大盤振る舞い。


そしてただひたすら「お客さんがたくさん入って嬉しい」というわけでもなく、彼女自身が置かれている状況を誰よりも理解していたのも好印象だった。はっきり言ってしまえば、もしもふたつのステージがなくなるというハプニングが発生していなければ、おそらく木村カエラの客入りは少なかっただろう。それを重々承知の上で「みんな(涼しくて快適な)この場所があって良かったね。演奏出来なかったみんなの分まで頑張ります」と他アーティストや観客を労う姿を見て、今この時間木村カエラを選択して良かったとも思えたし、同時にこのライブを観ることが出来て本当に良かったとも思えた瞬間だった。

 


木村カエラ「Magic Music」


「これは私が音楽を続ける理由になっている曲で、『あなたの笑顔が見たい』っていう思いを込めた大切な曲です」と演奏したラストの『Magic Music』では、隅で座っている観客やスタンディングの2回席に対して「あれ?そこって絶対座らなきゃいけないところなの?違う?違うんだ。じゃあ立とうよ!最後だしみんなで盛り上がろう!」と全員を起立させ、大団円でフィニッシュ。


今回のライブは木村カエラを目当てに来たわけはない人にも、ガツンと刺さったのは間違いない。僕個人としては彼女のライブを観るのは3回目なのだが、今回が歴代のライブの中でも一番良かったように感じた。


【木村カエラ@サマソニ大阪 セットリスト】
リルラ リルハ
いちご
Butterfly
小さな英雄(メドレー)
STARs(〃)
Samantha(〃)
Ring a Ding Dong(〃)
Jasper(〃)
Happyな半被(〃)
HOLIDAYS(〃)
マスタッシュ(〃)
TREE CLIMBERS(〃)
Yellow(〃)
BEAT
Magic Music

 

Tom Walker SONIC STAGE 15:55~

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木村カエラ終了時点で、やっとこさ公式からステージ復旧のアナウンスがあった。具体的にはオーシャンステージは予定時間1時間遅れでRANCIDからスタート。マウンテンステージは以後30分遅れでMachine Gun Kellyからスタートとなり、長い間ふたつのステージのみに密集していた観客の分散が図られた。


そのため木村カエラ終了後は蜘蛛の子を散らすように観客が退場し、それこそ序盤にミレイを観ていた頃のような、ある種過ごしやすいソニックステージが戻ってきた印象。


続いては同じステージでTom Walkerを観ることに。


実は個人的にトムのライブは、この日のライブで特に期待しているアクトのひとつだった。


はっきり書いてしまうと僕が知っている曲は某動画サイトで1億再生を記録した『Leave a Light On』のみで、それ以外の彼の曲はほとんど知らない。にも関わらず、この日のトムのライブは「物凄い時間になるだろう」とほぼ確信していたのだ。


その理由はいくつかあるのだが、やはり最も大きな要因としては『ここまでビビっと来た曲は久しぶりだったから』である。


僕は日常的に音楽記事を執筆している関係上、年間通して多くの曲を聴いている自負がある。しかしながらある1曲を聴いて「おおっ!これは!」と感じるアーティストは数えるほどしかいないというのが正直なところで、実際は「流行に合わせて聴いてみるか」といった好奇心や、アルバムが発売されるたびに「元々好きなアーティストだからなあ」と半ば惰性で聴くこともしばしばある。


そんな中トムの『Leave a Light On』は久々にドハマりした楽曲だった。と同時に「この曲を生み出したトムのライブは是非フルで観てみたい」と直感的に思わせるような、破壊力抜群の1曲でもあったのだ。


話をライブレポートに移そう。背後には『What a Time To Be Alive』のインパクト抜群のジャケが大写しとなっており、ステージにはギターやドラム、そしてトムのライブでは必要不可欠なキーボードが置かれている。その配置はいわゆる「一般的なバンドセット」といった印象で、目新しいものはほとんど見られない。しかしながらひとつだけ気になるのは、トムのマイクの横に配置された小さなドラムセット。実際メンバーが配置についた瞬間にもその場所だけはポッカリと空いており、異様な雰囲気を醸し出していた。ちなみにその答えはライブ終盤で明らかになるのだが、それに関しては後述。


ライブは現状唯一のアルバムである『What a Time To Be Alive』を主軸に展開。前半はゆったりとした滑り出しでありながら、次第にロックテイストが前面に押し出されるという緩急を付けた素晴らしいステージング。最初こそ心配な客入りではあったものの、後半にかけてはトムのテンションの高まりと比例して大勢の観客が踊り狂っていたのが印象的だった。


背後のVJについても触れておこう。冒頭こそ『What a Tiwe To Be Alive』のジャケ写が固定で映っていたものの、時間の経過と共に映像が変化。黄色や赤といった鮮やかな色の光が渾然一体となって襲い掛かる映像や、果ては他国のデモらしき光景を捉えたニュース映像が流れ、火炎瓶を投げる民間人とそれを暴力でもって鎮圧する機動隊の応酬が、圧倒的なまでのリアリティーでもって目に飛び込んでくる。


セッティングの段階から気になっていたドラムは、終盤に差し掛かったところでトムがプレイ。ギターを置いて全体重を込めて打ち下ろす渾身のドラムの音圧は凄まじいものがあり、目がバチっと覚める思いがした。40分間のライブの中で本来ダレ始めてもおかしくないラスト数分間の観客のテンションを再び逆戻りさせるようなこの手法を大胆に取り入れたのは、長丁場なライブにおいてのひとつのスパイスのようにも思えたし、理にかなっているようにも感じられた。

 


Tom Walker - Leave a Light On (Official Video)


ラストはもちろん『Leave a Light On』。ピアノのイントロの時点で待ってましたとばかりに大盛り上がりの観客に対し、トムはビリビリと響き渡る圧巻の歌唱で立ち向かっていく。大サビ前には「サマーソニック!」と絶叫しつつ観客に歌唱を託す場面も見られ、最後まで観客と強固な信頼関係を築いたままフィナーレを迎えた。


総じてこの日のサマソニにおいて、トム・ウォーカーのライブが個人的ベストだった。特に突飛な行動をして見映えを重視したり、アレンジを施したわけでもなく、純粋に楽曲の力のみで捩じ伏せる力技のライブは、一見オリジナリティに欠けた無骨なものにも思える。


しかしながらトムのあの柔らかで迫力のある歌声を聴いていると、直感的に「良いなあ」と感じてしまうのだ。それが40分間途切れることなく続くことは、実はありそうでなかなかないことなのだ。加えて昨今、ほとんど楽曲を知らない観客でさえも『声』で瞬時に引き込むライブは、なかなかない。


これこそがライブのあるべき姿だと感じたし、いちシンガーとしての力が発揮された一幕だったと思うのだ。結局ライブ終了後はオアシスエリアに猛ダッシュを決め込んで『What a Time To Be Alive』を購入した僕であったが、彼のサイン会がそもそも存在しななかったのは、一生悔いが残ると思った。ぜひ近いうちに単独公演を希望したいところ。


【Tom Walker@サマソニ大阪 セットリスト】
(セットリスト未確定により記載なし)

 

Superorganism MASSIVE STAGE 17:50~

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午前中から続いてきたサマソニも、気付けば夕方。茹だるような暑さだった昼頃よりも僅かに気温が下がり、言うなれば過ごしやすい暑さとなった。


そんな中マッシブステージに降り立つ次なるバンドは、スーパーオーガニズムだ。


現状アルバム1枚のみのリリースにも関わらず、アークティック・モンキーズやフランツ・フェルディナンドといった有名バンドと同じレーベルに所属し、日本ツアーは軒並みソールドアウト。インターネット時代における新星バンドとして今話題のスーパーオーガニズム。


しかしながら彼女たちは悲しいかな、メディアにおいては何かと音楽以外の点が強調されがちなバンドだと個人的には思っている。性別も国も年齢も違う7人が集まったバンド。唯一の日本人である19歳の女性、野口オロノがボーカルを務めるバンド。オロノの強い言葉の数々。7人での集団生活……。そうしたゴシップ的な情報ばかりが取り沙汰されることに対し、僕は常々疑問を抱き続けてきたのである。


そんな思いで臨んだ今回のライブだが、とても良かった。楽曲の完成度と演奏技術はもちろんのこと、遊び心溢れたVJやライブならではのアレンジでもって、さながら『ニュー・ジェネレーションの音楽』を体現するかのような圧巻のライブを見せ付けてくれた。


ライブは自身のバンド名を繰り返す『SPRORGNSM』からスタート。色とりどりの『SUPERORGANISM』の文字の数々がモニターに映し出されるサイケデリックな幕開けに、まず圧倒される。しばらくすると文字同士が重なり始めてもはや文字なのかどうかも判別不可能なレベルに達し、モニターは一種のホラー映画のような光景に。更にはメンバーが鳴らす不定期なトライアングルの音色でもって、感覚は次第に麻痺していく。

 


Superorganism - It's All Good (Official Video)


果たしてこれはライブなのか、アートなのか、それともそれ以外の何かなのか……。曲が進むにつれて地に足が付かないような浮遊感は増す一方で、ムキムキの蛙や喋るカバ、分裂するエビ、染色体や口のアップといった映像がおどろおどろしい色彩でもって流れ続けるVJを見ていると、一種の洗脳を受けているようにも思えた。


メンバー7人中唯一の日本人であるオロノはと言えば、序盤で「I Can't Speak Japanese(私は日本語が話せません)」と集まった日本人をおちょくるような言動を見せたかと思えば、それ以降は基本的に英語でマシンガントークを繰り広げる。


中でも後半にかけてオロノがメンバーのひとりに「オーマイガー!オーストラリア!?」と叫んでいた終盤では、それに対して意味も分からず「フゥー!」と盛り上がる日本人の観客に苛立った様子で、オロノが日本語で「オーストラリアには狂った習慣があって、靴の中にビール入れて飲むんだって!」と説明する場面も。最終的はオロノも「今から靴に水入れて飲みます!」と宣言し、有言実行で靴に注いだステージドリンクを一気飲みし、拍手喝采を浴びていた。

 


Superorganism - Something For Your M.I.N.D. (Official Video)


ラストはスーパーオーガニズムの人気を不動のものとした『Everybody Wants To Be Famous』と『Something For Your M.I.N.D.』を続けて披露する贅沢な幕引き。林檎の咀嚼音や身ぶり手振り、果てはボイスチェンジャーを使用して高音から低温までを自在に操る、最後まで翻弄されっぱなしのライブであった。


以前オロノが某誌にて「ちゃんとした理由もなく有名になっている気がして堪らない」といった趣旨の発言をしていたが、正直彼女たちはデビューしてまだ間もない。セットリストについても大半が昨年リリースしたアルバムからで、今年のサマソニでは最も小さなマッシブステージ。そのためライブを観る前はある種「鯱張ったパフォーマンスになるかもしれない」と懸念していたのだが、決してそんなことはない。むしろ今まで様々なバンドを観てきたライブキッズさえも唸らせる、まるで『新しい時代のライブ』の先陣を切るかのようなパフォーマンスだった。


【Superorganism@サマソニ大阪 セットリスト】
SPRORGNSM
It's All Good
Night Time
Relax
Nobody Cares
Reflections On The Screen
The Prawn Song
Nail's March
Congratulations(MGMTカバー)
Hello Me + You
Everybody Wants To Be Famous
Something For Your M.I.N.D.

 

RADWIWPS OCEAN STAGE 19:10~

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ここで本日初となるオーシャンステージに移動。当初の予定通りであればスーパーオーガニズムとRADWIWPSは時間帯が丸被りだったので、どちらか一組を選択する必要があったのだが、RANCIDから1時間押して進行したことで上手い具合にタイムテーブルがズレ、早歩きで移動した甲斐もあって何とかRADWIWPSに間に合った。


オーシャンステージはRADWIWPSを一目観ようと集まった観客たちで見渡す限り人、人、人の大混雑。14日夜に野田洋次郎(Vo.Gt)がツイッターにて「大阪サマソニ行けない気配出てきたな……」「飛行機飛びますように、お願い」と最悪の可能性を示唆しつつも、結果として無事間に合ったこともこの日集まった観客の心に刻み込まれており、それがまたライブへの興奮を高めていたようにも思う。


予定時刻となり、ステージに降り立ったメンバーたち。野田は開口一番「大阪、調子はどうだい!」と問い質し、1曲目の『NEVER EVER ENDER』に雪崩れ込む。一瞬「EDMのライブ!?」と錯覚するほど目映い映像とシンセサイザーの音色が会場を支配する中、野田は曲中にも「大阪、はっちゃける準備は出来てるんかい!」と絶叫し、熱量を底上げしていく。


ニューアルバム『ANTI ANTI GENERATION』、更には映画のサウンドトラック・アルバム『天気の子』が様々なメディアで好評価だったことや、『君の名は。』と『天気の子』効果で海外からの観客も多いことに配慮し、始まる前はてっきりこの3枚を軸としたセットリストになるのかと思っていた。


しかしながら、結果としては『ANTI ANTI GENERATION』からドロップされたのは1曲目に披露された『NEVER EVER ENDER』のみで、『君の名は。』と『天気の子』の収録曲に至っては1曲も演奏しないという、まさかのセットリストだった。


だが今回のライブが良くなかったのかと問われればそうではなく、むしろ今までのキャリアから満遍なく、ヒット曲や実験作を惜しげもなく披露した大興奮のライブであったのだ。


中盤にて「今日は大変な一日だったけど、みんな元気かい?」と語り始めた野田。


持ち時間が予定よりも短くなってしまうことを説明し、「裏でフォーリミや10-FEETと話したけど、やっぱり楽しみにしてたのに一音も出せなかった人たちもいます。なのでその人たちの分まで頑張ります」と語った野田は、ここオーシャンステージに集まった大勢の観客に対して、心からの感謝を伝えていた。


出演キャンセルやライブ時間変更といった様々な問題が発生した今年のサマソニ。しかしそもそもの発端となった台風10号という天災は誰のせいにも出来ないし、怒りをぶつけることもできない。野田はまるで高く挙げた腕を振り下ろす先を見失いながらも、懸命にそれを感じさせまいと気丈に振る舞っているようでもあった。

 


おしゃかしゃま RADWIMPS MV


そんな思いからか、後半にかけての演奏は次第に熱を帯びる。『おしゃかしゃま』では長いブレイクからの大爆発を見せ、「えーおー!」のコール&レスポンスもバッチリ決まった『君と羊と青』ではマシンガンの如く繰り出される言葉の数々でもってテンションを底上げしていく。


ラストは『いいんですか?』で会場全体を掌握する感動的な幕切れ。「知ってる人は一緒に歌ってくれ!」と叫んだ野田。観客は「もはや全員が知っているのでは?」と感じるほどそこかしこでサビが歌われ、メンバーも大満足の様子。「またどこかで会いましょう!そのときまで幸せになー!」と強いメッセージを発し、ステージを去っていった。


思えばRADWIWPSがレッチリの前にブッキングされたと知ったとき、僕は少しばかりの疑問を抱いていた。曲の雰囲気や歌詞を鑑みればRADWIWPSの前に演奏するMAN WITH A MISSIONの方がレッチリとの音楽性は近いし、更に視野を広げるとするならばマウンテンステージのトリを担うBABYMETALはかつてレッチリの海外ツアーにおいてオープニングアクトを務めた経験があるわけで、BABYMETALをレッチリの前に配置すれば多くのキッズの共感を得ることが出来ただろう。


しかし今年のサマソニは、レッチリの前にMAN WITH A MISSIONでもBABYMETALでもなく、RADWIWPSを演奏させると決定した。そしてそれは今この場においては最上級の盛り上がりでもって、事実上肯定されたのだ。


この場に集まった観客の「ラッド良かった!」と口々に語るその笑顔が、それを証明していたと思う。やはりRADWIWPSは日本一のバンドだ。


【RADWIMPS@サマソニ大阪 セットリスト】
NEVER EVER ENDER
ギミギミック
アイアンバイブル
おしゃかしゃま
DARMA GRAND PRIX
君と羊と青
いいんですか?

 

RED HOT CHILI PEPPERS OCEAN STAGE 20:40~

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遂に時刻は20時40分、オーシャンステージにおいてはレッチリを残すのみとなった。ロックスターを一目観ようと多くの観客でごった返す中、RADWIWPSを見終わった後の観客でさえも大半はその場から動かず、じっとトリのレッチリを観ようと待機していた。


実は今回のレッチリの出演は、いち観客が思っている以上に奇跡的なものだった。


サマソニの20年を総括するとも言っていい今年のサマソニだが、何よりも重要なトピックとなるのはやはり出演アーティストだ。そのため清水氏はサマソニの20周年を祝う最も重要な核として、初年度から出演していたレッチリかレディオヘッドかグリーン・デイの、この3組の中の1組にはどうにか出演してほしいという強い思いがあったという。


しかしながら現実は残酷で、レディオヘッドとグリーン・デイは「今年は何も動かないスケジュールである」との理由で出演をキャンセル。残す頼みの綱はレッチリただひとつとなったのだった。


そこで急遽清水氏はアメリカへ飛び、何度かの出演交渉を行った。しかし結果返ってきた答えは「NO」であり、レッチリの出演はここで潰えたかに思えた。


だが清水氏は諦めなかった。幾度も食い下がり、果てはレッチリへの思いを手紙にしたためる見える化した熱量でもって、レッチリという大きな岩を動かしたのである。当時レッチリは3月にエジプトのピラミッドでライブを行うというスケジュールは立っていたものの、それ以外は完全に白紙だった。その白紙のスケジュールの中に、サマソニは食い込んだのだ。


今年一年ほぼ活動しないレッチリのライブがこのサマソニで行われることは、感動的で、運命的で、劇的な一幕であることを、僕らは知っておく必要がある。


話は変わって、レッチリだ。ジャム・セッションから雪崩れ込んだ『Can't Stop』を皮切りに、以降はキャリア全体を網羅するような磐石のセットリストで進行していく。新たにセッティングされたモニターを使ってのVJも美麗で素晴らしく、音も悪くない。まさに「これがメインステージだ!」と感じた次第だ。僕は『Snow(hey oh)』が終了した頃合いでCatfish and the Bottlemenを観に移動してしまったのだが、興奮を与えるには十二分な時間だった。

 


Red Hot Chili Peppers - Can't Stop [Official Music Video]


繰り返すが、この日のサマソニは様々な問題が立て続けに起こった。前日の台風による被害の復旧作業に始まり、アーティストの出演キャンセルや公式アナウンスの不明瞭。ライブの遅れ……。ここオーシャンステージで事実上のトップバッターとなったRANCIDのライブ中には、ライブ中にも関わらずスタッフがステージを動き回り、急ピッチで復旧作業に当たりつつのパフォーマンスだったという話さえある。


もちろん中止という可能性も大いに考えられたこの16日のライブが結果として開催に至った点については、正直感謝しているし、どんな形であれ批判をするつもりは毛頭ない。しかしながら逆に考えれば、開催との一報を聞き遠方から足を運んだライブキッズの中には、目当てのアーティストが直前にキャンセルするということで事態に触れて、大きな蟠りを残す結果となった事実も否めない。


しかしながら照明の増設やモニターの追加といった『レッチリ仕様』のステージで、爆音で演奏する彼らを観ていると、僕は漠然と「結果オーライだな」と感じた。


この日起こった全てのハプニングもこの一夜のためのスパイスだと捉えれば、何ということはない。むしろ2003年にレディオヘッドが長年の沈黙を破りサプライズで演奏した『Creep』や、2009年の嵐のナイン・インチ・ネイルズに匹敵する、奇跡的で感動的な一幕と言えるのではなかろうか。


【Red Hot Chill Peppers@サマソニ大阪 セットリスト】
Can't Stop
The Zephyr Song
Dark Necessities
Snow(hey oh)
I Wanna Be Your Dog
Right On Time
Californication
Suck My Kiss
Soul to Squeeze
By the Way

[アンコール]
Give It Away

 

Catfish and the Bottlemen SONIC STAGE 20:10~

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事前に立てていた計画ではレッチリの『Can't Stop』(レッチリはほぼ100%の確率で1曲目がこの曲)を聴いた時点でCatfishに移動する算段だったのだが、思いの外聴き入ってしまい、Catfishのステージに到着した頃には最後の1曲である『Tyrants』を今から演奏するというタイミングだった。


真裏がレッチリとBABYMETALということもあり、客入りはあまりに寂しく、ラスト1曲にも関わらずすぐさま最前列に進めるほどにガラガラだった。取り敢えず前方まで進んで観ることに。


すると瞬間、爆音が轟いた。間違いなくこのバンドだけボリュームがおかしい。ドラムが心臓の奥の奥まで響いてくるだけでなく、ギターもベースも「音量ミスってんのか?」と思うほどに轟音。ふと見上げてみると、ステージには全長5メートルはあろうかというドでかいアンプが真横に置かれており、どうもそこから爆音が流れているらしかった。

 


Catfish and the Bottlemen - Tyrants (Live at Glastonbury 2015)


メンバーは時折アンプの上に置かれたアルコールを飲みながら、尋常ではない爆音を出しまくり歪ませまくりのやりたい放題。ボーカルはギターを弾きながらマイクに近付いて歌っているのだが、そのテンションの高さが全く制御出来ておらず、マイクに齧りつくように歌ったりマイクスタンドを倒したりと、もうめちゃくちゃ。


最初こそ腕を挙げて盛り上がっていた観客たちも、後半にかけては口をあんぐり開けて放心状態になっていたのが印象的だった。音の洪水に飲み込まれながらの無骨なパフォーマンスは間違いなくこの日……いや、サマソニ3日間の中で一番ロックだったように思う。ボーカルは最後にギターをぶん投げ、落下したギターが「ギャリイイン!」と壮絶なノイズを出しながら終幕。


この日心残りがあったとするならば、Catfish and the Bottlemenのライブを全て観られなかったことのみ。事前情報が一切ない状態だったのでこのような結果になってしまったが、僕は「次に来日する際には絶対に行こう」と心に決めたのだった。


【Catfish and the Bottlemen@サマソニ大阪 セットリスト】
Longshot
Kathleen
Soundcheck
Pacifier
Twice
Conversation
2all
Fluctuate
7
Cocoon
Tyrants

 

……さて、1日目のレポートは以上である。長々と書いてしまった(約2万字)が、いかがだっただろうか。


次回はゴリゴリのロックバンドが多数出演した1日目とはうって変わって世界各国の有名DJ陣が集結した、一種のクラブイベントの様相を呈した2日目について書く予定だ。なるべく急いで書き進める所存ではあるがおそらくまた長くなると思うので、気長に更新をお待ちいただきたい。


それでは。


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